違和感があればドンドン行ってください。
火原火蓮が去った後俺は後ろを振り返りすぐに隠れている坂本に話しかける。
怖いと言う感情を押し殺して・・・・・・
「居るのは分かっている。出てこい」
そういうと曲がり角からフードを被った坂本が出てきた。フードのままなので顔は良く見えない。
「せっかくだ。フードを取ったらどうだ? まぁ、顔を出せない位俺が怖いなら無理にとは言わないが・・・」
坂本はゆっくり手をフードに伸ばし顔を見せる。彼の顔は怒りであり、既に理性をなくしているように見受けられる。フードを取ると坂本が歯をぎしぎしと歪めながら懐からナイフを取り出した。それにこたえるように俺も水鉄砲を両手に構える。
本当にこんなもので勝てるのだろうか? もし、刺された場所が国語辞典がない場所だったらと言う不安が湧いてくる。しかし、俺がここで立ち向かわないといけない。
ここでバッドエンドに終止符を打つ!!!! そして、火原火蓮をここで救う!!!
「お前は昔のアイツに被り俺の屈辱を思い出させる・・・それが許せん。いつか、いつかと思いながらもずっと果たせずにいた恨みがようやく叶う・・・」
「とんでもない迷惑だな。逆恨みもここまで来るとキモイな」
「殺す!!」
「別にいつ来ても構わんがせっかくだ。その過去について話してみろ。どうせ大したことはないんだろうが・・・な」
挑発するように俺が言うと体を怒りで震わせながら坂本は語り始めた。ナイフをこちらに向けていつでも殺せるとアピールしながら・・・
「いいだろう!! 話してやる! 僕が高校生の時だ。クラスに赤井孤火奈と言う人物が・・・グわがあ!」
話の途中で俺は水鉄砲を発射した。こんな奴の話に付き合う必要は一切ない。そもそも知ってるし、こんな油断しているときを逃す手はない。
「目が合嗚呼あああ!!!」
前回よりさらに強化した激辛唐辛子入り水鉄砲。コチュジャンをブレンドしている。普通より目に染みてそして痛い。
すかさず警察に連絡。
「あ、警察ですか? 七色町の駄菓子屋の近くの所にナイフを持った男が暴れてるのですぐ来てください。大分ヤバい人です。すぐにお願いします」
目を開けられない坂本は手当たり次第に俺に突進してきた。大体声のする方に来たのだが俺はしゃがんでいた。
それにつまずき奴は転ぶ。転んで大の字になった坂本の股間を蹴り上げる。
「グわわああああ」
前回は傷害罪にならなかったので安心して今回はこいつをぶっ飛ばせる。とは言っても股間しか狙わないが・・・
何度も蹴り、偶に顔と痛さで口を開けたら水鉄砲を発射して警察が来るまでの時間を稼いだ。恐怖はもちろんあったので途中でアイツが手から離したナイフは真っ先に蹴飛ばした。
アイツは普通に捕まった。俺も連行され・・・・・・またお前か!!! と言う顔をされたが普通に今回もある程度で解放された。
こいつもヤバい奴か? 見たいな顔されたのが少し傷ついたが・・・。
それにしても・・・・・・恨みで色々見えなくなっていたおかげで色々助かった。
作戦が大体成功したな。昔話をしてくれと言って油断したところを水鉄砲で攻撃。その後何とかして警察が来るまでの時間を稼ぐために股間を蹴りまくったのはやっぱり正解だったな。股間はどうやっても鍛えられないし、男の最強の弱点だからな。
これがすべてうまく行ったのは、勿論アイツの精神がおかしい状態であったと言う事が理由なのだが・・・。冷静な判断が出来ていなかった。
アイツはどこか元からおかしい人間だったのが、火原火蓮と言う人物に合う事で因縁を思い出し壊れていった。元々の壊れていた性格を利用してタイマンに持ち込んだがやっぱり怖かった。
死の恐怖とはそう簡単になれる物じゃない。ストーカー、サイコパス、この刃物を持った二人と戦いそれが良く分かった。
こんなに準備しても怖いものは怖い。物凄い才能がある奴なら話は違うのかもしれないが俺はやっぱり普通の凡人だな。少し劣等感が生まれるが坂本は豚箱にぶち込んだわけだし、これで暫くは悩む必要は無いか・・・・・・。
いや、一つ心に引っかかるな。火原一家の事になるが・・・
だが、これはバッドエンドには何の関係もない。『原作』の話であるから俺は何かをする必要はないし、そしてすることも出来ない。火原夫妻の離婚は俺には止められない。
あくまで家族の問題であり、そこまで俺が介入する必要は無いだろう。そして、したとしても何ができると言うのか?
離婚はしても、しなくても世界は滅びないし、『原作』では別れても世界は救われた。ならば別に首を突っ込むことはしなくていい。だけど・・・・・・
電車に乗っていた時、仲のいい親子を見る時の彼女の羨みと悲しみの顔を思い出した。
『原作』では彼女の両親は離婚する。彼女は両親が仲が悪いことに前から気が付いていた。でも、それを認められなくて、勇気が出なくて何もできずに離婚を迎えてしまう。
彼女の両親である、火原孤火奈と火原炎羅は高校時代からのクラスメイトらしい。『原作』では坂本典礼は出てこなかったが不良に絡まれている所を助けてそこから進展があり、結婚。『魔装少女のif』では坂本に絡まれているところを助けて進展する。
出会いは多少違うが他は全く同じ。『魔装少女のif』では二人の仲に溝があるのが少し書かれた程度だ。火原火蓮が死んでしまった後、結局別れた後二人がどうなったかは書かれてはいない。
『原作』との多少の差異はあるがやっぱり彼女の両親は離婚をしてしまうと俺は考えている。どちらの世界でも二人の中には何年も前から溝があったことは否定できないからだ。
なぜ溝が出来てしまったか? それは二人の一緒に働いている勤務先が関わってくる。二人は最初は仲が良くオシドリの夫婦だったが一緒の職場と言うのがまずかった。
火原火蓮の母、旧姓赤井孤火奈はとんでもないスペックと美貌を持っていた。会社ではドンドン出世してエリートと言われた。
火原炎羅は努力家だがそれだけではどうしようもない。彼女との差がはっきりと出てしまった。同じ職場と言う事もありそれがさらにもろに出てしまった。
会社内では二人が夫婦と言う事もあり比べるなと言うのが難しい。火原炎羅に劣等感が生まれ始めた。自分よりはるかに優れている彼女が自分と一緒に居ていいのかと言う疑問。
火原孤火奈は気付いていた。自分の夫が何か悩んでいて、そして会社内では自分と比べられていることに。だが、彼女は何と言っていいか分からなかった。上から目線の同情と思われるかもしれない。
これが何年も前からずっと続いていた。最初はほんの少しの違和感だった。だがそれが徐々に大きくなっていき、自分たちでもいつからかわからなくなるほど話さなくなってしまった。子供にはあまりそういうのを見せない様には誤魔化していたがそれすら出来なくなりつつあった。
いつからだろう。そしてこのままでいいのだろうか? その思いは両者にあったがすれ違い続け・・・・・・彼女が魔装少女になった年の冬に離婚することになる。
お互いに嫌いではない、愛していたのだが、それ故のすれ違い。何処かもどかしくある火原一家の崩壊。これにより火原火蓮は母親に引き取られて・・・
『赤井火蓮』と言う名に代わる。父親は実家に戻ったそうなのだがそこからはあまり触れられてはいない。
火原火蓮は、いや赤井火蓮には物凄い後悔が残った。自分が何かを変えるべきだったのではないか。気付いていたのに勇気が出なくて何もできなかった、しなかった自分を嫌悪してしまう。しかし、そこは仲間である魔装少女が何度も慰め、何度も泣いて前に進むと言う決意をする。
今の彼女には両親には何も言えずに離婚は止められない。かと言って俺がどうこうする問題でもない。彼女の家族問題まで俺は解決するために動かなくてもいい。
何かが引っかかりながらも俺は自宅に向かって歩いて行った。
十六夜と別れた後、しばらくしてサイコパスを倒して警察に引き渡したと言う連絡が来た。ホッとしたが同時に自身を嫌悪した。
—―逃げてばかりだ
何もかも逃げてばかり。二次元にのめり込んだのも現実からの隠れ蓑にするためだったのかもしれない。両親の不仲から目を背ける為の・・・・・・
その日の夜、少し遅い時間に警察が私の家を訪ねて来た。何でも今日捕まったのはこの間会った一単色高校の教師である。坂本典礼であったらしい。
そして、その名前を聞いたときパパとママが驚いた顔をしていた。警察の人からの話を聞くと嘗てのパパとママへの恨みが私に向いて、私を襲おうしたと供述しておりそれで詳しい話を聞く為に訪ねて来たと言う。
坂本典礼が言っていることは偶に支離滅裂だが、纏めると十六夜が嘗てのママを庇ったパパに似ていたことで殺意がそっちに向いたらしい。
一単色高校の校内で十六夜が坂本に何やら釘を刺すような言動を取ったことが原因であり、そのためまず目障りは十六夜を排除するために私と十六夜をストーキングしていた。
パパとママは高校時代の話を刑事さんにしていた。私もその場にいたのだが初耳の内容だった。昔そんなことがあったのかという驚きとその因縁が今になって目覚めていたという恐怖。
もし・・・・・・十六夜が居なかったら・・・どうなっていた? 下手したら一単色高校内で既になにかされていたかもしれない。されなくてもストーカーされ酷い目に合ったいたかもしれない。
そうか・・・。だから十六夜はあんなに警戒をしていたんだ・・・。何故か分からないが坂本典礼が危険と言う事に誰よりも早く気付いてそれで動いていた。
本当に凄い・・・。そして辛い。羨ましい。
私にもそんな勇気があれば家族が変わることもあるかもしれないのに。それが私には無い。もし、彼みたいな勇気があれば・・・。
警察の人には私は何もされていないことを伝えて帰ってもらった。
「火蓮大丈夫だったの?」
「うん、私はなんともないよ」
ママが私を抱き寄せた。心配してくれてるのが伝わってくる。パパも心配と安堵の視線を私に向けていた。
ここでパパも私に抱き着いて欲しかった。三人で心を通わせたかった。
「本当に良かったよ。火蓮、十六夜君とはどんな子なんだい?」
「えっと、私の後輩でオタク仲間見たいな感じ・・・」
「そうか。お礼を言いたいから今度家に呼びなさい」
「うん、わかったよ、パパ」
どこか心に違和感が残りながらも私は自室に戻った。