みんなで夕焼けを見ていた日々。
みんなでいられるようにと結成したバンド。
それらよりも楽しいことを、私は、見つけてしまった。
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「ねぇ、この後つぐんち行かない?」
スタジオでの練習を終え片付けをしていると、おもむろにひまりがそう提案する。
練習後に寄り道するのはよくあることだが、大体はお腹を空かせたモカが言い出すことが多く、ひまりからとは珍しい。
「アタシは別に構わないよ」
「わ、私も!」
「モカちゃんも~。蘭は?」
「……ん。大丈夫」
「やったー!実はみんなに話したいことがあって」
言葉だけ見れば深刻な話のように聞こえるが、ひまりはやけに嬉しそうだ。
そんなにいいことがあったのだろうか。
「5キロ痩せたとか~?」とモカにからかわれつつも、話はつぐんちに着いてから!と頑なに話し出そうとしないひまりの話を聞く為にアタシたち5人は足早に羽沢珈琲店へと向かう。
席について各々好きな飲み物を注文し、カップが行き渡るとやっと本題に入るようだ。
「実は……なんと!彼氏ができました~!」
「え、えー!ひまりちゃん、本当?」
「嘘だったら言わないよー!」
「ひまりに彼氏ができるとはなぁ」
「うーん、意外、ではないんだけど」
「蘭の言いたいことわかる気がするー。大丈夫なのぉ?みたいなー」
「だ、大丈夫だよ!何でそう思うのー!」
冗談だということはわかりきっているのでくすくすと笑って3人がああだこうだと言い合っているのを見守る。
幼馴染はからかわれながらも嬉しそうだし、コーヒーは美味しいし、こういうのを幸せのひと時と言うのではないだろうか。
つぐみもそう思っているのかにこにこと笑みを絶やさない。
3人のやりとりが落ち着くと、ひまりも話したいのであろう彼氏についての質問攻めが始まる。
「ひまりちゃん、相手の人ってどんな人?」
「えっとね、近くの共学に通う1つ年上の人で、格好良いっていうよりは可愛い系で、あ、でも見方によっては怖い?かも」
「可愛いのに怖いって、ははっ、全然わかんないな」
「写真とかはないの?」
「あるよ!……はい、この人!」
「うーん、普通……?」
「ほっ他の人から見ればそうかもしれないけど……!」
「そもそも、どこで知り合ったんだ?」
「学校からの帰りに声かけられて、何回か私のこと見かけて気になってたらしくて、付き合ってくださいって!きゃー!」
「何かそれ、怖くない?」
「ひーちゃんは多分その人に気づいてなかったよね?声かけられた時に一目惚れー?」
「一目惚れって言うか……一聞き惚れ……?」
「何ソレ。聞いたことない」
「彼ね、すっっっっっごく声がいいの……!」
「あー」
「ひまり、声フェチだったのか」
「声ならうちの蘭だって負けてないよぉ」
「男の声と比べても仕方ないでしょ」
「声は録音してないのぉ?」
「さすがに声はないかな……」
「ねぇねぇ、いつから付き合い始めたの?」
「今日!」
「付き合いたてホヤホヤですなぁ」
「それでひまり今日の練習なーんか集中してなかったのか」
「うっ……それはごめん」
「ま、いいけど。今後は気を付けてよね」
「それくらい嬉しかったんだよね、ひまりちゃん」
「えへへ……そう、みたい」
「何だよ何だよ、今まで見たことない顔しちゃって!ちょっと寂しいだろ!」
「トモちん、きっとアツアツのカッポーはみんなそうなんだよ」
「も、もちろん、みんなだって変わらず大事だよ。かけがえのない幼馴染だもん」
「……あたしたちも、同じ気持ちだよ」
「あ。蘭が珍しく素直だー。可愛いねぇ」
「ッ、モカ!」
「ほらほら、落ち着けって。蘭の言う通りだしな」
「うん。そうだね」
その後はもう時間も遅いからとそれぞれの帰路につくこととなった。
夕陽はすっかり沈んでしまい、商店街の明かりの所為か星の見えない夜空が広がっている。
つぐはもう家なので4人になってしまったが、別れるまではまだ冗談を言い合い、笑って、また明日と手を振る。
家に入って食事を済ませ、今日も疲れたと湯舟に身体を沈ませても、頭を占めているのは珈琲店での話題だ。
そりゃそうだよな、高校生にもなればそういったこともあるかーとか。
大事とは言っていたが、バンドはともかく、あんまり彼氏との時間を奪ってしまわないように気遣った方がいいのか、とか。
いかんせん身近な人間に恋人ができた経験がないアタシにはわかりそうにないことを考えてしまう。
考えても仕方がないことは確かにわかるのだが。
「彼氏かぁ」
まぁ、別に気にしなくていいか。
アタシたちは変わらず一緒にいる為にバンドを組んだのだし、嫌なことや嫌な時はひまりがちゃんと伝えてくれるだろう。
風呂から出た後は呟きを聞かれていたのか、あこに「おねっ……おねーちゃんかかか彼氏できたの……!?」と詰め寄られ、その誤解を解くことに頭を抱えるのだった。
(風呂場に突撃して来なかっただけ、あこなりに我慢したのだろうということは伝わった)
どれが誰の台詞でしょう当て大会が開けるくらいに書き分けはできてない。