バンドリSS   作:綾行

10 / 43
怖い話をするわよ!

 

 

「来たわね!」

 

「みーくん遅いよぉ」

 

「ごめん、ちょっと妹たちが離してくれなくて」

 

 

今日も例によってこころに呼び出されたあたしはちゃんと時間に間に合うよう家を出ようとした。

しかし妹たちに「そろそろ暗くなるのにどこ行くの!」と纏わりつかれて少し遅れてしまった。

既に他のメンバー、ハロー、ハッピーワールド!の面々は揃っている。

勧められるままに椅子に座り、黒服の人が何処からか私にジュースを出してくれた所でさて、と話を始めようとするこころに1つの疑問をぶつける。

 

 

「あの、さ。何でいつもの応接室じゃないの?」

 

 

こころの家を訪れて案内されたのはいつもの応接室ではなく、庭の隅にある地下へと続く階段の先。要するに地下室だ。

中は圧迫感があるような、土やコンクリートが剥き出しの壁などではなく、普通の部屋にいるのと変わらないように錯覚するが、地下室だという認識があれば多少の居心地の悪さは感じる。

部屋に入ったら外から鍵をかけられたのも気になる。

 

 

「んふふ!それはみんなにも訊かれたけど、全員揃うまで待ってたの!」

 

「それじゃあ教えてもらえるかい?偶には気分を変えることも大事だが、それにしても場所が儚くないからね」

 

「今日みんなを呼んだ目的に関係するの!みんな、夏っていえば何かしら?」

 

「花火!!」

 

「えっと、お祭り、かなぁ」

 

「プールかな。ウォータースライダーがあれば尚儚いね」

 

「んー…スイカかなぁ。夏は家族でよく食べてるし」

 

 

各々が思った夏のイメージを答えるがそのどれもがこころの答えではなかったらしい。

違うわ!と明るく否定するといつも通りにっこり笑う。

 

 

「怪談よ!」

 

「っっっっっ!!」

 

 

ガタン、と大きな音を立てて薫さんが椅子から落ちそうになる。

もしかして、そういう話は苦手なのだろうか。

ちょっと意外だと思いつつ、こころの提案も意外に感じる。

いつも笑顔に笑顔に、と言っているこころが怪談話をしようだなんて。

それとも超がついてもつき足りない程ポジティブな彼女には怪談話でですら人を笑顔にできるものなのだろうか。

わざわざ暗くなる時間を指定したことには納得がいったが、そもそも地下なので外の明るさは関係ないだろうとこっそり笑う。

 

 

「こころん、何で怪談なの?」

 

「それはね、怖い話をするとドキドキしちゃうでしょ?」

 

「そ、そうだね」

 

「そのドキドキも楽しいけれど、安心した時のホッとした笑顔も素敵だと思うの!だからみんなでやってみましょ!」

 

「うん?よくわかんないんだけど」

 

「それよりも満面の笑みとかの方が私は素敵だと思うなぁ!!」

 

 

薫さんの力説が入るがちなみに終わるまで外への扉の鍵は開かないわ!とこころに切り捨てられ固まっている。可哀想に。

あたしを含め他のメンバーは嫌がる程でもないらしくこころの提案を受け入れているし、このまま決行となるだろう。

 

 

「でもさー、はぐみ怖い話なんて知らないよ?」

 

「知らなければ今作ってもいいわ!1人1つ話したら終わりよ!」

 

「ぜ、全部で5つも……」

 

「喉が渇いたら遠慮なく言ってちょうだい。黒服の人が出してくれるわ。お手洗いはあたしの後ろの扉の先にあるから心配しないで!」

 

「りょーかい。じゃあ誰からいく?」

 

「……み、みんな、お手柔らかに頼むよ」

 

 

薫さんが消え入りそうな声で頼むが、果たして届いているだろうか。

誰からいくかを聞きつつ披露できるような話はあっただろうかと記憶を辿っているとパチン、とこころが指で合図を鳴らす。

その後すぐに煌々とついていた明かりが消え、みんなの顔がぎりぎりわかるくらいの明るさに絞られる。

目が慣れるまでは真っ暗闇に近く、急に電気が落ちたことに「ひっ」と小さな悲鳴が上がった。誰なのかはもう言わなくてもわかっている。

 

 

「これで雰囲気も出たわね!」

 

「それじゃあ最初ははぐみがいくよ!えっとね、その日はぐみは家に1人だったんだ。お昼にはコロッケを食べようと思ってて、お皿の上に乗せておいたの。それでいざお昼ご飯だ!ってお皿を見たら、コロッケが消えてたんだ!!」

 

「それで?」

 

「え?おしまいだよ?」

 

「え?」

 

 

怖い話、だったのだろうか。

言いたいことが伝わったのだろう。はぐみはぷくぅ、と両頬を膨らませた。

 

 

「だってコロッケが消えたんだよ!食べてないのに!誰もいなかったのに!怖いよ!」

 

「そ、そうだよね。怖いね」

 

「あぁ!まさしく怖い話だ!はぐみ、さぞかし怖かっただろうね……」

 

「わかってくれたならいーんだ!」

 

「……ちなみに、窓とか開いてた?ラップは?」

 

「んー、ラップはしてなくて、窓は……暑くて全開にしてたっけ」

 

 

あー、うん。それお化けの仕業とかじゃなくて猫だか何だかわかんないけど動物が窓から入って来て、コロッケを持って出て行ったんだ。

皆には怖い話として受け取られているし、わざわざ指摘もしないけど。

 

 

「とっても怖い話だったわね!それじゃあ、次は誰かしら?」

 

「あ、じゃあ、私が……」

 

「花音さんか。どんな話をしてくれるんです?」

 

「私がまだ小さい頃の話なんだけど、お盆の時に弟と2人でお墓参りに行ったの」

 

「待つんだ花音!お盆でお墓で小さい子2人なんて恐ろし過ぎる……!その話はやめるんだ!」

 

「ふえぇ……変えた方がいいの……?」

 

「気にしないで!あたし続きがとっても気になるわっ」

 

「そんな!!」

 

 

こころに「人の話の邪魔をしちゃダメよ」と軽く叱られた薫さんはぐ、と言葉に詰まって静かになった。

こころが人にまともな注意をするのも珍しいし、薫さんが叱られるのも珍しい。

今日は珍しいものばかり見るなぁ、とぼんやり思っている間に気を取り直して、と花音さんが話に戻る。

 

 

「家に近かったし、まだ昼間で他にもお墓参りに来てる人はいるから、家族も大丈夫だと思ったんだと思う。実際、事故にも事件にも巻き込まれなかったし。ただ、お墓参りの途中で弟が変だったの」

 

「変って?」

 

「お墓参りって言っても、2人とも小さかったし、バケツにお水を汲んでお墓にかけて、手を合わせるくらいだったの。そのお水をかけてるくらいから、弟が他のお家のお墓をじっと見出して。どうしたのって訊いたら、見ている方を指差すの。其処には他のお家のお墓があるだけで変わった所はないのに。変なのって思いながらもお水をかけ終えて、手を合わせて、帰ろうって時に弟がそっちに向かって手を振ってまたねって言うの。誰も、いないのに」

 

「か、かのちゃん先輩、こ、怖すぎだよぉ……」

 

「ね。私も怖くなって弟の手を引いて早く帰ろうとしたんだけど、その時耳元ではっきりと聞こえたの。……『またね』って」

 

「うわあああああああっ」

 

 

耐えきれなくなったのか薫さんが叫ぶ。

花音さんの話した内容は聞いたことがありそうなものではあるけれど、びっくりさせる系の話し方でもないのに怖くて最後は背中がぞくりとしてしまった。

怖がらせられたことが楽しかったのかクスクスと笑って「これで私の話は終わり」と花音さんが話を締め括る。

こころも楽しそうに怖かったわと笑っている。

 

 

「それじゃあ次は……」

 

「私がいこうか」

 

 

先程までの姿は何処へやら、周りに薔薇が舞いそうな程キメた顔で薫さんが名乗り出る。

自分の番を主張し損ねてどんどん順番が後になっているがいいか、と薫さんの話し出しを待つ。

 

 

「これは休みの日の夜のことでね。そろそろ寝ようかと準備をしていたらガチャ、と部屋の扉が開いたんだ。思わず扉の方を見ると……なんと!其処には真っ白な顔をした少女が立っていたんだ!!」

 

「わー!薫くん、怖いね!」

 

「そうだろう?さ。これで私の話は終わりだ」

 

「どうなったかとかもなし?その子は消えたの?」

 

「美咲、終わりと言っただろう?謎は謎のままの方がいいこともあるのさ」

 

「……もしかして、薫さん、千聖ちゃんのこと?」

 

「そっそんなことはないよ!千聖の話なんて私はしていないさ!」

 

「……花音さん何か知ってるの?」

 

 

いまいちピンと来なくて説明を求める。

話していいのかわからないけれど、と少し困ったように、でも花音さんは求めた通り説明をしてくれるようだ。

 

 

「前に千聖ちゃんがちょっと機嫌が悪い時があって、どうしたのか訊いたら友達の家に泊まりに行って、お風呂の後パックをして部屋に行ったら悲鳴をあげられたって話してくれたことがあったの」

 

「あー。つまり、薫さんの部屋の扉を開けたのは、パックをして顔が白い白鷺先輩、と」

 

「そうなの?はぐみ、血の気がなくて顔が真っ白のお化けかと思っちゃった!」

 

「こ、事細かに説明しなくてもいいじゃないか……」

 

 

作った話でもいいと言われたが、薫さんなりにちゃんと怖い話をしてくれようと頑張ったのだろう。

がっくりと肩を落とす薫さんに申し訳なくなっていや、でも怖かったですよ、いきなり顔が真っ白の人が現れたらあたしもびっくりします、とフォローするがあまり効果はないようだ。

こころも「ちゃんと怖かったわ、ありがとう」と言ってくれているし、落ち込まないでくれるといいのだが。

 

 

「それじゃあ、次はあたしでいい?」

 

「えぇ!あたしは最後がいいわ!」

 

「そ。じゃあお言葉に甘えて。これはあたしが高校1年の時の話なんだけど、何か、やばい人たちがいたんだよ」

 

「やばいって?」

 

「やばい宗教とか!?」

 

「……まぁ、そんな感じかな。世界規模で自分たちの思想を広めようとしててね。ひょんなことからあたしはちょっと関わりを持ってしまったわけ」

 

「みーくん、大ピンチ!」

 

「あはは、そうだね。あたしは何とかその組織から抜け出そうとしたんだ。でも、誰も話が通じなくてね。あれよあれよという間にあたしはそこの広告塔みたいな、其処と言えばコレ、って感じの役職にされちゃった。ま、今は自分の意思でいるからいいんだけど、……みんなは、怪しい組織には絶対関わっちゃ駄目だよ。あたしは安全な役職につけたけど、みんなも運良くそうなるとは限らないんだから」

 

「~~~~うんっ!!絶っ対関わらない!」

 

「美咲、本当に大丈夫なのかい?もし逃げ出したいなら、私が手伝うよ」

 

「っはは、大丈夫ですって。今は自分の意思って言いましたし」

 

「美咲ちゃん、今の話って、」

 

 

花音さんの言葉が紡がれるよりも前に口元に人差し指をあて、しー、と笑いかける。

わかる人が聞けばわかる話。

あたしが話したのは怪しい宗教団体の話などではなく、ハロハピの話だ。

初めこころのことを遠巻きからやばい奴、と思っていたのも事実だし、今は自分の意思でミッシェルとしてハロハピのマスコットキャラクター兼DJをやっているのも事実だ。

薫さんのようにちょっと怖い話風にアレンジを加えただけの、自分の話。

まぁ怪談というより人間は怖いよー、みたいなニュアンスが強いのは否めない。

ミッシェルのことと同様、はぐみと薫さん、こころにはハロハピのことだと伝わらないらしく、こころも「気になってしまうけど、絶対関わっちゃダメって言うくらいだものね!」とはしゃいでいる。

あたしも話はこれでお終い、と告げてこころに順番を譲り渡す。

 

 

「それじゃあ最後はあたしの話ね!まず、この部屋の話なのだけれど、此処はあたしのおじいさんかひいおじいさんかが土地を買った時にはもうあったんですって。何に使われていたかというと、人体実験?らしいわ!」

 

「え、」

 

「じ、人体……」

 

「実験……!?」

 

「ふ、ふえぇ……」

 

 

突然投下された爆弾に私たち4人は恐れ戦く。

普通に考えてそうだろう。

人体実験なんて穏やかなことが行われていたはずがない。

自分たちが今いる場所がそんなことに使われていたなんて知ればすぐにでも出たくなる。

最初にこころが全員話すまで出られない、と言ったのは薫さんにではなく、今この瞬間出たいと思ったであろう4人に向けてだったのだ。

弦巻こころーーーー!!と心の中で頭を抱えて叫ぶが、こうなったらさっさと話を聞き終えて出るしかない。

 

 

「あぁ、ちょっと違ったかもしれないわ。人体実験ではなくて、人を使った実験、だったかしら」

 

「それどう違うの……」

 

「何かを人に使ってどうなるかを調べるんじゃなくて、人を使って、よ。みんな蟲毒って知ってる?」

 

「1人で寂しいの?」

 

「はぐみ、それは孤独さ」

 

「た、確か、虫とかを閉じ込めて共食いさせて、呪いの道具にするんだよね……?」

 

「えぇ!それを人でやるの!数人を閉じ込めて、水も食料もなくて、空腹で、渇いて、明かりもないから暗くて。今みたいにお手洗いもないから同じ部屋でしたのだろうけれど、においがすごくて大変だったでしょうね」

 

 

薄暗くて視界の所為で、頭の中のイメージがこころの言葉で膨らんでいく。

……考えただけで不快で、恐ろしかった。

頭の映像を消し去りたくて目に力を籠めるが、こんな話をしているのに平然と笑顔のままのこころの顔がはっきりと見えるだけだった。

 

 

「そんな状態で1人だけ生き残ったら出してやる、なんて言われたら、耐えきれなくなった人から従ってしまうわよね。そうして、1人だけの脱出を奪い合って蟲毒と同じことが始まったの。でも結局、蟲毒はできなかったみたい。だって、人は虫じゃないものね。何度試したかは知らないけれど、その後にこの土地があたしの家に買われて、今こうして綺麗な部屋みたいになってるの」

 

 

あぁ、このまま鍵が壊れて出られなくなってしまったら、あたしたちも同じようになるのかしら。

無邪気な声で発された言葉に、あたしを含めて全員が言葉を失う。

もしそうなったとしたら、だから何となくでも地下なんて嫌だったんだとか、どうして来ちゃったんだとか自分を責めるのだろうか。

こころの家に来たことは家族も知っているはずだからきっと見つけてもらえるなんて希望を持っていられるのだろうか。

……どちらでもいい。話は終わったのだから、こんな場所からは去らせてもらおう。

そう思ってこころ、と呼びかけようとする前に。

 

 

「っふふ、あはははは!」

 

 

こころが大笑いを始めた。

 

 

「みんなそんなに怖がらないで!作り話よ!嘘なの」

 

 

その一言に4人して脱力し、安堵の息を吐く。

 

 

「なんだー!本当にこのまま出られなくなっちゃうのかと思うくらい怖かったよー!」

 

「まったく、いけない子猫ちゃんだ。君がもう悪戯できないよう、しっかり見張ってないといけないね」

 

「こ、怖かったよぉ……」

 

「……ほんと、こころにしては内容が怖過ぎでしょ」

 

「最初に言ったでしょう?怖いドキドキからの安堵の笑顔!って!」

 

 

言われてみれば確かに、他の3人は安心して笑っているし、あたし自身口角が上がっていることに気づく。

笑顔になる為にあんなに怖い話を聞かなければいけないのなら、笑顔にならなくていいから聞きたくなかったのだけれど。

 

 

「楽しんでもらえたかしら?もういい時間でしょうし、お開きにしましょう!」

 

「みんなの話怖かったねー!」

 

「もうしばらくは、いや、一生怖い話はいいかな……」

 

「もしかしたらまた開かれるかもしれないね」

 

「っ儚い……!」

 

「……あれ?こころは?出ないの?」

 

 

明かりが入って来た時のように煌々とつきカチャリと鍵の開いたらしい音がして、みんな安心してこの部屋を後にする。

こころは座ったままにこにこと私たちを見送ろうとする。

一緒に出ないのかと声をかければぴょん、と勢いよく立ち上がってえぇ、と言葉を返す。

 

 

「この部屋の片づけを手伝ってから出ようと思うの!気にしないで帰って大丈夫よ!」

 

「あぁ、そう。それじゃあ、またね」

 

「えぇ、また」

 

 

作り話だと言われても初めから嫌だなーとは思っていたので促されるままあたしも扉をくぐる。

黒服の人もいるだろうし、片付けは長くかからずこころもあの部屋を出るだろう。

ずっと座っていて固まってしまった体を伸ばしながら地上へ続く階段を上って、弦巻家の庭に出ると新鮮な外の空気を吸えたことに一安心する。

もう空は真っ暗で心細くなるが、少し先にはあたしの前に部屋を出た3人が楽しそうに話しながら歩いている。

待ってあたしも一緒に、と声をかけながら小走りし、話に加わって楽しく帰路につく。

妹たちに何をしていたのかという話をせがまれても具体的には話せないなぁ、なんて思いながら。

 

 

「また、此処で会いましょうね」

 

 




アフロもですが5人を同時に存在させるとよくわからなくなって来ます。
個人的に嘘だよ。嘘。のように否定した後また否定する時は本当のことを言います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。