バンドリSS   作:綾行

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『こころを乱されるのは酷く不愉快で』の続きです。



気づき始めるこころ

 

 

 

用意するとは言っていたが、次の日の朝、弦巻は本当に金を持って来た。

 

 

「はい、智昭!約束してたお金よ!」

 

 

しかもそれを教室で渡しやがるものだからクラスメイトがあからさまに此方を見てひそひそと話し始める。

誤解、では自分が言い出したことなのでないのだがもらうつもりはなくなったので勘弁して欲しい。

場所変えるぞ、と弦巻を引っ張って人のいなさそうな裏庭へと移動する。

どうして移動したのかわからない、という顔をする弦巻にそれで、と再び用件を言うよう促す。

此処からは俺の演技力の見せ所だ。

 

 

「昨日お金をもらえば嬉しいって言ってたでしょ?ちゃんと今日の分の2万円、持って来たわ!」

 

「……やっぱりいらねぇわ」

 

「どうして?嬉しくないの?」

 

「そんなもんもらわなくても、こうして弦巻が俺の為に何かしようとしてくれることが嬉しいって気づいたからさ」

 

 

よし今だ。食らえ、必殺スマイル。

満面の笑みという場面でもないので微笑む程度だがいつも仏頂面な俺にしてみれば十分笑顔と言えるのではないか。

昨日家に帰ってからこれでも必死に練習したのだ。

通信販売で大量の商品を売り切っている通販の女王とかいう奴が「こうすれば口角が上がるんですよ!」と教えている謎の動画に頼ることになるとは俺も思わなかったが。

努力の甲斐あってこうして顔の筋肉の引きつりを感じながらも微笑めているわけだ。

これで弦巻も満足しただろう、と思ったのだが、弦巻は何故か目を見開き口を真一文字に引き結んでいる。

 

 

「弦巻?」

 

 

笑顔はいいとして、台詞が棒読みに聞こえてしまっただろうかと不安になって呼びかける。

本心では全くないことを気づかれたら付き纏われる毎日から抜け出せそうにない。

ぱちくりと瞬きをしてからはっと我に返った弦巻はいらないと言ったにもかかわらず金の入った封筒を押し付けて来る。

 

 

「で、でも、約束だもの!また明日も持って来るわ!」

 

「いらねぇし。もう笑ったんだからお前が俺に絡む必要もないだろ?」

 

「えっと……そう!智昭いつも1人だもの!あたしがいなくなったらまた1人になって、つまらなくて、笑わなくなっちゃうわ!」

 

 

だからあたしが一緒にいてあげる、とでも言いたげな言葉に軽く頭痛がして来る。

違うクラスにいる友人となるべく行動するようにして納得させるか悩むが、そんな「1人じゃトイレにも行けなーい」という小学校低学年の女子みたいなことはしたくない。

弦巻が納得するのは休み時間の度に友人と共に過して笑いあう、みたいなことだと勝手に思っている。

1度笑っただけでは引き下がらないのだからあながち外れてもいないと思う。

 

 

「じゃ、じゃあ、また明日も来るから待っていてねっ」

 

「待ってなくても来るんだろうが……」

 

 

時計を見ればホームルームが始まる時間まであと10分程ある。

まだ急いで戻る時間ではないのに金を押し付けてさっさと戻るなんてやはり変な女だ。

弦巻がどんなにおかしかろうがどうでもいいのだがどうしたものか。

意外に思われるだろうが約束は果たすタイプなのだ。

これでは約束を守りはしたが果たしたことにはならなそうである。

まぁアイツも先程のやり取りを見ていただろうし出方を窺うことにしようと俺も教室に戻ることにした。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「西様」

 

 

着いて来ていることを前提として昨日も来た公園へと寄ればまた其処で呼び止められる。

振り返れば昨日と同じ黒服の女だ。

当然だろう。弦巻に近づかせない為の取引として俺と寝ました、なんて他の奴には言えまい。

昨日連れて行かれたのは近場の、普通のホテルで、何とでも言い訳ができる。

 

 

「なー。アンタの言う通り笑ったのにアイツまた来るってよ?これ俺悪くねぇよなぁ」

 

「見た所微笑む程度でしたので、笑顔とは見做されなかったのでは」

 

「ふーん。あくまで俺の所為にすんのか。そういうとこ、ほんと腹立つわ」

 

 

相手の態度に考えを改めることにする。

俺は言われた通り金は受け取ろうとせず、笑顔を見せてやった。

結果がどうであれ、もうこれは約束を果たしたと言えるだろう。

 

 

「言われた通りやってやったんだからもういいよな?どうしても嫌なら今度からは大事なこころ様に言ってくれ」

 

「……明日はもっと、はっきりと笑顔を作ってください。それでも駄目ならば突き放して頂いて、」

 

「は?巻き込まれて迷惑してる上にこっちの所為にされて従うとでも思ってんのか?ふざけんな」

 

「……お願いします」

 

 

ほぼ直角になるくらい頭を下げられる。

しかし聞き入れてやる気にはならない。

 

 

「アンタが下げる頭に何の価値があんの」

 

「……お願いします」

 

「……顔上げろ。人が来たら変な目で見られるだろ」

 

「聞き入れてくださるまで、上げません」

 

「だからさぁ……頭下げられたって嬉しかねーんだよ」

 

 

近づいて無理矢理顔を上げさせる。

変わらずかけられているサングラスが邪魔だな、なんて思いながら意地の悪い笑みを浮かべて。

 

 

「アンタが笑顔にしてくれるんだろ?その分はきっちり言う通りにしてやるから」

 

「っ、今日も、ですか」

 

「この分だとほぼ毎日になりそうだな」

 

「…………仕事がありますので、さっさと済ませてください。それと、ほぼでも毎日は無理です」

 

「じゃあ俺の気が向いたらで。昨日と同じホテルとれる?」

 

「……手配します」

 

 

部屋の手配をしてもらい、移動する車の中で黒服の女と連絡先の交換をした。

呼ぶ為の手段がないのでは話にならない。

嫌そうな顔をする黒服に早く弦巻がやめてくれるといいな、と言い放つ際に向けた笑みは、割と心からのものである。

 

 




得意なことはないのですが場面転換と時間経過が苦手なので細切れに。
終わりの一文を考えることと描写とタイトルを考えることも苦手です。
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