バンドリSS   作:綾行

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誰そ彼の逢瀬 上

 

 

 

 

「……っと、そろそろ時間だね」

 

「練習してると時間あっという間だよね」

 

「そうだな。時間過ぎないように急いで片づけよう」

 

 

個人練習の時もそうではあるけれど、5人集まっての練習はすぐに時間が経ってしまう。

スタジオの貸し出し時間を過ぎてしまわないよう慌てて片付けを始めるが、口は空いている為お喋りは止まらない。

 

 

「今日の練習どうだった?」

 

「私みんなとずれちゃう所があったな……」

 

「私も入りが微妙だったかなぁ……」

 

「うーむ。練習あるのみですなー。蘭的にはどだった?」

 

「それぞれ課題はあると思うけど、悪くはなかったんじゃない」

 

「いつも通り、出ないかー」

 

「出なかったねぇ」

 

「……その出るか出ないかみたいなの毎回やめてくれる」

 

 

からかっているだけだとわかっているが気恥ずかしさもあって少しムッとしてしまう。

それも伝わっているのだろう。

一足先に片付けが終わったのかあはは、ごめんて、と笑いながら、ひまりがスタジオの料金を支払いに行ってくれる。

残った私たちも片付けを終えると受付へと移動し、待っていたひまりと外へ出る。

涼しかった室内から一変、むわりとした暑い空気が全身に纏わりついて来てげんなりする。

日が長く18時過ぎでもまだまだ明るい屋外は立っているだけで日差しを浴びて汗が噴き出す。

一刻も早く帰ろうと声をかけると悪い、と巴が一歩先に出る。

 

 

「アタシこれからバイトなんだよ」

 

「まーじか。トモちん働き者ー」

 

「暑いし気を付けてね」

 

「水分補給はするんだよ?」

 

「じゃあ、また明日、巴」

 

「あぁ、また明日な」

 

 

ニカッと笑って巴が駆け出す。

急いでいるというよりはパワーが有り余っているといった風だ。

うだるような暑さにも負けない巴はすごいな、なんて感心しつつ各々家を目指して歩き始める。

明日は何をしようか。次の練習はどう進めていこうか。

そんなことをぼんやり考えて。

 

 

 

夜、携帯に着信があった。

画面にはひまりと表示されていて、電話なんて珍しいと応答すれば涙声のひまりの声が耳に飛び込んで来る。

 

 

『っ蘭、あの、あのね、と、巴が……』

 

「巴がどうかしたの」

 

『巴が、死んじゃったって……っ!』

 

 

言葉を続けるひまりの声が遠のいていくように感じる。

そんな冗談言わないでよ、と言いたくなるが声も出ない。

それを言えなかったのは良かったとは思う。

ひまりがそんなつまらない、……人を傷つける冗談を言うはずがない。

それでは事実と受け入れるのかと言われれば、それもし難い。

だって別れる時だって元気で、また明日といつもの約束をしたのだ。

急に、いなくなってしまうなんて。

 

 

『お葬、式のこととか、決まったの聞いたら、また連絡するね……』

 

 

しゃくりをあげ言葉に詰まりながらもそう伝えてくれて、ひまりは通話を切った。

携帯を片手に呆然と立ち尽くすあたしの頭は真っ白だ。

そうしてそのまま、頭が真っ白なまま朝が来て、学校へ行って、授業を受けて。

休み時間に隣のクラスを覗きに行くと、集まって俯くひまり、つぐみ、モカの姿が見える。

あぁ、やっぱり巴はいないんだな、と3人に気づかれる前に教室に戻る。

放課後には3人が此方のクラスに来てくれて、4人で下校した。

誰も巴のことには触れず、何を話せばいいのかわからず、無言の下校。

その日の夜にはひまりからお葬式の日時が送られて来て、気が付けば数日が経ち、巴のお葬式へと足を運んでいる。

似合っていると褒めてくれた赤いメッシュは黒く染めて、黒い礼服に身を包んで、満面の笑みを浮かべた巴の写真を少し遠くから眺めている。

 

 

「いい子だったのにねぇ……」

 

「まだ若いのに……」

 

「巴ちゃんが和太鼓をやってくれた時は商店街が盛り上がったよねぇ……」

 

 

近所に住んでいるのであろうおばちゃんたちもハンカチを目頭に当て巴を偲んでぽつりぽつりと話をして。

 

 

「お、ねえぢゃ、ん……何で、何であこを置いていっちゃうの……!!」

 

 

あこが、泣き叫ぶ声が聞こえる。

周りを見渡して姿を探せば号泣するあこを泣きながらつぐみが抱き締めている。

そこそこ大きな会場だがその誰もが暗い顔をして、涙を流して、此処にいる。

これだけの人を悲しませて、巴はなんて。

 

 

「何で死んじゃうんだよ、馬鹿……」

 

 

真っ白だった頭が共にいた日々を映し出して、堪えようとしても涙が止まらない。

死んでしまった人の悪口を言ってはいけないと祖母が言っていたが悪態の1つもつきたくなる。

また明日って言ったのに、巴の嘘吐き。

電話で知らせてくれた時のひまりのように、嗚咽で上手く言葉になりそうにはないけれど。

繰り返される何で、どうして、にはもう答えを得ている。

バイトがあると別れたあの日、帰る途中で巴は交通事故に遭ってしまったと。

救急車で運ばれる時点で意識がなくて、1度も目を覚ますことなく、この世から去ってしまった。

バイトがなければとか、少しでも時間がずれていたらとか、もしもの話ばかりが浮かんでは消えて。

きっとみんなも同じことを考えているかもしれないが、それでも巴は帰って来ない。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「あっつーい……」

 

「夕方ならまだ涼しいって言ったじゃーん……」

 

「陽が暮れかけても夏なんだから暑いでしょ」

 

「あはは、そうだね……」

 

 

巴がいなくなってから1ヶ月。

4人とも気持ちの整理がつかず、バンド活動は休止したまま、夏休みに入った。

お盆の時期となり、誰からともなく提案されたのは巴のお墓参りに行くこと。

それぞれ自分の家のお墓参りであったり、予定があったりと結局お盆の最終日、送り盆の日となってしまったが、家族に迎えられて家に帰った巴ももうお墓に戻って来ていることだろう。

逆に今日で良かったのかもしれないとも思う。

今は事前にきちんと巴の家の許可もとり、花や線香を持って巴が眠るお墓に向っている所だ。

場所も教えてもらったし迷うことなく着いたお墓には。

 

 

「よっ」

 

「は?」

 

「え?」

 

「嘘、」

 

「あれ、トモちん、もしかして化けて出て来ちゃった?」

 

 

自分の家のお墓に腰掛ける巴がいた。

 

 




「どだった?」が脱字に見えますが合ってます。
逢瀬は甘くない意味で。

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