バンドリSS   作:綾行

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誰そ彼の逢瀬 下

 

 

 

巴の家のお墓参りに来るのを夕方にして良かったと思う。

他の家は昼間の内にお墓参りを済ませたのか此処にはあたしたち以外に人はおらず、変な目で見られることがない。

それはお墓に腰掛ける巴を見た時に発した言葉以来、あたしたちは固まってしまっているからである。

ただし、モカ以外だ。

モカは驚くこともなく呑気に「トモちん元気だったー?」なんて話しかけている。

お葬式で巴にお別れをする時モカだって泣いていたのに何でそんな平然としていられるのかとツッコミを入れたくなる。

そうしてそれぞれ固まっている間この状況を飲み込もうとして。

 

 

「きゅう……」

 

「きゃーっ!つぐ、しっかりしてー!」

 

 

キャパシティオーバーしたのかつぐみがふっと倒れかけ、咄嗟に支える。

ひまりもそれに加わってくれたのとすぐにつぐみが意識を取り戻した為どうにか共倒れせずにいられた。

つぐみが持っていて落としてしまったお花はモカが拾ってくれている。

 

 

「つぐ、大丈夫か?」

 

「いや巴の方が大丈夫って感じなんだけど!よっ、じゃないよ何でいるの!」

 

「モカの言う通り、本当に化けて出て来ちゃったの……?」

 

「と、巴ちゃん、うらめしやーなの……?」

 

「そうだとしたらあたしたちトモちんに呪われちゃいますなぁ」

 

 

ひまりがひっ、と短い悲鳴をあげる。

流石にその線でいくのは巴が可哀想過ぎる気がするのだけど。

違うって、と焦ったように否定する巴はしっかり足先まであるし、そもそも恨めしそうにはとても見えない。

 

 

「待ってたらみんなに会えるかなと思ってたら本当に会えたから声かけてみたら聞こえるし見えるしアタシも吃驚だよ」

 

「見えるかわかんなかったんだ」

 

「待ってる間他のお墓参りに来た人も結構いたけど、アタシのこと気づかなかったしな」

 

「ほえー。やっぱりトモちん幽霊なんだねぇ」

 

「……元気そうで良かった」

 

 

死んでいるのに元気も何もないけれど、其処は口にできなかった。

だってあまりにも巴はいつも通りで、見た目だって何処も怪我なんてしていなくて。

巴があたしの肩を叩こうとして、それがすり抜けたことを除けば、巴が死んでしまったと連絡を受けた日からのことが全て夢だったと言われても納得してしまう程だった。

 

 

「轢かれた時はあちこち痛いし頭は割れそうなくらいだったし死ぬかと思ったけどな」

 

「……死んでるんだってばぁ…………」

 

「じょ、冗談だよ……悪かったから泣くなって……」

 

 

本人が言っても笑えないブラックジョークを言われ、ひまりやつぐみはぼろぼろと泣き出す。

堪えてはいるが、あたしも泣きそうだ。

ちらりと見やれば、平然と巴と接していたモカも涙目のように見える。

 

 

「何で死んじゃった本人が平気そうなのよぉ……」

 

「平気なわけじゃないけどさ、此処でアタシが泣いたり喚いたりしたってどうにもならないだろ」

 

 

死んでしまった後いつからこうして自我を持っていたのかわからないが、そうは言うものの巴自身泣いたりはしたはずだ。

悲しみに暮れる両親も泣き続けるあこも見たのだろうから。

そしてあこから何も連絡が来ないということは、巴の姿や声は家族には届かなかったのだろうから。

それより、と巴が咳払いをしてあたしたちに向き直る。

 

 

「何でアタシが声かけたかわかるか?」

 

「ぐすっ……ちゃんとお別れする為?」

 

「まぁそれもするけど……バンド、最近やってないだろ」

 

「……巴がいないのに、どうやって演奏するの」

 

 

ドラムのいないバンドもあるが、多いわけではない。

元からいないのと今までいたのにいなくなってしまったのでも大違いだ。

他の人を入れて、なんて考えられないし、あたしたち全員気持ちがバンドに向かないのも当然なのだ。

 

 

「……今後どうするかは4人に任せるけど、最後に5人で演奏できればと思って」

 

「どうやって……?」

 

「トモちん、楽器触れるの?」

 

「まぁ触れないだろうけど……ちょっと待ってろ」

 

 

巴が両手を前に出しむむむ、と目を閉じて唸る。

するといきなりぼん、と空いていたスペースにドラムセットが出現した。

きちんと椅子まである。

墓地にドラムセットなんてなかなか見かけない組み合わせだ。

いつの間にか握っていたスティックで巴がスネアドラムを叩くと音もちゃんと鳴る。

あたしたちが触れようとしても先程の巴のようにすり抜けてしまったが、巴は触れられるし演奏もできるらしい。

そういうことができるものなのかと訊けば他の人を知らないからわからないと返されてそれもそうだと納得する。

 

 

「何にせよ、これでできるだろ」

 

「こ、此処でやるの……?」

 

「持って来るのも大変だし流石にお墓で弾いたり歌ったりしたら絶対人来るからスタジオがいいな」

 

「巴は移動できんの」

 

「大丈夫だろ、多分」

 

「……できるなら、しよう」

 

 

ごしごしと涙を拭ってひまりがあたしたち1人1人と目を合わせる。

それに頷いて返して、すぐに向かおうとするが、自分たちが持っているものを思い出す。

 

 

「……先にお線香あげたりした方がいいのかな?」

 

「折角持って来たしねぇ」

 

「じゃあ私、今の内にスタジオ空いてるか電話して来るっ」

 

 

あたしたち以外には誰もいないのだから気にすることはないのだが、気持ちの問題なのだろう。

ひまりはお墓の入り口方面へと携帯を握り締めて駆けて行く。

その間にと残った私たちはてきぱきお花を容器に差したりお線香を供えたりとお墓参りをする。

間近でそれを巴に見られているのは何とも言えないが。

 

 

「スタジオ、空いてるって!」

 

 

また駆けて戻って来たひまりの言葉にそれじゃあスタジオ集合で、と一度解散する。

巴はひまりについていくようだ。

出て来た時のように一旦出されたドラムセットはぽんと消され、何もない状態へと戻っていた。

 

家に戻ってギターケースを掴むと行って来ますと誰に言うでもなく叫ぶと急いでスタジオに向かう。

空は藍色に塗りつぶされかけていて、気持ちが急いてしまう。

入り口前で全員集まるまで待ち、揃ってから建物内に入ると受付の見知った店員さんが久しぶりですね、と少し笑んだ。

近くに住んでいるのならば、巴の件も知っていて、あたしたちが来なくなった理由も気づいているのだろう。

深いことは訊かれず、受付を済ませると飛び込むようにしてスタジオに入る。

もう叶わないと思っていた5人での演奏ができるのだ。

今日を逃したらもう、二度とできない、最後の演奏。

誰も最後だね、なんて無粋なことは言わないが、わかっているのだ。

 

 

「とりあえず、何からやる?」

 

「……1番初めに作った曲から順々にいこう。時間が許す限り、全部」

 

「休憩はちゃんと入れろよ?ぶっ倒れても知らないぞ」

 

「そう、だね……」

 

「倒れた方が時間取っちゃいそうだしねぇ。急がば回れーみたいな」

 

 

準備の間に曲を決め、定位置につく。

巴もドラムセットを出して準備万端だ。

本当は休憩の時間すら惜しいのだが、釘を刺されてしまったのだから仕方がないと深呼吸を1つ。

巴の合図で演奏を始め、1曲、2曲、3曲と演奏していく。

5人でバンドを組んだ時からのことが思い出され、練習した日々が、いつも通りがどれ程尊いものだったのかを噛み締める。

楽しいのに苦しくて、終わって欲しくない思いで胸がいっぱいになって、きっとそれはみんなも同じで。

偶に挟む休憩は水分補給くらいのもので、すぐ演奏が再開される。

巴もそれに文句は言わなかった。

時間が止まってしまえばいいのになんて願ってもそんなことはあり得ない話で、時間は無情にも過ぎていく。

 

 

「……そろそろ、時間だね」

 

 

あの日と同じように、終わりの時間が近いことを告げる。

うん、とみんなから返事が来るが声音は沈んだものだ。

 

 

「……みんなそう暗い顔すんなって!またこうやって演奏できるかもしれないだろ?」

 

「……トモちん、毎年お盆にこうやって会いに来てくれるの?」

 

「あぁ。できるなら絶対来るから、……みんなには、バンド続けて欲しいな」

 

 

今後どうするかは任せるって言ったけど、と巴が寂しそうに笑う。

 

 

「……じゃあ、アタシは先に帰ろうかな」

 

「巴……」

 

「巴、やだよぉ……」

 

「行かないで、巴ちゃん……」

 

「…………トモちん、また、ね」

 

 

引き留めても駄目だということはわかっている。

泣き出しそうな声でまた、と言ったモカに続いて、あたしたちも次の機会を信じてまたねと約束の言葉を交わす。

 

 

「あと、1つだけ我儘言っていいか?」

 

「なあに?」

 

「……あこのこと、頼んだ」

 

 

それぞれの返事に巴は微笑んで、そして消えてしまった。

ドラマや映画のように幻想的な光が出るでもなく、瞬間移動のようにぱっと、ドラムセットと共に。

初めから何もなかったし誰もいなかったかのように。

堪えていたものが決壊し声をあげて4人で泣いて、スタジオを空ける時間になってもその場から動くことができなかった。

後に借りる人がいなかったのか、時間を過ぎていることをスタッフさんが咎めに来ることもなく、気が済むまで泣いて泣いて悲しみを吐き出す。

 

約束を交わしてもそれが果たされることはないのだと、みんな、わかっていた。

 

 




単発として上だけで切ってしまっても良かった気はします。
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