バンドリSS   作:綾行

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翡翠のphenobarbital

 

 

 

「イラッシャイマセー」

 

 

時刻は昼前。

アルバイト先のコンビニは昼のピークが11時前半から中頃なのでやっと落ち着き始めたといった所だ。

客の出入りを知らせる音楽が鳴り、レジ打ちの傍らドアを横目で見やると出て行く客の姿は見えないので入店したのだろうとお決まりの挨拶を声に出す。

気持ちは籠っていないが言わないよりかはマシだろう。

会計が終わり客が列にいないのを確認すると、直前まで行っていた陳列作業へと戻る。

今日のシフトは12時までなのであと少し。

昼食をとったら来週までに提出しなければならないレポートを書く予定なのでアルバイトが終わるからといって特別解放感もない。

 

 

「……レジ、お願いします」

 

「あっはい。すみません」

 

 

少し気が逸れている間に客を待たせてしまったようだ。

同じシフトに入っているもう1人は飲料の補充に行っているので俺が対応するしかない。

急いでレジに入り置かれた商品のバーコードをスキャンする。

その間、何故か目の前の客からの視線が痛い程に刺さりまくる。

熱の籠った視線、というよりは不審者を見る目に近い。

いや呼ばれたから来ただけの店員で決して怪しいもんじゃないんですけど、と言いたくなるが愛想笑いで乗り切ることにする。

視線だけに注意が向いていたが、其処で初めて相手を認識する。

アイスブルーの、さらさらとした長い髪が印象的な美人さんだ。

シャツワンピースを着て背中には楽器ケースのようなものを背負っている。

小柄というわけではないがケースが大きそうに見え、運ぶの大変そうだなぁ、なんて音楽に詳しくない俺は小学生みたいな感想が浮かぶ。

無論、この間も彼女は険しい顔をしているのだが。

 

 

「……265円になります」

 

「……あの、」

 

「はい、何でしょう」

 

 

彼女が買ったのは飲み物とガム。

そうそう期限が切れてしまっているものではないのでよく見たら期限切れじゃねーかみたいにキレられる心配はない。

ホットスナックでも買うのだろうかと気楽に返すと予想外のことを訊かれる。

 

 

「何時までお仕事ですか」

 

「え?12時であがりですけど……」

 

「それでは、私と遊びませんか」

 

「あそ……え?いや、え?」

 

 

突然の誘いに動揺して上手く言葉を紡げない。

そんな俺の様子をクスリと笑うと彼女は合計額ぴったりの小銭を出し商品の入った袋を持ってレジを後にする。

 

 

「外で待ってますから」

 

 

声からも愉快そうな音が伺われて余程俺が間抜けに見えたのだろうと肩を落とす。

それでも待っていると言っていたのだから呆れはしなかったのだろう。

いや、そもそも遊びませんかって何だ。

逆ナン?逆ナンなのか?

特にイケメンでもなく取り柄もない私立の文系大学生の俺に声をかけるメリットなんてなくないか?

考えられる可能性は……美人局。

そう、何かかんや女性と親密になった頃に男がやって来て「俺の女に何してんだゴラァ!」と謝罪と金銭の要求をして来るあれである。

え、怖。怖過ぎる。

そもそも日々の生活費を自分で稼いでいるような生活だ。

要求される大金を払えるはずもない。

しかしきっと彼女は店の前で俺を待ち構ていることだろう。逃げられない。

頭を抱えている間に飲料補充をしているのとは別の、新たな店員がやって来て俺に死刑宣告を下す。

 

 

「お疲れ様です。代わるんであがって大丈夫ですよ」

 

「……おつかっしたー」

 

 

……大丈夫、巻き込まれる前に断ればいいのだ。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

更衣室で着替えを済ませ外に出ると、案の定彼女は店の真ん前で俺のことを待っていた。

気づかぬ振りをして帰ることはできない距離だ。

観念してそのまま彼女へと近づく。

 

 

「あの、」

 

「お疲れ様です。それじゃあ行きましょうか」

 

「……その前に1つ訊いてもいいですか」

 

「何でしょう」

 

「遊ぶのはいいんですけど、その後怖い男の人とかがやって来て俺のこと脅したり強請ったりはしませんよね……?」

 

「……何を心配しているんですか?」

 

「いや、だって俺こういうの初めてで……」

 

 

普通に生きてる普通の人々は知らない人間から道を訊くなど以外で声をかけられる経験などない方が多いだろう。

少し考え込んだ彼女は何かに納得したのか真っすぐに俺を見詰める。

 

 

「誓って、あなたに害は加えませんので」

 

 

その瞳は到底嘘を吐いているようには見えない。

信じても、良さそうだ。

そう決めると同時に帰ってやろうと思っていたレポートの時間が減ることが確定したわけだが来週までにまた時間を作ればいい。

こんな可愛い子と遊ぶ機会、もうないかもしれないし。

 

 

「……俺の方こそすみません。考えすぎですよね。それじゃあ、何処行きます?」

 

「そうですね。時間も丁度いいですし、まずは食事でもしましょうか」

 

「あっ、ちょっと待っててもらっていいですか」

 

 

彼女から了承の返事を受け取り店内へと飛び込む。

目指すはATM。

財布の中には三千円程しかないような気がしたが、その通りだった。

まずは、ということは食事を済ませた後も何処か行くのだろうし、三千円では心許ない。

どんな所に行くのかもわからないし多めに持っておいた方が安心だ。

そう考えて三万円を下ろし、彼女の元へと戻る。

 

 

「お待たせしました」

 

「いえ。西さん、ファミリーレストランでいいでしょうか」

 

「大丈夫です、けど……何で名前知ってるんです?」

 

「レシートに書いてあるでしょう?」

 

「あぁ、そういえば」

 

 

うちのコンビニのレシートには対応した店員の名前が印字される。

このご時世にフルネームが見知らぬ相手に知られるのは恐怖でしかないと思うのだが何かあった時の責任の所在を明らかにする意味でも必要と考えられたのだろう。

それが嫌ならとっくに別の所で働いているので、気にすることなく忘れていただけで驚きはしない。

 

 

「俺の名前ついでに、そっちの名前も教えてもらっていいですか?」

 

 

コンビニから10分程あるくとあるファミリーレストランへと向かいつつ、名を尋ねる。

2人でいる分には別に名前を呼ばなくとも誰に話しかけているかなんてわかりきっているので必要ではないのだが自分の名前だけ知られているというのも何だか居心地が悪い。

名乗るのが遅くなって失礼しました、なんて礼儀正しい言葉の前置きがあって。

 

 

「コオリカワ サヤ、です。コオリカワでは長いでしょうから、名前でどうぞ」

 

 

そう言う彼女の顔は何処となく冷たい気がしたが、きっと気の所為だろう。

今日会ったばかりでそんな表情の差異を感じ取れる程俺は器用ではない。

 

 

「さや、さん?」

 

「呼び捨てで構いません」

 

「ん、わかりました」

 

 

って、俺は苗字にさん付けだったんだけどアンバランスじゃない?とツッコむ俺にふふっと笑うさやは、思わずキュン、という効果音が聞こえて来そうな程可愛らしかった。

 

 

 




幾つか書いていて全てあーあという感じですが供養で気にせず投げていきます。
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