すっかり見慣れたホテルの一室。
あれから3ヶ月程経ち、いちいち手配するのが面倒になり纏まった期間の予約を入れたのではないかと考えられるくらい一貫して同じ部屋に案内される。
まぁ気が向いたらと言ったものの週4、5で呼び出していたらそうもなるだろうか。
その為呼びつける際は連絡し落ちあってから来るのではなくこの部屋に集合、という形が出来つつある。
わざわざ外で待つよりも空調の利いた快適な部屋で待つ方が当然良い。
「クー、アイツ全然来るのやめそうにないんだけど。どうすんの?」
下だけ穿いてベッドでごろごろと転がる自分とは対照的に、髪を整え馴染みの黒服をきっちりと着こみ始める女に声をかける。
クー、というのは黒服の女のことだ。
連絡先を交換した時も名前は入っておらず、尋ねても頑なに答えようとしない為俺が勝手につけた。
黒服の「く」とクールの「クー」を微妙にかけてみた結果だ。
ネーミングセンスが壊滅的なのはわかっているが答えようとしない相手が悪い。
呼び名の元となっているクールさも、最中は何処へやらといった様子で可愛いものなのだが。
「突き放し方が足りないのでは。こうして取引に応じているのですから、果たすべきことは果たしてくださらないと困ります。明日はもっと、手酷くお願いします」
相変わらず弦巻が離れていかないことを俺の所為にして来るのは癪だが、何度肌を重ねても冷たく接して来る点は好感が持てる。
俺はクーを落としたいわけではないので変に情を持たれても困るのだ。
それに、乱されるとわかっているだろうに冷静を装って、それが崩れる所を見るのが結構楽しいのである。
僅かに声を漏らしながらも折れまい屈すまいと抗う様は面白い。
偶に悪態を吐かれることもあるがそれもご愛敬ということで。
「これ以上突き放すとなると、大事なこころ様が傷つくことになりそうだけどそれは良いわけ?」
「……仕方ありません。この先もあなたの傍にいることの方が悪影響でしょうから」
「本人を前に言ってくれるねぇ……」
自分でも事実だろうと思うので傷つきはしない。
弦巻に好意所か嫌悪寄りの感情を持っている俺といても、お互い良いことはないだろう。
俺としても何とか関わって来なくならないかと色々試してはみたのだ。
クーの言う通り満面の笑みも見せた。しかし失敗。
笑顔の度合いが刺さらなかったのかとあらゆる段階の笑顔を見せた。しかしやはり失敗。
口を引き結ぶことはなくなったが、どの日も金を渡して来た1番初めの日のように目を丸くして去って行くのだ。
これでもかとアルカイック・スマイルをキメた時でさえその反応をするものだから手の打ちようがない。
元々弦巻のぶっ飛んでいそうな考えなんて理解できないのだから仕方のないことではあるのだが。
散々試した結果、笑って満足させよう作戦は終わりとなり、最近は冷たくあしらって諦めさせよう作戦へと移行したのだが、これも効いてはおらず、今に至るのだ。
笑わなくて済むようになったのでクーが俺を楽しませる必要はないのだが、指示通り動く対価としてこの関係は続けている。
クーのお許しも出たことだし、明日はずたずたに傷つけるつもりでいさせてもらおう。
「……それでは、私はこれで」
「ん。また明日」
「……できれば、あまり呼ばないで頂きたいのですが」
下手なあなたに付き合わされる身にもなってください、と憎まれ口を叩くクーの背にひらひらと手を振って別れる。
もうしばらくしたら服を着て帰ることにして、それまでは弦巻が傷つきそうな言葉でも考えておく。
**
次の日は放課後に弦巻がやって来た。
意外なことに以前引っ張って行ったことで学習したのか、教室で金を渡して来ることはなくなったことだけが唯一褒めるべき点だろうか。
結局1度やらかしているので場所を変えても「あぁ、またカツアゲか」なんて視線をクラスメイトに送られるのだが一睨みすれば目を逸らす奴らに構う程暇ではない。
必死に笑顔を貼り付けている所や突き放す場面さえ見られなければ俺としては平和に過ごせるというものだ。
今日も今日とて手に封筒を持った弦巻がそれを渡して来たら押し返し罵倒を始めようと思っていたのだが、視線を彷徨わせるばかりでなかなか渡して来ない。
何を躊躇っているのかは知らないが、よくよく考えてこういったことは良くないのだという結論に達してくれたのならば此方としても万々歳なので時間が勿体ないとは思いつつも我慢強く待つことにする。
「智昭、あのねっ」
ようやく決心がついたのか話し出す弦巻に相槌は返さず次に話される言葉を待つと。
「智昭が笑ってくれると何だかすごくソワソワして、ドキドキして、変な感じなの。今までこんなことなくて、ずっとずっと治らなくて、お医者さんにも診てもらったら、それって恋って言うんですって」
「は……?」
「恋したら告白して付き合うものなんでしょう?だから、あたしと付き合って!」
何処に惚れる要素があったんだよ。
そう詰め寄りたくなるくらい、理解不能な発言だった。
すぐ体に走りがちなことに最近気づいたのですが、何かの為に自分を切り売りするのが好きなので他はただの書き癖みたいなものです。
そしてよくある話に移行。