「ちょっと休憩しましょうか!」
根を詰めているのではないのだが時間が過ぎるのは早いもので、練習を始めてから結構な時間が経っていた。
こころの提案にそれぞれが同意していったん休憩に入る。
あたしも黒服の人たちの手を借りて、ミッシェルの着ぐるみを脱いで皆の所に戻る。
汗を拭き水分を補給しているとはぐみがミッシェルは?と尋ねて来るが適当に誤魔化すのも慣れたものだ。
そのはぐみを、こころが何故かじーっと見ている。
練習中に何か気になることでもあったのだろうか。
はぐみも視線に気づいたのか首を傾げる。
「こころん、どしたの?はぐみの顔に何かついてる?」
「ううん、違うわ!ちょっと考えごとをしていたの!」
「可愛い子猫ちゃんの考えごと……儚い」
「バンドに関係あること?」
「えぇ!次のライブで、みんなでお揃いの髪のアレンジをしようと思ったのだけれど、はぐみは髪が短いからどうしましょう、って!」
「あー。はぐみ、ソフトボールやってるし、短い方が楽だから切っちゃうんだよね」
「短くてもはぐみはとっても可愛いよ」
「えへへ……ありがと薫くん!」
「髪のアレンジはできなくても、お揃いのヘアアクセサリーを付けるのはどうかな?」
「いいわね!そうしましょ!」
どんなものを付けるのかはまた別の日に作戦会議を開くことになり、その話題はお開きになる。
しかし、こころは今度は薫さんをじーっと見詰め出した。
他にもまだ考えていることがあるのだろうか。
「こころ、そんなに見詰められると私とて少し恥ずかしいよ」
「あら、ごめんなさい。薫はいつも王子様って呼ばれてるのにとっても綺麗な長い髪だから、短くしたらみんなもっとメロメロになっちゃうかしらって考えてたの」
こころの中では髪の話が続いていたらしい。
薫さんがショートヘアに、ボーイッシュな感じになったら今でこそ失神する人がいるというのに、死人が出始めるのではないか。
むしろそれを防止する為に髪を伸ばしている……?
それとも普通に、演劇でどんな役でも対応できるようにだろうか。
髪が長ければ女性の役を演じる時、よりわかりやすいだろうし、男性の役なら髪を纏めて上げてしまえば短く見える。
あたしの中で始まった推理を他所に薫さんはふふ、とこころに笑いかける。
「絶対似合うから短くしないのかって言ってくれる子猫ちゃんもいるけど、今の所切る予定はないんだ」
「そうなのね。どうして?」
「大した話ではないけれど、それでもいいかい?」
「えぇ、気になるわ!」
「去年まで、付き合っていた人がいてね」
「え!!!」
薫さんはこころに話していたというのに、思わず話に割り込む形で声を出してしまった。
いや、だって、薫さんに恋人って、何だか衝撃的だ。
そんな雰囲気全然感じなかったし。
花音さんも声こそ出さなかったものの、あたしと同じように驚愕の表情で固まっている。
はぐみは付き合っている人、というものにピンと来ないようで頭の上に疑問符が出ているようだ。
すみません、と謝って話の続きを促すと何事もなかったかのように薫さんは続きを話してくれる。
「そこそこ長い付き合いで大事には思っていたんだが……私が勝手に遠い存在のように感じて、別れを切り出してしまったんだ。相手は何を思っていたのかはわからないのだけど、了承されて、別れた。でも、自分から切り出したくせに、未だにその人のことが好きでね」
また薫さんが笑うが、先程こころにしたものとは別で悲しそうに見えた。
去年というとまた心の傷も癒えていないかもしれないのに、こんな話をさせてしまっていいのかと思うが、途中で止めるのもあからさまで薫さんには悪いだろう。
「自分からヨリを戻そうなんてとても言えないけれど、似合うと言われたロングヘアを続けることで、私はまだ好きなんだと伝わればいい、……なんて思ってね。自分勝手な意気地なしだろう?」
「そ、そんなことないよ!薫さん、素敵だと思う!」
「そうよ!でも、好きなら好きって言っちゃえばいいじゃない!」
「え?いや、今更それは……」
「こころんの言う通りだよー!はぐみよくわかんないけど、言いたいことがあるなら言った方がいいと思う!」
「そうだわ!今度のライブにその人を呼んで、薫の気持ち、わかってもらいましょうよ!」
「それナイスアイディア!」
「じゃあその為にももっと練習頑張らないと、だね」
「「「ハッピー!ラッキー!スマイル!イェーーイ!!」」」
「た、頼むから私の話を…………」
薫さんが助けを求めるように此方を見て来る。
いつもは薫さんが話を聞いていないようなポジションだというのに、面白いことに花音さんと入れ替わってしまっている。
人類皆仲良し!みたいなこころとはぐみはわかるが、花音さんが積極的なのは何故だろう。
もしかして、恋バナが好きだったりするのだろうか。
この面子では浮いた話などなさそうだったが、思わぬ展開にテンションが上がってしまった、という所か。
盛り上がる3人と置いてけぼりになっている当事者が可笑しくてつい笑ってしまうが、個人的には3人に賛成だ。
「あたしも良いと思いますよ。謝って、自分が思ってたこと言って、まだ好きだって伝えちゃいましょうよ」
「美咲まで……」
がっくりと肩を落とされるがそんな話をみんなを笑顔に、がモットーのあたしたちハロハピにするのが悪いのだ。
笑顔に、幸せになってもらわないとあたしたちの存在理由の危機になってしまう。
「ほら其処、盛り上がってないで練習再開しようよ。ミッシェルも呼んで来るからさ」
「そうね!次のライブも絶対に成功させないといけなくなったものね!」
「頑張ろうね!」
「よーし!やる気が出て来たぞー!」
「……はは、お手柔らかに頼むよ」
気が進まなそうながらも、当日、薫さんが呼んだというその人は。
ただの日常。