学校が終わり即座に家に帰ると早過ぎる時間帯ではあるが風呂と夕食を済ませていそいそと自室に戻る。
パソコンを起動する間にヘッドセットを装着し、オンラインゲームにログインしてから通話とチャットができるアプリで短いメッセージを送る。
『準備できたけど、そっちは?』
装備などの確認をしている間に『此方もできました』と返事が来たのでアプリの通話ボタンを押すと聞き慣れたコール音が始まる。
それも5、6コールで止まり躊躇いがちな可愛らしい声が耳に吹き込まれる。
『こ、こんばんは……』
「こんな早い時間から悪いな」
『いえ……わたしもゲーム、好きですから……』
通話相手である白金とは何やかんやあって知り合い、ゲームが好きだという点で意気投合した。
ゲームといっても俺は1人でやるようなテレビゲームか友人とわいわいやるボードゲームが好きで白金のようにオンラインゲームはやっていなかった。
嵌っているというNeo Fantasy Onlineに誘われはしたものの、どうせだったらどちらも0からの方が楽しそうではないかと提案したのが二月程前。
楽しめそうなゲームを2人で探して検討した結果、砂の月というオンラインゲームをすることにした。
タイトルの割に砂も月もストーリー上全く重要ではないそうだが美麗なグラフィックが売りのゲームで、キャラクターの顔や体型を自分好みに作れるらしい。
ちなみに、白金には言っていないが、俺はその美麗なグラフィックというものが苦手である。
二次元はリアルに寄らないで欲しいというか、だんだん酔って来てしまうというか。
まぁドット絵のゲームの方が安心してできることは確実だ。
そんなオンラインゲームは今時ないのでわざわざそれを伝えることもなくアカウントを作り、右も左もわからない状態からチュートリアルやらストーリーやらに従って何とか勝手もわかって来たのが最近だ。
今日はレアなアイテムを落とすというボスを召喚して倒してみよう、とこうして時間を合わせてゲームを始めた。
ゲーム内にチャット機能もあるから通話をせずとも意思疎通はできるのだが、そもそも俺がチャットを打つのが遅い上、戦闘中そんな悠長に文字を打てるとも思わないので白金には悪いが通話をしてもらっている。
『それではボスを召喚する場所に向かいますか……?』
「そうだなぁ。道具とか装備の準備もできてる?」
『勿論です。街に戻ったら装備の耐久値を回復させるのは鉄則、ですから……』
「じゃあ向かうか」
白金のキャラクターと俺のキャラクターがそれぞれ馬に乗って目的地へと走り出す。
目的地を設定しておけば自動で向かうシステムがあるので到着するまでは特に操作もしないで済む。
多少時間はかかるので馬に揺られるキャラクターを見ながらそういえば、と気づいたことを口にする。
「白金のキャラの服前と違うね」
『えぇ……新しいのが出たので、買ってみました』
「似合ってるな」
『西さんは、衣装買わないんですか?』
「良いのがあったら考えるけど、今の所まだこれでいいかなぁ」
画面に映る2人のキャラクターを見比べる。
1人は女の子で可愛らしいフリフリとした衣装を着ている。
白金の使う魔女のキャラクターで、誰もがイメージする通り、魔法を使って攻撃する。
一方俺は近接攻撃が得意な格闘キャラなのだが、売られている衣装を買っていない為、ゲーム内で手に入る鎧の衣装に頭の天辺からつま先まで覆われている。
友人に見せたら「格闘キャラじゃなくて剣士かと思ったわ」と言われる程度にはがちがちに鎧で固められていて身動きがとり難そうなのだがゲーム上支障はないのが有難い。
その内こういう衣装も出るみたいですよ、という白金のゲーム情報を聞いている内に目的地に到着し、馬から下りると戦闘態勢に入る。
白金のように慣れていない分レベルを上げようと結構な時間をレベル上げに費やしたお陰で使える技も随分増えた。
今回のボスは俺のステータスだとギリギリ死ぬか死なないからしいが、直撃しなければ大丈夫ですとも言われているので幾分かは気楽に構える。
『それでは、呼びますね』
「おう」
魔女が詠唱のモーションに入る。
不吉な黒い靄が立ち込め、それが晴れて現れたのは大きな鳥のモンスターだ。
宙に浮かび続けているが飛び上がらない限り攻撃は当たるので範囲攻撃と正面への引っ掻き攻撃にだけ気を付けて攻撃を繰り返す。
その、最中。
威力の高いかかと落としを食らわせた直後、空を飛んでいるというのか海を泳いでいるというのか、周りが曇った水色一色になり、その中心を俺のキャラクターが手足をばたばたさせている。
一見高い所から落ちる時の動きなのだが、周りに落ちるような所はなかった。
どういうことなのかわからずパニックになる。
「え、ちょ、どうなってんだ?!」
『西さん!そんな所で棒立ちしてると危ないです……!』
「え、白金には立ってるように見えてんの?こっちだと何かばたばたしああああああああ死んだ!!!」
やはりのんびり現状報告などさせてくれないらしい。
被ダメージを告げる画面の赤い明滅とがっつり減る体力ゲージ。
次の瞬間には黒い画面にあなたは死んでしまいました、という旨の無情なメッセージが映る。
モンスターに殺されるとデメリット尽くしなので死なないようにしたかったのだが、できなかった。
死んでいるのだからもういいやと先程起こったことを白金に説明する。
一通り聞き終わって白金が言い難そうに告げたのは。
『あの、西さんのキャラのかかと落としの技、バグがあって偶に地面に埋まるみたいなんです……』
「マジかよ……」
戦闘の前に知りたかった。いや、そもそも格闘キャラを使っていない白金すら認識している情報ならさっさと直して欲しい。
威力の低い技なら使わないという選択肢もあるが、威力もありコンボを繋げる重要な技でもあるので痛いにも程がある。
「今まで使ってても埋まったことなかったんだけど……」
『どういう状況で埋まってしまうのかは……他のプレイヤーさんもわからないようなので……』
「ここぞって時には使わない方が無難ってことか……はぁ」
『ええと……街で復活して戻って来ますか……?』
「馬はそっちに置き去りだろうし時間かかるからいいよ。白金倒しちゃって」
『いいんですか……?』
「俺の仇だからもうボコボコにしてやってくれ」
『ふふ……わかりました』
それから2分と経たず倒せましたとレアアイテムが落ちましたの報告をされ、俺はもうおめでとう以外に何も言えない。
今度挑むまでにはステータスを上げるか別のキャラを作るかしないといけないなと肩を落とし、慰めてくれる白金の声にしばらく浸ることにする。
オンもオフもコミュ障なのでオンラインゲームでも友人なんてできないわけです。