「えっと、その、そろそろ友人が来るので……失礼します……」
「そうなんだ。じゃあまたね、燐子ちゃん」
「また……?かはわかりませんが……」
駅近くのショッピングモール。その中のコーヒーチェーン店前で名残惜しくもフリルがたっぷりついた可愛らしい服を着た燐子ちゃんと別れる。
買い物メインで来るならば良いであろうこの場所も、ただ会って話す場としてはムードに欠けるが仕方がないのだ。
会おうと誘っても俺たちを引き合わせた湊が2人きりで会うのを認めていなかった為、「湊さんに怒られてしまうので……」といつも同じ理由ですげなく断られてしまっていた。
連絡できるだけ良いかと諦めてぽつぽつと始まった燐子ちゃんの湊プレゼンを見ていたが、(湊に興味は湧かないので単なる話題として)送られた内容について質問を繰り返す内に会った方が早くない?という結論に至り、再び会って話そうというお誘いをかけた。
その方が細かなニュアンスもわかるし、表情や声音から湊の良さも伝わりやすいよ、と体の良い言葉をつけて。
結果、場所はショッピングモール、燐子ちゃんの友達が来る前までの時間で、という約束を取り付けることができた。
楽しい時間はあっという間で一生懸命話す燐子ちゃんを眺めていたら終わってしまったように感じるが話を聞いていなかったわけではないので問題ないだろう。
肯定はされなかったがまた会ってくれればいいなと俺はショッピングモールを後にする。
用もないし何処にも寄らず家に帰るつもりだ。
その途中、携帯が震えて燐子ちゃんからだろうかなんて期待したが差出人はプレゼンされていた本人だ。
道の端で立ち止まり内容を確認する。
『燐子からプレゼンが終わったって来たけれど、私のことは好きになってくれたかしら?』
怒っていない様子からして、俺たちが会って話していたことは知らないようだ。
それも当然か。燐子ちゃんだってわざわざわ自分から争いの火種になることは言わないだろう。
『ねぇわー』
手早く打ち込み短い文を返す。
湊相手だともう数文字打つのも面倒だ。
勿論その返事で大人しく引き下がってくれるわけもなく。
『どうしてよ。ちゃんと読んでないの?』
『読んだ』
『嘘。読んだなら燐子がどんなこと言ったか説明しなさいよ』
説明しなければやっぱり読んでないんだろうと詰められるのだろう。
長文を打つ羽目になってしまったといったん携帯をしまい家に向けて再び歩き出す。
その間もぶるぶると震える携帯を帰宅してから見れば「ねぇ」だとか「ちょっと」という言葉を返さなくなった俺に対する催促だった。
外にいるとは思わなかったのだろうがこういったツールに即返事を求めるのは良くない風潮だと思う。
返信の早さが愛の深さ(はぁと)なんて言ってるおめでたい奴もいるだろうがいつでも相手の手が空いていると思ったら大間違いだ。
むしろいつまででも返事を待てるのが愛なのではないかと思うが、好意を捨てて欲しい湊にそれを求めるのはお門違いだろう。
帰宅し自室へ戻ってから携帯を手に取り、手が離せなかった旨を伝え、燐子ちゃんの話を思い返す。
『美人だって』
『そうね。あなたも可愛い子より美人の方が好きでしょう?』
『言ってないのに何で知ってんの』
『あなたのことなら何でもお見通しよ』
『こわ。ストーカーになったら迷いなく通報するからな』
『ならないわよ。彼女として堂々と隣にいるわ。他には?』
『意志とかビジョンがはっきりしてるって』
『もうあなたと幸せな家庭を築いてる所まで描けているもの』
『だからこえーよ』
『ちなみに子供は3人よ』
『訊いてねぇ』
このままでは訊いてもいないのに湊の幸せ家族計画を延々を聞かされることになりそうだったので返事を待たずに話を先に進めてしまおう。
『お前バンドやってるんだって?』
『えぇ。興味があるなら今度ライブをするからチケットを用意しておくわ』
『結構です。あと3Bとは付き合うなって言うしやっぱりお前とは付き合えないわ』
『それ彼女じゃなくて彼氏にしちゃいけない職業の話よね?』
『男女関係ないだろ。バーテンダーやってる女は客に滅茶苦茶口説かれそうだし、美容師やってる女はオシャレな感じの男に持っていかれそうだし、バンドやってる女も違うバンドの男かファンに持っていかれる。つまり恋人にしたくない』
『その職業の人を敵に回しそうな発言ね……』
『俺の個人的意見だよ。他の奴らに押し付けるつもりはないし好きにさせてくれ。というわけで無理』
『心配しなくても、言い寄られても私はあなた一筋よ』
『好かれた理由も知らないのにそんな自信満々でいられても逆に信じられない』
『思い出してくれないのは悲しいけれど、聞きたいなら話すわよ?』
『興味ないです』
『……言っておくけど、あなたが好きな燐子もバンドのメンバーなのだから、その理由で断るなら燐子も駄目よ』
「えぇー……」
思わず声が漏れた。
「湊さんはRoseliaというバンドのボーカルをしていて、」と聞いたが燐子ちゃん自身もメンバーだということは聞いていなかったのだ。
友達だから知っているのだろうくらいに思っていたのだが、ちゃんと関係性を確認しておくべきだった。
高校が別の2人が知り合いなのも其処が繋がりなのだろう。
知っていれば3Bがーなんて本当は思ってもいないことは言わなかったのに。
下手を打ってしまったと悔やむが言葉は取り消せない。
ふーん、そうなんだ、と興味のなさそうに流して触れないでおくことにする。
『他にも色々聞いたけど、やっぱり好きにはならなそうなんだけど』
『あなたに私の魅力が伝わるのは時間がかかるみたいね』
『現時点で1ミリも伝わって来てないもんな』
『結婚するっていう終着点は変わらないのだから、焦らず待つわ。だから早く気づいてね』
『一生気づかなくてよぼよぼのばあちゃんになっても知らねぇぞ』
『そうなりそうなら別の手を考えるからいいわ』
『何かもう本当お前怖いわぁ』
『愛が重いって言ってくれる?』
『愛も胸も重い子なら大歓迎なんだけどな』
『最低』
プレゼンの内容確認という湊の用は済んだだろうし、軽口はこの辺りにしておこう。
それ以上は何も返さずに携帯を枕元に放り、自分も続いてベッドへダイブした。
私服の燐子ちゃん可愛かったな、なんて思いながら。
ところがぎっちょんもう続きません。