バンドリSS   作:綾行

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翡翠のphenobarbital 3

 

 

「……じゃあ、ちょっと待ってて」

 

 

俺の家であるアパートの一室の前。

見られて不味いものは隠せとの言葉に従う為、さやには申し訳ないが外で待っていてもらい、ざっと部屋を片付けることにした。

来るまでの間にどんな状態であったかと自分の部屋の様子を浮かべたが細かい所まで覚えていない。

室内を確認してから取り掛かったのは脱ぎ散らかされた寝間着を拾って押し入れに放り、ぐちゃぐちゃの布団を見苦しくない程度に整え、自分の体臭なんて自分でわかるか!!と自分でも何に対してかわからないがキレながら消臭スプレーを部屋に撒きまくることだ。

さやに限らず女性に見られて不味いものはそもそも持っていないのだが、不潔さや怠惰が窺える状態は見せたくない。

さやはそういったことに厳しそうではあるし。

彼女の部屋はきっちりと整頓されているのだろうなと頭の片隅で思いながらどうにか部屋の状態に及第点を出しさやを迎え入れる。

ギターケースは部屋の中に置けるくらいのスペースはあるのだが此処で大丈夫ですと玄関の脇に置かれた。

お邪魔します、と招かれるままに部屋へと入るさやは興味があると言っていたのに何の感想も零さない。

まぁ、ミニキッチンがある、1人で暮らすなら問題ないと言える程度の広さのワンルームなんて感想を抱く程のものでもないか。

布団ではなくベッドを置いている所為で手狭に見えることも否めない。

とりあえず適当に座って、と彼女にクッションを渡し自分は冷蔵庫へ。

ペットボトルのお茶をグラス2つに注いでミニテーブルへと置けばお礼が返される。

ベッドを背に座ったさやの、ミニテーブルを挟んで反対側にどっこらしょと座ればふふ、とさやから小さく笑いが漏れて気づかぬ間にしていた緊張が解けた。

 

 

「ほら、別に俺の部屋なんて面白くもないでしょ」

 

「そんなことないですよ。人の部屋って新鮮です」

 

「友達の部屋とか行かない?」

 

「行きませんね。ランチを食べたりお茶をしたりが多いので」

 

「あー、なるほど。外出れば美味しいものいっぱいあるしね」

 

「次は此処に行こうその次は何処に行こう、と食べている間から話したりしますからね」

 

「楽しいことが尽きないのは良いことだね」

 

 

俺も食べることは好きなのでさやが今までに行った店の話を詳しく聞く。

話には可愛らしい、女の子が好みそうな店が多かったが、カレーの店なんかは俺にも気兼ねなく入れそうだった。

2種類のカレーが選べて食べきれない程のナンがついて、ラッシーが美味い店だそうだ。

店名と場所を聞き、忘れないよう近くにあったノートにそれを走り書いて今度行ってみるよと笑いかけるとさやも同じように笑い返してくれた。

それから僅かに残っていたお茶を飲み干すと、小さな声であの、と呼びかけられる。

話のキリも良く飲み物も丁度飲み終えたのでそろそろ出るのかと思えば手招きをされ、意図を理解しないままさやの隣へ移動する。

伸ばされた腕にん?と思うよりも早くその腕は俺の体に回され、耳元でさやから囁かれた言葉は。

 

 

「……そろそろ、シますか?」

 

「…………え?」

 

 

今日1日で何度目かわからない驚愕の音を漏らす俺に構わずさやは一旦体勢を戻しシャツワンピースのボタンを上から順々に開けようとする。

慌ててそれを止めるとムッとした顔で此方を見て来る。

 

 

「何ですか?」

 

「むしろこっちが訊きたいよ……何でいきなり脱ごうとしてるの……」

 

「若い男女が密室で2人きりですよ。やることは1つでは」

 

「いや無限とは言わないけど確実に1つではないよ……」

 

「こういうことも、害に入りますか」

 

 

害は加えない、という約束を指しているのだとすぐに察し、そうじゃないけど、と口ごもってしまう。

さやは実は天然で何処からか聞きかじった言葉を使ってしまっただけ、という流れを期待したがさや自身が自分が何をしようとしているのかわかっているならばそれはない。

堅そうという印象を多少持っていた為衝撃を受けつつ言葉を付け足す。

 

 

「……そういうのは、好きな人とやるもんでしょ。会ったばっかりの俺なんかとしちゃ駄目だよ」

 

「……そう、ですか」

 

 

そりゃあ勿論さやのことは可愛いと思っているし初めこそ疑ったがそもそもいいなと思っていなければ遊びの誘いにだって乗らないのだし据え膳食わぬは男の恥とも言うけれども、多分、俺自身が後悔してしまうから。

連絡先も知らない、今日だけの付き合いだとしても、きっと俺はさやのことを思い出して先程までの楽しかった時間も含めて後ろめたいものとしてしまう。

ごめん、と謝れば「此方こそ、すみません」とだけ返って来てその後はお互い無言になってしまう。

どちらにせよ楽しかった時間を台無しにしてしまっただろうか。

断った手前自分から声をかけるべきかとしばし悩んでようやく決心がつき口を開こうとしたが、それよりもさやが口を開く方が早かった。

 

 

「連絡先を、」

 

「ん?」

 

「嫌でなければ、連絡先を、交換しませんか」

 

「あ、うん」

 

 

携帯を取り出し手早くお互いの連絡先を交換する。

紗夜、と映し出される画面にいまいち現実味が感じられない。

昼食後も先刻も思っていたが、さやの時間潰しくらいで誘われた、今日限りの付き合いだと思っていたのに。

連絡をくれるのだろうか、という疑問は期待を押し付けるようで口にできない。

 

 

「……今日は、もう帰りますね」

 

「……駅まで送るよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

それから駅で別れるまでは終始無言で、別れ際でさえそれでは、と告げる彼女にあぁ、うん、なんて曖昧な返事しかできなかった。

これがさやと交わす最後の言葉になるのは嫌だと思いながらも何と言えばいいのかわからなかった。

此方も連絡先を知っているのだから気持ちが落ち着いた頃にでも声をかけてみればいいのだが、そうする勇気がないのはわかりきっている。

我ながらヘタレ野郎だよな、と小さくなるさやの後ろ姿を見詰めながら未来の自分を卑下する。

 

それから次の日もその次の日も、携帯が震え画面に紗夜と映し出されるのを待ったが来るのはアルバイト先の同僚や友人ばかりで。

待ちわびた2文字が表示されたのは出会った日から1週間程経った頃だった。

 

 




紗夜も千聖も、言ってしまえば書いているキャラ全員本物からかけ離れている自覚はありますが、自分が好きで頭の中にいる紗夜や千聖はこんな感じであんな感じです。
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