バンドリSS   作:綾行

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気にしない人なら読まなくても話に9割9分支障ありません。


翡翠のphenobarbital 4

 

 

届いたのは『お元気ですか』なんて他愛のない内容だった。

それでも十二分に嬉しくて、『元気だよ、さやは?』とすぐに言葉を返す。

待ち遠しかったのにいざやり取りをするとなると何を話題にすればいいかわからず焦りもしたが、連絡が来るまでの間にさやに教えてもらったカレーの店に行っていたので其処に行ったことと感想を伝えると、またさやが行ったカフェなどの話になり一安心だ。

日付が変わってもおやすみやおはようを言うわけでもなく、自分たちが都合のいい時に会話を続けるといった形に落ち着いて、しばらく経つ頃にはさやとの会話の履歴は膨大なものとなるくらいだった。

友人くらいにはなれたのだろうかと少しは自惚れたくなる。

友人と言いつつもさやからの連絡に顔が綻んでしまうので大学の友人には彼女でもできたのかと冷やかされるが、否定だけして詳しくは答えないでおいた。

話せばさやを見てみたいと必ず騒ぎ始めるだろうし、俺でさえあれ以来会っていないのに引き合わせてうっかり一目惚れでもされたら最悪だ。

友人としてはいい奴だが、彼女がいても好みの子がいれば構わず手を出そうとする悪癖があるのを知ってむざむざ紹介する馬鹿はいない。

しかも別段イケメンというわけでもないのに(人のことが言える立場でもない上に友人に失礼だが)妙に人の心を掴むのが上手く、とりわけ女の子を誑し込むのが得意と来れば多少憎らしくも思う妹さえも紹介したくなくなる。

知り合った日に迫って来たさやとコイツが会ってしまったら俺の知らない所で……なんて勝手に広がり始める嫌な想像を頭を振って払いのければ何してんのと変な目で見られるが、今構うべきは其処ではない。

紹介はしないが、友人も経験も少ない俺が頼れるのは経験豊富なコイツだけなのだ。

 

 

「……相談があるんだけど」

 

「何」

 

「女の子と会いたい時ってどうすればいい……」

 

「出会い系?お前も意外とやるねぇ」

 

「ちげーよ……その、……バイト先で知り合った子」

 

「改めて会うきっかけがないとか?」

 

「そう」

 

「んなもん普通にそのまま言えよ」

 

「会いたいとか言って気持ち悪くないか?引かれないか?返信来なかったら凹む所じゃ済まないからな……!」

 

「相手が好意持ってなければ何しても気持ち悪いから安心しろ。当たって砕けろ」

 

「確かに……」

 

 

妙に納得してしまって携帯の画面と睨めっこを始める。

砕けるつもりでいくとしても会いたいと直接的に言うのは憚られるので何と言おうか。

ご飯に誘おうにもいつも聞いている通りさやは友人と結構色々な所に行っているようだし誘い難い。お茶をしよう、も同じだ。

あーあー言いながら悩んで決めた苦肉の策は友人に鼻で笑われたが。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

「お待たせしてしまってすみません」

 

 

とある日曜日。

改札口を出てすぐの隅っこで携帯を弄っていると待ち人が来たようだ。

顔を上げれさやが申し訳なさそうな顔をして此方に近づいて来る所だった。

さっき来た所だから大丈夫と答えつつ変わらぬさやの可愛さをしみじみ噛み締める。

今日はスカートではなくパンツスタイルの動きやすそうな服だ。

ただ。

 

 

「……それも持って行くの?」

 

 

さやの背中にはこれも変わらずギターケースが背負われている。

困惑する俺に違いますと一言否定を入れてさやは目線を彷徨わせる。

 

 

「駅のロッカーに置いていこうと思ったのですが、お待たせしてる以上先に声をかけるべきかと思いまして」

 

「そっか。……ロッカー、あっちみたいだね。行こうか」

 

 

ロッカー内にギターケースを置き、締めた鍵を失くさないよう鞄に入れるまで見届けてから改めて行こうかと目的地に並んで歩き出す。

今日行くのは遊園地だ。

大きな遊園地ではなく近くの遊園地にしたのだが、日曜とあって駅からぞろぞろ同じ方向に向かう人の多さに混むんだろうなぁと苦笑が漏れる。

混まないだろうと思って決めたわけではないが、友人の不安が的中しそうで恐ろしい。

 

 

『遊園地なんて付き合う前とか付き合いたてのカップルが行っちゃいけない所だろ。ほぼ屋外で室内より疲れやすいし待ち時間の長さで話題もなくなって「何か面白いこと話して」なんて言われたらもう終わりだよ』

 

 

せめて送った後で言わないで欲しかったなーーーと恨めしく思っても友人は何処吹く風であった。

じゃあお前なら何処に誘うんだよと訊けばホテルと即答され睨みつけただけの自分を褒めてやりたかったくらいだ。

 

開園からは多少時間が経っていたので入場券の購入も入場も滞りなく済み、何処から回ろうかとパンフレットを広げる。

 

 

「ジェットコースターはお昼の後はきつそうですし、先に乗りますか?」

 

「そうだね。そうしよう」

 

 

空中を高速で駆け抜けるジェットコースターは子供も大人も大好きなアトラクションなわけで順番を待つ列も長いものであったが、どう回るかの続きを話している内に番が来て1番前の座席に乗り込む。

 

 

「1番後ろが良かったなぁ」

 

「午後また並びましょう。その時もまた1番前かもしれませんが」

 

「1番前も景色楽しめるから良いけどね」

 

 

天気も良くジェットコースターが上っていく最中の景色に気分が良くなる。

1つ誤算だったのは、その気分の良さすら吹き飛ばす程ジェットコースターが速かったことだろうか。

子供も乗るし大きな遊園地ではないので正直舐めていた。

 

 

「大丈夫ですか……?」

 

「あー……うん。吃驚はしたけど」

 

「意外と速かったですよね。楽しかったです」

 

「垂直に落ちるタイプのアトラクションだったら死んでたよ……」

 

「隣で死なないでくださいよ……」

 

「……さやの隣なら本望かなぁ」

 

「私にも周りにも迷惑です」

 

「だよなぁ」

 

「……ふふっ。だから、死なないでくださいね」

 

 

冗談を交えつつ感想を話しながら移動して、休憩がてらゴーカートに乗り、最初に乗ったものとは別の、此方は程々の速さで走っている最中の景色を楽しむ余裕のあるジェットコースターに乗り、昼に始まるパレードを見る。

動物の着ぐるみは暑くて大変そうだと同情してしまうが、手を振られ喜ぶちびっ子たちは微笑ましい。

涼しそうなのは腕や足が露出しているダンサーの女性方だろうか。

動きやすそうだが華やかさもあるカラフルな衣装で目を引かれる。

 

 

「……ああいう女性が好みですか?」

 

 

運動全般が苦手な俺はよくあんなに動けるものだと感心して見入ってしまっていたのだが、さやは誤解したらしい。

かといって妬いてむくれてくれているわけでもなく、純粋な疑問といった風で脈のなさにがっくりと肩を落としそうになる。

 

 

「俺は髪が長めで下ろしてる人が好きかな。踊るから纏めてるのかもしれないけど」

 

「では下ろせば好みだと」

 

「そういうわけでも……」

 

 

好みというかさやのことが、とは言えない。

一応質問には答えたからか興味を失ったのか、此方を見たさやはふい、とパレードへと視線を戻した。

こういう時は絶対押す時じゃないよな?と頭の中の友人に話しかけつつ俺も同様にパレードを見る。

その後は遊園地内のファストフード店でハンバーガーと飲み物を買い、ベンチに座って昼食にした。

アトラクションに乗っている時以外立ちっぱなしなので地味に脚がつらい。

アルバイト中は商品補充でしゃがんだりもするから脚は痛くならないのだろう。

小さな口でハンバーガーを頬張る彼女は平気だろうかと心配になる。

 

 

「さや、疲れてない?大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫です。西さんは……疲れてそうですね」

 

「あはは……学校とバイトくらいしか外出ないからね……」

 

「……少しは運動もしないと駄目ですよ」

 

「仰る通りで……痛感してます」

 

「……今度は、のんびり散歩でもしましょうか」

 

「あ……うん。そうだね」

 

 

自然な流れで今度の約束が結ばれてしまった。

いや、完全にさやのお陰なのだけれども。

単に運動不足の俺に呆れて仕方なく付き合ってくれるのだろうが、今日が終わってもまた近く会えるのだと思うと喜びがこみ上げて来る。

昼食を終え、食休みを少し取った頃にはすっかり痛みの引いた脚でまたアトラクションを巡っていく。

巨大迷路で何度も行き止まりに阻まれながらもやっと脱出し。

午後また乗ろうと決めたジェットコースターは後ろから2番目の座席に乗ることができ、午前中よりも上がった速さを風で感じ。

メリーゴーランド……はさやも俺も乗るのは恥ずかしく、コーヒーカップに乗った。

子供が乗るカップくらいの、くるり、くるり、とのんびりしたものを想像していたのだが、さやは全力で回したいタイプだったらしく、遠心力でカップから放り出されるのではないかと思う程だった。

回している本人は至って楽しそうにはしゃいでいるものだからやめてくれとも言えず、終わる頃にはジェットコースター以上にぐったりしてしまった。

申し訳なさそうにしながらもやめてくれそうには全くなかったことが可笑しくてつい笑ってしまうとさやも笑顔を零す。

それが心底嬉しい。

待ち時間は会話が絶えず続いてはいないが、話さなくても居心地が悪くない人は多くない。

友人の心配は杞憂で終わったようだ。

 

 

「……って、本当に入るの……?」

 

「怖いですか?」

 

「いや?さやは怖くないのかなぁって」

 

「平気な方ですが、例え怖くても怖さを味わう為にあるのでは」

 

「あぁ、うん、そうなんだけど」

 

 

「2名様ご案内でーす!」と雰囲気にそぐわないスタッフのお姉さんの明るい声で送り出される。

建物内は暗くて、おどろおどろしくて、ひゅ~どろどろどろ……なんて典型的な音楽が流れていて。

出ますよ、出ますよ!と教えてくれているのに。

 

 

「お化け屋敷なんて入るの久うわぁぁああああっ」

 

 

突然物陰から飛び出して来た死に装束を着た幽霊、役のスタッフさんに驚いて叫んでしまう。

そしてその叫び声に驚いてさやがビクッ、と体を強張らせる連鎖反応。

……恥ずかしい。

 

 

「……本当は怖かったんですか」

 

「違うんだよ……吃驚するんだよ……バーンって来るのが駄目なんだよ…………」

 

「同じでは……」

 

「まぁ……ホラー映画も吃驚するから苦手だしね」

 

 

俺の反応に大変満足そうな幽霊役さんが笑顔で手を振って見送ってくれる。

嬉しいけど設定とか良いんですかとツッコみたいのは山々だが次はいつ飛び出されるかとドキドキしてそれ所ではない。

そんな様子の俺にさやは溜め息を1つ吐いて手を差し出してくれる。

 

 

「吃驚して走り出されてはぐれたら困りますから、繋いでください」

 

「さやが俺の服掴んでおくとかでも良いと思うけどいいの?」

 

「……嫌なら結構です」

 

「そんなわけないよ!むしろお願いします!」

 

 

自分の手をトップスにこすり付けて手汗を拭いてからさやの手に重ねる。

指の細さや少しひんやりとした温度が伝わって来て、違う意味でドキドキしてしまう。

それでも飛び出す恐怖には勝てず、走り出しはしないが叫びまくった俺はようやくお化け屋敷を出て生き返った心地になる。

 

 

「……五月蠅くてごめん」

 

「いえ。全力で楽しんでいる人みたいで良かったのでは?」

 

「楽しいとは思えなかったよ……。あ、そういえば聞けてなかったけど、今日は何時くらいまで大丈夫そう?」

 

「……早めに帰らないといけないので、あと少ししたら失礼しようかと」

 

「じゃああと1つくらいかな。何か希望は?」

 

「観覧車、ですかね」

 

 

定番でしょう?と微笑む彼女に此方も笑みを返して観覧車へと向かう。

ゆっくり回りはするが列はさくさく進んで行き10分程でゴンドラに乗り込む。

地上がゆっくり、ゆっくり遠のいて、どんどん空へと近づいていく。

 

 

「……2人きりですね」

 

「ん゛っ?!そ、そうだね?」

 

「……そんなに警戒しなくても何もしませんよ」

 

 

警戒したのではなく突然のことに声が裏返っただけです。

そう言う前にさやは窓の外に目をやり、もうみんなあんなに小さいですよと話を変えられる。

 

 

「暗くなればアトラクションの照明でキラキラ光って綺麗なんでしょうね」

 

「早めに帰るっていうのは、門限とか?」

 

「みたいなものです」

 

「そっかぁ。親御さん心配するだろうからね」

 

「心配……される方は迷惑にしか思えないですけどね」

 

「……さや?」

 

「……すみません。何でもないです。折角誘って頂いたのに早く帰らなければいけないのが申し訳なくて」

 

「気にしないで。此処じゃなくてもまた来ればいいんだし」

 

「……そうですね」

 

 

あっという間に観覧車は1周し、ゴンドラから下りる。

そのまま入場口を出て、駅に向かって。

ロッカーに預け入れたギターケースも忘れずに回収して、さやが乗る電車のホームに。

 

 

「今日はありがとうございました」

 

「此方こそ。楽しかったよ」

 

「今度は散歩をするとして……次は西さんから連絡してください」

 

「わかった。気を付けて帰ってね」

 

「えぇ。西さんも。それではまた」

 

 

到着した電車はさやを乗せて扉を閉める。

見えなくなるまで控え目に手を振ってくれたさやに手を振り返してはぁぁ、と深く息を吐く。

楽しい時間を過ごすとその後の時間がしばらくの間空しく感じてしまうのはいつものことだがどうにも慣れない。

今すぐ連絡をしたくなってしまうがそれはあまりにも風情がない。

さやは俺と違って悶々と連絡を待ちはしないだろうから、適度に日を空けてから連絡を送らねばならない。

 

 

「とりあえず、帰ったら散歩しやすそうな所調べよ……」

 

 

隣にさやがいないだけで少し重く感じる体で自分が乗る電車のホームへと向かった。

 

 




デートって何すればいいんでしょうね。

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