バンドリSS   作:綾行

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私の周りには優しい人だけ在ればいい

 

 

3年生に進級した。

私は卒業した日菜先輩に代わって生徒会長を務めることになった。

会長と呼ばれることにはまだ慣れない。

Afterglowの活動は順調そのもの。

ただ、進級時のクラス替えで、残念なことに私だけみんなとクラスが分かれてしまった。

壁1枚隔ててるだけだから、とみんなは慰めてくれたが、それでも一緒が良かったなぁ、なんて思ってしまう。

 

こんな時は特に。

 

 

「ねぇ、今こっち見なかった?」

 

「えぇー?マジ?」

 

「『ツグってる』所でも誰かに見てて欲しかったんじゃないの~?」

 

「あー。頑張ってるアピールね。うざいよねー」

 

 

クスクスクス、と漏れる笑い声。

声の方向はわかるのに誰が言っているのかはわからなくて、周りを見回しても結果は変わらないままだ。

こんな時、みんながいてくれたら。

でも、初めから人を頼ってしまうのは良くない。

心配も確実にさせてしまう。

生徒会長にもなったのだ。明るく、楽しく、他の生徒の見本になるよう過ごしていかないといけない。

自分の力で何とかできるはずだ。

例え日菜先輩のように上手くはできなくても。

初めはできなくても、次第にできるようになることだってたくさんある。

だから、人前で話すことに慣れていなくて、言葉に少し詰まってしまうことも、その内なくなるはず。

 

 

「『あ、あのっ、生徒か、生徒会長のっ!』」

 

「あっはは!似てるー!」

 

「生徒会長って強調したい感じー?」

 

「健気で頑張り屋さんな生徒会長サマ、だもんねぇ」

 

 

全校集会等で話した後や授業での発言の後は、大体何かを言われる。

私の発言を取り上げて、揶揄って。

他のクラスメイトが何か言うことはない。

庇えば次は自分が何か言われると思ってだろう。

もしくは、同じことを思っているか。

だんだんと、声の方向もわからなくなって来た。

特定の人だけでなく、あちらこちらでクラスメイトがそれを言うからだろうか。

声の主を探すこともクラス替えをしたばかりの頃のように誰かに話しかけてみることももう、しない。

きっと私に良い感情を持っていない人ばかりだ。

クラスの外に出れば去年までの、笑って過ごせる環境がある。

だから、こんな狭い箱の中のことは気になんて。

 

 

「羽沢、大丈夫か」

 

 

余程酷い顔をしていたのか、声をかけてくれたのは、生徒会を受け持つ先生だった。

みんなにも体調でも悪いのか、どうかしたのかと訊かれはしたが、言えるはずがなくて。

先生になら、大人になら、何とかしてもらえるかもしれないと、重い口から今までのことを話した。

冷静に、淡々と話すようにしているつもりなのに涙がぽろぽろと零れて、先生がハンカチを差し出してくれたけれど、受け取ることもせず話をする。

受け取らなかったハンカチを仕舞い、話を聞き終わって、先生は可哀想に、と私の頭を撫でてくれた。

 

 

「クラスの皆に、優しくしてもらえなかったんだな」

 

 

はい。そうなんです。

私は特に、誰かの気分を害するようなことはしてないと思うんです。

でも、初めからみんなが冷たくて。悪口を言われて。悲しくて。

 

 

「……先生が、優しくしてもらえる方法、教えてやろうか?」

 

 

頷いた私に、先生はクラスの皆には効かないだろうけど、と前置きをしてそれを教えてくれた。

ドアに鍵をかけ、電気を消して、カーテンを閉めた生徒会室で。

確かにその間、先生はとても優しくしてくれた。

苦しくてもそれはクラスにいる時程ではない。

痛くても我慢すれば「偉いぞ」「頑張ったな」と褒めてくれる。

体の痛みはすぐにじんわり滲んで消えてしまう。思い出しても痛みはしない。

心の痛みとは、違うのだ。

 

 

「可愛いよ」

 

 

頭を撫でてくれた手で違う場所を撫でて。

 

 

「羽沢、好きだ」

 

 

好きだ、愛してる、愛してる、とうわ言のように繰り返して私を肯定してくれる。

嫌われていないのだと、こんな私でも好きでいてくれるのだと、止まっていた涙がまた零れる。

特別授業が終わった後は、少しだけ先生は素っ気ないように思えたが、それは『優しくしてもらえる方法』をしていないからだろう。

クラスのみんなには効かない理由がわかり、あの状態が続くのかと思ってしまったが、もう、気にしないことにしよう。

私が嫌いなら嫌いで、それでいい。

私は他の人にその分優しくしてもらうことにするから。

 

 

他の人たちは先生のように痛みや苦しさを我慢しても褒めてはくれなかったけど、私が相手のことを考えて頑張れば喜んで優しくしてくれた。

これが誠意が伝わる、というのだろうか。

何だか最近、生徒会のみんなや別のクラスの子たちも事務的な会話しかしてくれなかったり遠巻きに見て来たりするが、それも気にならない。

 

 

「何かアイツ最近クソビッチらしいじゃん」

 

「何々?男漁りにツグり始めた?」

 

「きっも」

 

「どんだけ飢えてんだよ」

 

「絶対病気もらってるってぇ」

 

「妊娠して学校やめたらウケるわー」

 

 

聞こえるように発せられる声は相変わらず煩わしいけれど、何とでも言えばいい。

私がどれだけ愛されてるか知らないのだ。

求められることがどんなに幸せか知らないのだ。

なんて可哀想な人たちなんだろう。

思わずクスクス笑えばピタリと喧しい声が止まって、より気分がいい。

清々しい気分でクラスを出て、軽い足取りで廊下を歩く。

あんな人たちに構ってないで、私は今日も生徒会室に行くのだ。

私に優しい人に会いに。

 




夕焼けの後には夜が来るのつぐみと似るので其方のつぐみは没になりました。
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