好きだった、付き合っていた奴に振られた。
長いこと俺からの一方通行で、ようやく付き合えたと思ったら数ヶ月でこれだ。
毎日浮かれる程恋に重きを置いていたわけではなかったというのに、振られた途端に何もかもやる気が起きなくて、馬鹿らしくて仕方ない。
そもそも、理由がわからないのだ。
唐突に別れるとだけメッセージが来て、何を送っても無反応。
そっちがその態度ならと頭に来てあちらからのメッセージが来ないよう設定しても何の腹いせにもなりはしない。
ただただ喪失感が大きくて、1日中ぼけっとしてしまう。
今頃何をしてるだろうかと考えることもあるというのに、テレビにアイツの姿が映ると腹立たしさと悲しみがない交ぜになったような複雑な感情が毎回溢れ出てリモコンを投げつけたくもなる。
堪えた結果チャンネルを回すだけに留めるのだが、その度に見ていたのに、と母親に文句を垂れられる。
理由を言うつもりもなく、全く心がこもっていない謝罪を口にするが、いつも母が一言以上文句を言わないのは何か気づいているからかもしれない、なんて深読みをして気を紛れさせようとしてみるが効果はない。
時間が解決してくれる、なんてありきたりな言葉だが、そうしてくれるのなら大歓迎で、それまでは耐えるしかないのだ。
もしかしたら死ぬまで解決されないかもしれないな、なんて薄く笑って思えるようになった頃、アイツは俺の前に現れたのだが。
「久しぶりね」
いつも一緒に下校していた道。
来るなんて思うはずがなく、同じ道を通っていたのが悪かった。
会いたかった、会いたくなかった、テレビと違って消すことのできない、実物の白鷺千聖が其処にいた。
「……何の用だよ」
「元気にしてるか気になって。顔を見に来た、でいいのかしら?」
「なんだ、俺を捨てて走った男にヤり捨てられて泣きつきに来たのかと思った」
「あなたを振りはしたけど、他の男に走った覚えはないわ」
「だったら何でいきなり別れたんだよ。返事もしねぇし」
「あなたと少し距離を置きたかったの。色々考えたくて。だから返事もしばらくしたくなかっただけなのに、あなたメッセージ送れないようにするんだもの。直接会いに来るしかないでしょう?」
「だったら別れないでそう言えば良かっただろ。何でいきなり別れることになるんだよ」
「何時まで、なんて具体的に期間は言えなかったし、忘れてしまうのかどうでも良くなるのかあなた自分が暇だと連絡して来ちゃうでしょう?いつだってあなたは自分を通すし、私も自分の好きにさせてもらっただけよ」
それこそ、俺にだって覚えがない。
学業に女優にアイドルにと忙しいだろうと思って連絡は控えるようにしていたし、向こうから連絡がくれば必ず何かしら返していた。
デートに大っぴらに行けないことに不満を持ったこともない。
いつ俺が自分を通したというのか。
俺は俺なりに、千聖をいつも大事に思っていたのに。
「……わかってなさそうね。自覚してて欲しかったのだけれど」
「もったいぶらないで言えばいいだろ」
「こういうのって、自分で気が付かないと意味がないと思わない?他人が言っても、そんなことないとか否定してお終いになるから」
「あっそ。言いたいことも言わねぇならもう帰れば?顔見るって用は済んだだろ」
「冷たいわね。自分のものじゃなくなったらお払い箱かしら?」
「俺のこと好きでもない女に優しくする程優しかねーんだよ」
「あら。好きよ?あなたのこと」
「は?」
「好きだから会いに来たんじゃない。変な人」
「ふざけんなよ。振っといて何が好きだよ」
「好きだから振ったの。……これ以上は野暮よね。別れたんだもの」
本当に、意味がわからない。
好きなら付き合っておけば良かっただろう。
まだ好きなんて吐くくせに、だからヨリを戻そうと言って来るわけでもなく、別れた事実だけを突きつけて来る。
「言われた通り、今日はもう帰るわ。メッセージ、届くようにしたら連絡頂戴ね」
「……誰がするか」
「そう。じゃあまた会いに来るしかないわね」
目の前にいるのは俺が好きだった白鷺千聖と何も変わりはしないのに、何故俺はこんなに変わってしまったのだろうか。
怒りも好意も憎しみも虚しさも混じった感情を抱いてコイツを見るのは、酷く疲れる。
「悩んだけど、会いに来て良かったわ」
にっこりと笑う千聖は一点の曇りもなく、心の底からそう思っているようで。
「私のこと好きになってくれないなら、せめて忘れられないくらい憎んでもらわないとね」
久しぶりに書いたらいつも以上に雰囲気でした。