『読めない幼馴染』の続きです。
未だに多少堪えるものがあるまま2、3日をぼーっと過ごす。
ずるいだとか自覚しろだとか、言われたことを延々と反芻して、考えて。
しかしどうすればいいのかが見つからない。
俺が関わらないことならそんなものだと割り切れることも、自分から壊すのならば話は変わる。
そうしなければ俺ではない誰かが痛みを負うのだということを突き付けられて、そろそろ逃げられないのかと考えてしまう自分にも嫌気が差す。
こんな悩みは学校の友人にでも話そうものなら散々に冷やかされ、俺なら誰々にするだの好きって言ってくれる子全員と付き合えだの好き勝手言われることだろう。
それは望む所ではないし、あの幼馴染たちを全く知らない友人たちでは何の有用なアドバイスをもらえそうにもない。
付き合いが長く、俺や幼馴染たちのことを知っており、相談に乗ってくれそうな人物。
そんなのは、幼馴染の内の1人しかいないのであった。
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「邪魔するぞーっと」
「な゛っ……智昭、何で此処にいるんだ?」
おばさんに挨拶をして通されるままに巴の部屋に入る。
自分は勝手に幼馴染たちを通されて内心母さんに文句を垂れ流しまくっているわけだが、下心はないし巴も気にはしないだろう。
久々に来た巴の部屋は昔と比べ家具や物が増えていたが赤色のカーテンやベッドは変わっておらず、知らない、女の子の部屋を見てしまったかのような後ろめたさは感じない。
その赤いベッドに妹であるあこと腰掛けていた巴はぎょっとした顔で此方を見ているわけだが。
姉とは反対に、あこは俺を見てあーっ!と声を上げ嬉しそうに駆け寄って来る。
「ともあき君久しぶり!元気だったー?」
「おう。あこも元気そうだな」
「うん!今日は遊びに来たの?あことゲームする?」
「あー、悪ぃけど巴に話があるんだよ。ゲームはまた今度な」
「そっかぁ。あこ、お話しのジャマ?」
「できれば、巴と2人がいいんだ」
「……あこ、話の続きは後ででもいいか?」
あことの会話で用件もわかり、ようやく我に返った巴があこに尋ねるとあこは少しも嫌な顔をせず頷く。
「じゃ、あこはおやつでも食べて来ようかな!」
いつまでも扉の前で通行の邪魔になっている俺を先に部屋に入れると入れ替わりにあこは扉の外に出る。
そのまま閉めるのかと思えば顔が見える程度だけ扉を開けたままばちこーん、と俺にウインクを寄越して。
「ともあき君、お姉ちゃんに変なことしちゃダメだからね!」
そう言い残して扉は閉められた。
言われなくてもしないぞ、とはあこがいなくなってしまった今言っても仕方がないので用のある巴に向き直ると、巴は何とも言えない顔をしたまま床に置かれたクッションを薦めて自分もその隣のクッションに座り直す。
唐突なあこの悪い冗談に気分を害したのだろうか。
姉妹仲のよい巴があり得ない冗談くらいで腹を立てるとは思えないが、訊くことでもないだろう。
薦められたクッションに座り、あのさ、と歯切れ悪く話を切り出す。
「……俺ってどうすればいいんだ?」
「……いくら付き合い長くても流石にそれじゃ話が見えないよ」
「だよなぁ」
ひまりはいつも包み隠さずぶち当たって来るので知っているだろうが、事細かにではなく大まかに、説明する。
ひまりのこと、蘭のこと、モカのことを、抽象的に、何となく。
巴はその具体性のなさを指摘することもなく黙って話を聞いてくれ、説明が終わると少しだけ笑った。
「何だよ、智昭が3人の内誰かと付き合えば解決って、わけじゃないんだな」
「違うんだなー」
「他に好きな子でもいるのか?」
「いたらそう断ってるよ」
「そうか……。余談だけど、好きなダイプとかは?」
「えぇ……?今それ言うのか?」
「いいだろ別にー。今までこういう話聞いたことなかったしさ」
「あー……髪が長くて、美人で、胸が大きくて、俺のこと好きでいてくれる子」
「……髪伸ばしたらひまりが1番近いような」
「違うんだよ……ひまりは幼馴染なんだよ……」
「わかったわかった。それで、智昭はどうなりたいんだよ」
「……昔みたいな感じに戻りたい」
無理だというのはわかっているし、男女間で友情は成立しないと言う奴は俺の場合において正しいと肯定せざるを得ない。
俺が友情だと思って大事にして来た彼女らが抱いていたのは恋愛感情だったのだから。
それを好きだの付き合うだのの世界を全く知らない、小学生頃の関係に戻りたいだなんて寝言にしても酷いものだ。
巴はそんな言葉も馬鹿にしないで聞いてくれると、どちらの側も知っているからこそ何か、妥協点でも見つけてくれるかもしれないと、こうして言いたくない本音を吐き出している。
そっか、と呟いた巴は、笑みが消え困ったように眉尻を下げていて。
「……ごめん。アタシにはどうもしてあげられない」
「そう、だよな。いやー、悪い悪い、困るよな、こんな話」
「……ごめん」
「巴が謝ることなんてないだろ?あこと話してたのに時間取ってもらって悪かったな」
そろそろ帰るわ、と立ち上がった所で名を呼ばれ、踏み出しかけた足を止める。
此方を向く巴の瞳はその視線の先を漂わせて、巴の部屋だというのに居心地の悪さでも感じているかのようだ。
このまま進み出して、部屋を後にしてしまいたいと頭の片隅に浮かんだが、自分の話を聞いてもらったくせに人の話は聞かないのかとその思考を切り捨てる。
「もし。もし、さ。智昭が誰かを選ぶなら」
その先は、浮かんだ思考通り聞きたいものではなかったのだけれども。
「アタシじゃ駄目、かな」
言葉を返せず沈黙を続けると、彷徨っていた視線は緩やかに下降して巴の顔が見えなくなる。
「ごめん。……忘れて」
それに対しても、了承するでも否定するでもなく、もう帰る旨だけ短く伝え、俺は巴の部屋から逃げ出した。
冗談の駄目、は前振りって約束だったはず。
紗夜を更新したいのですが何も手をつけていません。