バンドリSS   作:綾行

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転生ではありませんが転移表現があります。
上記が苦手な方、現実と二次元二次創作ファンタジーを分けられない方は読まないことをお勧めします。


みんなどうやって生きているのか、不思議でたまらない

 

 

 

今日のライブはとにかく最高だった。

歌は練習以上に、今までで1番上手く歌えて、みんなの演奏も一体となっていて。

お客さんたちの笑顔がとても輝いて見えた。

 

 

「ありがとうございましたーっ!!」

 

 

深々と頭を下げ、手を振りながら舞台袖へと下がってもその興奮は収まらない。

早くこの感動をみんなに伝え分かち合いたいけれど、まだ駄目だ。

せめて控室に戻ってからでないと、興奮のあまり大声が出てしまいスタッフさんたちが驚いてしまうし、もしかしたらお客さんたちにも聞こえてしまうかもしれない。

我慢、我慢、と口をきゅっと結んですれ違うスタッフさんたちに会釈をしながら歩いて。

その足元がぐにゃり、と歪んだ気がした。

平衡感覚が崩れるように、立っていられない。

急にどうしたんだろうと思うよりも前に踏み出していた足は力が抜け、眼前に床が迫る。

 

 

「彩ちゃん!!」

 

 

後ろから千聖ちゃんの焦った声。

転んでしまうと反射的にぎゅっと目を瞑った直後には思った通りの衝撃に襲われる。

 

 

 

「いったぁ……」

 

 

みんなの前で転んでしまうなんて恥ずかしい。

衣装を汚したり、もっと悪ければ破いてしまうかもしれないのだから、気をつけないと。

千聖ちゃんにも焦らせてしまったことを謝らなければいけないと急いで体を起こしてはたと気づく。

先程まで舞台袖に、室内にいたはずなのに空に昇っている太陽。

床は石畳で、ヨーロッパか何処かのような街並み。

行き交う人々はこれまたヨーロッパ、といっても少し昔、というのだろうか、現代風ではないワンピースのような服を着た女性やシルクハットが似合いそうな紳士と見慣れない格好の人ばかりだ。

よくよく見れば露店でものを売っているらしいおじさんたちはシャツにズボンといったラフな格好ではあるけれど、日本でこういった光景は見ない。

場所にも人の服装にも驚かされてから、また1つ気づく。

すぐ傍にいたはずの千聖ちゃんたちも、スタッフさんたちも、誰1人いない。

どうして、此処は何処、とパニックに陥るが、知り合いを探して辺りを見回す中で、転んで一向に立ち上がらない私をまじまじと見る人々の視線を感じやや俯きながらも立ち上がる。

それでようやくいくらかの視線は外れていったがそれでも何故か注目されている。

恥ずかしいし、心細い。

誰かに此処は何処なのかを聞こうと思っても、まだその勇気は出ない。

 

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 

落ち着くまでは誰かに声をかけるのはやめようと思っていたけれど、此方が声をかけられた。

びっくりして声の方を向けば濃紺の上品そうなドレスを着た黒髪の女性が立っている。

 

 

「転んでいたようだけれど、何処か怪我でもした?」

 

「い、いえっ…………そ、その、すみません、聞きたいことがあって」

 

「お医者さんの場所?それなら此処を真っ直ぐ行って、」

 

「ち、違うんです!あの、此処、何処ですか……?」

 

 

声をかけられたのは此方なのに申し訳ないとは思いつつ訊きたいことを訊く。

質問の意図がわからないのか不思議そうな顔をして女性は何処って、と呟いて。

 

 

「サークレット国の城下町だけれど」

 

 

知らない国の名前を教えてくれた。

 

 

聞いてもあまり理解できなかったのだが詳しく話を聞くと、此処は大きな国の城下町らしい。

他の国から来たにしても此処を知らないなんて、相当田舎の方から人攫いにでも遭ったのかと心配されて、此処は人が攫われるようなことがある場所なのかと怖くなった。

血の気が引いた私を見て勘違いをしそうになっている女性には人攫いに遭ったわけではないことを伝え、しかし他に何を伝えればいいかわからなくなってしまって口を閉ざす。

聞いたことがない名前の国の人に日本の話をしてわかってもらえるだろうか。

話の間に何度も通りを過ぎて行った馬車からも、此処は日本では全くない場所であるという駄目押しをされている気持ちになる。

親切なこの女性は黙ってしまった私がまた口を開くのを待ってくれていて、その優しさに少し甘えていいだろうかと帰る場所がないことと知り合いとはぐれてしまった(ということにした)ことを伝えた。

ライブの衣装にはポケットはないのでお財布すら持っていない状態だ。

宿を取るにしてもお金がない。

女性はツレに荷物を全部預けていたの?とケラケラ笑ってから少し考えて、私をじっと見詰めた。

それは何だか、私が、Pastel*Pallettesがデビューした時の記者たちの視線に似ていた。

品定めするような、視線だ。

 

 

「……うん、良いかな。ねぇ、あなたさえ良ければ、その知り合いが見つかるまでうちで働かない?」

 

「え?」

 

「寝る所もあるし、シャワーもついてる。ご飯は自分で買って来たりしてもらわないといけないけど、最初の内は働いた次の日にお給料を渡すから、ひもじい思いもしない。どう?」

 

「いいんですか?」

 

「勿論。丁度雇っていた子が辞めちゃって困っていた所なの」

 

 

何も持っておらず、頼る人もいない私にとって願ってもない申し出だ。

お願いします!と返せばそれじゃあついて来てーと女性が歩き出す。

置いて行かれないように慌てて後を追って女性の少し後ろをキープする。

 

 

「それにしても……あなたすごく派手な格好よね」

 

「あ、えっと……此処に来る前のお仕事の衣装で……」

 

「へぇー。どんなお仕事?」

 

「アイド……うーん……たくさんの人を笑顔にするお仕事です」

 

「お仕事好きだった?」

 

「はい!大好きです!」

 

「そう。それなら良かった。うちもお客様を笑顔にするお仕事だからね」

 

 

しばらく歩いて着いたのは大きな家のような建物だ。

肩や脚が露出した衣装で寒くないので冬ではないと思うけれど陽が沈むのが早く、先程まで明るかったというのにもう空はやや夕焼け色に染まろうとしている。

カラン、とドアベルを鳴らして入った建物内はテーブルや椅子が並び、カウンターの向こうにはキッチンが見える。

ドアもなく伸びる通路は幾つかの部屋へと繋がっているようだ。

階段もあるので2階にも部屋があるのだろう。

寝る所がある、というのは部屋が余っているので使っていいということなのかもしれない。

ということは、此処は宿屋さんなのだろうか。

 

 

「あ、お腹空いてない?あと1時間くらいで営業時間だからその前に何か食べておかないと」

 

「で、でも、私、今お金が……」

 

「いーのいーの。時間もないし大したものは出せないけど、今日は私の奢りってことで。適当に座ってて」

 

 

女性はカウンター内に入って行って何やら作り始めたようだ。

優しさの次はお言葉に甘えるとして座って待っているとサンドイッチとお水がテーブルに置かれる。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「どういたしまして。さて、そろそろ来ると思うんだけど……」

 

 

食べて良いのか躊躇ったが食べて食べて、と勧められるままにサンドイッチを齧る。

ライブ終わりで疲れてもいたし、お腹も空いていたのでとても有難い。

お腹が落ち着いていくにつれ、どうやったら帰れるのかはわからないがきっと帰れる!頑張ろう!と気持ちも前向きになって来る。

最後の一口を放り込んだ所でドアベルが鳴り、あぁ、来た来たと漏らす女性と共に其方を見やる。

 

 

「っ、千聖ちゃん……?」

 

 

あまり噛まずに飲み込んでしまった為サンドイッチが喉に詰まりそうになった。

綺麗な髪。整った顔。華奢な体まで同じ。

街を行き交う女性たちが着ていたようなワンピースを着ていることだけが見慣れない千聖ちゃんの姿が其処にはあった。

当の本人は私のことなど気に留めず、女性の傍へと歩を進める。

 

 

「オーナー、おはようございます」

 

「おはよう。この子、今日からうちで働くことになったから、面倒見てあげて」

 

「……わかりました」

 

「あ、説明もよろしく」

 

「……何処からでしょう」

 

「最初から?」

 

「何も説明せずに連れて来たんですか……」

 

「ちゃんと本人の意思で此処で働くって決めてたし!ね?」

 

 

急に話を振られ反射的に首を何度も縦に振る。

説明もなしに意思も何もないでしょう、と呆れる千聖ちゃんを他所にオーナーと呼ばれた女性(そういえば、自分もだけれど相手の名前も聞いていなかった)は立ち上がってそれじゃあ私は帰るねとお店を後にする。

慌てて改めてお礼を言ってはみたがちゃんと届いたかはわからないので今度会ったらまた伝えよう。

 

 

「……ざっくり説明を始めたいのだけれど、いいかしら?」

 

 

時間もないし、と言っていたオーナーさんの言葉を思い出しお願いしますと言いかけたが、それよりも先に確認しないといけないことがあった。

 

 

「千聖ちゃん、だよね……?」

 

 

理由はわからないけれどオーナーさんの手前、私のことを知らない振りをしたのかもしれない。

そんな希望を持って尋ねたけれど、千聖ちゃんからの返事は人違い、だった。

 

 

「私はチサ。名前は似ているようだけど、私はあなたの言うチサトではないし、あなたのことも知らないわ」

 

「そ、そっか……ごめんなさい。私は丸山 彩だよ。よろしくね」

 

「此方こそ」

 

 

折角会えたと思ってもぬか喜びだった。

落ち込んでしまいたくなるが、これから働くにあたってお仕事の説明をしてくれるのだからきちんと聞かなければならない。

気持ちを入れ替えて千聖ちゃ……チサちゃんの話に耳を傾ける。

いや、傾けようとしたのだけれど。

 

 

「まず言っておかないといけないのだけれど、此処は娼館よ」

 

「え、えぇぇっ!!」

 

 

一言目で、躓いてしまった。

娼館って。男の人が女の人を買う、あの娼館?

一生懸命他のショウカンを考えてみるけれど物を売る商館にしては品物がないし此処は召喚って意味がわからないし地面の上に建っている家なのだから小艦でもないし、1番初めに出た答え以外合っている気がしない。

 

 

「予想通りの反応だけれど、続けるわね。女の子は此処で待機して、指名されたら空いている部屋に行ってお客様の相手をするの。指名された時に時間を言われるだろうから、延長すると言われない限りは越えないようにね。各部屋に料金表もあるし、接客が終わったらそれに従ってお金を受け取ればいいわ。受け取ったお金は此処に戻ってからあそこにある箱に入れて。間違っても、自分の懐に入れようだなんて思わないでね。今までにも何人かいたけど何故か必ずバレていたし、まぁ、クビだけじゃ済まないと思っておいて。指名したい女の子が接客中だったり、普通にお腹が減っているお客様は此処で軽食や飲み物を頼むから、待っている女の子が対応するわ。此処まではいい?」

 

「は、はひっ」

 

 

嘘だ。全然良くない。その証拠にただの返事で噛んでしまっている。

だって、そういうことは好きな人とすることで、まだまだアイドルとして頑張るつもりでいた私としては数年後よりも先の話だと思っていたことだ。

体を売ったなんて知られたらファンのみんなはがっかりする所じゃ済まないだろうし、私1人の所為でPastel*Pallettes全体のイメージも悪くなってしまう。

チサちゃんの説明が耳を素通りしたり頭の中をぐるぐる回ったり、オーナーさんが人を笑顔にするお仕事と言っていたけれど全然違う種類のものだと頭を抱えたくなったり、部屋がいっぱいあるのもシャワーがついているのもそういうことかと何処か納得してしまう自分もいたりと大混乱だ。

それでも、行く当てもない私には選択肢などないことはわかっている。

 

 

「あ、あのっ、こういうお仕事って学校を卒業した18歳?20歳?じゃないとしちゃいけないんじゃ……」

 

「えぇと……あなた、他の国から来たの?」

 

「うん……」

 

「この国では15歳から成人よ。他の国から来た人もこの国の法が適用されるから、問題はなさそうだけれど。幾つなの?」

 

「今年で18歳になったけど、」

 

「私と同い年ね」

 

「チサちゃんは、いつから此処にいるの……?」

 

「私の話よりお店のことが先よ。仕事内容で他に気になることはある?」

 

「……お客さんの相手って、何処までするの……?」

 

「初心そうだから伝わるかわからないけれど、最後まで、といってわかるかしら?」

 

「う、うん……。それじゃあ、その……避妊とかって、どうしてるの……?」

 

「ヒニン?」

 

「だってちゃんとしないと赤ちゃんできちゃうし……!」

 

「どういうことかわからないけれど、仕事だと割り切ってしまえば子供はできないでしょう?」

 

「そんな簡単な問題じゃないと思うんだけど……」

 

「どうして?好き合っている同士でしない限りは妊娠しないのに」

 

 

これも、私を混乱させるには十分だ。

当たり障りなくではあるが、学校の授業で教わった内容には好き合っているかなんて出て来なかった。

体の仕組み自体が違う国なんて聞いたことがなく、本当に自分がいた日常に帰れるのか、言いようのない不安に襲われる。

 

 

「サービスとして私たちも勿論言うし、お客様も愛を囁いて来るだろうけれど、本気にしない方が良いわよ。そんなの雰囲気作りの1つなのだし、好きになってしまって子供ができても切り捨てられることばかり。妊娠したらお店も辞めなきゃいけないから女の子の入れ替わりも激しくて仕事を教えるのが大変なのよね……」

 

 

もしかしたら、オーナーさんが言っていた、丁度辞めてしまった子もそれが理由なのかもしれない。

帰れるかもわからなくて、好きな人とするものだと思っていた行為を不特定多数の人としないといけなくて。

そうするしかないとさっき自分に言い聞かせたばかりなのに怖くて嫌で、涙が出て来てしまう。

ぼろぼろと零れる涙を見てチサちゃんは深い溜め息を吐く。

泣く程嫌だなんて、そのお仕事をしているチサちゃんの前で、失礼だった。

止まれ、止まれ、と念じても涙は止まらない。

 

 

「……気づいてはいたけれど、あなた、この仕事向いてないわ。うちはやめて他の働き口を探しなさいな」

 

「で、でも、私、お金、も、住む所も、なくて、」

 

「今日は見学ってことにして軽食の準備や配膳だけすればいいわ。少しだけどちゃんとお給料は払うように話は通してあげる。お店が終わったら空いている部屋で休んで、住み込みの仕事を探すの。あなたの中の普通の仕事は、勿論それ相応のお給料しかもらえない。うちは日払いもするって言われたのかもしれないけれど、あなたが見つける仕事は違うかもしれない。もしそうなら、お給料が出るまでは金貸しの人からお金を借りるしかない。でも仕方がないわよね。世の中全部が全部思い通りになんてならない。どうしても譲れないものがあるなら、それ以外は諦めるくらいでいないと生きていけないのよ」

 

 

チサちゃんが、正しいと思う。何も言葉を返せない。

言葉に詰まっているとドアが勢いよく開いて「おっはよーーっ!!」なんて元気の良い挨拶が発される。

其方を見る余裕は私にはなくて、涙を流したまま俯く。

きっと私に対してだろう、2度目の溜め息を吐いたチサちゃんは考えておいて、と私の傍を離れていった。

俯いた視界には心が弾むような、可愛らしい、自分の衣装が映って、今日のライブまで過ごした日々がもう遠いことのように感じて、また大粒の涙が零れた。

 




続かないので安心のガバガバ設定。
いつでもどの話も言わせたいことを言わせ書きたい一場面の為に蛇足をつけているだけなので内容や意味はありません。
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