学校からの帰り道。
電車を降り改札を抜けた所で謎の悪寒がした。
時間はまだ夕方前といった頃で明るく、駅前ということで人も少なくなくいる。
霊感もなければ勘も鋭くないというのに、何だろうか、この悪寒は。
今すぐダッシュで家に帰らなければいけない気が急にして来て鞄を肩にかけ直すと、グイ、と制服の裾を引かれた。
何かと思って見れば銀髪の小柄な少女が微笑んでいる。
着ている制服は近くの羽丘女子学園のもので歳が近いことが伺えるが勿論知り合いではない。
知り合いの誰かと間違われたのだろうかとも思ったが、俺の顔を見ても相手は慌てて立ち去るでもなく謝るでもなく微笑み続けている。
「ついに見つけたわ……」
「いや、どちら様ですか」
「私の名前は湊 友希那。あなたは?」
名乗って来るし俺の名前を知らないし100%無関係の人だ。
既に怪しさしか感じないのだがこれは名乗り返さないと駄目なのだろうか。
名前なんてがっつり個人情報として保護されるべき部分に入っていると思うのだが。
興味もないのにどちら様ですか、なんて訊いてしまった自分が恨めしい。
これで宗教の勧誘だとか友人を誘い切ってしまい無関係の人間に手当たり次第にアタックしまくるマルチ商法だとかだったりしたら目も当てられない。
一応どちらでもないかを尋ねてみて、違うわよ、と返されたことに安堵し、嫌々答える。
「……西です」
「名前は?」
「はいはい苗字だけじゃ駄目ですよねー……西 智昭」
「智昭ね……。わかったわ」
「忘れてくれて全然構わないんですけど」
「それじゃあ智昭、私と付き合いなさい」
「は?」
付き合う云々の話は一先ず置いておいて湊から話を聞く。
湊は羽丘女子学園高等部の3年で(「タメじゃねぇか敬語使って損したわ」と言ったら勝手に使って来たんでしょ、みたいな冷たい目で見られた。お前仮にも告白して来た奴がする目か)俺と話したことがあるらしく、それから俺のことが好きらしい。
身に覚えが全くないので人違いだと否定したが、それをまた否定される。
曰く、好きだから間違えるはずがないそうだ。
信じられる要素が何処にもない。
「まぁお前が好きになった相手が俺だとしよう」
「人間違いじゃなくて本当にあなたなのだけれど」
「お前とは付き合えねーわ。じゃ、俺帰るから」
「ちょっと!何でよ!」
断られるとは思っていなかったのか単に振られる理由が知りたいだけなのか脇をすり抜けて行こうとすれば行く手を阻むように両手を広げられる。
ほぼ初対面の人間に告白して来る上に付き合いなさいと上から来たのをいったん忘れ冷静に見てみれば可愛くはある。
髪も長くて好みだ。が。
「俺胸大きい子が好きなんだよ」
「っ!……あなたが揉んで大きくすればいいでしょう」
「いやお前揉む部分すらいだだだだだだ!!」
ローファーの踵でグリグリと足を踏まれる。
さっきから思ってはいたが好きな相手に対する態度ではない。
普通恋する女の子は「こんなことしたら嫌われちゃう……」みたいに自分の一挙一動を躊躇ってしまうものなのではないのか。
今まで彼女ができたこともなく恋バナをして来るような友人もいない俺には知る由もないが。
痛がる俺を意に介さずひとしきり踏み続けた湊は足を放すと満足そうにフン、と鼻を鳴らす。
「おっ前なぁ……そういう所も含めて好きじゃねーからな!」
「……まぁ、今日で上手くいくとは思ってなかったわ。だから、連絡先を交換しましょう?」
「嫌だけど」
「連絡先を交換しましょう???」
連絡先は本気で獲りに来るらしい。
謎の圧を此方にかけて来る。
そういえば謎の、ということで思い出したが、改札を出た後の悪寒も恐らくコイツだろう。
いい加減お引き取りください、という気持ちで仕方なく携帯を出す。
吐かれる溜め息はあえて隠さない。
「……ほら、これでいいだろ」
「えぇ。これからよろしくね、智昭」
携帯を握りしめたまま上機嫌で湊は帰って行く。
効果音がつくのならばぴょんぴょことでもつきそうな程だ。
一方、この短時間の間に疲れ果てた俺は目の前に布団があるのならば倒れこみたい程げっそりしている。
「……帰ろう」
厄介そうな奴に目をつけられてしまった。
昔の俺は湊に何を話したというのか。
本日二度目となるが自分を恨めしく思いながら、足取りの重い帰路につくのだった。
名前は適当に顔が良いらしいホラゲキャラから。