バンドリSS   作:綾行

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こころを乱されるのは酷く不愉快で

 

 

キーンコーンカーンコーン、と退屈な授業を終わらせてくれるチャイムが響く。

キリが悪いが長引けば生徒からブーイングが起こるので教師は教科書を閉じるとさっさと退散していく。

それもそうだ、教師の時間配分がなってない所為で皆大事な昼休みを奪われたくないのだ。

購買の争奪戦へと走って向かう奴、友人の席近くに集まり弁当を広げる奴と様々だが、俺は申し訳程度に開いていた教科書とノートを仕舞うと机に突っ伏す。

眠い。とにかく眠い。

いや、授業中も寝てはいたのだが居眠りを咎められるのもだるく、差された場合に反応できるくらいには意識を保っていたので寝た内に入らない。

昼休みくらいは熟睡したいものだと瞳を閉じる。

しかしそう簡単に穏やかな眠りには入らせてもらえないらしい。

 

 

「ともあきーー!一緒にお昼を食べましょっ!」

 

 

音量調節機能がついてないのかと悪態をつきたくなる程喧しい声の主は俺が起きる前に隣まで来ていたのか、肩を掴むと此方のことなどお構いなしに身体を前後に揺すりまくる。

身体を起こして俺の肩を掴む手を払い睨みつけるが効果はないようで、この自分中心お花畑女は「起きたわね!」と嬉しそうにするだけだ。

 

 

「うるっせぇんだよ弦巻!!テメェ隣のクラスだろ、こっちの教室入って来んなや!」

 

「だって入らないと智昭を呼べないじゃない」

 

 

弦巻こころ。違うクラスの友人曰く、この花咲川学園の異空間と呼ばれているやばい奴だ。家は超のつく金持ちらしい。

2年に進級して少し経った頃、廊下ですれ違っただけの面識もない俺にいきなり「あなた、全然笑顔じゃないわ!あたしが笑顔にしてあげる!」と意味不明な宣言をして以来毎日のように絡んで来て辟易している。

相手の都合も考えず突っ込んで来るようなタイプは嫌いなのだ。

ちなみに、教室に入って来るなというのは単に俺が近寄って欲しくないのもあるが、学校でそういうルールがあるのだ。

盗難が起きた場合違うクラスの生徒まで疑わないように、だか何だか言っていた気がするが、まぁその理由に対して効果はあまり出なさそうではある。

 

 

「普通は教室の出入り口で呼ぶかドア近くにいる奴に呼んでもらうんだよ!!呼ばれたかねーけど!」

 

 

ドア近くにいる奴に、の辺りで此方を盗み見ていたであろうクラスメイトたちが一斉に目を逸らす。

弦巻が来たから見ていた、というのもあるが、いつもこんな感じだ。

俺が立っても座っても此方を窺って来て、いなくなれば何かをひそひそ話し出す。

入学してからずっと、昔からの友人以外はこんな態度である。

「西君すっごい怖がられてるけど他校のヤンキーボコったって本当?」と当時笑いながら訊いて来たその友人に話を聞けば、他校のヤンキーを毎日潰してるだの機嫌が悪い時に話しかけるとそれだけで殴られるだの身に覚えのない噂が広まっていたらしい。

新しい友人を作る気もなく、変に近づいて来られるよりかは気が楽だと誤解を解く気にもならず放置して今に至る。

友人からその話を聞いた次の日、俺がソイツをパシッてただの恐喝してただのの新しい噂が出たのは癪だったので、実際ソイツには後日ジュースを買いに走らせた。

 

 

「でももうあたしあなたのこと呼んじゃったわ。さぁ、お昼ご飯を食べましょ!」

 

「……俺昼飯食わねーから。どっか行け」

 

「え?ダメよ!ご飯はちゃんと食べないと!もしかして、お昼ご飯を忘れちゃったの?だったらあたしが分けてあげるわ!」

 

「いらねーよ……」

 

 

昼飯ならあると鞄からエナジードリンクを取り出して見せてやるとそれはご飯じゃないわ!と反発される。

自分も大声を出しているが、弦巻の喧しさも相当なものだ。これ以上教室で騒ぐのは迷惑だろう。

違う所で食うぞ、と立ちながらエナジードリンクを掴んで歩き出せば弦巻も大人しくついて来る。

向かうは外にあるベンチだ。

空き教室で2人きり、なんてまた毛色の違う噂が立ちそうであるし、しかもコイツととなると心底迷惑だ。

ベンチは運よく空いているのでなるべく距離が開くよう端に座ると弦巻も倣ってか反対端に座る。

 

 

「……それで?お前は手ぶらなわけだが昼飯は?」

 

「あるわよ!黒服の人ーっ」

 

 

弦巻がそう呼べば何処からともなく黒服にサングラスの女性が駆け寄って来て包みを渡し、また何処へともなく消える。

包みの中は小さな弁当箱だ。

金持ちの弁当なんて皆重箱かと思っていたが、漫画の読みすぎのようだ。

 

 

「おーおー、金持ちのお嬢様は重くない物も持ちませんってか?苦労してなさそうで羨ましいこった」

 

「苦労?苦労はわからないけれど、みんなを笑顔にするために頑張ってるわ!だから、智昭も絶対笑顔にしてみせるんだから!」

 

「……そういうの、本当うぜぇわ」

 

 

エナジードリンクを一気飲みして力任せに缶を潰す。

そのまま缶を弦巻に向かって投げつけたい衝動に駆られるが、それは堪える。

どうせさっきの黒服も、今も此方を見張っているのだろうから暴力は宜しくない。

 

 

「お前の独りよがりな目標に俺を巻き込むな。毎日毎日付き纏われて本当迷惑なんだよ。その散切り前髪見るだけでもうムカつくわ」

 

 

最後に軽い悪口を混ぜたが弦巻は前半の言葉に引っかかったらしい。

悪口の部分には触れず反論して来る。

 

 

「独りよがりなんかじゃないわ!だってみんな笑顔の方がいいに決まってるもの!」

 

「楽しかったり嬉しかったりする時に笑うのが普通だろ。何で人に強制されなきゃいけねぇんだよ」

 

「?誰かと一緒にいると楽しいのよ?智昭は楽しくないの?」

 

「少なくとも、お前といても楽しくないな」

 

「あたし以外なら楽しいの?美咲や、薫や、はぐみや花音なら?」

 

「いや知らねぇし……知らない奴といても楽しくねぇよ」

 

 

とびきり可愛い子だったら是非お近づきになりたいものだが、楽しいかと言われれば別に楽しくはない。

知らない奴と話すのは疲れるので好みの子以外は遠慮したいものだ。

 

 

「それじゃあ、どうすれば智昭は笑顔になるの?」

 

「……さっきも言ったけど、嬉しかったら笑うさ」

 

「どういう時に嬉しいの?」

 

「あー……、金があれば嬉しいかな」

 

 

もらえるとは思っていないが、下衆っぽいことを言っておけば引いてもう来なくなるかもしれないという期待を込めてだ。

別に金に困っているわけではない。

まぁあっても困るものではないし、あればあるだけ良いものであるのでくれるというのなら有難くもらうが。

 

 

「お金って、どれくらい?」

 

「1日2万くらいか?」

 

「……わかったわ!明日には用意しておくから!」

 

 

結局渡された弁当は食べずに包みに戻すと、弦巻は今日は笑顔にできないからと教室に戻って行く。

あぁ、払う方でいくのね、と冷めた目でその後ろ姿を見やる。

ひと月で60万前後。

あくまで俺のイメージだが、優秀な会社員や特殊な資格を持っている人々が稼げる額だろう。

それをわかったの一言で済ませてしまうのだ。

毎月莫大な小遣いでももらっているのか言って用意させるのかは知らないが、本当に、何の心配もなく生きているようで羨ましい限りである。

弦巻もいなくなったことだし俺も戻ろうと、手に持ったままの空き缶を自動販売機横のゴミ箱に放り込んで歩き出す。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

「西様」

 

 

下校中、何だか視線を感じていた。

不審者だろうかと家には向かわず近くの公園に寄って勢いよく振り返ると、昼休みに見た黒服の女が姿勢良く立っている。

 

 

「……できれば、もうこころ様に関わらないで頂きたいのです」

 

「だったら言う相手間違えてない?俺じゃなくて、あっちが勝手に来るんだよ」

 

「…………」

 

「アイツに意見できないから俺に言ってんだろうけどさ、俺だって迷惑してるのわかるだろ。何とかしてくれよ」

 

「……こころ様は、あなたが笑顔になれば、満足なさってもう来ないかと」

 

「だから昼に笑顔になること言っただろ」

 

「それは、こころ様が望むものではないと思うのです」

 

「……金が欲しかったわけじゃないからいいんだけどさ、だったらアンタが俺を笑顔にしてよ」

 

 

近づき、片手で両頬を挟むようにして顔を掴む。

ついでに空いている方の手で邪魔なサングラスを取り、放り捨てた。

サングラスに隠されていた目が残念だったらやめようと思っていたが整った顔をしている。

歳は20代半ばから後半といった所だろうか。

身体こそ微動だにしないが俺の行動に黒服は目を見開いた後、険しく細める。

 

 

「嫌なら断ればいい。金が駄目なら弦巻に同じ意味で同じこと言うけど」

 

 

ぱっと手を放して返答を待つ。

ヤりたいわけでもないのだが、迷惑していることを此方が悪いみたいに言われるのは腹が立つ。

黒服が断れないように弦巻のことを持ちだしたが、仮に断られても問題ないだろう。言葉通りに動くだけだ。

することの意味もわからなそうな弦巻が了承し、後でその意味を知って顔を歪ませるのも悪くないかもしれない。

意味を知っていて断るなら、だったら俺を笑顔にはできないから関わって来るなと言える。

その場合黒服の思い通りになるようで面白くないが、俺の平穏が戻って来るなら妥協点だろう。

 

 

「…………わかりました。部屋を用意しますので、どうぞ」

 

 

どうぞ、はついて来いの意だろうと放られたサングラスを拾い上げ歩き出した黒服の後をのんびり追う。

俺がついて来ていることを確認すると黒服は携帯を取り出し、電話を始める。

部屋の用意、だろう。

弦巻の前で面白くもないのに笑顔を作る練習をしないといけないな、なんて考えつつ、公園の前に回された弦巻家の高級車に乗り込んだ。

 

 




高校は同じくらいの人が集まるから友達ができると言われて信じていた時もありました。
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