例えばこんな傘木さん   作:ブロx

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 あらすじ。
みぞれちゃんは独りぼっちの自分に構ってくれた傘木さんがこの世の全てなんだけど傘木さんは自分のフルートがずっとこの世の全てだった。

 今作は、もしも傘木さんの趣味・特技がフルート演奏だったらという妄想話です。裏テーマは『BURNING STREAM』。アイアンリーガー!と思った方、エックスサンシャイン。
映画【リズと青い鳥】やアニメ【響け!ユーフォニアム】準拠ですが変な所が多々あります。ご注意下さい。








前編

 

 

 

 

空に浮かぶ飛行機雲。それが真っ先に思い描いた感想だった。

 

心の琴線に触れたとしか、言いようが無かった。

 

「お父さん、お母さん。お願いがあります」

 

輝く思いが燃え始め、心に勇気が生まれてくる。あとは誰にも見せないようにして閉じこめる。

 

「私にフルートを買って下さい」

 

…綺麗だと思った、特別だと思った。自分だけを信じて。

 

 

 

 

 ◇ 例えばこんな傘木さん

 

 

 

 

「その楽器、好きなの?」

 

「え?」

 

中学の頃の思い出は、最初以外は屈辱で満ちている。

 

 ――これは珍しい最初の頃。目の前の女の子が不思議そうな顔で聞いてくるのを、私はたしか笑顔で見ていた。

 

 一人で暇そうにしていたのを良い事に吹奏楽部、略して吹部に勧誘したとはいえ。この子は世間知らずもいいところだった。

音楽とは、音を楽しむと書くものなのに。

 

「なあに?鎧塚さん」

 

「…傘木さん、ずっとその楽器ばっかり、吹いてるから。何でかなって」

 

「当たり前だよ~。私、これ大好きだもん」

 

 その日は部室の窓から流れる風が気持ち良くて、頬と髪を撫でてもらいながら、私は両親に頼みこんで買ってもらったフルートを吹いていた。

 

奏でる音色がそよ風と相まって、まるで空の上に居るようだったのをよく憶えている。

 

「…そうなんだ。私も、楽器好きになれるかな」

 

「ごめんねー、強引に誘っちゃって。あ、どれが良いとか希望はある?もしこの中にあるなら――」

 

「実は…これ」

 

「ああ、これ?」

 

音色が教えてくれている。私は何処までも遠くへ行けるって。…この楽器を吹き続けていればって。

 

「オーボエか~。流石は鎧塚さん」

 

「そう…なの?」

 

「この楽器を自由自在に吹きこなす事が出来たら、きっと特別になれるよ」

 

「特別……」

 

一年、二年、三年と技を磨き、私達は強さを鍛える。

 

 皆と一緒に金賞、皆と一緒に全国の舞台へ。

努力の先に奇跡も結果もあるというなら、今の私達こそ特別。

 

 上手くなりたい。限界なんて無い。何処の誰にも負ける理由が無い。負けるわけがない。

もしも駄目だったなら、それは足りなかっただけなんだろう。

 

「大会、頑張ろうね!絶対金!」

 

「…うん、頑張る」

 

そう信じ続ける気持ちが。

 

 

 

 

 

 「高校では絶対、金。取ろうね」

 

 「うん」

 

 

 

 

 

終わりよければ全て良し。その言葉が、私は大嫌いだった。

 

「―――何で頑張ってくれないんですか」

 

「は?なに? アンタ今何て言った?」

 

「―――何で頑張ってくれないんですか。先輩」

 

「ちょっと傘木……!まだ今はまずいって」

 

「あ?何が言いたいのアンタ」

 

「聞いてください先輩。 私はこの高校の吹奏楽部で全国に行きたいんです。部活って、そんな場所なんじゃないんですか。――ままごとなんて、子供の遊びなんてとっくに卒業した人が集まる場所じゃあないんですか」

 

「だから。 一体何の話をしてんのアンタ」

 

「誰より上を目指そうって話をしてるんです!!!!」

 

――中学三年間と高校に入った年。私はずっとずっと心を燃やしてきた。

 

 終わりよければ全て良し。

でもそれは逆に言えば、終わりが駄目なら全て駄目という意味で。

 

私は高校三年間もそれになりたくはなかった。

 

 ――混じり気の無い自分の気持ちと、嘘偽りのない本音と心。

強さとは、ぬるま湯のようなこんな場所では手に入らない。持続出来ない。

 

 私は上手くなりたい。

屈辱も悔しさも振り切って振り切って、どこまでも加速して跡形も見えない場所に行きたい。

 

 今度こそ、勝ちたい。この気持ちの何がいけない。

 

――でもそれに指をさす様に。哀れみの視線が、真っ直ぐに私を射抜いていた。

 

「あ~~……。そういう事。ねえ傘木さん、―――空気を読んでよ」

 

「私らは別に上なんて大層なもんを目指しちゃいないの」

 

「日々を楽しく過ごしていければいい。音を楽しめればいい。平和に、穏やかに、心安らかに。それの何がいけないの?」

 

「アンタはそのフルートで音を吹いて上に行きたい」

 

「私ら北宇治高校吹奏楽部は音を楽しんで生きたい」

 

「―――この部に迷惑を掛けているのは一体アンタかアタシらか。どっちだと思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 この楽器で特別になりたいと思った。

たとえ下手の横好きと思われても好きこそ、物の上手なれ。私はこのフルートが好きなんだから。

 

「上手くなりたい」

 

 夕焼け色の空の下、どこまでも自由に伸びて行くあの飛行機雲のように風を切って走って走って、戸惑いも迷いも全部消えてほしかった。

 

「上手くなりたい」

 

明日は、きっと明日なら。絶対どこまでも遠くへ行ける。ここからどこか特別な場所にって。

 

「上手くなりたい」

 

そう信じていた。

 

 

 

 

 

「え?…部活辞めたの?」

 

「うん」

 

「ふーん。音楽性が違かったわけね」

 

「まあ、そんなとこ」

 

「そっかそっか。―――頑張ったわね」

 

「………」

 

「お父さんだってきっとそう言うわ。希美に」

 

「…、うん」

 

 

◆ 

 

 

 

「え?リズと青い鳥、ですか?」

 

「そうなのよ!希美ちゃん!!」

 

 フルートが吹けるなら吹奏楽部にいなくてもいい。 断固たる決意で顧問の先生にそう言って、私は部活を辞めた。特に何かを言われる事も、引き留められもしなかったが。

 

「…あれって確か絵本でしたよね?」

 

「よくご存じ!絵本の物語に曲をつけた所謂ストーリー音楽って奴なの!もしかして聞いた事ない?」

 

「そういえば無いですね~。すいません」

 

「いいのよいいの!そしてこんな事もあろうかと、って奴でね?CD貸すから聞いてみて!」

 

「はあ、まあ。え?ホントに良いんですか?」

 

「可愛い後輩の為ならえんやこら~、ってね!フルートとオーボエがすごくいいのよ~」

 

「そうなんですかー。では、お借りしますね。ありがとうございます」

 

 今居る場所はしがらみも何もない新天地。あとは昇って上がって飛ぶだけの、きっとここはそんな場所。そう思った。

 

「………」

 

 『高校では絶対、金。取ろうね』

 

 『うん』

 

「――? 希美ちゃん?」

 

「あ、いえ、すいません。ではお先に失礼します。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様ー!あとで感想聞かせてね~」

 

 ―――誓ったあの言葉だけが今もずっと纏わりついている。振り切らなくちゃいけない。あんな場所に強さは無い。

 

「…うーん、リズと青い鳥ね…。絵本に音楽って良いのかな……」

 

 音は音だ。音楽のストーリー性は作曲者が、そして奏者が自由に付けるもの。

あらかじめ決まっている絵本のストーリー。であるなら当然決まった音色が付けられる。

 

果たしてそれは音楽といえるのだろうか。

 

「…リズも馬鹿だなあ。行かないでって言えばいいのに」

 

 社会人の音楽サークルに入った私に、先輩が貸してくれたCDの事を父と母に言うと、その曲良いよねと絶賛された。聞いた事があったらしい。

 

 ――何よりオーボエが良いんだよ、希美。フルートと一緒にこの曲全体を引っ張ってる。

 

 ――へ~。原作の絵本も読んだ方がいい?

 

 ――これの事かな?

 

まあ音楽性は人それぞれだ。今の私ならそれが痛いほど解る。

 

 手渡される『リズと青い鳥』の原作絵本を読みながら、私は自室のCDコンポの再生スイッチを押して流れる曲を聞いていた。原作と、それを表現した音楽があるなら一緒に。それが私の出した結論だった。

 

「これが一押しのオーボエの音色かあ。……確かに良いね」

 

他の楽器もまあまあだ。フルートには及ばないが。

 

「――貴女なら、何処までも飛んでいけるわ。 青くて自由な翼が、背中にあるのだから、か。

土の上を這い蹲ることしか出来ない女の子が、本当は少女と一緒に飛べる羽を求めた話ってわけだね」

 

 よくあるセンチなストーリーだった。

ひょんな事からリズが助けた少女は空を飛ぶ青い鳥が変化した姿で、リズの家で一緒に暮らす。 

 

天涯孤独なリズに訪れた、平和で幸せな暮らし。叶うならこの子と離れたくない。

 

 でも自分には無い羽が少女には有る。大空こそが少女の生きる世界で、決して私と同じ地べたではないとリズは知ってしまう。

 

―――翼なんてなければ良かった。どちらも翼が有ればめでたしだった。

 

でもそうはならなかった物語。

 

「もう会う事はないでしょうってね。…でもどうかな? 青い鳥は飛び立っただけで、巣はリズの家に作るかもしれない。――また戻ってくるかもしれない。だって自由なんだから」

 

 別れはまた逢う日までの遠い約束。昔の歌にもあるように。青い鳥はそう心に誓ってリズの家から去って行ったのかもしれない。

 

「………よし」

 

湧いたイメージと共にフルートを取り出し、少しだけ吹いてみる。

 

 音符はCDから流れてくる音を聴けば判る。伊達に中学三年間吹部をしていない。部長をしていない。

私は私が感じたストーリーを、音色を楽器で表現する。

 

それこそが音楽。

 

「……もう一度遠い空へ。舞い上がる前に、貴女の心の中を見せてくれっと」

 

 適当に吹いたフルートから口と片手を離し、転がってる白紙の譜面に鉛筆で音符を書いてみる。素直に、感じたままを心のままに。たまにちょっと小休止。

 

 ポニーテールに結った髪ゴムを解いて、自由になった長い髪を手で梳いては紙にペンを走らせる。

 

 四章仕立てのこの曲は、フルートよりもオーボエがメインに置いてあるように感じる。しかもリズのパートがオーボエで青い鳥がフルート。 

 …いやいや、この作品の主人公は青い鳥だろうに。フルートが主人公だろうに。

 

「もしこれを吹けってなったら、私は我の強い青い鳥になっちゃうなあ。

えーと…、もう二度と戻らない夢の日々。声を殺し、鳴いた遠い記憶達。これは愛であったのか?っと」

 

 ――湧いたイメージを呟きながら、何故か想うのはリズの事。オーボエの事だった。

青い鳥は自由でいい。フルートは自由がいい。飛行機雲みたいに。でもリズは?

 

「………」

 

鉛筆を落とし、その気付きは唐突に訪れた。

 

目線が天井を突き抜け空に上がって、ぱっと浮かんだ言葉を口にする。

 

「みぞれ。元気かな」

 

 あの子のオーボエならどんな音色を出してくれるだろう。あの表現者・鎧塚みぞれならば、一体どんなリズを。

 

去年辞めた吹奏楽部の府大会が近々迫っていることを、私は昔〇を付けたカレンダーで気付いた。

 

「聴きにいってみようかな」

 

曲に感化されたのか。

 

自由になった手足で、私はその日奇跡を見る事になる。

 

 

 

 

 

「―――お願いしますッ!!!部活に復帰させて下さい!!!」

 

 

 

 

 

 




後編へ続く。
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