―その化け物は何の前触れもなく突如として現れた―
数々の部下を打ち破ってきた忌まわしき勇者とその仲間の姿もあったが、私の前に立ちはだかったのは、この世のものとは思えない禍々しい力をその身にまとった化け物だった。
「この者をたおせばよいのだな? たやすいことだ……。」
状況がつかめない私を一瞥したそいつは、そんなことを口走った。
まるで我など取るに足らない相手であるかのように。
こちらを侮辱するような言葉に怒りが一気にこみ上げてくるのを感じながら、戦闘態勢をとる。
我は魔族の頂点にして大魔王の称号を掲げ、魔術、武術、すべてにおいて他の追随を許さない絶対的な存在なのだ……。
何者か知らんが、塵にしてくれる!
そして戦闘がはじまったが、すぐに展開は一方的なものとなっていた。
いや、それはもはや戦闘と呼べるものではなかった。
最上位魔法
最高火力のブレス
強靭な肉体から放たれる打撃技
我のすべてを出し切った攻撃のすべてが無効化され、いなされた。
逆にあちらの攻撃はすべて致命傷として我の肉体を削っていく。
……な、なんだこれは、いったいどういうことだ!?
今起こっていることのすべてが、信じられなかった。
ま、まさか……これも人間の夢の力によるものなのか?
そんな思いが脳裏によぎった時だった。
「さて……お遊びはここまでだな。そろそろ終わらせよう……。」
その言葉の通り、相手の猛攻により我は完全に打ち破られた。
何が起きたのか結局最後まで分からなかった。
情けないの一言に尽きるが、あれの底のない強さは人や魔物の領域を超えている。
そうして薄れゆく意識の中、我を倒した謎の化け物は
「これで良いのだな? では私は行くとしよう……。」
と言い放ち、どこかへ消えてしまった。
残された勇者達一向は、憐れみを込めた視線をこちらによこしながら
「あの、ダークドレアムだっけか? ……凄い強さだったな。」
「……ええ。こう言ってはなんですが、大魔王が少し可哀想に見えるほどでしたね。」
「ああ……、僕たちと戦っている時は手を抜いていたのだろうか?」
「ていうか私達が戦っても普通に大魔王に勝てそうだったじゃない?」
と、我を愚弄するかのような会話をする勇者達に行き場のない怒りと悔しさ滲ませながら、そこで意識が途切れた。
……はっ!?
気が付くと、そこは我の自室だった。
城の最上階に位置するこの部屋に据え付けられた巨大なベッドの上で横たわっているようだ。
ばっと起き上がり、まずは自身の手、腕、胴体と順々に自分の体を確認していく。
ジジイ姿のようだが、自分の体は無事五体満足で存在している。
そばには核となる玉も二つふわふわと浮遊していた。
……なんだ? 今までのはいったい?
さきほどのダークドレアムとかいう奴に我はやられたのではなかったのか?
あの感覚、夢や幻術の類ではなかった。
だが、我は今こうして生きている。
その時だった
……コンコン
っ!?
突如、控えめなノック音が部屋に響き渡った。
極度な緊張状態だったため、そんな物音一つに過剰な反応を示してしまう。
どう動くべきか、そう考えていると扉がかちゃりと開き、
「失礼いたします、大魔王様。大広間にてムドー様、ジャミラス様、グラコス様、デュラン様が揃いになりましたので、お呼びに参りました。」
現れたのは城の警備を担当している、鎧に全身を覆い、片手ずつに大楯と巨大な刃のついた武器を携えたガーディアンだった。
しかし、そこは問題ではなかった。
ムドー、ジャミラス、グラコス、デュラン……だと?
それはかつて我の部下の中でもとりわけ有能な力を持ち、魔王の称号を与えていた者たちだ。しかし、全員勇者達一向に打ち破られたはずだ。
我が色々と思考を回し、中々応答しないことを不思議に思ったのだろう、ガーディアンがおずおずと言った感じで
「……大魔王様、どうかなさいましたか? これより人間界を侵略するための最終調整に入るために各魔王様を含めての会合をするのではなかったのですか?」
そのガーディアンの言葉で全てが理解できた。
時を遡ったのか……。
そう。確かに人間界に侵略するにあたり、計画の共有化を図るために打ち合わせも兼ねて全員で顔を合わせたことがあった。
しかし、それは‘過去’に起きたことだ。
つまり、今のこの状況は我が時間を遡ってきたことに他ならない。
なぜそうなったのかは分からぬが、この世には‘時の砂’という時間の流れを操る古代魔法が込められたアイテムもあると文献で見た記憶があるため、決してあり得ない話ではない。
問題は、なぜ我が時を遡る対象に選ばれたのか、だ。
時が逆行するなんて事象が偶然起こるわけがない、何者かの仕業であることは間違いなりだろう。
しかし今それを考えても答えが見つかるわけもない、情報が少なすぎる。
だが、これは我にとって好都合だ。
あの、ダークドレアムとかいうふざけた奴に復讐する機会が与えられたのだ。
一体、誰が何の目的があって、我をこの世に呼び戻したのか分からぬが精々利用させてもらおう。
そう考えを改めた我は、部屋の入り口でどうしたらよいか分からず困っているガーディアンへ向かって、声をかけた。
「待たせたな、それでは大広間まで行こうか。」
というわけで、デスタムーア様の逆襲の始まりです!