「強くなろうと思う。」
我の言葉が静かな大広間に響き渡る。
その声は当然、傍に控えるように立つアクバーや目の前で跪いている魔王達にも聞こえたはずだが、皆一様に驚いたような顔をこちら向け、見つめてくるばかりで何の反応も返してこない。我が言った言葉が理解できないと言った具合に。
しかし、それはなにも魔王達に限ったことではない。
等間隔で規則正しい位置につき、この大広間を警備するガーディアンとヘルクラッシャー達も露骨に顔をこちらに向けてきたりはしないものの我の発言に驚きを示していることが分かる。
まあ、無理もない……か。
我は、この世に生を授かってから強くなろうと思ったことなどない。
それもそうだ、生まれた時から絶対的な才を持つ我は他を圧倒してきたのだ。
最初から強かったのだから強くなろうなどと思うわけもなく、これまで強くなるための努力などしたことなどないのだ。それを配下たちも知っているからこその驚きだろう。
配下たちの動揺が静まるのを待っていると、いち早く我を取り戻したムドーが、驚きを隠しつつ口を開き、言葉を紡いでくる。
「……大魔王様。聞き間違いかと思うのですが、今『強くなる』と仰いましたか?」
「うむ、その通りだ。」
間髪入れずにそう答えると、ムドーは信じられないと言った風に目を見開きさらに言葉を続けてくる。
「……お言葉ですが、大魔王様は既に絶大な力をお持ちかと。これ以上、一体何を望まれるのですか?」
ムドーの質問に、どう答えたものかと少し迷ってしまう。
素直に答えるならば、ダークドレアムという規格外の存在を上回るほどの強さ、というのが答えだ。しかし正直にそれを言ってもあまりに現実味がなく、皆の混乱を招くだろう。
ここは、別の理由で納得させるしかない。
「……ムドーよ。お前は今、我の強さを絶大と言ったか?」
「は、はい……、それこそ私達などでは足元に及ばないほどには。」
緊張したような面持ちのムドーが発したその言葉に、他の魔王達も同意を示すように頷いている。
まあ確かに、配下たちが束になってかかってきても勝てる自信はある。
……ふむ、どう言ったものか。
「そうだな、確かに我は強い。しかしだ、それは我が何者にも負けない理由になるのか?」
「……どういう事でしょうか?」
「これまで、ダーマ神殿、メダル王の城、カルベローナを攻め落としたが、なぜだか分かるか?」
「それは……それらが大魔王様にとって脅威となる可能性があるから、と記憶しております。」
「その通りだ。では聞くが、それらを攻め落とした今、本当に我にとっての脅威は取り除かれたのか?」
「それは……はっ、まさか以前に言っていた夢の存在ですか? 人間どもの夢があり続ける限り、大魔王様の脅威となる可能性が残り続ける、と。それで大魔王様自身も万が一の時に備え、強くなられる、ということですか?」
ムドーは合点がいったとばかりに目をかっと見開き、そう言ってくる。
ふむ、流石は頭の回るムドーだ、我の言いたいことをいち早く理解したようだ。
これでもう少し強ければよいのだがな……。
本来ならばこの場で我は、現実で滅ぼしても尚、人間たちの夢の中で存在し続け、希望の象徴となりうる’ダーマ神殿’、‘メダル王の城’、‘カルベローナ’そして‘ゼニスの城’を封印するべく、夢の世界を具現化させるのだ。
そして元の世界で、我らは見事にそれらの封印には成功した。
しかし結局それらの管理を任せていた四大魔王が、忌まわしきルビスの導きを得た勇者達一向に敗れてしまい、封印は解かれてしまったのだ。
つまりその方法ではだめだったのだ、それが我の敗北に繋がったのだろう。
魔王達が敗れた後、どういう経緯でダークドレアムという存在が出てきたのかまではまだ分からんが……。
しかし、もはや今となっては人間たちなどどうでもよい。
第一の目的はそのダークドレアムだ。
奴を完膚なきまでに叩きのめす、そのためには勇者たちを泳がせ、かつ我が強くなる必要がある。
そのうち勇者たちがまた、あのダークドレアムを引き連れてくるだろう。
その時に奴を返り討ちに合わせ、我が受けた屈辱をそのまま奴に味わせる。
これが今の我の計画だ。
そしてこの計画の核となる我が強くなる方法だが……
「素晴らしい……素晴らしいですぞ! デスタムーア様!」
ここで、これまで沈黙を貫いていた魔王の一人デュランが急に立ち上がり、やや前のめりの姿勢で興奮したように大きな声でそう言ってくる。
「既に絶対的な力を持っていながらさらなる力を追い求めるそのお考え……このデュラン、感服いたしました。」
「……そうか。」
「はい!」
そういえばデュランは他の魔王と違い、強くなることにかなり意識が高く、常に鍛錬を行っていると聞いたことがあるが、ここまで食いついて来るとは……。
キラキラとした視線を向けてくるデュランとの温度差にやや引き気味に対応していると、今度は、さらに別の魔王、グラコスが興奮しているデュランを鬱陶しそうに一瞥したのち、こちらを向き
「ブクルルル……しかし大魔王様、強くなるとは具体的にどうするおつもりなのですか? 生半可な方法では、大魔王様ほどのお力を持っている御方がこれ以上強くなることは難しいと思うのですが。」
このグラコスの質問にはデュラン含め、他の者も興味があるとばかりに、シンと静かになり、我の答えを待っている。
まあ、当然の疑問だな……。
しかし、それに対する答えは既に決まっている。
「人間たちの夢を具現化させ、その世界で修業を行う。」
気に入らん方法だがな
つづく