ザワザワと我の発言に対し、またもや配下たちが動揺しだす。
質問をした当の本人であるグラコスも、訳がわからないと言った感じだったが、質問した手前、何か反応しなければならないと思ったのだろう、思い出したかのように慌てて口を開き、しゃべりだした。
「あ、あのっ……、も、申し訳ありません。私では、大魔王様の仰られた意味がよく分からないのですが……。」
見渡すと、他のものも同意見といった様子だ。
まあ、最初から理解しろというのが無理な話だろう。
ここは一から分かりやすく説明する必要があるな。
「グラコスよ、一般的な人間と魔物ではどちらが強い?」
「え……それは、当然魔物……かと。元々の基礎能力が違うので……。」
突然の質問にグラコスは自信がないのか、隣にいたジャミラスに「そうだよな?」と小声で確認をとっている。ジャミラスはジャミラスで俺に聞くなと迷惑顔だ。
「ふん、自信を持て、グラコスよ。その通りだ、人間は基本的に魔族より劣る種族なのだ。しかしだ、歴史を見ても、魔族に立ちはだかるのは必ず人間である勇者なのだ。弱いはずの人間たちがなぜ、魔族に立ち向かうことが出来るのか……、分かるか?」
「……それが夢の力だと?」
「そうだ。」
そしてこれは推測などではない確実な『事実』だ。
実際、勇者たちは、夢の世界の「ダーマ神殿」、「メダル王の城」、「カルベローナ」、「ゼニスの城」それぞれの封印を解き、着実に力を身に付けていったのだ。
我とて夢の何にいったいそんな力があるのか不明だが、必ず夢の世界にその秘密があるはずなのだ。
「では、大魔王様はそんな人間の夢を逆に利用し、自身を強くしようと、そういうお考えである、ということですか?」
グラコスではこれ以上、話について行けないと判断したのか、ここでまたもムドーが口をはさんできた。実際、グラコスはムドーが話し手を変わってくれてホッとしている。
「その通りだ。そしてその修行にはお前もつれていこうと考えている。」
「……えっ、私をですか?? そ、それはまた、どうしてでございましょうか?」
実は人間たちの夢の世界での修行にムドーを連れていこうと考えていことを打ち明けると、ムドーは酷く驚いたように、狼狽えている。
「色々と理由はあるが、まず、我が夢の世界とはいえ、人間たちの世界にいきなり行っても受け入れられるはずがないだろう?」
「……まあ、そうですね。」
「そこで、お前の幻術の力を利用しようというわけだ。お前の魔術があれば、人間どもに我らを魔物と認識させないことなど容易であろう?」
「ま、まあ、可能ですが……。」
そう答えるムドーはどこか歯切れが悪く、何やら気乗りしない雰囲気を漂わせている。
「……なんだ? 我と修行をするのは嫌か?」
「っ!? い、いえ! そういうわけではないのですが……。」
「ふん、そもそもお前は魔王という称号をもっているくせに弱すぎるのだ。いい機会だから、お前のことも強くしてやる。」
「え……じょ、冗談でございますよね?」
「……冗談だと思うか?」
「……。」
ムドーは、最悪な未来が突き付けられたといわんばかりに、呆然とした様子だ。
元々の皮膚の色的に分かりにくいが、顔色も普段より悪くなっているように見える。
……そんなに我との修行が嫌なのだろうか?
配下のあんまりな様子に若干ショックを受けていると、ジャミラスが横から出てきて
「ぎゃははは! よかったじゃねえか、ムドー! これでお前の貧弱さも少しはマシになるといいなあ?」
と、腹を抱え、笑いながらムドーを馬鹿にしている。
これに対しムドーも、ギロリとジャミラスを睨み
「……黙れ、この鳥野郎め。貴様も私と大した実力差はないだろうが!」
「あっ? 何だと? もう一度言ってみろ、このデブガエルが!」
「誰がカエルだ! 炎の爪などという装備に頼らんとまともに戦えん雑魚が!」
「このカエルめ……量産型のブースカに劣るくせに生意気な……。」
「ブ……!? お、おのれ、言いよったな、貴様……!」
と、気付けばムドーとジャミラスは一触即発のムードになっている。
……そういえば、こいつらは仲が悪いんだったか。
配下の様子に、はぁっと呆れていると、横にいたアクバーが前に出て、
「お前達、いい加減にせんか! 大魔王様の御前だぞ!」
と、ムドーとジャミラスに注意を呼び掛ける。これに二人ともハッとしたように、すぐさまその場に跪き頭を下げ
「「も、申し訳ありません、大魔王様。」」
と、見事にシンクロし、謝罪の言葉を言い放ってくる。実は仲がいいのではないだろうか?
「……まあよい、というわけで人間たちの夢を具現化したらすぐに出立するぞ、ムドーよ。
「あ、あの、というより人間の夢を具現化など本当にできるのですか?」
「……なんだ? 疑っているのか?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが……。」
ムドーは、我との修行がよほど嫌なのか、最後の抵抗とばかりにそんなことを言ってくるが、人間の夢の具現化は既にやったことがあるので、できないわけがないのだ。
ムドーはどうあっても我との修行が避けられないと観念したのか、それ以上何も言ってこなかった。
「では、アクバーよこの城のことは任せたぞ。他のものも引き続き、現実の人間界の侵略を行うように。どうしてもという緊急事態の時だけ、我に一報をいれるように。」
「「はっ!」」
配下たちの返答を聞き、さあこれで話は終わりだという時だった。
「デスタムーア様!」
デュランが前に進み出てきた。
なんだと思い、目で続きを促すと
「私もデスタムーア様と共に修行を行いたい所存でございます!」
「……なに?」
デュランが一緒に修行……だと?
「大魔王様が強くなられようとしているのに、このデュラン、じっとなどしていられません! 是非、この私もお供させて下さい!! お願い致します!」
……正直に言おう。嫌だ。
というのも、どうも我はデュランの脳筋的思考は苦手なのだ、できれば連れ行きたくないのだが……。
「どうかお願い致します!」
そう頭を何度も下げ、必死に訴えかけてくるデュランに対し我は……
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「はっはっはっ! 流石はデスタムーア様! こうも見事に人間の夢を具現化させるとは! いや~、これからの修行、楽しみでございますな!」
「くっ……どうしてこんなことに……。」
デュランとムドー、対照的な様子の二人を前に我は、何とも言えない気持ちになっていた。
さて……、正直夢の世界での修行は我にとっても賭けだ。
あのダークドレアムという存在を超えられるかどうか……。
「それで、デスタムーア様! まずはどこに行かれるのですか?」
そのデュランの質問に我は、自らが考えていた計画の第一歩目である目的を告げる。
「まずはダーマ神殿に行く。」
つづく