先ずは騎士に成り立てで、基本的に騎士…正騎士に属する準騎士。
武勲を立てて準騎士から昇格したのが正騎士。
更に抜きん出た実力を持つものには二つ名(例えばロキなら黄金の騎士)が付く…と言った具合です。
私が目を覚ましたのは、翌日早朝だった。
遠く射しだした日の光が閉じた瞼を照らし、ゆっくりと目を開く。
目を擦りながら、意識を覚醒させていく。
何故私は寝ているのか?それに、ここは何処なのか?
周囲を見渡せば、緑を基調とした壁紙や木を用いた調度品。
落ち着く雰囲気の部屋だ。
壁には私の赤いローブやアイアンソードがかけられ、その傍らの机には衣服が綺麗に畳んでおいてある。
「いっつ…!」
身体を動かそうとすれば、突き抜けるような痛みが身体を走り、より鮮明に意識を目覚めさせる。
(そうだ…俺は英雄王に稽古を付けて貰って…。)
最後の最後、私は英雄王の持つ木刀を抜き、彼の頬に掠り傷を入れた所までは覚えている。しかしそれに至るまでの過程を全く覚えていなかった。
頭が真っ白になり、所謂、無我の境地というものなのだろうか?
兎にも角にも、私は手傷を負わせてしまった英雄王に謝罪しなければならないと判断し、痛む身体を押さえながらローブを纏って、ヨロヨロと宛がわれた客室を後にする。部屋を出れば、二階が吹き抜けになっている、所謂ホールになっていた。フォルセナ城は解りやすい構造になっているので、割と易々と玉座の間につづく扉を発見できる。
「もう起きても大丈夫なんですか?」
扉へふらつきながら近付いていると、ふと背後から声を掛けられる。ふと視線を向ければ、この城の侍女と思しき女性が。
「…少々痛むが問題ない。」
「全身打撲まみれだったんですから、無理しちゃダメですよ。」
「いや、英雄王に謝罪をしなければならない。掠り傷とはいえ、一国の王に手傷を負わせて謝罪もなければ、アルテナに泥を塗るのとおなじだ。」
それと言うほど故郷に未練は無かったが、それでも後腐れ無いようにしたいのも確かだ。だからこそ筋を通さなければならない。
「まぁ…打撲こそ多いが、旅の中で負った傷もそれなりに痛かったからな。これくらい我慢出来る。」
視線を戻し、何とか扉に辿り着く。背後で「強がるわね…」と聞こえたが、敢えて無視しておく。
荘厳な扉を開けば、相も変わらず玉座に座った英雄王が、威厳たっぷりにこちらに視線を向けていた。その頬には手当の跡なのか、ガーゼが当ててある。
「おぉ。目覚めたか。身体の具合はどうだ?」
「はっ…!少々痛むが問題ありません。」
「そうか。私としても少々熱が入りすぎてしまったのでな、許せ。」
「い!いえ!私の方こそ、陛下に手傷を負わせてしまい、申し訳ありません!」
傅く私に、一国の…それも英雄王が謝罪する。
そんな恐れ多いことがあって良いものと、私も慌てて謝罪すると、英雄王は大らかに声を弾ませて笑い始めた。
「はっはっは!何、貴公に比べれば私の傷など微々たるものだ。差し引き私の方に負があることに相違あるまいに。故に、貴公が謝罪する必要は無いぞ。」
「…恐縮です。」
余り食い下がるのも失礼にあたると考え、私はここで陛下の謝罪を受け入れる。それに満足したのか、陛下は2人からもその口許を緩めた。
「では、互いにスッキリしたところで本題…貴公のこれからについて話を進めるとしようか。」
これから…つまり、私の次の行く先…もしくは出会うべき人物を示されるのか。
当時の私はそう思っていた。
だが、目を閉じた陛下は、私の想像を超えることを考えておられた。
「昨日の剣技の冴え、見事であった。9という齢でそこまでの剣閃を放てる貴公は、私としてはやはり剣士…ひいては騎士に向いていると考えている。」
そこで、と陛下は言葉を繋ぎ、その鋭い双眼を見開く。真っ直ぐ私を射貫くように視線を向け、その圧に思わず、私の手には脂汗が浮かび、ゴクリと固唾を飲み込んでしまう。
「ブライアン、貴公を我がフォルセナ城の騎士団に雇い入れたいと私は考えている。」
騎士団に雇い入れる…
つまり、フォルセナを護る力になれと…そういうことなのだろうか。
「無論、強制ではない。貴公が旅を続けて、別の可能性を見出すのも良いだろう。総ては、貴公の望み次第だ。無論、答えを見出したならば、かの少女の下へ向かうために、脱退を許可するぞ。」
確かに、このまま周辺諸国を巡って見聞を広め、その上で私の成し遂げられる事を探すのも1つの道だろう。
しかし目の前には剣の道が示されている。
そして、私の中で何かがささやく。
極めたい、と。
歩み始めた剣の道。
マナを感じ、操る力が無くとも、自身の腕があれば極めていけるこの道で、何処まで自身を高めていけるのか。それを見極めたい。
「俺のような未熟者で良いのなら…騎士団加入、謹んでお受けいたします。」
「そうか。…ならば精進せよ。いずれ私を超えてくれることを、大いに期待しているぞ。」
「はっ…!恐れ多いながらも、目指すところとさせて頂きます。」
「うむ!」
リチャード陛下は満足そうな笑みを浮かべて頷く。
これが私の騎士道の始まり。
あの時の約束を果たすため、私は高みを目指す。
それは、いつになるかは解らない。
しかし必ず、リリィ様の下へと舞い戻る日を夢見た日でもあった。
「おぉ、そうだ。」
「???」
「流石に9歳の少年を殺生の場に置くというのは、世間体としてマズいだろう?」
「はぁ…。」
一応、ここに来るまでモンスターとの殺生の場にいたと言うのに今更だろう、と言うのは野暮と言うものか。
「15になるまで、兵舎で暮らすと良い。その間の衣食住の心配は要らんしな。」
「兵舎に?いやしかし、流石にそれは…。」
「そこで非番の兵達に、兵法や戦い方を学ぶも良し。鍛えるも良し。強くあらんとするならば、その方法は其方に一任しよう。有意義に使うが良い。」
「…はっ。度重なる御厚意、恐悦至極にございます。」
こうして私は好待遇で、騎士団に入るという未来を約束され、フォルセナに留まることとなった。
これから6年。先輩騎士に指示を請い、下積み重ねて、立派な騎士となる。
その日々はアルテナでは得難く、そして何物にも代え難いものだった。
剣の扱い方
立ち振る舞い
規律
兵法
座学
先輩騎士は誰もが快く私に教鞭を振るって下さり、私はそれを反復、飲み込もうと必死に食いついた。
幸い、魔法の理論を理解するのは得意であった為、覚えるのは苦ではなかったし、何より魔法理論と違う観点で戦いを知る事が出来た喜びはひとしおだった。私は1日たりとも欠かすことなく、日々鍛錬し、そして勉学に打ち込んだ。
そして…
あっという間の6年という歳月が過ぎた。
フォルセナ城下町で真しやかに囁かれる噂。
それは15歳という年齢で準騎士を飛んで、正騎士に抜擢された天才少年の噂。
赤いマントを翻し、巧みな剣技でテストに合格した彼の噂。
人は彼をこう呼ぶ。
『紅蓮の騎士』と。
そんな彼に、対抗意識を燃やす少年がいた。
「紅蓮の騎士…俺が絶対超えてやる…!」
そして彼もまた、日々剣を振るい、志願するその時を待っていた。