風の王国第二王女の苦労記   作:ロシアよ永遠に

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『私が、変わるとき』

「勝負しろ!紅蓮の騎士!」

 

正騎士となって初めての休暇。

今まで見習いとして先輩騎士に衣食住を養って貰っていた私は、正騎士になって自立、初めて私物の買い物に繰り出した。

思えばフォルセナに着いた日以来6年、私は兵舎、訓練場、城内以外を歩いたことがなかった。…ニート言うな。

そんな矢先に英雄王の像の前で、私より頭1つ分小さな少年が木刀を携えて目の前に立ち塞がっていた。

 

「…勝負?」

 

「そうだ!俺は騎士になる!お前を倒して、俺は強いって皆に認めさせるんだ!」

 

その少年の目はギラギラと、まるで野獣のように輝いていた。

何が何でも強くなる、いや、成し遂げるという強い意志が灯った眼。

成る程、ともすれば私の6年も彼のような眼をしていたのかも知れない。

確かに、悪くない目だ。

しかし、

 

「断る。」

 

「な、何だと…!」

 

「私は君と戦う理由がない。それに、こんな往来で戦いを仕掛けるなど、騎士を目指すものとして相応しい行いと思うのか?」

 

「ぐぬぬ…!」

 

こういう直情的な手合いは、彼に根ざしているものに基づいて論するに限る。証拠に、彼はそれに気付いたのか、ギリギリと歯軋りをしている。

しかし、恐らくは私より年下にも関わらず、鍛え上げられた体躯。それに加えて彼の掌に出来た多数のマメの跡。そして、使い込まれた木刀。

成る程、立ち振る舞いはともかく、彼の騎士になるという意志は、確かに強く、そしてしっかりしたものなのだと理解できた。

 

「少年。」

 

「なんだよ…!」

 

「名はなんと?」

 

「……デュラン。」

 

「歳は?」

 

「12。」

 

「ではデュラン。3年…3年だ。15になって、騎士の採用試験に受かったとき、私は君の挑戦を受けよう。それまで、今までと変わらぬ研鑽を積むと良い。」

 

「さ、3年…!?」

 

「そうだ。騎士団に入れば、模擬戦をするのに理由は要らない。騎士は止む得ない私闘は原則禁止されていてね。ここで君と刃を交えたとなれば、君は騎士に刃を向けたものとして、私は規律違反した騎士として、2人仲良く罰せられるだろう。そうなれば君は、夢である騎士になることは未来永劫叶わなくなる。それは嫌だろう?」

 

しっかりと、諭すように語れば、デュランと名乗った少年は大人しくなり、自身の行った事への自覚が芽生えてきている。…理解の早い子で助かるな。

 

「だから、君が騎士団に入った暁には、正々堂々…模擬戦だが君の挑戦を受けよう。それでどうだろうか?」

 

これが私に出来る最大の落とし所だろう。

それはデュラン少年も理解しているらしく、反論はない。

 

「3年…3年後…ぜってーお前をぶっ飛ばすからな!」

 

「あぁ。私もぶっ飛ばされないように、精々鍛えておくよ。」

 

「余裕ぶってられんのも今の内だかんなー!!!」

 

まぁそんな捨て台詞を吐いて、デュラン少年は通りを全力疾走して去って行った。

何というか…嵐のような少年だったな。

 

「よう、お前さん、6年前に居たガキンチョじゃねぇか。」

 

背後からの声に振り向けば、6年前にこの場所で英雄王の石像を彫っていた職人の親方だった。6年と言う歳月を感じさせるほどに、彼は少し老け込んでいたし、見上げるほどだった身長差は、殆ど変わらない物になっている。

 

「まさかお前さんが本当に騎士に…しかもいきなり正騎士になるたぁ恐れ入ったぜ。」

 

「えぇ、正直私もこうなるなどとあの時の予想もしていませんでした。」

 

「っかぁぁぁ!立ち振る舞いも板に付いてるなぁ!」

 

年を食っているとは言え、まだまだ現役であるその腕で感慨深げに肩をバンバン叩かれては、正直痛いのだが…まぁそれを言うのは野暮と言うものだろう。

まぁそれでも、浅い付き合いとは言え、フォルセナで城内以外に自身が知る人間に会えるというのは正直嬉しいもので、私は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「しっかしお前さん、あの腕白坊主のデュランを宥めるたぁ、たいした奴だ。」

 

「…そこまで手を焼いていたのですか?」

 

「いんや、手を焼いてたわけじゃねぇがな。騎士になるって必死こいて訓練してるのは、皆微笑ましいって思ってたことだ。でもよ…お前さんが正騎士になったって噂になってから、その必死さが無謀に早変わりよ。ステラの奴も注意しても聞かねぇし…正直心配してたんだよ。まぁ、アンタに言われて少し大人しくなったら良いんだが…。」

 

「解りました…折を見て、少し様子を窺うようにします。」

 

「頼むよ。…まぁ親父のようになりてぇってアイツの思いも解るんだが…。」

 

「父のように?」

 

「おぉ。アイツ、黄金の騎士ロキの息子なんだよ。だから騎士になるって思いも人一倍強ぇのさ。」

 

成る程…立派な父の背を見たからこそ、それに対する憧れも強いというわけか。

 

「父の背、か。」

 

「ん?何か言ったかい?」

 

「いえ、何も。」

 

私にとって、父はもはや居るようで居ないような存在。憧れるであったはずの背ももはや朧気…否、今の私には不要のものだ。

私が目指すべき背は、王として、国の父として、相応しい威厳と偉大さを持った陛下なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、特に異常はないか。」

 

私が騎士になって1ヶ月。

今私は、単独任務でフォルセナ管轄下である土のマナストーンの調査をすべく、宝石の谷ドリアンに訪れていた。資料の通り、その宙に浮いた巨大な石は神秘的な光を放っており、見ているだけで吸い込まれそうになる。

マナストーンと言うのは、遙か昔に神獣という、世界を滅ぼしかねない危険な存在を封じ込めたもの…所謂、楔石のようなものだ。マナストーンが砕ければ神獣は復活し、世界は破滅へと向かっていくことになる。それがこのマナストーンだけではない。世界には、火、水、風、土、木、月、光、闇と、8つのマナストーンが存在する。その一つ一つに一体ずつ神獣が封印されているので、それらを各国が異常がないかどうかを見守っているのだ。

火はナバール。

水はアルテナ。

風はローラント。

土はフォルセナ。

木はディオール。

月はビーストキングダム。

光はウェンデル。

闇のマナストーンは所在が不明なので管轄できないのが不安なところだが…。

 

「…やれやれ、落ち着いて調査もさせてくれないか。」

 

背後の物音に私は剣を抜き、振り返る。

 

「おぉっと!待った待った!ワタシに敵意はありませんよ!紅蓮の騎士サン。」

 

その存在は、とても奇怪だった。

まるで道化師ながらも、不死者のような禍々しさを感じるような…。

 

「ワタシはアナタに会いに来ただけなんデス。ついでにマナストーンもね。」

 

「マナストーン…だと?ここはフォルセナ管轄下のマナストーンだ。部外者の立ち入りは禁じられている。」

 

「解ってますヨ。まあ…相も変わらず光ってて複雑になりますがネ。それが確認できただけで、ワタシ的にはオールオッケーですので。」

 

どうにもこの男の目的が読めない。

奴の言う目的を果たしたというが、それでも私は警戒を解かない。

 

「では、もう一つの目的を…。」

 

「私に会いに、と言ったな?お前のような知り合いは私にいないはずだが。」

 

「いえいえ、知ってるのは私が一方的に、と言うことです。…単刀直入に聞きましょう。

 

 

 

 

アナタは…どちらかと言えばワタシ達側のハズ…なのに何故、アナタはソチラ側にいるのですかネ?」

 

この男との出会いが、リリィ様との出会いと同じくして私の中の何かを変えた。

そう感じたのは、このしばらく後のことだった。

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