「私が…本来お前達の側…だと?どういうことだ?」
宝石の谷最奥で、私は道化師のような男と相対していた。
マナストーンの様子見と、私に会うため…そういう奴の言葉は胡散臭い。だが何処か、聞いてみたくもなる奇妙な感覚を覚えていた。
「えぇ、言葉の通りデスヨ。アナタは本来、ワタシと同じ側にいるハズなのです。なのにナゼか、そちら側に…。少し興味が湧きましてネ。こうして直接会いに来た次第なんデスヨ。」
「…お前の言う、側、だの何だの…イマイチ腑に落ちんな。なぜそうも言葉をぼかすのか。もし、私の周囲に害成すならば…。」
「オォット!ステイステイ!短気は良くありませんネ。言ったハズです。ワタシに敵意はありませんト。」
そうして、『死を喰らう男』と名乗った胡散臭い男は、その仮面のような骸骨をカタカタ鳴らしながら近付いてくる。
「アナタ…騎士になったトカ…。」
「…だとしたらなんだ?」
「正直………いや、ぶっちゃけ……いやいや、控え目に言って………………………………………………………………………………………………似合わないっス。」
「よし、斬るか。」
「NONONONO!!ウェイトウェイト!!べ、別に怒らせようと思ったワケじゃないデスヨ!?」
この男…かなりの反射神経なのか、私の最速の振り下ろしを白刃取りしている。…巫山戯た見た目だけではないようだ。
「ワタシが言いたいのは、アナタが傅く側…と言うのが合ってないように思うんデスヨ!」
「…何?」
「アナタはどちらかと言えば、支配する側……面に出さないだけデスがネ。」
「ふん、何を根拠に…。」
「つまりアナタはS!!と言うことデスヨ!」
「は…?」
私が?S?Sとはなんだ?
「しかも、自覚無く、面に出さない分、ワタシよりねちっこいデスネ。」
「いや…Sとは…なんだ?」
「知らない!?この世はSかMかに別れていると言うのに!?」
何を絶望しているんだこの男は…。
そこから奴による世のSM講座が始まった。
ちなみにこの男もS…らしい。
「おわかりデスか?アナタはS。つまり、ワタシ側の人間。
に!
も!
関わらず!なぜ騎士等という傅いて仕えるMの権化とも言わんばかりの存在になっているのデスか!?」
「知らん。」
「あぁ、何という素質への冒涜。SMの神に対する反逆心…いや、これもSたる所以デスか…!」
なんか、色々と危ない奴の様だ…。正直関わってはいけない気がする。
「アナタ!まだワタシを疑ってますネ!?」
「逆に疑いが晴れる要素が全くないんだが?それに、貴様の
「ワタシのザ・ワールドではありません!人は必ずSとMに別れているのデス!ワタシは一目見ただけでそれを見分けることが出来る!その証拠に!ワタシがアナタが思い描く人をSかMかに分別してあげマス!」
「は…?」
そう言うと奴は、そのいかにも怪しげに手を私に向けて翳すと、禍々しい呪文を唱えながら気持ち悪い指の動きで何かを探っている。
「見えました…!アナタ…大切な約束をしたお嬢さんがいますネ?」
「………!」
なぜコイツがリリィ様の事を!?
「なるほどなるほど…リリィ様…愛らしい名デス…。そのリリィ様は……ズヴァリ!」
「ず、ズヴァリ?」
「M!!つまり、アナタと相性バッチリ!」
わ、私とリリィ様が…相性バッチリ?
い、いやいや!この胡散臭い男の言うことだ…!信じるものか…!
「アナタとの約束……果たすのをいつまでも待つ…辛抱強いことデス…。健気ささえ感じるその我慢強さ…Mだと思いませんカ?」
くっ…た、確かに奴の言うことも最もだ…だが信じてしまっては…!
「つまり!彼女は攻めを待っているのデス!幼き日の約束!それを果たし、アナタがSとして攻めて来るのを!」
「な……なんだってーー!!」
何と言うことだ…
リリィ様は、私の攻めを…ずっと待ち焦がれている…!?
私は世界がひっくり返ったかのように感じた。
「ククク…どうやらアナタ、私と同じ側に着いたようデスね…?」
「あぁ……何やら私には見えていない世界があったようだ…感謝するよ、盟友。」
「いえいえ…アナタとリリィ様…上手くいくことを願ってますヨ…!では…。」
彼の言わんとすることを私が理解した事に満足した盟友は、まるで霧が霧散するかのようにかき消えた。
胡散臭いのは相変わらずだが、私は何か悟りを開いたかのように視界も、そして心も晴れやかだった。
「ふ、フフフ……リリィ様…私は必ず貴方の下へ馳せ参じます…!それまでどうか…お待ちくださいますよう…!フフフ…ハハハハ…ハァーッハッハッハッ!」
「へっくち!」
「あら?どうしたのリリィ。風邪?」
「い、いえ…何か…寒気が…。」
徐々に短くなってる気が…気のせいだな(現実逃避)