私は覚醒した。
リリィ様への攻めの奉仕という愉悦に。
だがこれはリリィ様にのみ相応しい。他者を蔑ろにするわけではないが、リリィ様が至高にして究極…。全てと言っても過言ではない。それは騎士として忘れてはならないし、リリィ様も望むところではないだろう。私は騎士道に準じているのだからな。
「…おい、アンタ。」
「ん?何かなデュラン。」
私は休暇に親方との約束を果たすため、デュランの鍛錬を見に来ていた。
彼が無理な鍛錬をしていると聞き、その歯止めと的確な鍛錬をさせるためだ。
最初の内は『お前の指図は聞かねぇ!』と意地を張っていたが、剣の振りの修正箇所を指摘、それを彼が試しに実践して動きが良くなった事に驚いていた。それ以来、口はまだ悪いが、指示には従ってくれるようにはなっていた。
「なんか…あったのか?」
「なにか、とは?」
「何か結構な頻度でニヤついてるからよ。正直、軽くヒくわ。」
「む…そ、そうか。」
いけないいけない。表に出ていたか。
ここはポーカーフェイスに務めなければならない。
周囲に不快感を与えるのは、私としても望まないからな。
「やはりキミには剣の才能が溢れているな。飲み込みが早い。」
「へっ…今更気付いたのか?俺は父さんを目指すんだからな、こんなとこで止まってられるかよ。」
「だが、少々猪戦法だな。ただのカカシ相手だから反撃はないが、対人戦ではそうはいかない。時には避けることを頭に入れておいた方が良い。」
「何言ってんだよ。ヤられる前にヤる!それに超したことないだろ?」
確かに彼の言うことに一理ある。迅速且つ的確に敵を仕留めなければならない状況も存在しうるのだ。
「護る戦いもあることを忘れるな。誰かを庇いながら、味方の到着を待たねばならない事もある。そうなれば、受け身の戦法も必要となるんだからな。」
「受け身の…?」
「その為にはまず、観察眼を磨け。通常戦闘に置いてお前の言う攻めの姿勢は確かに大事だろう。だがその中で、相手がお前の攻撃のスキに合わせてカウンターしてくる可能性もある。そうなったとき、お前は不利になる。」
「…だったら、反撃の隙なんて与えねぇ。護りを崩す力をぶつけりゃ良いじゃねぇか。」
「…まぁそれも確かにアリだが…。」
それを実際行うには、並大抵の努力が必要になる。力その物は勿論、あらゆる相手の動きに合わせた攻め柔軟性。フットワーク。諸々…。
…だが、彼がそれを成せるかどうか。それは神のみぞ知る…と言ったところか。
「ならばそれを成せるよう、しっかり鍛錬しろ。小手先の力だけでは、その戦法は極められないからな。」
「へっ…言われなくても…!」
やれやれ、こう言うのを脳筋とでも言うのだろうか。
とにかく攻撃にものを言わせた力押しは、時として恐ろしいものだ。だが中途半端なものでは巧くあしらわれる。彼がその一線を越えられるかどうか…。
(フッ……やはりデュラン、お前は楽しみな奴だよ。)
そう言って木刀を打ち付ける音を背に、私は城へと歩き出す。
夕暮れに少年の雄叫びが、何処までも高く響いていた。
そして、時はあっという間に過ぎ去った。
3年後。
フォルセナ城中庭
その中央で、重厚な鎧を着込んだ若者と、若草色の額充てと胸当ての軽装の若者が、互いの得物をぶつけ合う。勿論刃は潰してあるから、余程のことが無い限り致命傷にはならないだろうが、軽装の若者の一撃は、その限りではないように感じてならなかった。
「はっ!ブルーザー…腰が引けてるぜ?」
「抜かせ!これからよ!」
重装の男はその装備から想像できないほどの踏み込みで間合いに入ると、袈裟切りを放つ。剣閃も申し分ない。
だが、相手が悪かった。
「悪ぃなブルーザー!」
一閃
見事な横に切り払われた一撃は、重装の若者の脇腹を的確に捉え、その勢い余って鎧を砕いて吹き飛ばした。
その鎧の下から現れた肉体は決して柔なものではない。寧ろ屈強さを感じられるほどに鍛え上げられていた。そんな彼の鎧を、刃を潰した剣で砕き、剰え吹き飛ばす。
彼は…極めたのか…力の極意に。
「あいつに挑むまでの数え切れない夜がオレを叩き上げた。…それが俺の全てさ。」
恐らく意識を失っているであろうブルーザーは、進行員による担架で退場していく。
「勝者!デュラン!!」
若手剣術大会
その優勝者は、3年前から修行を見守ってきた彼が、ものの見事にもぎ取ったのだった。
「よう、ブライアンさん。」
表彰式を終え、私は兵舎への廊下を歩いて行くと、先回りしていたデュランに声をかけられた。
「デュラン…先ずは優勝おめでとう…と言っておこうか。」
「ハッ!…ま、礼は言っとくか。優勝なんざ、通過点に過ぎなかったけどな。」
優勝者である彼は晴れて準騎士になり、明日から轡を並べる同志になるのだ。少々ぶっきらぼうだが、最低限の礼節は持ち合わせるように口を酸っぱくして3年過ごしたので、多少はマシになっている。
「これで俺もようやく騎士の仲間入りだ。」
「そうだな。…これからもよろしく頼むぞ。」
「ま、よろしくされる前に、3年前の約束、覚えてっか?」
「あぁ、勿論…。修練所に行こうか。」
3年前…彼と交わした約束。
騎士になったら、彼の挑戦を受ける。
彼は目の前の目標としてそれを目指して3年の鍛練を積んだのだ。それを蔑ろには出来ないし、私は約束を違える気もない。
「約束を果たそうデュラン。騎士として、キミの挑戦を受ける。」