風の王国第二王女の苦労記   作:ロシアよ永遠に

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アンケートにお答えして、一位の彼女を出します!


『旧友との再会』

「お見苦しいところをお見せしました。」

 

「いえ、謝るのはこちらの方。貴方にかのような仕打ちがあったなどと気付けなかった私の不徳の致すところです。」

 

「勿体なき御言葉。」

 

両親が去り、静寂を取り戻した玉座の間。

再び私は傅き、謁見の続きとなる。

 

「所で、貴方が帰郷したのは、あの方々との決別が目的ではないでしょう?フォルセナの騎士が、アルテナにはるばると何故?」

 

「それについてはこちらを…リチャード陛下よりの親書に御座います。」

 

封をされた親書を懐から取り出すと、理の女王の側付きの兵士が受け取り、仲介として女王へと渡す。

封を解き、黙々とその内容に目を通す。大まかな内容は口頭で陛下より伺っていたが、実際は何が書かれているのか、子細までは知らない。

待っている間、再び沈黙となった玉座の間の時間は、体感としてゆっくり流れていた。

 

「リチャードの案は解りました。」

 

リチャードと、理の女王は陛下を呼び捨てた。

やはり陛下が理の女王の本名であるヴァルダと呼んでいたことから、止ん事無き方々のただならぬ間柄と言うことなのだろう。

 

「確かに今この世界はマナストーン…ひいてはマナの恩恵で成り立っています。そのマナストーンを護ることに、私は賛成です。」

 

「では…。」

 

「えぇ。リチャードの案、お受けします。その旨の返事を記すとしましょう。」

 

理の女王が片手を慎ましやかにあげれば、傍らの側付きが一旦退室し、ややあって書簡を(したた)める用具を持ってくる。

それを受け取った女王は、慣れた手つきで書簡に陛下への返事を認めると、側付きを通して私に渡す。

 

「確かに受け取りました。この書簡、必ずや陛下にお届けいたします。」

 

「えぇ、頼みましたよブライアン。」

 

私は書簡を懐に忍ばせ、立ち上がり、女王に一礼を…。

そう思った時だった。

 

「アンタは…。」

 

背後からの声。

遠き昔の面影を残すその声は、随分と懐かしい物を感じた。

 

「お久しぶりです、アンジェラ王女。」

 

振り返れば、何処か昔と変わらないあどけなさを残しながらも、大人の女性へと変わった昔馴染みが、玉座の間入口に立っていた。

 

「ブライアン…なの?」

 

「はい。9年ぶりですねアンジェラ女王。見違えましたよ。」

 

「っ……!」

 

瞬間、

王女が涙を溜めたと思えば、思い切り抱き締められた。

 

「バカバカ!急に居なくなって…アタシがどれだけ心配したと…!」

 

「…その件につきましては、申し開きのしようがございません。」

 

「で、帰ってきたら帰ってきたでちゃっかり騎士になってて…どーしたって言うのよ!?そもそも、大きくなりすぎでしょ!?この9年間で一体何があったの!?」

 

「お、落ち着いてくださいアンジェラ女王。一度に問われても…。」

 

「いきなり居なくなるからでしょバカー!!」

 

私の頬に、王女の鉄拳がめり込む。

なるほど、良い右だ。

感動的だな。

実に有効打だ。

お陰で何処からかピコーン、ピコーンという、警告音が鳴っている。

 

「アンジェラ?落ち着きなさいな。そう捲し立てては、知りたいことも知れませんよ。」

 

「ふぅ~…ふぅ~……そ、そうね。さぁブライアン!根掘り葉掘り聞かせて貰うわよ!」

 

私は為すがまま、アンジェラ王女に首根っこを掴まれ、ズルズルと連行されていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふーん、なるほどね。それで騎士に…。」

 

「えぇ。私としても思わぬ適性と言うものでしょうか。今となっては、感慨深いものです。」

 

中庭のベンチに案内されて、私は事の端末をアンジェラ王女に掻い摘まんで説明していた。やはり魔法王国の生まれである私が騎士をしているというのに驚きが隠せなかったようだ。

 

「王女の方はどうです?あれから…」

 

「………。」

 

尋ねた瞬間、さっきまで勝ち気だった王女はそのなりを潜めて押し黙ってしまった。

この様子だとやはり…

 

「…私、まだ使えないのよ魔法。」

 

やはりか。

思えば9年前、魔法が使えないのは、私に加えてアンジェラ王女もだった。だが、一般の家の出である私と比べて、アンジェラ王女は王家。蔑みの対象にはなっていなかった。良く一緒にホセ先生の折檻を喰らっていたのは懐かしい思い出だ。

だが、9年という歳月が経つにも関わらず、未だ魔法が使えないとは…。

 

「やっぱり…私って才能無いのかしら?」

 

やはり、彼女にとって魔法が使えないのはコンプレックスのようだ。母親が強大な魔力を誇る理の女王。その母も魔法に秀でていた人物であると聞く。それだけに自分自身の不甲斐なさに打ち拉がれているのだろう。

 

「ふむ…使えるようになる可能性を1つ、上げてもよろしいでしょうか?」

 

ここは私が助け船を出すのも良いかも知れない。

かつて私がリリィ様に導かれたように、私が困窮の中にある幼馴染みに光を示そう。

 

「使えるようになる可能性?」

 

「これは私の案なのですが、一度マナストーンに触れてみる、と言うものです。」

 

私は説明する。

魔法そのものがマナの流れを汲むものならば、マナの根源とも言えるマナストーンに触れることで、何らかの変化が現れるのではないか、と。

 

「今までマナストーンに触れられたことは?」

 

「…無いわよ。触れる必要なかったんだし。」

 

「ならば物は試しです。何もしないより、少しでもある可能性に賭けるのも、1つの選択肢ではないでしょうか?」

 

私はリリィ様にその道を示して貰い、今この場所に居る。ならばこそ、同じように悩む王女を導くのもまた、1つの恩返しとなるのではないだろうか。

 

「そうね。…まぁ確かに、何もしないで魔法が使えない日々に燻ってるよりも、可能性に賭けた方が良いわ。それに、もしそれでダメならダメで諦めが付くし。」

 

「ならば氷壁の迷宮へ?」

 

「もっちろん!アナタはエスコートね!まさか騎士ともあろう人が、魔法も使えないか弱い乙女を、道中モンスターが蔓延る零下の雪原を歩かせるわけ、無いわよね?」

 

ぐ…!た、確かに護衛は必要か…!しかし私は任務の途中…!それを…!

 

「折角フォルセナの騎士様がいるんですもの。その実力を見て見たいと思うのは道理でしょう?」

 

「私の方からもお願いしますブライアン。」

 

ことわりのじょおうが あらわれた!

 

「アンジェラが魔法の使えないフラストレーションをイタズラに発散するものだから、ほとほと手を焼いているのよ。それから解放される案なら願ってもないわ。」

 

「お、お母様!?」

 

「アンジェラ王女…そのお年でまだ御転婆でいらっしゃるのですか?」

 

「そ、そんな目で見ないでよぉ!?」

 

あれから9年も経って、それでもまだイタズラに精を出すとは…良くも悪くも変わらないのですね王女…。

 

「すこし任務からは外れますが、引き受けては頂けませんか?」

 

ここまで言われて断っては騎士の…ひいてはフォルセナの名折れだ。

 

「畏まりました。紅蓮の騎士の名において、この任を全ういたします。」

 

「決まりね。」

 

「よろしくお願いしますね、紅蓮の騎士。」

 

流石に日が沈んできているので出発は明日にすることにし、今日は休むことにした。早朝から零下の雪原を歩き続け、そのままの足で女王と謁見していたのだから、流石の私も休みたい。

 

「では城の客室にお泊まりなさいな。夕餉もすぐに用意を。」

 

「はっ!」

 

理の女王は侍者に命じると、足早に城内に姿を消した。

 

「いえ…そこまでご厚意に甘えるワケには…。」

 

「フォルセナの使者を持て成さず、町宿に泊まらせるなど看過できません。ここは、アルテナの…私の名を立てると思ってお泊まりなさいな。」

 

ここで断れば女王の厚意を無為にすることになる。となればここは二国の友好にヒビを入れないためにも…。

 

「畏まりました。そのご厚意にに甘えさせて頂きます。」

 

「結構。では部屋の準備が出来たら案内させますので、お待ちなさい。アンジェラ、行きますよ。」

 

「夕餉の時に冒険譚、聞かせてよね!」

 

やれやれ。

よもやアンジェラ王女の護衛任務とは…

明日の予定に少し不安を覚えながら、私は案内係が来るまでベンチで空を仰いだ。


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