風の王国第二王女の苦労記   作:ロシアよ永遠に

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『煩悩の矛先』

「リリィ、また槍が下がってるわ。」

 

「は、はい…!」

 

今日はアマゾネスの皆と槍術の練習。

隊長であるお姉様の指南の下、アマゾネス隊全員が槍の素振り……というか素突き?をしている。これがもう何百回と続いているので、腕に力が入らないようになり、その得物は徐々に下がってくる。

何もこんなに続けな苦手も良いのでは?と思うかも知れないけど、いつ、何時必要になるとも解らないので、こうして最大限の鍛錬を行っている。王女である私も、護身術として身に付けており、こうして訓練している。

のだけれど…。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「ほらリリィ、もう少しよ。頑張りましょう?」

 

正直、キツイ。

素振り1,000回は流石に。

腕の筋肉が痙攣してるし、息も絶え絶え。汗が流れ出て止まない。

これをお姉様は日課として熟しているのだから頭が上がらない。

 

「今日頑張れたら、明日は今日より楽に熟せるわ。だからもう少し頑張って、限界を超えましょう。」

 

お姉様は存外スポ根の気があるようで、結構根性論を交えた鍛え方だ。あながち間違ってはいないけど、当の本人にとっては苦境の極みである。

チラリと横目に見れば、エリオットがブライアンさんと剣術の鍛錬をしている。ブライアンさん曰く、エリオットは速さに重きを置いた剣術が向いているとのことで、軽い剣を用いて、瞬発力を出す練習。

スゴいなぁ…エリオットもブライアンさんも…。それに比べて…。

 

「リ~リ~ィ~?」

 

「はひっ!?」

 

まるで地獄の釜から響くような声に、思わず身体が跳ね上がる。視線を戻せば、目の前にどアップでお姉様がニコニコとしながらこちらを見ていた。でも、顔は笑っていても、目は笑ってないし、何か身体から黒いモヤみたいなものが滲み出てる。

 

「まったくもう…ブライアンさんに見とれるのも良いけど、まず自分の鍛錬を終えてからにしなさい。」

 

「わ、わたし、見とれてなんか…!」

 

「そうでなくても、鍛錬をサボってたら、ブライアンさんに愛想尽かされちゃうわよ?」

 

私が…ブライアンさんに…愛想を…?

何でだろう…頭を鈍器で思いっきり殴られたような感じになった。

そして胸の奥がモヤモヤする。

 

「え、えと…リリィ…?」

 

「はっ!?な、なんでしょうかお姉様。」

 

「い、いや…何かいきなり放心してたから…。」

 

「…気のせいです。さぁ!鍛錬を再会しましょう!おりゃぁぁぁっ!!」

 

ちょっとお姉様や部隊の皆にドン引きされているけど、とにかく今は思いっきり身体を動かして、そして叫びたかった。この胸のモヤモヤを晴らすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ…

ちょっと張り切りすぎたかな…。

頬を流れる汗を拭き取りながら、私は井戸へ向かう。

あれから体力を全て使い果たすつもりで槍を振り続け、結果、息をするのも辛くなる位にグッタリしていた。

そして多量の汗をかいたので、身体が本能で水を求めている。

 

「おや…リリィ様。リリィ様も水分を?」

 

先客がいた。

件の彼である。

折角、彼に対するモヤモヤを振り払ったのに、少しぶり返してしまった。

 

「え、えぇ……流石に喉が…。」

 

「では、少々お待ちください。」

 

彼は自身も水分をとって身体を休めたいだろうに、自身のコップを傍らに置いて井戸の水を汲み上げてくれる。

水を汲んだ重たいバケツをロープで引き上げると、新しいコップにその水を注ぎ、そっと差しだしてくれた。

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

「いえ、これくらい容易い御用です。」

 

汲まれた水をほんの少し口に含むと、冷たい地下水が喉を潤して、火照った身体を冷やしてくれた。

 

「今日の鍛錬、後半はいたく気合いを入れておられましたね。何かございましたか?」

 

「べ、別に……ちょっと、煩悩を払おうとした…と言うか…。」

 

「ほう…煩悩…ですか。」

 

ほんの少し、彼が煩悩と言う言葉に食いついてきた。その声は若干由々しきものを感じ取ったかのような重苦しさがあった。

 

「リリィ様に煩悩を振り撒くもの…。些か興味が湧きますね。」

 

貴方のことですけど、と頭で思えども口はしない。

そうでなくても、目の前の彼の状態に嫌な予感しかしないのだから。

 

「私のリリィ様の思いを釘付けにする羨ま……もとい、罪深き者を、今すぐ見つけて晒し首にして差し上げましょう。」

 

「え、えぇっ!?」

 

瞳孔の開いた目で抜剣する彼は、どう考えても危ない人だ。というか騎士道は何処へ行ったんだろうか?

 

「さぁリリィ様!罪深き者を教えてください。私がちょっとお話をしてきますので。」

 

「そ、それは……その…。」

 

私が言い淀むと、彼はその身に纏う闘気を滾らせる。目の前でそれに充てられて私は思わず尻餅をついてしまう。

 

「あぁ…なんとリリィ様は慈悲深いのでしょうか…、罪深き者を庇っておられるのですね。おいたわしや…。」

 

「あ、あの…ブライアンさん?」

 

「はい?何でございましょう。」

 

「裁こうとしている本人が、知らずに自分のその怒りの矛先になってたら、その人はどうするんですか?」

 

「ふむ…そうですね。…切腹でしょうか?」

 

「せ…っ?」

 

「切腹…つまり自害です。腹を切り、自らの罪を償うのです。」

 

「え………?」 

 

「しかし、どうしてその様な問いを…?」

 

い、言えない……言ったら本気でセップクとやらをしかねない。

 

「…まさか、私、でしょうか?」

 

何でこんな時だけ鋭いのだろうか。

ビクリと身体を震わせたことで、それが図星と察されたらしく、彼はややあって抜剣する。

 

「ちょっ!?ブライアンさん!?」

 

「離して下さいリリィ様!私はリリィ様の煩悩となってしまった!死してその罪を償います!」

 

もうセップクする気満々の彼に必死に抱き着いて、私は必死に止める。もうやだこの騎士。

 

「騎士道とは…死ぬことと見つけたりっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またあの2人はイチャイチャしてる……ほんとにもう…人目も憚らずに…。」

 

遠巻きに私は、井戸の傍でスキンシップ(超勘違い)をとる2人を、微笑ましく見守っていた。

あれだけリリィを思ってくれているのに、どうしてあの子は素直にならないのかなぁ。

 

「…ちょっと、羨ましいなぁ。」

 

何処かに、あそこまで私を一途に思ってくれる素敵な男性はいないかな…そんな思いが、私の頭に過った。

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