風の王国第二王女の苦労記   作:ロシアよ永遠に

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暑い!暑いから季節ネタぶっ込みます!


『泳ぎに行こう!』

「海だー!」

 

「ヒャッホォイ!」

 

いつもの露出の多いアマゾネス隊服を脱ぎ捨て、これまた局部と胸部を覆い隠すだけの布地(水着)に身を包んで、隊の皆は青々とした海原に向かって焼け付く白い砂浜を駆け出していく。

季節は夏

私達は今、天かける道の麓の砂浜に水練という名の海水浴に来ていた。

 

 

 

 

 

 

遡り数日前。

 

「ほらリリィ、矛先が地面にこすれているわよ。」

 

今日も今日とて槍の訓練。

前回に比べて熟せるようにはなったけど…

けど…

 

「あ…暑い…。」

 

「言わないで下さいリリィ様…余計暑くなります。」

 

ギラギラさんさんかんかんと射して降り注ぐ太陽光が、私達の肌を焼き尽くさんと照らしてくる。

うだるような暑さが、皆の体力を奪っていく…。

 

「…あれ…お母様…?」

 

「え、リリィ…?」

 

「お母様が…川の向こうで手を振ってます…」

 

「ちょっ!?」

 

にこやかに私を呼ぶお母様。

私は川の畔にある船に乗り込んで、いざ出航…と言うタイミングで、船は転覆してしまう。

 

「ダメよリリィ!そっち行っちゃダメ~!」

 

「はっ!?」

 

お姉様からの張り手で、私は再び炎天下に戻された。

ほっぺたがじんじんするけど、暑さのせいでさほど気にならなかった。

 

「ふむ…リース様。この炎天下の中では、些か皆様の集中力が散漫になっているので、訓練の効率も落ちています。」

 

「そうですね…どうしたものでしょうか。」

 

ブライアンさんの提言でお姉様も悩む中、熱心に素振りをしていたエリオットがふと剣を止めて挙手した。

 

「お姉様、本で読んだのですが、泳ぐという行為は、全身の筋肉を使用して効率よい鍛錬にもなりますし、呼吸法の練習にもなるとありました。」

 

「泳ぐ?」

 

私も、お姉様もブライアンさんも、首を傾げた。

 

「はい。それでこの季節ならば海に行くことで涼もとれて、全身鍛錬が出来る。この暑い時期にピッタリの訓練だと思うのですが…。」

 

「流石エリオット王子!」

 

「考えが柔軟!」

 

「素敵!抱いて!」

 

エリオットの提案に、アマゾネス隊の皆が賛成と食いついてくる。まぁ確かに魅力的な提案だとは思うけど。

というか誰ですか最後の人は。

エリオットを抱くなんて許しませんよ。

 

「そう、ですね。このままだと士気にも関わりますし。かと言って城を留守にも出来ませんので、アマゾネス隊を二班に分けて二泊三日の水練を行いましょう。」

 

『ヒャッホォォォォイ!』

 

…皆現金です。予定が決まった途端にハイテンションになってます。

……ですが。

 

「……海、かぁ…。」

 

ちょっぴり、憂鬱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海なんて何年ぶりだろう。基本的にローラント城周辺で生活を済ませている私達にとって、海はスゴく見慣れないものであって、とても新鮮だった。

隊の皆は我先にと、まるで下山の疲れなど感じさせないほどに元気なものだった。

 

「皆!準備運動を忘れてはダメですよ!」

 

が、やはりお姉様は真面目に隊長として皆の統率を図る。確かにいきなり泳いだりしたら、足がつったりしてとても危ないし。

飛び込もうとした皆はお預けを食らったかのような犬のようにしょんぼりしながら、渋々というようにえっちらおっちら身体を解し始める。

 

「すいませんブライアンさん、パラソルとかの設置をお任せしてしまって。」

 

「いえ。このような重労働は、私のような男にお任せください。」

 

でもこの短時間で来ている人数に合わせての数を設置しているのだから、どれだけ効率よく熟したのだろう…。

 

「それにしても…相変わらず見事な肉体ですね。」

 

「本当です!僕もブライアンさんのような強い身体になりたいです!」

 

「それほどのものでしょうか?そうだとしたら、日々の訓練の賜物でしょう。」

 

そう、今のブライアンさんは、トランクスタイプの水着1枚であり、その鍛えられた肉体を惜しげもなく披露しているのだ。

見事に割れた腹筋や、ガッシリとした二の腕や足。かと言って暑苦しさは感じられず、唯々逞しく、その整った顔つきも相まって女性受けしそうな身体付き。

アマゾネス隊の皆は例に漏れず、私も正直一瞬見惚れてしまっていた。

エリオットもエリオットで、幼いながらもそれなりにしっかりした身体付きになっているし、これも日々の訓練の恩恵なんだろう。

 

「ほらリリィ。そんなところで覗いてないで、出て来なさいな。」

 

「う、うぅ…。」

 

目の前には整った逞しい身体をしたブライアンさん。

そして美しいボディラインを緑のビキニで包んだお姉様。

正直、私は2人に比べて…

 

「やっぱり…無理ィッ!!」

 

「あっ!リリィ!」

 

見比べて劣っている私は、羞恥のあまり岩場の影から飛び出すと、踵を返して砂浜から全速力で逃げ出した。

 

「…あのタオル塗れの人型が…リリィ様?」

 

「…はい。恥ずかしいって…タオルで身体を隠して来てたんです。」

 

そんな2人のやり取りを耳に遺しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…ぐすっ…やっぱりダメです…。」

 

私はタオル人間のまま、バロの宿屋の隅で蹲っていた。

恥ずかしさのあまり逃げ出してしまい、こうして人目に触れる事もなく、唯々時間が過ぎるのを待っていた。

今更だろうけれど、でもやっぱりこんな身体付きを人目に曝そうなんて…。

 

「……着替えよう。」

 

そうだ、水着。

もう着替えて…こんな気分とはサヨナラしないと。

そう立ち上がったとき。

 

「リリィ様、こちらにおられましたか。」

 

ビクリと身体を震わせた。

一番聞きたくなかった声、一番見つかりたくなかった人。

 

「リース様が心配しておられました。戻りましょう。」

 

「わ、私は…行きたくないです。」

 

「???どうかされましたか?体調が優れないのですか?」

 

「い、言いません!」

 

こんな理由で行きたくないなんて解ったら、きっと笑われる。そんなの、絶対嫌だ…。

 

「体調が優れないのでしたら、そのようなタオルをお取り下さい。熱が籠もり、熱中症になりかねません。」

 

そう言うと彼は、私が身体を隠しているタオルに手をかける。

 

「ちょっ!?」

 

「申し訳ございません。ですが、ここは強引に行かせて頂きます。」

 

「きゃあっ!?」

 

抵抗も意味なく、あっという間にタオルは引っ剝がされ、私の身体は空気にさらされる。少し汗ばんでいたので、ヒンヤリとした空気が私を刺激する。

 

「う、うぅ~…!」

 

見せたくなかった私の身体。

お姉様に比べて凹凸の少ない身体付き。

そして何の変哲もない、白のビキニ。

そうでなくてもアマゾネス隊の皆と比べても見劣りするそれを見せたくなくて、タオルで隠していたのに…。私は思わず身を庇うように手で胸元を隠してしまう。

 

「………。」

 

ほらブライアンさんだって言葉を失ってる。

…幻滅、されたかな…。

 

「はっ!?…申し訳ございませんリリィ様。」

 

「…なんでブライアンさんが謝るんですか。私の方が謝らなきゃダメなのに…。こんな身体…。」

 

「何をおっしゃいますかリリィ様…。私が謝る理由…それは仕える私が、貴方に見惚れてしまったからに過ぎません。」

 

見惚れた?

こんな身体に?

 

「嘘、着かないで下さい。」

 

「天地神明に誓い、嘘偽りはございません。」

 

「お姉様の方が、女性らしい身体付きなのに。」

 

「確かにリース様は他の男性から見れば美しい方です。しかし、私にとってはリリィ様が美しいと感じたから見惚れたに他なりません。」

 

そう言うと彼は、私の目線に合わせるように膝を着き、そっと手を取ってくる。

 

「私の言う美しさ…それは貴女様が幼き日の私を救ってくれた、その心と想い、それに御身が合わさり、それが私の中で何よりも神々しく輝いているのです。それは何者にも否定は出来ませんし、させません。」

 

「あ、あんな小さい時のことを今言わなくても…!」

 

「あの時の事がなければ、今私はここにはおりません。その尊き心…それこそが私がリリィ様をお慕いする根元なのです。」

 

な、なんでこの人は歯が浮きそうな甘ったるいことを、まるで息をするかのように言うのかな…!?聞いてて恥ずかしくなってきた…。顔、絶対赤くなってるよね…?

 

「だからリリィ様…その様に御自身を卑下なさらぬよう。私の敬愛する姫君は、少々謙遜が過ぎるように思えます。」

 

「うぅ……も、もう勘弁してください…。」

 

さっきとは別の意味で恥ずかしすぎて…もう死んじゃいそう…。

 

「なのでリリィ様。皆と共に海を堪能いたしましょう。それに…お身体の事を気にされるのであれば、まだ希望はあります。」

 

「…希望?」

 

「えぇ。」

 

希望

とても惹きつけられるその二文字。

それを彼は夏の太陽に負けないほどに眩しい笑顔でこう言った。

 

「リリィ様はまだ15歳、十分これからの成長の余地はございます。」

 

気休めになるのかならないのか解らない希望だった。

 

「その為にも、健康的な状態を保つに越したことはありません。」

 

「ふぇっ!?」

 

いきなりだった。

持っていた手を引き寄せると同時に、もう片方の手を肩に回され、思いっきり抱き寄せられた。

今私の耳元には、彼の胸筋がががががが…!

 

「失礼いたします。」

 

そして流れるように手を持っていた方の手を膝裏に入れて、横抱きにされる。

こ、このシチュエーションからこれは正直…女の子として嬉しいけど…恥ずかしいというか…。

 

「皆のところへ戻り、共に海を楽しみ、泳いで下さい。リリィ様が楽しんでくれれば、私は何も要りません。」

 

「ブライアンさんは…どうするんですか?泳がないんですか?」

 

「…………私は、皆様が楽しまれているのを見守っているだけで、十分でございます。」

 

何だろう今の間は……。

…もしかして。

 

「もしかしてブライアンさん……泳げない、とか?」

 

「………………。」

 

図星っ!?

 

「も、申し訳ございません。そ、その…水面に浮く…と言うのはどうしても出来ないもので…。」

 

「ふふっ…!意外です。ブライアンさんにも苦手なものがあったんですね。」

 

「私とて人間です。苦手なものの1つや2つございます。」

 

ブライアンさんの弱点…ちょっと予想もしていなかったけど、何だか彼を少し知ることが出来た気がする。そう思うと嬉しくて、自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「じゃ…泳ぐ練習、しましょうか?」

 

「い、いえ、私には皆様を見守ると言う重大任務が…。」

 

「物は試しです!さぁ、行きましょう!」

 

「…はい。」

 

いつもとは攻守反対だけど、でもたまにはこう言うのも悪くないなって感じた。

それと…

ほんの少し、自分に自信が持てるようになれた…そう思う。

だから、

 

ありがとう、ブライアンさん。

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