どうも
現在時刻は放課後なのですが、喉が渇いたので学園内の自販機に寄ってから帰ろうと思ったところで、妙な人を見かけてしまいました。
場所は学園内の噴水広場。
クソデカ噴水の前で、一人の少年が膝をついてうなだれています。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した |
ヤバイ(確信)
いや本当にやばい。さっきから無数の『失敗した』と書かれた吹き出しが俺を襲ってる。暴走したピッチングマシーンみたいに情け容赦なく吹き出しファンネルで攻撃してきてる。当たったら死ぬ。
ていうかこんな場所で何してるんだ彼は。
見た感じ悲劇の主人公っぽいのは分かるけど、この噴水広場ってふつうに人通りが多いし、あぁやって膝立ちで絶望してるとすっげぇ目立つんだよな。周りの人もめっちゃ見てるもん。奇異の目にさらされまくってるよ可哀想だからやめたげてよぉ!
だいたい、失敗したってのはどういう事だ。
フキダシが出るってことは主人公なんだろうけど、そもそも彼は何のジャンルの主人公なんだろうか。
これで──五回目。何度時間を繰り返しても、何回この日をやり直しても、あの子はヤツに連れていかれてしまう。 |
そして俺は力を奪われる。同じだ。結果は全部同じ。過程をどれだけ変えたところで、俺の求める真実に到達することは決してない |
ループ系の主人公だった。聞く限り、彼は今日を五回もタイムリープ能力でやり直してるらしい。主人公って大変だな……。
「むむむ……」
しかし、だ。関わるとロクなことにならなそうだってことは理解してるけど、流石に往来で打ちひしがれている少年をそのままにしておくことは、この俺にはできない。
せめて人気のないところで泣いてもらわねば。
「ぁ、あの、君。だいじょうぶ?」
「……ぇ?」
「えと、具合わるいんでしょ? 付き添うから、いっしょに保健室いこ」
よしよし、ごく自然な対応ができてるはずだ。
俺は……アレだ。一瞬だけ映るモブ。明らかに周囲から浮いた行動を取ってる主人公を見かねて、ちょっと手を差し伸べるタイプのアレです。
──あぁ、また彼女に助けられてしまう |
もう面識あんのかよクソ。前の時間軸の俺なにしてんの?
……いや、落ち着け。俺にループ前の記憶はないが、きっとその時も同じようにこうして声を掛けただけに違いない。
本格的に関わったら面倒な事なんて自分が一番よく分かっているはずだ。一周前の俺だとしても結局は俺なわけだし、必要以上には接触しないという冷静な判断をしてくれたと思う。
かなめ。如月かなめ。どの世界線でもオレを見捨てずに助けてくれる、唯一の味方。 |
助けすぎィ! 別の世界線の俺マジでなにしてんだよ……。
なんだ、俺とこの子は因果関係で繋がってるとかそんな感じか。どんな状況でも俺が助けに来ちゃうパターンなのか。
この子に巻き込まれて死んだ世界線とかもありそうで怖いなぁ。
──え、待って。もしかして俺、ヒロインだったりする感じ?
オレを励まし、オレを受け入れ、オレと |
ループ前の俺メス堕ちしてるぅッ!? タイムリープ系は初めての遭遇だけど、まさかのエロゲタイプかよちくしょう……!
い、いやだ。メス堕ちなんてしたくない。もう中身は男なんだって割り切ったあとだぞ。いまさら女の子にシフトしてたまるか。
ていうかルート次第じゃこの男の子と体の関係を持っちゃうの怖すぎる。俺ってそんなチョロいのか。チョロインなのか。
くっ! いますぐこの場から逃げなければ──ッ!!
だが、もう彼女を巻き込むワケにはいかない。オレ一人でなんとかしなきゃならないんだ。たとえオレは死ぬことになったとしても── |
ええぇぇ待て待て待てッ!?
死ぬのは流石にダメ!!
「まっ、待って!」
「……き、如月……っ?」
「話は聞くから、死ぬとかやめて……っ!」
「……ぉ、おまえ、まさか──」
◆
どうも、如月かなめです。
現在時刻は放課後なのですが、喉が渇いたので学園内の自販機に寄ってから帰ろうと思ったところで、妙な人を見かけてしまいました。
場所は学園内の噴水広場。
クソデカ噴水の前で、一人の少年が穏やかな眼差しで俺を見つめているのです。
……えっ、なに。こわっ。ストーカー?
……やっと。やっとだ。ようやくたどり着けた。オレは成し遂げたんだ。 |
あっ、吹き出し出てるじゃん。この子主人公か。
ストーカータイプの主人公と遭遇するのは初めてだけど、これって今すぐ逃げた方がいいのかしら。
あいやでも、確定ってわけでもないしな。
もう少し様子を見るか。
かなめ──きみのおかげだ |
俺のおかげらしい。身に覚えがねぇ。
何度タイムリープをしても、いつ如何なるときもオレに手を差し伸べてくれたきみのおかげで、ようやく答えを得ることができた。望む未来を手に入れられた。 |
──もっとも、この世界の君は、そんなことを知る由もないのだが |
いま知りました! あの男の子は何回もタイムリープしてて、んで何回も俺が助けてあげたんですね? やるな俺~っ! えらい!
なるほど彼はストーカーでもなんでもなくて、一周前の俺を知っている主人公なのね。そこで俺はお助けキャラとして彼に協力していた、と。
主人公で溢れるこの世界じゃ、時空間を遡る人物がいたとて不思議ではない。そこで俺が彼を助けたのも何かの縁なのだろう。
思えばかなめには迷惑をかけてばかりだった。前回だって噴水の前で絶望していたオレを周囲の目を気にして保健室まで連れていってくれたりだとか、なし崩し的に事件解決に協力させてしまったりだとか……本当に頭が上がらない |
よいよい、感謝されるのは嬉しいけど謝罪は不要だぜ。実際いまの俺はなんもしてねぇしな。
いやぁ……良いことするってのは気分が高揚するな。
グッジョブ、一周前の俺。帰るまえにケーキでも買って自分を労ってやろう。
それに──あの唇の感触も、未だに脳裏に焼き付いて離れない |
んっ。妙な吹き出しが出てきたな。唇の感触?
最後のタイムリープを行うその瞬間に、 |
おいおいおいおいメス堕ちしてるぞ俺どういうことだ。
……まて。待て待て。
協力するってのはわかる。スゲーよく分かる。俺は困ってる人を見かけたら身の丈を考えずに声かけちゃうタイプだからな。偽善者って言われてもしょうがないが、困ってる彼を見かねて助けに入る俺の姿は容易に想像できるってモンだ。
だ、だが『キス』って部分はどういう事だあぁぁ~っ!? 中身が男の女である俺が、よりにもよって男子にキスなんかするかっつーのよーーッ!!
あと『
「うっ、うぐ……!」
動揺で膝をついてしまった。これが本当の精神攻撃……ッ!
「か、かなめっ!?」
人の名を! ずいぶん気やすく呼んでくれるじゃあないか!
おまえこの世界じゃ初対面だぞ!? やめろこっち来るなぁ! 俺のそばに近寄るなァーッ!
「大丈夫か、かなめ!」
「ヒッ……!」
おっ、堕ちる! この如月かなめがメス堕ちしてしまうッ! こんな名前も知らない赤の他人にヤられてしまうぅーッ!♥
逃げなきゃッ!!!!!!!!!!
「お、お構いなく! わたしは大丈夫ですから! じ、じゃあっ!」
「え……まっ、かなめっ」
呼び止めようとする彼を振り切ってその場を駆け出す俺。たとえここが彼にとってのトゥルーエンドの世界線だとしても、俺にとっちゃそんなの関係ない。
残念ながら奇跡的に別世界線の記憶を取り戻して感動の再会をするだとか、そんなエンディングはないのだ。ビターエンド上等。キミは俺に嫌われつつも世界を救ったことを誇りにして生きてくれ。
「はぁっ、はぁっ……」
逃げた。
俺は逃げた。
彼の前から姿を消した。
「お、俺はわるくない……」
そうだ、俺は悪くない。俺は彼の知る物語を体験していないのだ。
だから俺には関係ない……そう、思っているのに。
どうしてか罪悪感を抱いている。
彼に対して、このままでは良くないと心の中で理解してしまっている。
「……う。うぅ~……!」
やっぱり、戻ろうかな。逃げたことに関してぐらいは、謝ろうかな。
流石に知らない子と感動の再会ができる程ヒロインとしての覚悟はないから、謝るだけ。今後も顔見知り程度に収めれば大丈夫なはずだ。
よ、よーし、戻る。戻ろう。それで謝ったら帰ろう。
彼も主人公だしここまできっといろいろ頑張ってきたのだ。別の俺とはいえ、やっぱり俺が関わったのは事実だし、うやむやにして終わりってのはダメだろう。
「あ、いた……!」
まだ噴水広場のベンチに座ってる。
い、イクゾー!
かなめにはすっかり嫌われてしまったが、これはきっと今まで彼女を巻き込み続けた俺への罰なんだ。潔く諦めよう。 |
それに──この子を助けることができた。いまはそれでいい。 |
──あの男の隣に、ショートヘアのロリっ娘が座っている。
「よかったの? あの子、ループ前は恋人だったんでしょう?」
「恋人じゃないさ。……それに、全部なかった事なんだ。覚えてるのはオレとお前だけ。俺たちが口外しないかぎり、この世界じゃ何も起こらなかったし、あの子もオレとは関わっていないも同然だ」
悟ったような顔で、ロリに語り掛けている。
「それでいいの?」
「いいんだ、それで」
「……そっか。じゃ、もう帰ろ」
「あぁ。オレとおまえの家に──帰ろう」
二人で手を繋いで、ゆっくりと噴水広場から離れてゆく。
彼らの家がある方へ。
帰るべき場所へ──二人で歩んでいく。
いや俺以外にもヒロインいたのかよッ!!? クソッ!! 死ね二股野郎!!! これだから男はァ!!!!!
基本的にはTSっ娘視点の日常系で進んでゆきます〜