主人公が多すぎる   作:バリ茶

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相棒と共に、というお話。



バディ・ゴー!

 本日は太陽が眩しい晴天のもと、トマルを連れて近場の海に訪れていた。

 

「おーい、シーさーん」

「……んっ」

 

 トマルが指差した方向に目を向けると、少し離れた先から見慣れた背びれが近づいてくるのが見えた。アレはシーさんで間違いないだろう。

 数日前のハーレム主人公くんお助けイベントの際に、普段以上の力を発揮して張り切ったシーさん。

 あの時はかなりの時間地上で戦い続けていたため、実際のところは限界ギリギリだったのだ。今こうして海にいるのは療養も兼ねている。最近は一緒に戦ってもらってばかりだったからシーさんはしばらくお休みだ。

 溟海の守護神たるシーさんのホームグラウンドは当然海。怪我の治療や英気を養うために海で体を休めているんだから、会うためにわざわざシャークブレスでこっちの方に呼び出すわけにもいかない。

 

 というわけで、彼への手土産として生肉を持参しつつ、こうしてトマルと共に彼を労いにきた次第というわけだ。

 

「シャーク!」

 

 

かなめ、トマル。わざわざありがとう。

 

 

 プカプカと浮かんできた吹き出しを拾い上げると同時に、シーさんが水面から顔を出してきた。話に来ただけだからわざわざ上陸してもらうまでもない。

 

「お礼を言うのはこっちだよ。シーさんのおかげで先輩の助けになることができたんだ。改めて礼を言わせてくれ」

『YES』『YES』

「シャッ、しゃっ」

 

 トマルはすっかりシーさんに懐いているようで、頭のてっぺんのアホ毛を揺らしながら興奮した様子で袋の中から生肉を取り出し、彼に一枚ずつ丁寧に肉を献上し始めた。絵面は完全に水族館のエサやりだけど、お互い気にしてないようだし問題ないな。

 

何だか海にいるのがとても懐かしい気がするよ。水生生物なのに。肉うま。

 

「ホント、毎回毎回地上に呼び出しちゃって悪いな」

「シャーク……」

 

 シーさんの背びれがくたぁっと若干くたびれている。どう考えてもここ最近の彼は多忙すぎたし、流石のシーさんも此度の激務には些かこたえたらしい。本当にお疲れ様だ。

 

「これからはこっちから顔を出しに来るからさ。シーさんはなるべく海にいてくれよ」

 

うむ、申し訳ないがしばらくは水の中で休養をとらせてもらおう。……あぁ、そうだ、次きみたちが訪ねてきたときは、何かご馳走しようか。

 

 ご馳走て。生魚とか、カニとか海藻とかかな……?

 まさかサメが料理できるとは思えないし、何かしら海の幸を恵んでくれるんかな。

 

簡単な料理ならできるぞ。この前港で味噌汁の作り方を教わったのだ。それでよければ。

 

「えぇ……」

 

 マジかよ調理器具とかどうやって持ってるんだ。ていうかサメに料理を教える港の人間は何者なの……?

 

「……っ!」

 

 隣を見てみれば、トマルが目を輝かせてワクワクしている。確かにサメが作る料理って聞いたら、好奇心は刺激されるかもしれないけども。

 

「飲んだらおなか壊したりしない……?」

 

キミ、ときどき失礼だな?

 

 いやだって、ねぇ? 

 ……まぁ、シーさんのことだし大丈夫か。

 トマルが期待しているところ悪いが、味噌汁は次回の楽しみにとっておくことにしよう。

 

 と、まぁそんな感じでほのぼのと三人で、波打ち際の海岸で過ごしていた……のだが。

 

 

 

 ──突然海が爆発し、海底から巨大な()()が出現したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 深淵より復活し海上に出現したバケモノの名は『ゴッド・オクトパス』。

 

 三万年前に、古代の海の守護神によって海底深くへ封印されたと言われる”邪神”こそがヤツなのだという。

 そして前回シーさんが倒したあの巨大タコはヤツの眷属──つまりただの手下であったことが判明した。おそらく巨大タコの復活は、この邪神の復活の前触れに過ぎなかったのだろう。

 海の守護神たるシーさんが本気を出してやっと倒せた相手……それを手下に持つ存在がどれほど強大な存在かなんて、ちっぽけな人間でしかない俺には想像もできなかった。

 

 

「シャアぁ゛ッァ!」

 

 

──ぐわああァぁぁッ!!

 

 

「シーさんっ!!」

 

 

 太古の邪神が蘇ったことにより世界は混沌に包まれる。

 空は暗雲に支配され激しい雷光が迸り、吹き荒れる豪雨は大海に津波を齎している。

 海岸近くの崖から俺とトマルが見ている先には、巨大化してもなお神代の怪物には遠く及ばず蹂躙されるだけの海の守護神の姿しか映されていなかった。

 

 あのタコ、強すぎる……っ!

 

「無事かシーさんッ!?」

「シャ……っ、グッ」

 

 ゴッド・オクトパスの触手による強力な一撃を浴びてしまったシーさんは大きく吹っ飛び、俺たちのいる崖の海岸に激突。

 息も絶え絶えという状態で、俺たちが駆け寄った時に聞こえてきたのは苦し気な唸り声だけだった。

 

「シーさんでも敵わないなんて……あんな規格外のやつ、どうすれば……!」

 

 古の神による天候操作で周囲は完全に巨大台風の渦中と化していて、巨大ロボットを持つ寝子ちゃんを呼ぼうにも電波が遮断されて連絡ができない。

 なにより……寝子ちゃんのお爺さんには悪いけど、とても人間の兵器で対抗できるような相手とは思えない。

 巨大化したシーさんでさえ、あの神タコからすれば子供サイズなのだ。それだけであの触手野郎に挑むことがいかに無謀なのかが嫌でも自覚できてしまう。

 

 勝ち目が……ない。

 

「俺たちの世界は……ここで終わってしまうのか……」

 

 ガクッと膝から崩れ落ち、地に手をついて絶望する。……なんかトマルも真似してる。ちょっとふざけとる場合じゃないよアンタ。

 いや本当に無理でしょコレ。あんなバケモンどうしろってんだ。

 空斗先輩のラスボスとかも確かに強かったけど今回は文字通り次元が違うんだぞ? 人間じゃなくてマジもんの神だ。勝てる術が見つかんねぇよ。

 

 もうダメだ、おしまいだぁ……。

 

 

──らしくないぞ、かなめ。

 

 

 コツンっ、と頭に落ちてきた吹き出し。

 そしてまた一つ。

 

時空獣と戦った、最初に出会ったあの時も……そして卯月空斗を助けた時も。キミは諦めず傍観せず、自分にできることを必死にやって、そして勝利してきたじゃないか。

 

 そんなこと言われても。

 今回は規模が違いすぎるし……。

 

そんなことはない。皐月かなめと戦った時だってギリギリの戦いだったが、我と君の力を合わせることで勝利することができた。シャークアタックなんて必殺技、きっと我だけでは生み出せなかっただろう。

 

「そ、それはそうかもしれないけど……っ」

 

──かなめ。

 

「っ……」

 

 なんとか態勢を整えたシーさんと目が合う。

 その黒いつぶらな瞳は、真っ直ぐ俺を見つめている。

 俺を──信じてくれている。

 

 

君と我が合わされば……きっと。きっと地球の危機だって救うことができるのだ。我たち相棒(バディ)なら──必ずっ!

 

 

 シーさんの強い確信。俺への信頼。

 こんな絶望的な状況でさえも、彼は俺と一緒なら世界を救えると豪語してみせる。

 

 

「……そっか」

 

 

 二人一緒なら、必ず。どんな危機的状況だろうと覆せるんだと、そう相棒が言ってくれている。

 

 だったら答えはひとつだ。

 正直無理ゲーだとは思ってるけど、シーさんが俺を信じてくれているのなら。

 俺もシーさんを信じる。

 

 彼と自分を──信じるッ!

 

「よぅし……いくぞ! シーさんッ!」

「OKっ!」

 

 呼吸を合わせて。

 互いを信じて。

 

 

 

相棒と共にッ!(バディ・ゴーッ!)

 

 

 

 何かしら奇跡が起きたりしないかなぁと思いながら二人で一緒に叫んだ、その瞬間。

 俺の腕に装着されていたシャークブレスから生じた青白い稲妻と眩き閃光が俺たちを包み込み──

 

 

 ──気がつけば()()()()、ゴッド・オクトパスと同サイズの超巨大なサメの姿に変身していたのだった。

 

 

 

 

(こ、これは一体……!?)

 

 何がどうなってんだ。下を見れば海やめっちゃ小さくなったトマルがいて、目の前にはあのゴッド・オクトパスが鎮座している。

 確かに何かしらの奇跡を求めて勇ましく叫びはしたけど、自分がスーパージャンボなサメに変身するなんて予想できなかったよマジで何これ。

 

(ふむ……どうやら我ら二人は合体してしまったらしいな)

(合体ィ!? なんじゃそりゃ!?)

(おそらくシャークブレスに宿った溟海のパワー、そして無垢なる少女(トマル)の願いが奇跡を起こしたのだろう。これは海の守護神にのみ許された地球からの贈り物だ)

 

 な、なるほど……。

 つまり俺たちは地球パワーで合体して更に超巨大化したってことか。地球ってスゲェ……!

 よし。こうしてサイズやパワーで同じ土俵にたったのなら、古代の邪神とだって戦えるぜ! もうそっちの無双タイムは終わりだァ!

 

(むっ、見ろかなめ。ゴッド・オクトパスが急にエネルギーを充填し始めたぞ)

(多分俺たちにビビってるんだろうな。必殺技で早期の幕引きを図るつもりだぜ、アイツ)

 

 ゴッド・オクトパスは突如現れた同サイズの敵に狼狽えているのだろう。俺たちの鋭利な牙に触手を噛みちぎられる前に、究極の邪神ビームでこっちを焼き払おうとしている。

 丁度いい。こっちもこんな戦いはさっさと終わらせたいと思ってたところだ。必殺技対決なんて分かりやすくていいじゃねぇか。

 

(かなめ)

(あぁ、俺たちも特大の必殺技をブチかましてやろう)

 

 超巨大サメの口を開けると、辺り一帯の海水が竜巻の如く収束していく。そこから更にバチバチと青白い電流が迸り、エネルギーがどんどん蓄積されていく。

 

(シーさん! チャージしてる海水竜巻の中にサメがたくさんいる! なにこれ!)

(あぁ……どうやら全海域のサメの同志たちが集結してくれたようだ。ハイパーエネルギーと共に大量のサメを伴ったトルネード──シャークネードを発射(ブラスト)すれば、流石のあのタコ畜生でも粉微塵に粉砕できることだろう)

 

 戦っているのは俺たちだけじゃなかった。この蒼い星を救うために世界中のサメさんたちが力を貸してくれている。共にこの星を救おうと、あの邪神を討ち取ろうと皆が奮起してくれている。

 世界中が俺たちの背中を押して……勝て、と。

 

(あぁ……やってやるぜ!)

(皆の想い、確かに受け取った!)

 

 瞬間、天より雷が俺たちに直撃し、電撃パワーまで蓄積された必殺技のエネルギーはもう万全だ。

 そしてソレに慌てたゴッド・オクトパスが充填していたエネルギーを一気に解放し、俺たちへ向けて古代邪神の最強最大の光線技を射出してきた。

 

 

 呼応するように、俺たちも口を開いて解き放つ。

 

『シャークネード───』

 

 身勝手な邪神の蹂躙を決して許さない、この時代に生きとし生ける者たちの願いの結晶をいま──ひとつにまとめてブッ放つ!

 

 

 

『ブラスタァァァアアア──ッ!!!』

 

 

 

 咆哮と共に放たれた、眩き放物線を描く一条の光は、相対するあらゆる全てを打ち砕く。

 激流、鮫、雷撃が合わさった究極怒涛の一撃が邪神の肉体を貫き、喰らい、焼き尽くす。

 

 

 地球に生きる生命全ての怒りが具現化した荒波の先に残ったものは、大量のサメによって食い千切られたタコの足と、電撃によってそれらが加熱されたことで生じる、こんがり焼けたおいしそうな香ばしい匂いだけであった。

 

 





※トマルは安全な場所でピョコピョコ跳ねて勝利を喜んでいるようだ。
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