主人公が多すぎる   作:バリ茶

22 / 34

前回までのあらすじ:デカいサメになってデカいタコを倒した。



トマルちゃんは見た・その2

 

 

 時は少し遡り、シー・ワズと合体したかなめが必殺技『シャークネード・ブラスター』のエネルギーを充填している場面まで戻る。

 

 古代の邪神と現代の守護神がバチバチの神話バトルを繰り広げている中、かなめが連れてきた無表情ロリっ娘ことトマルは、攻撃の余波が来ても大丈夫な場所である岩陰にかくれていた。

 

 かなめとシーなら勝ってくれる。

 そう信じて勝利を祈っている無垢な少女──そのすぐ近く。

 

 なんと必殺技の余波を浴びてしまいそうな海岸付近に、神話バトルとは関係のない物語を展開している登場人物が三人ほど現れたのだった。

 

「アハハハッ! 伝説の魔法少女もコレでおしまいだねぇ!」

「ぅ、ぐっ……」

「ユリお姉ちゃん!」

 

 トマルが目撃したのは魔法少女系主人公こと水無月ユリ。

 そして彼女が背中に隠して守っている謎の少女と、その二人を前にケラケラと調子よく笑い声をあげる女だった。

 

 水無月ユリと敵対しているその女の名は『百合(ゆり)』。

 彼女は悪の魔女に敗北して洗脳されてしまった世界線──パラレルワールドからやってきた『別世界の水無月ユリ』だ。

 

 大勢の犠牲を払いつつも都市部を救ったこの世界のユリとは違い、別世界の百合は既に五桁にも及ぶ数の人々を虐殺しており、洗脳が解けたあとも心の底から魔女に忠誠を誓ってしまった正真正銘の悪の魔法少女なのである。

 

「フフフ……いやぁ驚いたわ。アタシと違って都市を一つ救ってみせた世界線の自分って聞いてたモンだから、結構期待してたんだけど……こーんなに弱かったなんてね!」

「……そうね、私も驚いたわよ。別の世界とはいえ、あんなアバズレ魔女に忠誠を誓う程、私の心が弱かったなんて、ね」

「……あぁ?」

 

 両者とも相手を睨みつけながら軽口を叩いてはいるものの、実際は百合のほうが優勢だ。

 ユリはかつて命を散らした仲間の忘れ形見である少女──相棒だった魔法少女の妹こと『盾子(たてこ)』を庇いながら戦っているため、実力が同等である分身軽に戦える百合の側に軍配が上がるのは必然。

 

 このままでは負けてしまう──ユリが首筋に汗を滲ませて悔し気に歯軋りをした、その時だった。

 

 

 状況は一変する。

 

 

『うおおおぉぉぉぉッ!! シャークネード・ブラスタァ──ッ!!!』

 

 

 巨大なサメが台風の如きエネルギーを放出し、それが巨大タコの必殺技とぶつかり合って一瞬の拮抗。

 サメのパワーが勝ってタコの必殺技を打ち砕く過程で、その周囲にはトルネードが発生した。

 安全圏に退避しているトマルはともかく、無防備な海岸で対峙している魔法少女たちは必殺技の余波に巻き込まれること必至。

 

「うっ、おっ!? こっちにも衝撃がきたァ!?」

 

 狼狽える百合。別世界の彼女は魔女に心酔して以降、心に”危機感”というものを抱いた事がなかった。盾子を守る都合上ユリが自分よりも弱かった事も、彼女の慢心に拍車をかけていた。

 故に焦る。咄嗟の判断が遅れる。()()()()()()

 

「盾子おねがいっ!」

「うんッ!」

 

 ユリの指示に従い、盾子は自分の名を冠する『盾』という文字にベストマッチした能力である『バリア』の生成を行った。とても普通の人間にできる芸当ではない。

 

(ぁ、あの女の子は……!)

 

 トマルはそれを見てようやく思い出したのだ。盾子という少女が、自分と同じく悪の組織によって体を作り変えられた改造人間であったということを。組織の奴隷時代、盾子とトマルは監禁部屋が隣同士で、ほんの少しだけだが交流があった。

 自分と同じく組織の奴隷だった少女が見つけた希望は、奇しくも自分を救ってくれた如月かなめと同じ学園に在籍する少女であったらしい。

 トマルは盾子に親近感を抱いた。

 

「うぎゃああぁぁっ!? とっ、飛ばされるゥゥーッ!!」

 

 盾子のバリアによって暴風から身を守ったユリとは対照的に為す術もなく上空へ吹き飛ばされる悪の魔法少女。

 都市部に生きる多くの民間人を救った不屈の英雄たる魔法少女は、その隙を逃さない。

 巨大なサメとなって『神』と戦っている、大切なバイト仲間の少女が与えてくれたこの好機を──

 

「ありがとうかなめ、チャンスをくれて……ッ! ──コレで最後だ! もう一人のアタシッ!!」

「なっ、なにィーッ!?」

 

 ユリは魔法ステッキを天にかざし、悪に堕ちたもう一人の自分を止めるため──最後の一撃を解き放つ。

 

 

ぶっ叩いてブチ壊す(レッキング・バスタァ)──ッ!!!」

 

 

 ステッキから放たれたその禍々しい稲妻は、魔法少女という名には到底似つかわしくない程の”殺意”を秘めて、悪堕ち少女に直撃した。

 

 

 

(す、すごい……)

 

 ──過去に倒した魔女との因縁に今度こそ決着をつけ、何も失わずに仲間の忘れ形見を守り通してみせた少女の勇姿を、トマルちゃんは岩陰からしかと目に焼き付けたのだった。

 

 古代邪神と世紀の大決戦を繰り広げた二名の救世主の伝説と、最恐最悪の魔女の残滓を打ち滅ぼして人知れず世界を救った英雄の戦いを同時に目撃した人物は、後にも先にもこのトマルちゃんだけである。

 

 

 ちなみにこの後は、討伐した巨大タコを使ったタコパーティが港で大々的に開かれ、たこ焼き巡りをする過程でトマルに盾子という初めての同年代のお友達ができることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 





ほとんど活躍してない男主人公たち:( ´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。