前回のあらすじ:タイムリープ系主人公くんを手助けすることになった。
あぁ──ようやく終わった。 |
やっと彼女を救うことができたんだ。 |
「進っ!」
「かなめ……!」
ループ主人公くんこと神無月進くんの、ヒロインを取り戻す戦いが始まってから約一日。
件の主人公とヒロインは今さっきラスボスを倒したところで、現在は瓦礫の山と化した廃病院の中心で夜月の光に照らされながら二人で抱き合っている。
というかもうキスしそうな勢いで──あっ、キスした。
……んあぁ゛ア゛ア゛ッ!! 人前でイチャつくなァ!! そういうのは家に帰ってからやってくれよ、今は俺とトマルと弥生くんがすぐ近くにいるだろうがよぉ!?
はいトマルは見ちゃダメ。目の前でディープキスなんかされたら教育に悪いのでトマルの目を手で隠します。
『NO』『NO』
「ノーじゃない。アンタにはまだ早いの」
じたばたするトマルを押さえつけてでも隠す。だって目を離した隙にアイツら本当にディープキスしやがってるんだもん。もう俺の体全体を使って全力でトマルの目と耳を塞いでおるわ。海外映画じゃないんだからエッグいキスとか勘弁してクレメンス……。
「……とにかくよかったな、神無月が勝つことができて」
「あ、うん、そうだね。……弥生くんも、手伝ってくれてありがとね」
自分の使命は終わったかのようにやり遂げた清々しい笑みを浮かべる弥生くんにそう言うと、彼はそっとトマルの頭を撫でた。
「礼を言われるほどのことじゃない。……それに、如月がいなくなったらトマルも悲しむだろ」
父性溢れる優しいイケメンスマイルを見せる弥生くん。なんか完全にトマルのお兄ちゃんだな。
面倒見もいいし甲斐性あるしトマルの世話もしてくれるしで、もうマジで大好き。けっこうウチに来る機会も多いしこれはもう友達どころじゃなくて親友ですよ親友。
……と、まぁとにかくタイムリープ主人公くんの物語はコレでひとまず幕を下ろしたワケだ。
弥生くんのみならず他の主人公軍団も関わった大騒動になっていたけど、最後はきっちり物語の核である進くん……神無月くんともうひとつの世界の俺がラスボスと決着をつけてたし、見るからにハッピーエンドっぽくて何よりである。
ここから先のエピローグはあの二人だけに任せて、サブキャラな俺たちはさっさと退散することにしよう。もう夜だしな。
──そうだ。みんなに、この世界のかなめに、助けてくれたお礼を言わないと── |
それじゃ、お幸せに。
◆
てなわけで数日後、俺はいつも通り午前中のコンビニバイトに勤しんでいた。
同じバイト先で働いてる魔法少女主人公のユリ先輩やハーレム主人公の空斗先輩も、数日前の神無月くんと同じく本編後の物語を無事に終えた状態なため、昨日も特にトラブルなんかに巻き込まれることもなく出勤してきた。今日は俺と空斗先輩の二人で店を任されている。
ようやく穏やかな時間がやってきた感じで、俺はレジ横の商品を整理しながら平和を噛み締めていた。具体的には店内に客がいないので小さく鼻歌を吹いてる。
「シュシュっと参上~♪ フフッフンフーン♪」
「かなめちゃん。普通に歌ってると店長に怒られるよ」
「ふぇっ」
おにぎりコーナーにいる空斗先輩に指摘されて気がついた。どうやら普通に声を出して歌っていたらしい。はずかし。
「ごめんなさい忘れてください……」
「ま、まぁ少しくらいなら大丈夫だよ」
苦笑いする空斗先輩。絶対コレ変な子だと思われてるわ俺。つれぇわ……。
「なにかあったの? 上機嫌みたいだけど」
「へ? あぁ……いや、えっと」
うーん、逆なんだよな。ここ数日間何もなかったからこそ、俺はいま機嫌が良いんだ。
高校……というかあの魔境みてぇな学園に入学してから約半年間、なんだかヤケに『物語』に巻き込まれてるけど、本来俺が望んでる高校生活ってのはこういう平和な日常を過ごすことだ。
まあ少なからず俺から行動することでトラブルに巻き込まれていることもあるから、全てを周囲のせいにすることはできないけど、こうして何事もなく過ごせるならそれが一番いい。
旧神との地球の存亡をかけたダイマックスバトルとか、負けたらもう一人の自分と共に死んでしまう戦いだとか、そういうのは流石にもうお腹いっぱいだ。暫く……具体的に言うと高校卒業くらいまではそういうのは遠慮したいね。
「……あっ」
──いや待て。
まてまて。コレやばくね?
今の俺の発言めちゃめちゃフラグっぽくない? 巻き込まれ型の主人公のお決まりセリフみたいなの吐いちゃったよヤバイよ。
「っ! っ!!」
左右を確認する。別に怪しい人は誰もいない。しかしまだ分からないのでコンビニの外も確認しに行こう。
この世界は何だか若干イジワルだ。それこそ本当に巻き込まれるタイプの主人公が体験するようなイベントばかり俺の周囲で発生しやがる。俺の方から関わりを持とうとした主人公もいるけど、それにしたって異常なほどに。
「だ、誰もいない、な?」
コンビニの外にも変なヤツは見当たらない。いつもの何でもない街の風景がそこにあるだけだ。
「……はぁ、よかった。これからは気をつけないと」
実際に言葉にはしていないが、心の中で『平和がいいな~』なんて露骨なことを呟いたらそれはもう発言しているのと同義だ。コレが中二病な俺の勝手な妄想ならいいが、既に何回も『物語』の中核に片足突っ込んだりしちゃってるし、俺自身にも何らかの重要な役割を与えられているとしたら立ち振る舞いには用心しておかないといけない。
この物語染みた世界では、フラグになるようなセリフは極力控えないと──
「うわぁッ!? な、なんだキミは!?」
……ん。
なんか背後の店内から空斗先輩の焦った声が聞こえてきたな。
おかしいぞ店内には先輩しかいないハズ。
「き、急に目の前に現れて……キミもしかして、能力者? そもそも何でこのコンビニに……」
「──あの、ちょっと聞きたいんですけど、今って何年の何月何日です?」
なんだ今の女の子の声。
え、誰? ユリ先輩は午後からの出勤だからまだいない筈だぞ。こわくて後ろ振り向けないぞオレ。
「えっと……2022年の8月10日だけど。……な、なに? もしかしてタイムスリップとか、そういう類のアレなの?」
「……ゃ、やった、タイムジャンプ成功だ……やっぱりトマ
マジの未来人が訪れちゃってるじゃん。もう完全に物語の始まりじゃん。フラグ回収速度早すぎるだろ、どうなってんだこの世界。
……お、落ち着け。もしかしたらまた空斗先輩の新たな物語が始まるだけかもしれない。俺のフラグ発言で引き起った事象のようにも思えるけど、あの女の子のファーストコンタクトは空斗先輩だ。俺はきっと前回と同じくサブキャラか何かだろう。流石に物語の中心になったり、また前みたいに命の危険が迫るなんてことはきっと──
──あっ。 |
ヤバイ。明らかに空斗先輩の形じゃないタイプの吹き出しが、足元に転がってきた。
あれは……あの、後ろ姿……。 |
こ、コレ確実に背後から俺のこと見てる……!
座標はここで合ってるはず。この時間、この場所に、あの人がいるはずだから。そして……なにより、このお店の制服を着ている。名札を見る限り、目の前にいるこの人があの『卯月空斗』で間違いないんだ。だったら、このとき同じ場所で働いているヒトは、たった一人だ。 |
嫌な予感がする。
それ、なら。 |
これは、確実に。
あの人は。 |
確実に──ヤバイやつだ。
あの人は、死んだはずの、アタシの── |
「うわあああぁぁぁんママぁああぁぁぁぁぁぁぁァ゛ァ゛っ!!!」
「ギャアアアアアっ!! こっちくんなぁぁぁぁッ!!?」
感動の再会(´;ω;` )