主人公が多すぎる   作:バリ茶

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前回のあらすじ:未来から自称娘がやってきた。



弥生守はアタシの敵

 

 

 

 バイトを終わらせて、俺の娘を名乗る少女を引き連れてとりあえず帰宅しました。

 しかし。

 

「えへへぇ……ママ……」

「はなれろ鬱陶しい」

「やだ……五年ぶりのママの膝枕……」

「……はぁ」

 

 ダメだこれ。自称俺の娘こと『如月光子(こうこ)』は、ソファに座ってからずっと俺の膝に頭をのせて寛いでいる。鬱陶しいことこの上ない。

 

「なぁ光子?」

「コッコでいいよ!」

「なにそれ」

「あだな!!」

 

 あだ名らしい。未来ではそう呼ばれていたのだろう。

 ……いや、仮にコイツが本当の娘だったとして、娘をコッコなんて変わったニックネームで呼ぶのか、未来の俺は? どうしたの狂った?

 

「えっとね、あんまり光子って名前好きじゃないの。だからいつもトマねえが呼んでくれてたコッコがいいなぁって」

「……トマねえってのは誰だ」

「トマルお姉ちゃんのこと! この時代にもいるはずだけど……いないの?」

 

 残念ながらトマルは、ほのぼの異世界グルメロボットパイロット主人公こと寝子ちゃんと一緒に買い出しに出ているので、いまこの家にいるのは俺と自称娘のコイツだけだ。

 

 

なんにせよ、こうしてママと()()触れあえた事実が、何よりもうれしい。死に物狂いでタイムジャンプしてきて本当によかった。

 

 

 ──まぁ、自称ではなく本当に俺の娘なんだろうけども。

 

 この通りこっちはコイツの心の声を読んでいるのだ。嘘を疑う必要なんてどこにもない。

 そもそも非日常的なアレコレが飛び交うこの世界で、いまさら時空を超えて未来から自分の娘が来たとしても、別段ありえない話ではないし驚きもしない。

 

 ……いや、嘘ついた。驚きはしてる。

 『自分の娘が来た』という事実ではなく『自分に娘がいる』という事実の方に。

 男の子とは”そういう関係”にはならないと思っていたから、まさか子供の存在から『自分が親になった』という未来の事実を確定されるとは思っていなかった。

 

 俺は黒髪黒目だ。そして光子……コッコも黒髪黒目。この国の人間なら普通に共通する部分だから、身体的特徴で親子だと断定することは出来ない。

 

 なにより。

 

「わぁー、このスマホっていうのがこの時代の携帯型デバイスなんだ。新鮮だぁ」

「……でっか」

「ん? ママ何か言った?」

「なんでもないです」

 

 さっきから無駄にゆさゆさと揺らしてるあのデカい乳。アレは俺には無いのモノである。

 聞くところによれば、コッコは現在15歳。いま16歳の俺とは大して年齢が変わらない。

 だというのにコッコはそこそこ背が高いし髪も長いし胸もデカいしで、年齢はほとんど一緒なのにまるで俺とはかけ離れた身体をしている。

 アレなら俺ではなく寝子ちゃんの子供だと言われた方が納得できるというものだ。髪がサラサラなコッコとは違って、寝子ちゃんはくせっ毛で少し髪はモサモサしてるけど、それ以外の全体的な色や形は結構似てる。

 

 ……そもそもコイツが娘だとして、父親は誰なんだろう。

 気になるところではあるけど、コッコは父親に関してのことだけは頑なに喋ろうとしないし、聞いても教えてくれない。

 デリケートに扱うべき内容だってことは分かってるけど、コレ一応自分自身の未来にも関わることだし、知っておきたい気持ちのほうが強い。

 

「……コッコ。単刀直入に聞くけど、お前の父親って誰なんだ?」

 

 自分の娘相手にわざわざ取り繕って女子高生モードをするのもアホらしいので、素の口調で問いかける。

 すると彼女は「えぇ……」といって露骨に目を細めて、あからさまに面倒くさそうな顔をしやがった。なんだよ。

 

「それ聞いてくるの三度目だよ? ママってばしつこい……ぜぇーったい話さないって言ったじゃんっ」

 

 ツーンとそっぽ向くコッコ。仕草がいちいちあざといんだよなコイツ。

 

「いや、でも俺のことでもあるしさ」

「やーだー!」

 

 ジタバタ。

 

「もう15だろお前……なんでそんなに聞き分けが悪いんだよ」

「ママこそ16歳のくせに家庭内事情を聞きまくるとかデリカシーなさすぎ!」

「あ? 何だとコラ。ママに逆らう気か」

「ふーんだ! 大人のママはそんなこわい顔しないもん!」

 

 反抗期かこの女? 膝枕されながら反逆してくるとはなかなか豪胆で見どころがあるが、それはそれとしてトマルでももう少し聞き分けいいぞ。

 

「トマルは膝枕されながら文句言ったりはしないんだぞ」

「うっ! ……で、でもトマねえはアタシより大人だし……」

「何言ってんだ今のトマルはまだ十歳だぞ。五歳も年下なトマルよりワガママでいいのかねぇ……? そんなおこちゃまなのかコッコちゃんは?」

「ぐっ、ぐぬぬ~!」

 

 こんな感じで激しい舌戦(当社比)を繰り広げていると、不意に玄関から扉を開ける音が聞こえてきた。

 そのままリビングのドアが開かれると、そこには見慣れた二人の姿が。

 予想通り、買い物を終えた寝子ちゃんとトマルだ。

 

「あ、二人ともお帰り」

「ただいまです、かなめサン。豚バラが安かったんでついでに買っときましたよ」

 

 気が利くねぇ。今日は肉巻きでも作ろうかしら。

 一応コッコのことは電話で先に伝えておいたので、膝枕の態勢ではあるものの寝子ちゃんはさして驚いていない。

 しかし──

 

「っ!?」

 

 俺に膝枕をされているコッコを目撃した瞬間、トマルは驚いて後ずさってしまった。

 それとほぼ同時にコッコが体を起こし、偶然にも二人の視線が重なり合う。 

 

「あっ! 噂をすれば若かりし頃の寝子(ネコ)師匠に加えて、十歳のトマねえ!? かわいい!!」

「ッ!? ゥっ、~~っ!!」

 

 一直線に抱きつこうとしてくるコッコの顔面を両手で全力でガードするトマル。

 

『NO!』『NO!』

「ぶぎゃっ!?」

「おっと」

 

 華麗にコッコの脇を抜けたトマルが俺に抱きついてきて、逆に抱きしめる対象を失ってバランスを崩した自称娘は顔面から転倒した。いたそう。

 てか”ネコ師匠”って……コイツの未来、マジでどういう状況なんだ。

 

「~~っ!」

「よしよしトマル。怖かったなぁ、もう大丈夫だぞ」

「うぅ、なにこの扱い……。トマねえと違ってアタシ実子なのにぃ……」

 

 いまその発言を持って、コッコが養子ではないという事実が明らかになってしまったが、そうやって血の繋がりばかり優先するヤツは可愛がってやらんからな。よ~し、トマルを愛でちゃうぞぉ。

 

「トマルのほっぺムニムニ」

「……♡」

「むっ、娘を置いてイチャイチャするの!? どーしてアタシのことは撫でることすらしてくれないんだよォ!?」

「うるせーな自称娘」

「自称っ!? ひ、ひどい! バカ! ネコ師匠も何か言ってやってくださいよぅ!!」

「如月家ってドロドロしてますネー」

 

 寝子ちゃんが眠そうな顔をしながら食材を冷蔵庫に入れ始めてる。異世界に渡航しまくって荒事には慣れているのか、彼女のスルースキルは世界一だ。俺の中身の性別をバラしていないにもかかわらず、男口調もいつの間にか受け入れられてしまっているし、コッコからの師匠扱いも物ともしてない。

 

 

 ……まぁ、実子ってことも事実だろうし、流石にもう少しくらいはコッコに優しくしてやらないとダメだよな。わざわざ時間を超えてまでこの時代に来訪してくれたわけだし。

 自分の娘、って部分を受け入れるにはいささか時間がかかるだろうし、この時代に訪れた理由もまだ教えてもらってはいないけど、それでも血のつながった家族とのことだし俺にできることなら何かしらやってあげないと。

 

 

「……んっ」

 

 家の外から自転車を止める音が聞こえてきた。これは確実に弥生くんだ。

 

「そういえば今日は夕飯に誘ってたんだった」

 

 コッコのことがあってすっかり忘れていたが、今日は新たなメニューとして、異世界の食材とこの世界の食材を組み合わせて新たな料理を作ろう、という話になっていたんだった。

 そのため試食係(道連れ)として弥生くんも誘ったワケだ。寝子ちゃんや俺並みの料理の腕を持っていたとしても、異世界食材を美味しく食べられるようにするための料理は一筋縄じゃいかないからな……。

 弥生くんへ前に告げた俺の『ウチに来るときはもうインターホン押さなくていいよ』という言葉通り、彼は普通に玄関から通ってリビングに顔を出してくれた。ウチに来る頻度を考えたら、もう”帰ってきた”と言っても過言じゃないな。

 

「お邪魔します……あ、如月」

「ん、弥生くんおかえり」

 

 パタパタと彼のそばに寄って、いつも通り鞄を預かる。ウチに慣れたとはいえまだ遠慮が抜けないのか、弥生くんは鞄の置き所すらいちいち聞いてくるため、もう俺が預かって勝手に部屋の隅に置くことになっているのだ。

 

『NO』『NO』

「トマねえ~~許してぇ~~」

『NO』

 

 そんな俺たちをよそに、トマルとコッコは未だにワチャワチャしている。

 

「弥生くん、見てよアレ」

「ん? ……あぁ、なるほど。あの子が噂の如月の娘ってやつか」

 

 苦笑する弥生くん。彼からすれば『また如月のやつ変なトラブルに巻き込まれてやがる』って感じなんだろうな。いやはや迷惑かけて申し訳ねえ。

 

『NOOOO』

「トマねえのほっぺ柔らか……──んっ?」

「あっ。……えーっと、はじめまして……?」

 

 不意に弥生くんとコッコの視線が重なった。

 遠慮がちに挨拶をする弥生くんを前にして、コミュ力が異常に高いはずのコッコは、意外にも返事を返せないまま固まっている。緊張してるんかね。

 ていうか未来だとコッコと弥生くんはどういう関係になってんだろう? 面識あるのかな。

 

 

 

「──弥生、守」

 

 

 

 驚いたように目を見開いて、小さく呟いた。

 どうやら面識はあったらしい。

 

「えっと、もしかして未来でもオレと会ってたりすんのかな。どうも未来の自分がお世話になっております」

 

 軽く冗談めかしてそんなことを言う弥生くん。最初に出会った頃は冗談なんて言わなそうな雰囲気があったけど、すっかり彼も普通の高校生らしくなってきたと思う。

 ……が、しかしどうしてかコッコからの反応はない。言葉を失っている彼女はトマルの頬を触ることもやめ、完全に固まってしまっている。

 

 

 そこから──数秒後。

 

 

「──ッ!! まっ、ママ! はやく逃げてっ!!」

 

 

 突然、声を荒らげて叫ぶコッコ。

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 彼女の言葉の意味が解らず、その場で呆ける俺。

 その瞬間、コッコは何処からともなく()()を取り出し、照準を弥生くんに定めた。

 

「……? ──あっ!? ハァッ!? ちょっ、おまっ、なんてモン出してんだッ!?」

 

 一瞬判断が鈍ったが()()()()()()()()()()()()という事実を理解した俺は、咄嗟に弥生くんの前に出た。

 しかし既に引き金にかけられた彼女の指は動いていた──

 

 

 





死にません(*´ω`*)


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