前回のあらすじ:魔王の手先をやっつけた。
未来から来た主人公ふたりを家に連れ帰ってから二日後。
なんとかコッコともう一人の──霜月
トマルがシーさんと遊びたがっていたというのもあるけど、なによりこの時代の主人公たちが未来を生きる彼ら二人に色々な事を教える為に、このいくら暴れても大丈夫な人気のない砂浜に来たというわけだ。
「ぐぅっ!? く、クソッ、桁違いだ! これが全盛期の寝子師匠の実力なのか……っ!」
「し、師匠~っ! もう少し手加減してよぉ!」
「二人とも甘いですね。プロトタイプのヴァルゴでその程度じゃ、強化型のヴァルゴ・マークⅡを操縦するなんて夢のまた夢ですよ」
でっかいロボットが三機、海上で戦っている。寝子ちゃんvs未来組二人で、一言で言うと修行である。ちなみに周囲のお魚さんたちはシーさんが退避させてある。
「がんばってんなぁ……」
「~っ!」(パタパタ)
そんな彼らを近くのベンチに座って見守る俺と、チアガールのポンポンを振って応援しているトマル。
黒髪ロリっ子のエールがパワーになったのか、影男くんことカゲくんは少しだけ態勢を持ち直したが、最初からあまりやる気がなかったコッコは今もなお押され気味だ。寝子ちゃんにタコ殴りにされている。
「如月ー。お弁当買ってきたぞー」
すると後ろから弥生くんの声が聞こえてきた。そういえばそろそろお昼時か。
頑張りすぎはよくないし、お弁当も届いたから一旦休憩にしよう。
「三人ともー! お昼ご飯たべよーっ!」
そう叫ぶと、三機のロボットは姿を消して、砂浜に三人の男女が不時着した。どうやら寝子ちゃんもヘトヘトに疲れていたらしい。
◆
あれから少し経って、今度はロボット操縦ではなく生身での特訓に入っていた。
といっても今修行しているのはコッコだけで、カゲくんは俺の隣にいる。聞きたいことがいろいろあるのだ。
「こんのぉ! 死ねー! 弥生守ーっ!」
「おわっ! ちょっ、砂で目潰しとか聞いてねぇ!」
いまコッコの相手をしているのは弥生くん。たぶん徒手空拳で一番強いのは彼だから適任だと思う。
「あの子、本当に弥生くんのこと嫌いなんだね」
買ってきたペットボトルのお茶を渡しながらそう言うと、カゲくんは体育座りのまま苦笑いした。
「でも、前よりは良くなってると思います。この前の話し合いで事情は理解したようだし、まだ心の中が整理できてないだけなのかも」
「ふーん……母親の私なんかより、よっぽどあの子のこと分かってるじゃん。さすが幼なじみ~」
「あ、あはは……」
俺の言葉に照れ笑いするカゲくん。話を聞いた限りでは、この二人は幼なじみで『コッコ』と『カゲくん』というあだ名は元々この二人が言い合ってたものだったらしい。
それが成長するにつれていつの間にやら”霜月”だの”光子”だの呼び方が変わって……うーん、青春してるなぁ。
ていうか未来のトマルのコッコ呼びもカゲくんの受け売りだったんだな。カゲくんは思った以上に俺の身内たちと親密な関係にあるみたいだ。
「さてさて。それじゃあ色々質問させてもらおうかな」
「はい、なんでも答えますよ、かなめさん」
──カゲくんは小学3年生の頃に交通事故で両親を失っていて、それを親代わりになって育てていたのが未来の俺だったらしい。
時空獣やウイルスとは無縁の事情で旅立ってしまった両親は、たとえ過去で未来の脅威のタネを取り除いても決して生き返ることはない。それでも自分を育ててくれたかなめさんや周囲の皆への恩に報いるために、世界を守る──とのこと。
……うん、ずいぶん重い過去背負ってるわね。ていうか現在進行形で更に重いモノ持たされてるんだよな。まだ十五歳だってのに。
「……んっ」
「あ、トマルさん。……く、くれるんですか?」
「んっ」
カゲくんの深刻な状況を不憫に思ったのか、捕まえてきた小さなカニを彼にプレゼントするトマル。
「……カニかぁ」
『YES』
「あ、ありがとうございます」
あと亀と小魚。……バケツの中にもまだまだ沢山いるようだ。
またシーさんと一緒に砂浜で遊び始めたトマルを眺めながら、俺はかなり気になっていたことを思い出した。
「そういえばカゲくん、そのシャークブレスはどうしたの?」
「コレ、ですか」
彼の腕に装着されている腕輪は、俺とシーさんの絆の結晶。もっと言えば海の守護神から進呈されるお宝だ。どうして彼が持っているのか不思議に思っていた。
「……かなめさんに託されたんです。光子を守ってね、って」
わお、俺の形見だったのかソレ。
「シーさんとは会ったことある?」
「はい。といっても少しだけですけど……あの方は未来では治療中なんです。僕と光子を守るために、敵の攻撃から庇ってくれて、それで」
シーさん、未来でも身を挺して俺の子孫を守ってくれたのか。流石は相棒だ。
「おーいシーさん!」
「シャッ?」
「ありがとうーっ!」
「シ、シャァ……っ?」
お礼の先払いに困惑して首を傾げるサメ。まあ伝わらなくてもいい。俺が言いたかっただけだからな。
……さて、聞きたいことは大体聞いたかな。
それじゃあカゲくんも寝子ちゃんとの特訓にもど──
「……ん?」
立ち上がって、ふと横を見た。
そこには弥生くんとケンカみたいな修行をしているコッコがいる……はずだったのだが。
なにやら立ち止まって話しをしていたのか、いつの間にかコッコは弥生くんに正面から頭を撫でられていた。
「な、なんだ……?」
どんな話し合いをすればあんな状況になるのか分からない。
弥生くんに対して敵対心剥き出しだったあの娘が、一体どうして大人しく撫でられている。その顔は驚いたような表情で、次第に彼女の目尻には涙が浮かんできた。
そして──コッコ自ら弥生くんに抱きついていった。
弥生くんもさして驚いた様子はなく、穏やかな表情で彼女の髪を撫でている。
……え。えっ、なに。何あれ。
ま、まさかこんな短時間でコッコを攻略したのか? 主人公ムーブかましてウチの娘を堕としやがったのか?
──ハアアァァァッ!? だっ、ダメ!! 駄目だろ!! 何考えてんだあの男の子!!?
「こっ、コラーッ!! ウチの娘に手ぇ出すなーっ!!!」
「おわっ!?」
「ま、ママっ!?」
割って入り、コッコを抱いて後ろに下がる。
「ばかばかバーカっ! 弥生くんの節操なし! コッコにはカゲくんがいるんだよ!? どうして目の前でそんな女たらしムーブをキメられんの!?」
「え、えぇ……。いや、オレは別にそういうつもりじゃ」
「まっ、ママ、ちがうんだよ? あの、実はこの人──」
だああぁぁぁ!! うるさいだまらっしゃい!!
コッコは渡さねぇ……娘の貞操は俺が
「弥生くんの色情魔! コッコに近づくなスケコマシ! 女あさり! 25センチ!!」
「めちゃくちゃ言うなお前!? あと25センチって叫ぶのやめろ!」
「やーい25センチ! 長竿~っ!」
「マジでキレるぞてめぇ……ッ」
コッコはいつの間にか俺の傍から離れてカゲくんの隣に移動しており、それに気がつかなかった俺は必死に弥生くんと口喧嘩。
結局、コッコと弥生くんは修行の最中に和解して、それから俺の娘に『光子』という名前を付けた人物も弥生くんだったのだと知る頃には、すっかり日が暮れていたのだった。
なななんとあの【怪人系配信者BANちゃん】でおなじみの作者さんことTEAM POCO/CHIN氏にこの物語の主人公である如月かなめの全身イラストを描いていただけました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!お゛っ゛♡♡♡!!!!!!!
【挿絵表示】
もう言葉を失うレベルでえっっっっっっっちな仕上がりになってて本当に言葉が出ませんでした 太い太ももは健康によい
本当にありがとうございました家宝にします! あと次回で未来編ラストです