主人公が多すぎる   作:バリ茶

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未来編のラストは次回になりました



この都市で、数多の主人公たちが活躍している事は、あまり知られていない

 二人の修行を行った次の日のこと。

 

 突然浩太くんから電話が届いた。『前に言っていた魔王候補が現れた』と。

 コッコたちが訪れて事情を聞いてから、浩太くんにはあらかじめ事の顛末を伝えておいたのだ。

 いずれヤバイ強さの魔王候補と戦うことになるだろう、と言っておいたわけだが、まさかこんなにも早く遭遇することになるとは思わなかった。

 

 というわけで俺が連絡の取れるバトル系の主人公たち皆を引き連れて、浩太くんの加勢に向かった。

 場所は人気のない工場跡地。だだっ広いだけの廃墟だ。

 その現場に到着して最初に目にしたものは”軍団”。そして既にボロボロになっていた浩太くんと、捕獲されてからいつの間にやら彼の相棒になっていた皐月かなめの姿だった。

 敵はいかにもライバルキャラっぽいスカした男で、彼が率いる悪魔軍団もそれぞれラスボス戦相応の強さを持っている。

 

 

 俺たち皆で浩太くんの味方として参戦したはいいものの、相手が強すぎて全く決着のつく様子が見られない──そんな膠着状態が延々と続いていた。

 

 

「強いなぁ……というか俺たちの方が押されてる。こりゃ未来の俺たちが負けたのも納得だわ」

「シャーク!」

 

呑気なこと言ってる場合か! 合体も解除されてしまったし、いよいよ大ピンチだぞ!

 

 シーさんの言う通り、俺たちは窮地に立たされている。

 主人公オールスターでかかっても優勢を取れない最強の敵だ。歴史通りなら俺たちはここで敗北して、世界はあの魔王のモノになり、人類はウイルスや化け物たちの脅威に晒されることになるだろう。

 俺とシーさんは合体解除、弥生くんは過度な消耗で時間停止ができなくなって、寝子ちゃんのロボットは半壊しててギリギリ動く程度。浩太くんと皐月は言わずもがなで、先輩たちもかなり疲弊している。

 相手方の戦力も大幅に削ったはずだがどうしても()()()()()()()()。このままではジリ貧で負けてしまうだろう。

 

「シャークゥーっ!」

 

 冷静に分析している場合かー、とでも言わんばかりの咆哮をかましながら突進で敵を薙ぎ払うシーさん。

 確かに彼の心配はごもっともだ。ぶっちゃけ勝ちの目みえないし。

 

 

 でも、きっと大丈夫だ。

 

 ()()()俺たちだけじゃないから。

 

 

──いた! みんなもう戦ってるっ!

 

 

 コツンっ、と小さな吹き出しが一つ、俺の頭にぶつかった。

 後ろを振り返ってみると、遠目に見慣れた二人の少年少女を見つけた。

 

「ママッ!」

「みなさん、遅れてすみません!」

 

 そう言って戦場に足を踏み入れたのは、未来の主人公たち。

 光子と影男くん。あの二人はつい先ほどまで、自宅でトマルを交えて話し合いをしていたのだ。

 それは多分彼らにとって、とても大事なイベントだったんだろう。二人は迷いを吹っ切ったのか、覚悟を決めた凛々しい顔つきになっている。

 

 ……うん、ようやく主人公として一皮剥けたみたいだな。よかったよかった。

 

──ずっと、あの人から貰った名前が嫌いだった。

 

 おぉ、なんか独白に入ってるし、これは覚醒イベントですね間違いない。

 

 

ウイルスの研究とか、魔王獣の討伐とか、いろいろ理由を付けて家には帰ってこなくて。いつも構ってくれるのはママとトマねえだけだった。

 

『きみの名前、オレが付けたのか? ……そっか。自分で言うのもなんだけど、いい名前だな』

『……どうして、そう思うの?』

『名前つけるの、苦手なんだ。いろいろ意味を考えたり、どうあってほしいとか、適当に考えちゃダメだ、とかさ。余計なこと考えて、オレ一人じゃ結局なにも出て来なくて』

 

この時代からは考えられないくらい荒んだ世界でも、二人はアタシを立派に育ててくれた。でも──あの人も、アタシのために身を粉にして世界と戦っていたんだと、この時代に来て知った。

 

『きっと如月とか寝子とか、いろんな人と相談しながら決めた名前だ。……だから、きみの名前には沢山の願いが込められているんだと思うよ』

 

アタシは愛されていたんだ。ママからも、あの人からも。

 

『ありがとうな、光子。この時代に来て……オレと話してくれて』

 

だからアタシは、アタシを愛してくれた人の為に戦う。

 

 

アタシが愛した人たちの生きるこの世界を守る。カゲくんと一緒に。

 

 

「──ヴァルゴッ!!」

 

 光子が叫んだ瞬間、彼女の背後に巨大なロボットが出現した。ちなみに俺は娘が量産した多量の吹き出しに埋もれている。くるしい。

 

──そうだ、僕も戦う。

 

 ちょ、ちょっと待って。二人分の吹き出しは流石に多すぎるって。潰れちゃうから一旦待って。

 

かなめさんに託されたんだ。光子を、世界を。

 

 ぷぎゃっ! やめ、やめろ! もう吹き出しを増やさないでくれ! マジで埋もれて身動き取れなくってるから! ……ぉわあああっ! 敵きたぁぁーっ!!?

 

「た、たしゅけてシーさん!」

「シャークっ!」

 

 なんとかサメアタックで難を逃れ、彼の背中に乗ることで事なきを得た。ダブル主人公の独白を相手取るときは常に移動してなきゃ危ないな……。

 

よし、覚悟完了だっ!

 

 あ、観測してない間にいつの間にか独白終わってたわ。よかったぁ早めに終わって。

 

「マークⅡッ!!」

 

 例によって例の如くロボット出現。

 

「いくぞコッコ!」

「うん! いこっ、カゲくん!」

 

 

 

「「合体(ユナイト)だッ!!」」

 

 

 

 ……えっ! 合体すんの!?

 

 





合体(深い意味はない)

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