主人公が多すぎる   作:バリ茶

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今回は短いです



さよならとはじまり

 

 

 時刻は深夜。

 場所は郊外、人気のない廃墟。

 目の前には巨大なロボットと、そのパイロットが二人。

 今日が彼らとの別れの日だ。

 結局あのあと光子に父親の話を聞こうとはしたのだが、やはりというか娘からは『今は知らないほうがいい』の一点張りだった。

 光子(アタシ)はあくまで未来の可能性。

 ママにはママ自身の人生を歩んで欲しいし、アタシを生むために必死になる必要はない──とのことで。

 いやアホかと。光子の気持ちは分からんでもないけど、今更お前を生まないなんて選択肢はないんだよな。

 そりゃ光子と出会う過程で身体的な女性的経験はするんだろうけど、それと精神が女に墜ちるかどうかは別の話だ。

 

「絶対に生むからな。覚悟しとけよ」

「……ママってば、バカだね」

 

 感極まってしまったのか、半泣きになって俺を抱きしめる光子。

 俺もそっと彼女の背中に手を回し、これからもう二度と会えないであろう未来の娘をあやす。

 この先大人になって自分の子供を授かったとしても、その子は目の前にいる『一緒に戦った』この光子じゃない。

 だから余計名残惜しさは一入なんだけど……まぁでも未練がましくこの時代に引き留めても未来の俺に悪いし、そろそろお別れだ。

 歴史改変前の記憶を持ってるトマルや寝子ちゃんも、きっとこの二人の帰還を待ちわびているだろうしな。

 

「ありがとうございました、弥生さん。光子は必ず僕が守ります」

「……あぁ。頼むな、影男」

 

 あっちもあっちでいつの間にやら男同士の友情が芽生えていたのか、固い握手を交わしている。

 ちなみに未来の二人を見送りに来ているのは俺と弥生くんだけだ。

 寝子ちゃんは『ようやくできた弟子なんでずぅ゛~!!』といって帰そうとしなかったし、トマルもすっかり光子に懐いて離れなくなってたので置いてきた。

 あの二人がこの場で食い下がってたら帰るものも帰れないだろう。

 

「そ、それじゃあ゛ママっ、あだじもういぐね゛ぇ゛……っ!」

「離れないと帰れなくない?」

「こら光子、早くかなめさんを離せって」

 

 いつまで経っても俺を抱きしめたままな光子を見かねて彼女を引っぺがす影男くん。

 あの様子じゃ娘の世話は大変そうだけど、よろしく頼むぜ。

 

「やーだー!! ママぁ~ッ!!」

「はいはい乗った乗った」

「バカ! カゲくんのアホっ! やっぱりママも連れてこ!? ねっ!?」

「往生際が悪い」

 

 うーん、影男くんが居てくれてよかったってつくづく実感するなぁ。

 光子だけだったらいつまでもこの時代に居残ってそうだ。

 

「よし、起動っ」

 

 ロボットのエンジンが点火し、機体の上に巨大なワームホールが形成された。

 あれでタイムジャンプして未来に帰るらしい。

 

「それじゃあ皆さん、お元気で!」

「ママ! たまには遊びに来てね!」

「行けねぇよ」

 

 ……まぁ、その。

 

「元気でな、光子。影男くん」

「はい!」

「……ゃ、やっぱりやだァ! ママやパパともっとお話しした──」

「ジャンプ!!」

 

 影男くんが叫んだ瞬間、ヴァルゴが跳躍し真上のワームホールへ吸い込まれていく。

 もう二人の声は俺たちに届かず、ただ彼らが消えていく様を見つめることしかできない。

 そして数秒後──機体は姿を完全に消し去っていった。

 

「終わったな」

「……うん」

 

 これで未来から来た主人公たちとの世界をかけた戦いはようやく幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから三日後、弥生くんは全世界に個人情報を晒され、俺の前から姿を消した。

 

 

 





多分そこまでシリアスにはなりません(´・ω・`)

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