前回のあらすじ:身内の恥ずかしい過去が晒された
事の発端は一週間前のことだ。
いつものように寝子ちゃんや弥生くんを交えた四人で昼ご飯を食べていたとき、彼のスマホから着信音が鳴り響いた。
その文面を片手間に確認した弥生くんは突然血相を変えて家を飛び出していき、それを不思議に思いつつテレビを付けたその瞬間──
『──ッ!? と、トマルサン見ちゃダメっ!!』
画面に映し出された
ハッキリ言って寝子ちゃんの判断は正しかった。
おそらく電波ジャックによって引き起こされたそれは、齢十の少女に見せるにはあまりにもショッキングな映像だったのだ。
……あぁ、そうだった──と。
ソレを見た瞬間、弥生くんが過去に犯した罪を思い出した。
逆に言えばその時まですっかり忘れていた。
テレビやPC、はては街頭モニターにまで流れていたその映像は、かつて復讐鬼だった頃の弥生くんが織りなす鬼畜な所業の数々だった。
何者かによって撮影されていたソレは、また何者かによって電波ジャックを伝い全世界に公開された。
そこから更に弥生守という人間のありとあらゆる情報が暴かれ開示され、勢いの止まらない情報の雨は瞬く間に世の人々へ伝わっていった。
──で、今はそれから一週間後。
未来の主人公たちとの別れから既に十日が経過していた。
「どこにいるんだか……」
時刻は夕方。
場所は郊外。
七日前から行方不明になった彼を探してはいるが手掛かり一つ掴めず、俺はトボトボと意気消沈したかのように人気のない場所をほっつき歩いていた。
……うん。
まぁ、正直いつかはこうなると予想できていた。
やった事が事なだけに、誰から恨みを抱かれていてもおかしくない主人公が弥生くんだ。
鬼畜凌辱エロゲ主人公──その行動原理が復讐心や本人からすれば正当な報復から来るものであっても、やっぱり事実として女子高生を強姦しているわけだからこの法治国家で野放しのままにされるワケもなかったのだ。
過去の行動の暴露はきっかけに過ぎない。
確たる証拠がないだけで俺が彼の犯罪を黙認していたからこそ、弥生くんはつい最近まで普通の生活を送ることができていたのだ。
彼は凶悪な犯罪者だ。
普通に断罪されてしかるべき存在なんだろう。
「でもなぁ……」
そんな世間一般の見解に流されていられるほど、俺は傍観者ではない。
というかもうめちゃめちゃ関わってるわけだし今更正義の味方ヅラして彼を捕らえるなんて出来るはずもない。
弥生くんは一応れっきとしたヒーローだ。
贔屓目に見てるわけじゃなくて、事実として何回も俺と一緒にこの世界を救済している。
かといって許されるってわけじゃあないんだろうけど、その事実を知っている俺が他の人間たちと同じ考え方で弥生くんを追うのは……やっぱダメなんだよな。
「弥生くんはもうトマルのお兄ちゃんだし、寝子ちゃんと一緒で半分家族みたいなもんだ。俺がなんとかしてやらないと」
何回も頷いて気合を入れ直す。
たぶんだけど、弥生くんは自首しろって言われたら素直に従うタイプの人間だ。
それだけ自分の罪を自覚してるし負い目も感じてる。
そんな彼が警察の目を掻い潜って逃げているということは、言わずもがな倒さなければいけない『敵』がいるということ。
そもそも公共の電波をジャックして彼の映像を流した人物がいるのだから、そいつが今回の真犯人に違いない。
彼(彼女?)がやってることは犯罪の告発だ。
電波ジャックは犯罪だけど、民衆からすれば市民の中に紛れ込んでいた悪者を晒しあげた英雄。
普通なら倒す理由も捕まえる根拠もない……けど。
「俺の日常を壊しやがった代償はでかいぞ──って、あれ?」
いた。
弥生くんいた。
埃が溜まってそうな路地裏に腰を下ろしてる。
息も絶え絶えで見るからにボロボロだ。
「おーい、弥生くーん」
「っ!?」
| きっ、如月──っ!? |
吹き出しをポンっと出してから即座に立ち上がり、逃げようとする弥生くん。
俺はそれを見逃さず吹き出しを拾い上げて彼に向かって投擲。
「とうっ」
「あぐッ!?」
吹き出しは弥生くんの後頭部に直撃し、彼はふらついて転倒。
その隙に俺は俯せになった彼の上に跨って、手足を拘束した。
よし捕獲完了。
まずは強制的に身動きが取れない状態にしないと話し合いもできねえからな。
◆
で、だいたい十五分くらい経過した。
「……というわけだ」
「なるほどなぁ」
観念した(させた)弥生くんから事の顛末を聞いた俺は彼の隣に座っている。
今度は逃げ出さないように、弥生くんと手を繋いでいるのだ。
うーむ、やっぱり男の子の手ってゴツゴツしてるな。久しく忘れてたぜ。
「説明した通り今回は全部オレが発端なんだ。如月は関わらない方がいい」
「そういうわけにはいかないんだよね」
「……警察に連れていくか?」
「んなワケないでしょ。弥生くん一人じゃ危ないって意味ね」
余裕ありげな俺の対応に不服そうな主人公くん。
まぁまぁ落ち着いてくださいよ。
少なくとも敵になったりはしないからさ。
とりあえずここまで聞いた話を要約すると、弥生くんは復讐相手の女子から報復を受けているらしい。だいたい予想通りだな。
相手はひとりで、弥生くんを虐めてたグループのリーダー。
神社の神様に願って力を得た彼とは違い、その女子は一度滅ぼされた邪神を崇拝して力を得たらしい。
言い方からしてたぶん俺とシーさんがやっつけたあのデカいタコ神だろうな。
まさか怨念になってこの世に残留してるとは思わなんだ。
ここまで因縁が深いとこを見るにアイツ俺の
「実際に復讐したのはオレだ。ケジメは自分でつける──」
「うるさいね。弥生くんが何といおうと私はついてくから」
「っ……! お前には関係ないだろ」
「逆にここまでの関係性で私のこと関係ないって言える弥生くんすごいね?」
主人公特有の自己犠牲精神に付き合ってやるほどサブキャラクターしてないんですわ自分。
何が何でも最後まで付き合うからな。逃げんなよ男子。
「失望しただろ!? オレの過去を知って! ずっとお前らには隠してたんだ秘密をッ!」
| 確かに虐めは苛烈だった。人間扱いされてなかった。便器に顔を突っ込まされて、ライターで火炙りにされて、指の爪を剥がされて飼い犬を殺されて──終いには両親すらも自殺に追いやられた。 |
おっと、独白の時間か。
| それでもオレが彼女らに復讐した事実は変わらない。どんな理由があろうとオレがやった事は許されない犯罪行為だ。だからこそ如月を巻き込みたくない。──いや |
| 見捨てられると思った。見捨ててくれると思っていた。それなのに── |
「なんで……オレの秘密を知って、なんでそれでもお前は……」
あわわ、泣かないで。
そんなシリアスな雰囲気にされると困る。
別に深い理由があるとかじゃなくて、俺も弥生くんに対して隠し事をしてるから……なんというか、お互い様的な感じ?
──あっ、そうだ。
今の状況はフェアじゃないから、俺も弥生くんに隠していた秘密を明かそう。
それでイーブンでしょ。
「や、弥生くん!」
「……なんだ」
「そんなに気負わないで。……実はこっちも、隠してた秘密があるの」
「秘密……?」
「そう! 私──あっ、いや
「…………」
沈黙。
さらに沈黙。
……弥生くんは固まっている。
「……お、おう?」
「ねぇ弥生くんリアクション薄くない?」
「いや、えと、なんていうか……」
「男なの! おーとーこっ! 中身が男なんだって! 前世の男だった頃の記憶があって中身も男!」
「お、落ち着けって如月!」
「信じてないな!? 俺は男だ! キミにずっとこのこと隠してたんだよ! 悪いな! ごめんね! 俺は悪いヤツだなぁ……なっ、これでチャラ。俺も弥生くんも悪いヤツということで、ここはひとつ。どうでしょうか」
「……は、はい」
こんな感じで俺たちは包み隠さず全てを話し、なんやかんやで和解したのだった。
ていうかせっかく一世一代の大告白したのに弥生くんリアクション薄かったなぁ……。
これで仲良し!