前回のあらすじ:俺は男だって言った。
「ば、か。……まもる、のっ、ばか……っ」
「……本当にごめんな、トマル」
ポコポコと弥生くんのお腹を叩くトマル。
俺は男だと明かしてから数十分後。
弥生くんと一緒に隠れている路地裏にトマルを連れた寝子ちゃんが現れた。
寝子ちゃんも大体の事情は察していたようで、最初から協力するつもりで彼を探していたらしい。
で、トマルの方は──なんとわずかながら『声』が出るようになっていた。
「申し訳ないです、かなめサン。まさかトマルサンが自分で調べるとは思わなくて……」
「いいよいいよ、結果オーライだから」
わけあって謝罪する寝子ちゃんを撫でて宥めつつ、意外と透き通った綺麗な音をしているトマルの声に耳を傾ける。
話を聞いた限り、トマルは弥生くんのあられもない姿が記録されたあの映像を、実は寝子ちゃんに目隠しされたあともう一度こっそりスマホで検索して視聴してしまったらしいのだ。
そしたらあまりにも異質なその内容にショックを受けて気絶してしまい、その衝撃がトリガーとなって再び喋れるようになった……とのこと。
とても良い事だ。
意志の疎通がより簡単になったのだから。
とはいえまだまだ流暢に喋れるわけではない。
数年間も喋っていなかったのだから当然だ。
「……ま、もる、しゃがん……でっ」
「あぁ、わかっ──ヘブッ!!」
「いきなりグーパン!?」
突然のトマルの正拳突きが弥生くんの顔面にクリーンヒット。いたそう。
そのまま仰向けに倒れた彼の上に跨り、トマルは下敷きになってる弥生くんをポコポコにし始めた。
どうやら彼女は本気で怒っていたらしい。
たぶん自分たちを置いていったことや自己犠牲精神で全てを一人で背負いこもうとした弥生くんに対して、つよい憤りを感じているのだろう。
「わたし……も、家族。……にげないで、たよれ」
「と、トマル……あの、とりあえず殴るのは一旦やめ──イ゛っ!?」
ポコポコから頬っぺたつねりに移行したようだ。
あれは暫くトマルのターンだろうな。放っておこう。
◆
まぁそんなこんなでチーム如月は再会を果たした。
一旦腰を落ち着ける場所として寝子ちゃんのボロアパートへ移動し、今はSNSで『敵』の情報収集をしながらお茶を飲んでいるところだ。
ちなみにトマルは寝子ちゃんとお風呂に入っている。もう夜だし。
つまりは今リビングのこの空間には俺と弥生くんしかいない。
いわゆる二人きりというやつだ。
特にドキドキはしないな。
「──で、弥生くんは光子からその話を聞かされたワケだ」
「……あぁそうだ。本人から『あなたが父親なんだ』って、そう言われた」
「はぇ~……」
らしいです。
光子のパパ、つまり未来の俺の結婚相手はこの弥生くんなのだそうだ。
聞くところによれば、あの最終決戦の時に光子が『パパ力を貸して~』といった時に弥生くんが反応しなかったのは──
「自分の娘を守るためだぞ。……そりゃ、最初から全力でやってたさ」
とのことだ。
他の主人公たちが反応したのも、寝子ちゃんの言い分である『助けを求められたから』という理由で反応して、パワーを高めたんだろう。
皐月かなめ辺りはマジで自分のことをパパだと信じて疑ってなさそうだけど……まぁ力は貸してくれたわけだし感謝はしておかないとな。
ともかく光子のパパは弥生くんで間違いないらしい。
「……如月、すまない」
「えっ。なんで謝るの?」
「オレは……正直、いまでも光子の存在を信じることができていないんだ」
「なんと」
自分とこの少女の間に生まれた──未来で生まれる子供。その存在によって、オレと目の前にいるこの恩人が結ばれるという事実がほとんど確約されてしまった。 |
大きめな吹き出しがテーブルの上にドスンっと落ちてきた。びっくり。
それはオレにとってあまりにも都合が良すぎる未来だ。オレの望んだ願望そのもの──この好意を抱いた少女と確かな繋がりを持ちたいという、自分の浅ましい欲望だ。 |
正直に言えば歓喜した。ついに運が回ってきたんだと思った。 |
だが現状を鑑みるに──オレは彼女を幸せにできない。 |
それどころじゃない。オレは……この子に自分への好意を抱いてもらえるビジョンが全く見えないんだ。 |
マジかよ。弥生くんめちゃめちゃ俺のこと好きじゃん。
困ったなぁ~! いやー、モテるってつらいですわ。
やば、こんなに好意を見せられたの初めてだから何かニヤニヤしちゃうな。
平常心平常心。
こんな時こそ冷静に、だ。調子乗らないようにしないと。
「弥生くんは不安ってこと? 私に好きになってもらえるかが?」
「……そう、だ。オレは……如月のことが好きだ。中身は男だって言われたけどそれは変わらない。だけどオレ自身を好いてもらえるような要素は何一つないし、光子はあくまで未来のことだから……それを理由にするわけにはいかないんだ」
「うーん……まぁ、そうだね」
正直に言うと。
「弥生くんのことは好きだけど、確かに『異性としての好き』、ではないかもなぁ。なんというか……トマルのこともあるし、親友的な?」
「う゛っ。……そ、そうだよな」
どよーんと落ち込む弥生くん。
あわわ、傷つけるつもりはなかったんだ。
ただ今の自分を俯瞰してみても、やっぱり彼に対して好き好き♡だーいすき♡みたいな好意は持ってないっぽい。
それは弥生くんの魅力云々ではなく、俺の精神の問題だと思う。
だって弥生くんのこと、異性として見てはいな──
「……うん?」
いや、ちがう……かな?
よくよく考えてみれば俺さっきから女子高生モード解いてないな。
というより無意識に女子言葉で話していた。一人称も私だ。
中身の性別をバラしたシーさんに対しては男口調だけど、弥生くんに対してはもう女子モードが板についてしまっているのかもしれない。
それって異性として見てるってことかな?
自分がよく分からないけど、少なくとも弥生くんに対しては女の子の状態で接してしまうようだ。
無意識ってことは、つまりそういう事なんだろう。
数少ない、俺が異性として見れる相手──その枠にいつの間にか彼が収まっていたらしい。
「なるほどな」
「……如月?」
「確かに今はメス堕ちしてないし、弥生くんのことも異性として好きではないね」
「め、メス……なんだって?」
まぁ、でも。
「チャンスはあると思うよ。私も別に弥生くんのこと嫌いではないし」
「……どういうことだ?」
「えっ? 好きな子にはアタックするって当たり前のことじゃない?」
今は好きじゃなくても、あとから好きになる可能性もある。
でもそういう妥協的な感情で
体育座りみたいに膝を抱えて、目を細めながら微笑を浮かべて彼の方を向く。
「ふふっ。光子が欲しいんだったら、がんばって私のこと好きにさせてね」
「っ゛……!?」
びっくりした顔をする弥生くん。
まぁ自分でも恥ずかしい発言をしている自覚はある。
でも主人公相手だし、多少は臭いセリフのほうが映えるだろ。
「ふふん。前も言ったけど私中身は男だから。ちょっとやそっとじゃ堕ちないよ?」
「お、お前な……」
「頑張ってくれたまえ少年。はっはっは~」
立ち上がって冷蔵庫の方へ赴く。
まだ
もちろん妥協で好きになってあげたりはしない。
弥生くんのアプローチがへたっぴだったら、光子は諦めて独り身になるしかないな。
……いや嘘。やっぱり光子は欲しい。
でも自分の気持ちも尊重したいから、どうか弥生くんは頑張ってくれ。
「なんとか私のこと振り向かせてよねぇ~……っと、これは」
お茶を汲んでテーブルに戻る最中、寝子ちゃんの筆箱から飛び出している折り畳み式の定規を見つけた。
拾い上げて開いてみると30センチになる。
「……うーむ」
「き、如月……?」
30センチになった定規を試しにお腹に当ててみた。
うおっ、やべぇ。変な笑い出てきた。
やっぱりこの子のアレ長すぎるよなぁ。
光子産むの無理な気がしてきた。
「ふへへ、25センチってやばいね」
「如月!?」
「入りきらなさそうだな……私ってば身体ちいさいしなぁ。おぉ、こわいこわい」
「やめて!? 自分が何言ってるのか冷静に考えてくれッ!!」
そんな感じでワチャワチャしてたら、お風呂から寝子ちゃんとトマルが上がってきた。バスタオル一枚で。
女の園と化した葉月家でいたたまれなくなってしまったのか弥生くんは涙目になって部屋の端っこに蹲ってしまい、彼が再び顔を上げるのは夕ご飯が出来上がってからのことだった。
いやぁちょっといじめすぎちゃったな。ごめんよ少年!
なんとカヤイ様から主人公かなめの支援イラストを頂いてしまいました嬉しい死ぬ
【挿絵表示】
前回紹介させていただいたTEAM POCO/CHIN様の主人公が素の状態に近いものだとすると、こちらは女子高生モードのヒロイン度数が高いときの主人公といった感じでしょうかグヘヘ