俺たちが寝子ちゃんの家に転がり込んだ翌日。
あの弥生くんを陥れた敵である女の子は邪神の力に乗っ取られ、現代に再びあのデカいタコ神が復活してしまった。
復讐にのめり込んだあの女の子は最初から邪神復活の贄として利用されていただけだったらしい。
弥生くんへの復讐心は本物だが、それが強すぎるあまり邪神に見初められてしまったのだ。
彼女の体を依代として復活した古代神ビッグオクトパスは以前戦った時よりもはるかに巨大になっており、またパワーも比にならないくらい強化されていた。
やはりというか──
「うぐぅ……っ!」
「シャァ゛っ!」
ロボットに乗った寝子ちゃんは終始圧倒されてしまっており、俺と合体したシーさんもたった今敗北して合体が解除されてしまったところだ。
「うわっ!」
「シャアッ!」
コンクリートの地面に叩きつけられるシーさん、そして彼の上にポヨンっと落下する俺。
なんとかシーさんがクッションになってくれたから助かったものの彼がいなければ即死だった。こわい。
「くぅっ……めちゃくちゃ強いなぁあのタコ……」
以前とはまるで比べ物にならない力だ。怨讐の彼方より蘇った邪神がまさかこれほどのものとは…… |
ビルの隙間から見上げて目に映るその姿はまさしく世界に終焉を齎す古代邪神そのもので。
すっかり疲弊してしまい、俺はシーさんにもたれ掛かりながら戦いの様子を眺める。
寝子ちゃんのロボットが故障してしまったいま、ヤツと戦えているのはただ一人だ。
「目を覚ませカガリぃーッ!!」
がしーんとぶつかり合うロボットとデカタコ。
あのロボットは未来で影男くんが搭乗する予定の機体、その前身となるロボットだ。
カガリってのは邪神に呑まれた女の子の名前。
ロボットに乗ってるのは弥生くんだ。
どうやら自分のパワーをエネルギーに変換してロボットを強化しているらしく、彼だけはなんとか邪神との戦いに食らい付いていけている。
『■■■■──!!』
「ぐぅっ!?」
形容しがたい奇声を発してロボットを弾き飛ばすタコ。
そこからさらに追加でビームを何発も撃ち込んで撃ち込んで撃ち込んで──弥生くんの機体はあっという間に大破してしまった。
「おわぁっ!!」
んでもってロボットの中から吹っ飛ばされてこっちに落下してくる弥生くん。
「シャッ」
シーさんが身を乗り出し、俺と同じようにポヨンっとサメクッションで彼は一命を取り留めた。
見るからにボロボロで頬からは軽く流血もしている。
ハンカチか何かあったかな……うーん拭くもの何も持ってない。
「んっ」
「トマル……ありがとうな」
するとシーさんの口の中に隠れてたトマルが外に出てきてハンカチを弥生くんに差し出した。
海の守護神は口の中も自由自在なのかトマルは全く濡れてないし涎なんかも見当たらない。
いいな、俺もシーさんの寝袋で一泊したい。
のんきな事考えてる場合か。 |
すません。
でもどうすっかね。あのタコ強いし、こっちは全滅だ。
あ、寝子ちゃんも来たな。
「うぅ~、負けてしまいました。ヴァルゴはもう動きそうにないです」
「お疲れ寝子ちゃん。はいこれみかんジュース」
「わぁありがとうございます。えへへ~」
さっき自販機で買っといたペットボトルのジュースを渡すと寝子ちゃんはそれを豪快に一気飲みした。
普段はほんわかしてるけどこういうところで男勝りなんだよな。
敗北直後でもここまで落ち着いていられてるし多分俺たちの中でも一番メンタル強いかも。
「おい二人ともそんなことしてる場合じゃ……」
「小休憩は大事だよ? はい弥生くんにもお茶あげる」
「お、おう……」
「トマルもジュース飲みな~」
「ぅん」
勝てないからといって焦ってはいけません。
こういう時こそ冷静にならねばならぬのですよ。
落ち着いて考えればきっと勝機が見えてくるはずです。
……でもさすがに正座をしてまったり休憩するのは落ち着きすぎじゃないか? あの古代邪神また一回り巨大化してるぞ? |
「なに、シーさんも喉乾いたの? ミネラルウォーターあるから飲むといいよ」
「シャッ」
いやそういうワケでは……一応頂こう。 |
これでようやくチーム全員が落ち着いてくれたかな。
よし、完璧だ。ようやく勝ちの目が見えてきた。
我に秘策あり──故にこうして皆の焦りを緩和させたのだ。
ふっふっふ、光子と影男くんキミたちのアレを参考にさせてもらうよ。
「というわけで合体しよう」
「ブッ!?」
俺が提案をした瞬間弥生くんがお茶を吹き出した。大丈夫かしら。
「げほっげほ! ばっ、お前いきなり何を!?」
「ほら、この前の戦いのときは光子と影男くんは合体してパワーアップしてたじゃない? アレすっごい強かったし私たちもあれやればきっとあのタコに勝てると思うんだ」
「い、いやアレはロボットのシステムだろ」
弥生くんがそう言うと、ペットボトルをゴミ箱に投げ入れた寝子ちゃんが割って入ってきた。
「いえいえ、ヴァルゴシリーズに合体機構なんて備わってませんよ」
「は……? それならアレはどういう」
「シャーク」
ふむふむなるほど。とりあえず俺がシーさんの言葉を翻訳してあげないとな。
「えっとね、シーさん曰く私が付けてるこの腕輪──シャークブレスは人の感情に強く作用する働きがあるんだって。それによって機械同士の合体やパワーアップも可能にできるらしいよ」
「その腕輪そんな規格外な力持ってたのか……」
というわけで。
「ロボットが……いや、私たちの子供ができたんだから親である私たちにできない理由はないでしょ?」
「……そう、なのかな」
あの二人が合体する光景を思い出しているのか、弥生くんは思慮に耽るように俯いた。
そして心のリンクだ。
落ち着いてないとできない。
だからこうして小休憩を挟んだワケだ。
「シャーク。シャッシャ」
弥生くんの肩を軽くたたくシーさん。
「シーさん……えぇ、そうですね。オレたちはチーム如月……みんなで一人なんだ」
「シャッ!」
どうやら翻訳するまでもなく二人の心は通じ合っていたらしい。
男同士だから気が合うのかな。俺もそうなんだけどなぁ。
ともかく弥生くんもこれで腹が決まったみたいだし準備万端。
「おや、トマルサン緊張してるんですか」
「……が、がったい、はじめてだから……」
「ウチもですからだいじょぶですよ。不安なら手を繋ぎましょう」
「んっ」
女子組もイチャイチャしとるわ。
……あれ、俺だけハブられてね?
「ぐすん」
「シャーク……」
面倒くさいなキミ……。 |
うっさいやい。
だいたい弥生くんは寝子ちゃんやトマルと仲がいいんだから、組み合わせ的にシーさんは相棒である俺の相手をするべきだぞ。
……というか。
「シーさんってトマルや弥生くんとは仲いいけど、寝子ちゃんとはどうなの?」
仲良かったっけこの二人。
「甘いですねかなめサン。シーワズさんに味噌汁の作り方を教えたのは何を隠そうこのウチなのですよ。シーワズさんのお料理の先生としてはかなめサンよりウチのほうが幾分か上です。ふふん」
「シャーク!」
「全然知らんかった……」
そういえばシーさんと初めて合体したとき「港で味噌汁の作り方を教わった」とか言ってたっけ。
「えっ、なんで寝子ちゃんがあの港に?」
「ウチの実家あそこら辺なんで。小さい頃は両親が亡くなってからよくあそこでお世話になったもんです。よければ今度いただいた余り物でお魚の味噌汁作りましょうか」
「ほんと? やったぁ楽しみだな」
魚介系の味噌汁なんて飲んだことないからワクワクしちゃうぜ。
シーさんも楽しみにしてるのかしっぽがブンブンと揺れている。
「……あの、みんな? そろそろ動かないとマズくないか?」
「はっ」
「シャッ」
「そうでした」
弥生くんの一言で我に返る俺たち。
そういえば世界を滅ぼさんとする凶悪な邪神が今もパワーアップを続けてたんだっけ。
いかんいかん、そろそろ休憩は終わりにしよう。
「よしっじゃあ始めよう! シーさん!」
「シャークッ!!」
合図と共にサメが宙に浮かぶ。
次第に体を水色に発光させていき、それと同時に俺のシャークブレスが輝き始めた。
そしてみんなでシーさんを囲むように円を作り中心に各々手をかざした。
えいえいおーってやるときのアレだけど、掛け声はちょっと違うのであらかじめみんなに伝えておく。
ごにょごにょ。
「あぁ、了解だ!」
「任せてください」
「みんなで、ぁのタコ、やっつける……!」
全員気合十分だ。
よし、行こう。
「シャークッ!」
今こそ世界を救うときだ! ヒトの子よ、叫べ! |
バディ──── |
『ゴーッ!!』
◆
そのあと4人でシーさんと合体して超巨大サメになり如月ブラスターで旧神ビッグオクトパスを焼きタコにしてやって勝利したあと、中の女の子も助けて一旦寝子ちゃんのお家に帰っていったのだった。
多分そろそろ最終回です。