これで最終回です。
世界の終焉を救済してから約一ヵ月後。
なんやかんやあって俺たちは現在、住む場所を転々としながら日本のどこかを旅していた。
かつての行い全てを世界中に拡散された弥生くんは当然というか普通の生活をすることは叶わず現状こうなっている。
俺とトマル、それから寝子ちゃんも付き添う形で一緒だ。
いまさら弥生くんを一人にするわけにもいかないしな。
今の警察から逃げる生活は案外エキサイティングで、逃げようと思えばこちらもいろいろ手段が豊富なので意外とやっていけてるし退屈はしていない。
それからあの敵だったカガリという女の子も行く宛てがないので俺たちと一緒に行動している。
一度俺たちに敗れたことで好戦的な部分や復讐心はすっかり鳴りを潜め、贖罪の意味も込めて献身的にサポートしてくれているので助かってます。
あそこまでしたヤツを仲間にするのはどうなんだ、ってシーさんには言われたけど、弥生くんが許してるんだからそれでいいと思う。
俺は当事者じゃないし本人たちが納得してるんならその件はもう終わりってことで。
弥生くんもカガリちゃんも恥ずかしい姿を世界に知られてるわけだし、全てを失った者同士これから仲良くなっていけばいい。
個人的にはあわよくば未来で光子の助けになってほしい、とは考えてるけどコレは秘密で。
……ていうか男女比だけで見たら弥生くんめっちゃハーレムじゃん。
彼から見たら俺も女子にカウントされてるだろうしそれで四対一。
まったく、ハーレム主人公なんて空斗先輩だけで十分なんだぞ。羨ましい限りだ。
「……? かなめ、どうかした?」
「んー、何でもないよトマル。うりうり」
最近拠点にしている場所の近くにある八百屋さんでの買い物の帰り道で、公園に寄ってベンチで一休みをしていた。
するとトマルが考え事をしていた俺の顔を覗いてきたからこれ幸いとトマルのほっぺをムニムニしてやる。
「んぅ……」
それをまんざらでもなさそうな顔で黙ったまま受けるトマル。かわいいやつめ。
ふふん、別にハーレムじゃなくたって俺にはトマルがいるからいいもんね。
もうトマルと結婚したい勢いだ。
「トマルはおっきくなったら誰と結婚するのかな~?」
俺だよな!
「けっこん、しない」
「何だってッ!?」
そ、そんな……どうして……。
「未来のわたし、けっこんしてなかった。なので」
「いっ、いやいやお待ちになって。確かに未来のトマルから浮いた話は聞かなかったけど……」
まだ十歳前後の妹から突然の未婚宣言を受けたお姉ちゃんは今とっても複雑な気持ちになってます。
アレは魔王だか何だかのせいで世界が大変な未来だったから結婚とかそういう余裕がなかっただけだろうし、トマルだってパートナーを見つけてもいいと思う──いや、でもやっぱりトマルは誰にも渡したくねぇな。
……もしかしてこの子が結婚してなかったのって俺が原因か? 悔い改めろよ俺……。
いや待てそもそもあの時紹介されなかっただけで未来のトマルには相手がいることだってあり得るし──
「かなめ、それはもういいから、はやく帰ろう」
急かすようにトマルに腕を引っ張られた。
まぁそうだ、未来のことなんざ今考えたってしょうがないよな。
早く帰って夕飯作らないと。
「うん、じゃあ帰宅だ~」
ベンチから立ち上がりトマルと手を繋いで公園を後にする。
空はオレンジ色でカラスも鳴いてるしそろそろ帰らなきゃな。
ここ最近はこんな何でもない日常が続いている。
たまに弥生くんが警察に見つかって追いかけ回されることもあるけど、大目に見れば常々平和だ。
ちなみに海外にいるウチの家族こと両親の事だが、実は家を出る前に父親に電話をしておいたのだ。
その時は……
『そうか! ついにかなめもそういう歳になったんだなぁ。……あのね、実は父さんも有名財閥の令嬢だった学生時代の母さんと駆け落ちしたんだ。いろいろ大変だったけど僕たちにも出来たしきっとかなめも大丈夫! 困ったら世界中のどこからでも駆けつけるから、いつでも電話しなさい! それじゃお幸せに!!』
……みたいな感じだった。
フットワークが軽すぎる。
なんでも両親は二人そろって海外でエージェントみたいなことをしているらしく、秘密裏に世界を守っていたらしい。
初耳だよバカ野郎。
そりゃ滅多に家には帰れねぇよな。
まぁ、てなわけで如月家が代々この世界を守ってて尚且つスゲぇ身軽な一族だと判明したおかげで、弥生くんや寝子ちゃんを説得することが出来てこうして一緒に旅をしていられているってワケだ。
転生してから前世の記憶こそ持ってはいたけど、どうやらこの
「かなめ、今日のご飯は?」
「ふふふ……晩飯はハンバーグと麻婆豆腐のどちらかを選択可能だぞ」
「な、なんと。まよう……」
「存分に悩みたまえ、はっはっは」
ウーンウーンと頭を悩ませているトマルと歩きながら、拠点を変えるとしたら次は何処へ向かおうかなとか考えてみる。
南の方とか暖かくていいかもしれない。
これから冬になるし南国とかで過ごすのもありだな……なんて。
そんな風に思い耽りながら歩いていれば、みんなの待つ我が家に着い──
いたっ! 彼女が宝物庫を開ける”カギ”か! |
……なんか目の前に吹き出しが落ちてきたんだけど。
「フハハハーッ! ようやく見つけたぞ!」
もういろいろと察しつつ声の聞こえた方向へ向くと、近くにある住宅街の一軒家の屋根上に変質者が立っていた。
マスカレードマスクにタキシード、それから派手なマントにハット帽子。
あまりにも時代錯誤なその風貌はまるで……うん、『怪盗』ってところかな?
吹き出しが出てきたことから察するに
「とうッ!」
勇ましい掛け声と共に屋根上から飛び降りる怪盗(仮)。
声からして男の子かな。
「あ゛っ!?」
しかし滞空中に足が電線に引っかかってしまい──
「ヘブッ゛!!」
不安定な体勢のまま落下。
コンクリートの地面へ思いきり顔面で着地してしまった。
……ぅ、うわ、ヤバい。
流石にあの高さから顔面で落下したら最悪死ぬぞ。
というか死んでないかコレ。なんかピクピクしてるけど。
「ぐうぅ、あいたたた……! ワタシとしたことが……」
「えぇ……?」
心配してスマホで119まで押しかけたそのとき、なんとその怪盗は多少痛そうに鼻をさするだけで、さもほとんどダメージが無いかのように立ち上がった。立ち上がってしまった。
普通なら鼻の骨や前歯が折り砕かれて冗談じゃ済まない状態になってるはずなのに、彼は鼻提灯のような鼻血を垂らすだけでまるで怯んでいない。
バケモノかコイツ。
「ふふふ、格好悪いところ見せてしまったね」
いや、もしかしてこの男の子──
「だが今のは演技だッ! さぁそこの少女を渡してもらおうか!!」
……うん。
ギャグ漫画系の主人公なんだろうな。
いつの間にか鼻に湿布張ってあるし、口元には怪我の痕なんかも残ってない。
あり得ないほど丈夫すぎるしこのテンションと雰囲気、いつか出るだろうとは思ってたけどついぞ出会わなかったギャグ系主人公だ。
ワタシの名は長月三葉。しかしそれは世を忍ぶ仮の姿── |
真名はクローバー! 人はワタシを怪盗クローバーと呼ぶのだっ! |
聞いてもないのに自己紹介してるあたり、多分いまこの状況は
こなれた様に簡潔にまとまった自分の人物紹介をしているところから察するにたぶん毎回話のはじめに自己紹介してるんだと思う。
おそらく小学生向けのコロコロしてそうな漫画雑誌の主人公タイプだ。
心なしか他の主人公たちより目のハイライトが多いし。
めちゃキラキラしてるよ眩しい。
「……あの、ウチの妹に何か?」
「なにか」
「隠しても無駄だぞっ。そこの少女は古代ナントカカントカ遺跡を守り続けてきた古代人の末裔だろう! この古代人レーダーが反応しているから間違いない!」
古代人レーダーってなんだよ。
ていうかトマルって古代種族の末裔だったの。
「人違いだと思うんですけど」
「おもうんですけど」
「問答無用ッ!」
俺の言葉を復唱するトマルの声にも耳を傾けず、怪盗クローバー(笑)はロープを取り出してジリジリと此方に迫ってくる。
な、なんだなんだ、怪盗って名乗るだけあって悪い方の主人公なのか……?
「末裔がいなければ遺跡の秘密の扉は開かない……! 世界を救うためには扉の先にある古代兵器が必要なのだ!」
はぁ!? また世界の危機かよ!?
「いい加減にしろテメェこら! こちとら一ヵ月前に地球の未来を守ったばかりなんだよ! 少しは休ませろバカ!」
「えっ、えぇ……!? そ、そうなの……?」
「そうなの」
俺とトマルの言葉を聞いて怯む怪盗クローバー……長月三葉くん。
どうやらこっちの事情を聞いて思いとどまってくれたのか、彼はロープを仕舞って顔のマスカレードマスクを取り外した。
案外童顔な男の子だったようだ。少し年下くらいかな。
ていうかこの世界簡単に滅亡の危機に瀕しすぎだろ。
少しはペース配分を考えろよ節操無しがよ。
──とりあえず三葉くんの話を詳しく聞くことにして家に招き入れたら、なんか話してる途中で空から宇宙船が落ちてきて中から美少女が出てきたり、少女漫画みたいな画風のイケメン吸血鬼が寝子ちゃんを攫いに来たり、突然異世界から来たとかいう男が現れていきなり弥生くんを抱きしめてボーイズラブっぽい雰囲気を醸し出したと思ったら『前世の約束だ、共に往こう』とかいって彼を連れていったり──
それから先は……まぁ、とにかくいろいろあった。
その度に問題を解決して、いろんな人たちをハッピーエンドに導きながら、全てが終わったあとにいつもこう思うんだ。
この世界は主人公が多すぎる──ってな。
あぁ、そうそう。
ちなみに結婚式の招待客は凄まじい人数になりました。
これにて完結です。
全三十四話お付き合いいただきありがとうございました。感想を拝見するのめちゃめちゃ楽しかったです。
ネタ切れじゃないよほんとだよ!
この作品は一旦終わりになりますが作者の詰め込みたいものを闇鍋にしたのがこの作品なのでまた何か思いつき次第フラっと更新される可能性もあるよ、ということだけ。
あとそれから(前言撤回)ちょっとしたアンケートを置いとくのでお暇な方はぜひ。
それでは皆様ありがとうございました。またどこかで~
(内容未定のR18の番外編)これいる?
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書け
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(いら)ないです