主人公が多すぎる   作:バリ茶

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中編になっちゃいました 次回でちゃんと終わります

あとサブタイ詐欺で今回はTSっ娘中心です
いつもと違って少しだけ戦闘描写もあるのでお気をつけください


ループくんと復讐くん 中編

 

 

 

 妹さんの話を知って同情気味になってしまった結果、なんとなくそのままお別れってことにはしたくなくて、とりあえず進くんをファミレスに誘ってから少し経って。

 

 

「……ご注文は」

 

 

 なんだかテンションが低い、ファミレス店員の衣装に身を包んだバイト戦士こと弥生くんが、俺たちの前に立っていた。

 

 確かにバイト先に知り合いが来たら元気がなくなるものかもしれないけど、それにしたって露骨すぎやしないだろうか。そんなに俺のこと嫌いなのかい。

 いやまあ、分からなくはないけどね。冷やかしだって思っちゃうもんね、こういうパターンって。

 

 でも信じてくれ。俺たちがキミのバイト先に入店したのは、マジで本当に偶然なんだ……!

 

「わたし、デミソースオムライス」

「そちらのお客様は」

「ぁ……えっと、和風定食で……」

「デミソースオムライスと和風定食ですね、少々お待ちください」

 

 手元の機械をポチポチっと操作した弥生くんは、それから背を向けて厨房へと消えていった。

 やけにどんよりしてたし、もしかしたらアレは俺たちが来たからっていうより、単にバイトの疲れが溜まってるってだけなのかもしれない。

 

最悪だ。まさか七連勤目で疲労困憊のところに如月が客として訪れるなんて。オレいま死人みたいな顔してるし、できれば彼女にはこんな顔見られたくない。ていうか一緒にいるあの男子だれ……?

 

 料理よりも先に、テーブルの上に吹き出しがお届けされた。コレは注文してません。

 

 

 にしても本当にお疲れの状態だったとは。弥生くんには悪いことしちゃったな。

 

 休日もこうして働きづめってことは、よっぽどお金に困っているのだろうか。時間止めたりとか透明化とかすればいくらでも証拠を残さないお金の増やし方があるだろうに……どうやら弥生くんは、俺の想像以上にまっとうな主人公だったらしいな。

 

 力に溺れないその姿勢、えらいっ。

 

「かなめ。あの人知り合いか?」 

「友達だよ。わたしたちと同じ学校だし、学年も一緒」

「へぇ……」

 

 俺の言葉を聞いた進くんは顎に手を添えつつ、他の客の注文を承っている最中の弥生くんを目で追っている。

 

あれで一年生か……。見ただけで分かったが、間違いなく彼も相当な修羅場を掻い潜ってきた猛者だ。タイムリープしていたあの頃にオレが戦っていた連中と、どことなく雰囲気が似ている。

 

 またテーブルに吹き出しが! もうお腹いっぱいです……。

 いいや、とりあえず俺の隣によけとこう。主人公と一緒にいたら必ず発生するものだし、そろそろ慣れておかないと駄目な気もするな。

 

少し前にもバケモノと戦ってる少女を見かけたし、この街って意外と『そういう人』がたくさんいるのかもしれない。

 

 これはユリ先輩のことかな。女の子でなおかつ異形の怪物系統の敵と戦ってるのって、今のところあの人だけだし。

 あとこの吹き出しも横に退けよう。よいしょ。

 

 その後もポンポンと出てくる進くんの吹き出しをお掃除しつつ待っていると、ほんの五分ちょっとで料理が到着した。

 当然持ってきてくれたのは弥生くんだ。本当にお疲れ様です。

 

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

「あっ、待って弥生くん」

「っ。……どした」

 

 一旦呼び止めると、彼は周囲を見回してから此方に向き直った。他に注文や料理待ちのお客さんもいないみたいだと察し、俺と話してもいいと判断したのだろう。

 他の店員からの目を気にしないのは……まぁ、疲れてるからなんだろう。大目に見てあげてください。

 

「今日ってバイト何時に終わる?」

「ぁー……あと三十分くらい。なんでだ?」

「終わりまで待ってるからさ、帰りに何か奢らせてよ。七連勤でお疲れらしいし、迷惑じゃなければ労いたいっていうか」

「……気持ちは嬉しいが。なんで七連勤だって知ってんだ」

 

 あっ。やべっ。そういえば吹き出しを読んだだけで、直接聞いたわけじゃないんだった。

 これじゃ俺ストーカーみたいじゃねぇか。

 

 心が読めるってことは、どうしてもこの弥生くんだけにはバレたくない。

 今はまともだけど、ファーストコンタクトの時の彼はアレな欲望が全開だったんだ。そんな気持ちを抱えていてソレを読まれてたって知ったら、弥生くんがショックを受けてしまう。

 なんとか誤魔化さなきゃ。

 

「ぇ、えと、あのっ、アレ! ここら辺よく通るから! このファミレスの前を通った時に、いつも弥生くんいるなぁーって思って!」

「あぁ、そういうことか」

「そういうこと! で、どう……?」

「オレは……」

 

 弥生くんは視線を俺から進くんの方に切り変えた。

 すると進くんは何かを察したようで。

 

「あっ、こっちの事は気にしないで。このあとすぐに帰るから」

 

 進くん帰っちゃうのか。遠慮しなくても──あぁいや、確かにその判断に行き着くよな、普通。

 この状況って俺からすれば友達が二人いる状態だけど、弥生くんと進くんからすれば相手は『友達の友達』なんだ。そりゃ気まずいし遠慮するわ。

 

 しまったな。考えもなしに弥生くんを誘ったのは悪手だったかもしれない。これじゃ俺、完全に空気が読めない奴だ。結果的に二人ともを振り回しちゃってる。これがましょうのおんなってやつか……。最低だな俺……。

 

 

──んっ? レジの方……騒がしいな

 

 

 うーんうーんと俺が頭を抱えていると、弥生くんから吹き出しが出てきて俺の頭にぶつかった。

 それに気がついて俺も顔を上げてレジの方を見ると、なにやら店員と客が揉めている様子だ。

 

 店内に押し入ろうとする──顔を包帯グルグル巻きにしたロングコートの男と、その傍らに佇んでいる無表情なロリっ子。

 

「なに、あれ……?」

 

 どう見ても普通の客じゃない。入り口で店員が止めようとしているのも、明らかに彼らが不審者だからだろう。

 

 

 顔全体を包帯で覆った包帯男は無理やり店員を押しのけると、彼は此方を向いて高らかに声を挙げた。

 

 

「おァッ! 見つけたぞ弥生守ゥーッ!! 探したぜェ~~ッ!」

 

 なんかキャラが濃いな……。声もスッゲェ高い。

 アレ不審者って言うより絶対何かの物語のキャラでしょ。

 

「弥生くん、お知り合い?」

「いや全然知らん。なんだアイツ……」

 

あの風貌、どう見ても普通じゃない。だが、如月でもこの少年でもなく、オレが狙いってのはどういうことだ……?

 

 身構えて警戒する弥生くん。ついでに出てきたティッシュ箱サイズの吹き出しは俺がキャッチした。

 

 彼の知り合いでないとすれば……敵じゃん。

 絶対悪いヤツだよアレ。あんな怪しい格好で変な声で妙なセリフで、なおかつロリも引き連れてるとか、百パーセント味方側のキャラじゃない。

 

 剣呑な雰囲気を感じ取って身構える俺たち三人の方へ、包帯男は腕を広げながら無表情ロリと共に近づいてくる。

 

「オレ様はセマカってちゅーモンだ! 魔王候補の一人……つっても分かんねぇか。とにかくお前! 弥生マモル! テメーの身柄を拘束しにきた!」

 

 あ、魔王候補ってことは文月浩太くんの物語の敵か。

 

「なぜオレを?」

「ハァーッ!? なぜってそりゃ決まってんじゃねぇか! おめーの能力が強力だからよーッ!」

 

コイツっ、誰にも話してないオレの力のことを、なぜ……!?

 

「クソ強ぇおめーを洗脳してオレ様の傀儡にすりゃあ、魔王選別戦はオレ様の独壇場になるッ! あの憎たらしい文月のクソガキだってぶっ潰せるし完璧だァ! ってことで大人しく捕まってもらおうかなーッ! お兄ちゃぁん!?」

「他のお客様に迷惑ですのでお帰りくださりやがれ。オッサン」

 

 お互いの間にバチバチと火花が散る。まさに一触即発。

 まだ互いに様子見のようだが、このままではこのレストランがバトルフィールになってしまう恐れがある。

 

 

 ……てか、こんなことになるなんて思わなかった。

 何で俺の目の前でバトル漫画の導入部分が繰り広げられてんの? こんな物騒な現場に居合わせたの生まれて初めてだよ。こわいよ普通に。

 

「なんなの……」

 

 さっきキャッチした吹き出しを握る力が自然と強まる。これマジで逃げないと巻き添え喰らって死ぬんじゃないか。どーしよ。

 

 ──あ、でも大丈夫じゃね? 

 あの包帯男が言ってた通り弥生くんってクソ強いし。

 時間を止めればそれで終わりでしょ。勝ったな、がはは。

 

 

なんだ!? 体が動かせない……ッ!?

 

 

 フラグでした。

 

「ハーッハッハ! オレ様の横にいるこのチビ助の名はトマルちゃんッ! 組織から盗み出してきた改造人間ってヤツさぁ! このちっこいのに一度見つめられた能力者は肉体と同時に能力も『停止』するのよォーッ! 最大で五分だがそんだけありゃ十分だッ! おめーに麻酔銃を撃って連れ帰るなんて五分もありゃ造作もねぇぜアッハッハ!!」

 

 こんなコッテコテの悪役いまどきいる? 時代劇かなにか? この清々しさには見習うものがあるわ。

 ……って、それどころじゃない。めっちゃピンチじゃないか。

 

 弥生くんは停止させられちゃってるし、頼れるのは進くんだけだ──

 

まずい、オレはループ能力と共に戦闘能力もほとんど失ってしまって今やただの一般人だ。

 

 マジかよやば……大ピンチ……(´;ω;`)

 ふ、吹き出しだけが積み上がってゆく。このままじゃマズい。

 

五秒程度なら高速移動できるが、肉体強化もなしじゃまともに機能しない。攻撃なんてもってのほかだ。

 

弥生くんには悪いけど……せめて、かなめだけでも──

 

 

「むむっ! トマルちゃんッ! そこの男の子も睨みつけなさいッ!」

「なに──グッ!」

 

 ロリっ子が眦を決した瞬間、席から立ち上がろうとしていた進くんも『停止』させられてしまった。

 これで正真正銘戦える人間がいなくなった。主人公二人が完全に封殺されてしまったのだ。

 

 あのロリっ子、いささか初見殺しが過ぎる。その能力を先に知っていれば弥生くんの時間停止(ザ・ワールド)や進くんの高速移動で対処できたと思うけど……駄目だな、この思考は。俺は彼らに求めすぎている。

 

 二人とも主人公とはいえ、既に戦いからは身を引いた人間だ。

 そんな彼らにこんな不意打ちのトラブルを首尾よく解決しろだなんて無茶ぶりってものだろう。この状況に陥ったのは彼らのせいではない。

 

 むしろ進くんの思考を邪魔してしまった分、俺の存在が枷になってしまったに違いない。

 

 

 つまり、俺のせいだ。

 

 この状況を招いてしまった以上、この事態の解決には俺が注力しなければいけないのだろう。

 

 

 そうして俺は──吹き出しを拾い上げた。

 

 

「あン? てめーも能力者か。おらロリっ子! アイツも睨みつけちまえッ!」

 

 俺は止まらない。

 ロリのおめめに睨みつけられたところで痛くも痒くもない。

 

「あ、あれ? なんで……」

 

 俺は能力者ではないからな。マジの正真正銘ただの一般人だ。文月くんのお墨付きだぞなめんなよ。

 ……ぁ、いや魔法少女の素質はあるんだっけ。でも能力者ではないからセーフって感じなのかな。

 

 どちらでもいい。今この状況じゃあスマホを使ってユリ先輩や空斗先輩を呼ぶことは出来ないし、なんにせよ『吹き出し』を触ることができるだけの一般人でしかないこの俺が、今ここで戦わねばならんのだ。

 

き、如月……ッ!?

 

まさか戦うつもりか!? ダメだ、かなめっ!

 

 吹き出しが提供された。とてもありがたい。

 俺はそれを拾い上げ、文月くんの隣で建設作業をしていたあの時のように、二つの吹き出しを目の前に『積み上げて』いく。

 

「よいせ、よいせっ」

 

 さらに料理を待っている最中にずっと除け続けていた進くんの大量の吹き出しも席から引っ張り出し、先ほど作った『二個分の吹き出し』の上に乗せた。

 これで俺たち三人の前には()()()()()が設置されたことになる。例えるなら、学校の教室のドア程度の大きさの壁を、二枚作って立てた感じだ。

 

 だが、ドアと違ってこの吹き出し壁には三十センチほどの()()がある。

 指でノックするように軽く叩いてみれば、帰ってくる音からして強度は十二分に確認できた。

 

「オイオイそこのおじょーちゃんッ! 一体何やってんだパントマイムかァ!? 追い詰められすぎて奇行に走っちまうとは、つくづく哀れな女だねぇ~ッ! ま気持ちはわかるけど! こわいもんね!!」

 

 ヘラヘラと笑いながら、いつの間にか取り出した銃をこちらに向ける包帯男。

 銃口を見るにアレが先ほど言っていた麻酔銃だろうか。

 

「万が一にでも実弾で弥生守に怪我ぁさせるわけにゃあいかねぇのでね! おじょーちゃんもコイツで眠ってもらおうかな! ついでに持って帰って遊んじゃおっ♪ いくゆォ~~ッ!?」

 

 トリガーに指が掛かる。しっかり両手持ちで狙っている辺り、確実に俺を仕留めるつもりだという様子が伺える。

 

 

かっ、かなめ──ッ!

 

如月……ッ!!

 

 

 停止した二人の声は『形をもって』現実に具現化される。

 大きさで言えば500mlのペットボトル程度。

 俺はその二つを脇腹に抱え、吹き出しの壁の後ろで身構え、叫んだ。

 

「こい! 悪党ッ!」

「お望み通りぃッ!!」

 

 俺の挑発に乗った包帯男が引き金を引いた。

 

 

 ──しかし。

 

 

 針が届くことはない。何故なら俺たちの間は、強固な壁で隔たれているからだ──!

 

「っ!? なっ、なにィ──ッ!? まっ、()()()()()()()()()()()()()だとォーッ!?」

 

 ふははははーっ!! 見たかーっ! ばーかばーか!!

 空中で針が止まってるんじゃなくて、本当は俺が積み上げた『吹き出し壁』に刺さってるだけだもんねーっ!

 

 前に文月くんの隣で階段を作ってた時に薄々感じてたけど、俺が『触れた』吹き出しは質量と共に頑丈さも得るらしいし、麻酔針なんて弱っちい代物ならご覧の通りちょっと刺さってそのまま停止する。全て狙い通りだ。

 

 なにより『積み上げた』吹き出し同士は、まるで接着剤が付いているかのように『結合』して『一つ』になる。

 つまり俺が作った吹き出しの壁に隙間は存在しない。どんだけ針をブチ込もうが俺たちにソレが通ることは決してない。

 

 

 そして謎の現象に狼狽した今のお前は無防備だ──!

 

 

「くらえっ!!」

 

 吹き出し壁の横から体を出し、脇に抱えていた『か、かなめ──ッ!』と『如月……っ!!』の吹き出しを『結合』させてデカくて重いレンガのような物体にしたのち、ソレを包帯男の顔面に向かってブン投げた。

 

「へブッ!?」

 

 見事に吹き出しレンガが顔の中央にめり込んだ。前が見えなさそう。

 

 ふっふっふ……どうだっ、俺だって戦えるんだぞ! ざまーみろ!

 

 




【如月かなめ】:能力者ではないが妙な物体に干渉できる謎の人物

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