最終選別を終えてから半年の月日が流れた。
陽壱自身は、今こう思っている。
"長い休みが欲しい”
とは思ってはいるが鬼どもが蔓延っている今は、そんな事を考えている場合ではないかとそんな考えは捨てることにした。
これだけは思っていた…心が休まる場所ぐらいは欲しい。
10歳の時に両親が鬼に殺されてから4年間、両親を悲しんでいる暇もなく、一人で寂しく過ごしてきた陽壱にとって心が休まる事もなく走り続けた。緑壱の生まれ変わりとはいえ子供だ、家族がいない者にとっては心が安まる場所が欲しいと思うのは普通のことだ。
鬼を斬ったらまた鴉が別の方角を示す。毎日その繰り返しである。
鬼を斬ること自体は良いんだが、そこそこ強い鬼に遭遇してないので問題ない。
移動距離が長い!休憩時間がない!給金されても使う時間がない!そもそも帰る家もない!家があったとしても帰る時間もない!帰ったとしても両親が殺されて誰も居ない!ほぼ、心が安まる暇が無い!
「あの時だけか…心が癒やされたのは」
陽壱が言ったあの時…それは藤襲山で胡蝶カナエと一緒に過ごした7日間だけ心が癒やされた。彼女と過ごしていく内に守って「なんでこんなことになったんだぁ!! せっかく十二鬼月になれたのに」うるさい声で陽壱の思考が遮られる。
うるさい声をした方を見てみると、体が消滅しかけていて頸が地面に転がっていて、顔には額から顎にかけて傷が付いており、右目には下参と文字が刻まれている。十二鬼月と遭遇したのだ。
「お前が現れなければ!俺はこれからもっと…もっと…!」
「うるさい! 日の呼吸 壱ノ型 円舞」
思考をうるさい声で遮られてしまったのでその事で少しイラッとした陽壱は、鬼にトドメを刺して消滅した。
「やはりこの世は美しいな…………………はやく穏やかに人々が暮らせるようにせねばな…………………その為にも彼女に会ってあの時と同じように協力を求めるするか」
陽壱は気掛かりな事がある。昔、縁壱さんの心をほんの少しだけでも救ってくれた一家、鬼舞辻無惨と一緒に居た鬼の女、その者達が今どうなっているのか。陽壱の気掛かりの一つ、鬼の女に会いに行こうと決めた。会えるかどうか分からないが、街へと向かって歩き出した。
■■■
数日後
「そう簡単には見つからないか…鬼は見つかるというのに」
陽壱の街から街へとやってきたが探している人は中々見つからない。その代わり、この数日間で数体の鬼どもを狩っている。
そして、日本の中心、東京へやってきた。
「…な、何なんだこれは………夜なのに明るい……東京はこんなのなのか?」
東京府 浅草 夜
陽壱が暮らしていた近くにも集落や町は有ったが、その場所とは違い此処は別の世界。
完全に日が落ちているというのに昼間のように明るい。
陽壱が住んでいた田舎の建物とは違い、西洋風の建築物と和風の建物が混在し建物も今まで見てきたものとよりも高いものが多い。
「こ……このままだと、あまりの人の多さで酔ってしまう。人の通りが少ない場所に移動しないと」
陽壱は人混みの中をなんとか移動するが中々前に進めない。仕方ないので道の端により歩いていると路地裏があり通り道になっていた。
「しょうがない、人が多いよりはマシだ」
陽壱は路地裏に入り進むと、暗い中男女が接吻をしていた。
「んな!?し…失礼しました!!」
その光景は陽壱のような子供にとっては余りにも刺激が強かったので頬を少し赤くして、逃げるように先程の道に戻り、しばらく人混みの中を移動している。
「…?この気配は…まさか」
突然昔、1度だけ会った気配を感じたのですぐ側の路地裏に入り、先程の道からは暗くて見えにくい所で壁に寄り掛かった。先程の道を横目で人混みの様子を見ていると、大きな気配をした奴はそのまま通り過ぎていった。
人と人の間から大きな気配をした人物が見えた。そいつは七つの心臓、五つの脳が体の内部にあるのを陽壱は透き通る世界で確認ができた。七つの心臓、五つの脳が体の内部に有るだけで誰だか分かった陽壱。
「あの野郎…人間に扮して人間社会に紛れ込みやがって…隣の女性はアイツ正体に気付いてないか」
あの野郎…鬼舞辻無惨が人間に扮して人間社会に溶け込んでいた。しかも、人間の女性を連れて歩いていた。その姿を見て陽壱は歯噛みして、壁に寄り掛かっていた体勢から駆け出す体勢に変えて、日輪刀の柄を自然と握っていた。陽壱はこのままの体勢で考えていた。
「(あの野郎を追って戦うのは簡単だ。ここで選択を間違えたら今度は俺が追い詰められる立場だけではない。あの野郎は俺から逃げるために周りの人達にも被害が及ぶ可能性がある…それはまずい)」
すぐに追うのは簡単だ。だが、このまま追えば縁壱が鬼舞辻無惨と追い詰めたときとは逆の立場となる。緑壱の生まれ変わりとして産まれたとはいえ、今の体では陽壱が追い詰められる『そんな状況を自ら作ってしまう』。それだけならまだ良いが陽壱から逃げるためには周りにも鬼に変える可能性がある…そう思うとここでは手を出すわけにはいかない。
あの野郎が仮にそう動くと想定したらと考えた陽壱は柄を握っていた手を離すしかなく、ゆっくり歩いて先程の道に出て無惨が歩いて行った方向を眺めた。
「(無惨よ、今はあえてお前を生かしておく。これもお前達…鬼どもが居ない美しい平和な世界にする為だ。数年後、必ずお前と相まみえる、その時が来るまで首を洗って待っておけ)」
陽壱はそう心の中で誓い、無惨が歩いて行った方向とは逆の方向へ歩き出した。
そして数年後、陽壱が言った言葉現実となり、とある所で無惨と対峙することになる。
「……」
しばらく、陽壱は浅草の夜の街を黙って散策していると違和感を感じた。人ごみの中にぽっかり空いた空間。なぜか常に人通りの中に穴が不自然に開いている。姿を隠す血鬼術なのだろうか。
そして人通りのない所に来たので陽壱は立ち止まる。
「そろそろ、姿を現してもらおうか」
普通の鬼なら陽壱に襲いかかってる所だけど、陽壱に対して殺気を向けてないので優しい口調で言った。尾行されている事が分かったので、人が居ない場所なら姿を現すだろうと思い、ここまで歩いてやってきた。
「あなた様は……縁壱様ですか?」
「自分は縁壱ではあるが縁壱ではない」
現れたのは以前無惨と対峙した時に見逃した珠世だった。この人は自分が縁壱の生まれ変わりだという事は知らない。縁壱と顔がそっくりの自分の事を縁壱と間違えての名前を言うのも仕方が無い。その辺も含めて会って話をしたかった。
「縁壱様ではないとは一体どういう事ですか?」
「その事についても話がしたい、何処か話が出来る場所はないですか?」
「それなら、私の拠点に案内します。私の方もお話があります」
暫く珠世さんと同行し、あたりは住宅街があったが、それはフェイクで、通常では認知できないように隠された屋敷があった。屋敷を見ると珠世さんが持っていた札と同じ絵が書かれていた。
「珠世様!鬼狩りを連れてくるとはどういう事ですか!」
屋敷にはもう一人鬼がいて、気配からして人を喰った鬼ではない事が分かった。
「愈史郎、この方は信用できる人なので、協力してもらいたいと思います」
「(信用…できます…)珠世様!こんなガキに何が出来るというんですか!(くっ!)」
愈史郎という鬼は陽壱の姿を見て判断した。陽壱の姿を見て判断しただけではない、愈史郎としては珠世が言った"この方は信用できます"のところ部分に対してちょっと嫉妬して陽壱を睨み付ける。自分よりガキの癖に…どれだけの歳月を掛けて信用してもらったか…それを今日、会っただけで信用されるなど…この男を見極めてやるとそう心に誓った愈史郎。
そして、珠世の案内で別室に入り陽壱が畳に正座して、向かい合うように珠世も座り愈史郎は珠世の左斜め後ろに控えた。
「それで、先程の“縁壱様”ではないとは一体どういう事ですか?」
「そこからまず話をしよう。実は……」
陽壱は珠世に話をした。4年前に自分が緑壱の生まれ変わりだという事を知ったこと、今は鬼殺隊に入って鬼を狩りながら兄上と無惨の行方を追いながら体を鍛えている。
陽壱から聞いた途端に珠世は先程のお淑やかな雰囲気からガラッと変わった。
「縁壱様の生まれ変わり!! これなら…これなら!あの臆病屑野郎を屠れる!!」
「興奮している珠世様も綺麗だ!」
「(これは時間が掛かるなぁ……)」
珠世はご乱心してから少しして落ち着きを取り戻して「お騒がせしました」と言って陽壱に謝ってきた。
「まぁ、そういう事だから、今度から九条陽壱と呼んで欲しい」
「分かりました。それで陽壱さん、私と協力関係を結んで欲しい」
「それは俺の方も無惨の奴を完全葬るために、再び協力してくれとこちらから頼むつもりではあった」
珠世は頭を下げてお願いしてきた…陽壱自身も珠世に会って最初っから協力して貰うように頼むつもりだったので陽壱も頭を下げてお願いした。そして、この二人の姿を見ていた愈史郎は陽壱に対してこう思った。
「(この鬼狩りは…九条陽壱は平気で自分達に頭を下げてる事が出来るんだ!鬼狩りは普通…鬼を見つけたら鬼の頸を狩る。そんな簡単に頭を下げるなんてことはしない、珠世様が信用するわけだ。俺の方がガキだったか…嫉妬するなんてな)」
そう愈史郎が思っていたら、お互いに頭を上げていた。
「それで陽壱さん、私は今鬼を人間に戻す薬を作っております、後は老化を促す薬と分裂阻害の薬を」
「鬼を人に………………珠世、そのまま続けてくれ。今は無惨の奴と戦う時ではない。数年ぐらいの時間が必要だから」
「そのように致します。縁壱様の生まれ変わりである陽壱さんがいるのであれば、あの馬鹿の怯える顔が眼に浮かびます」
「薬はどうなりそうだ?俺に出来る事があれば手伝うが」
「ではあの馬…無惨に近い鬼を倒しその血を採取して欲しいのです、この道具を差し上げますので」
珠世さんから三本の短刀を出して陽壱に渡す。陽壱は短刀がどうなっているのかを見てみた。
「治療薬を作るためには、たくさんの鬼の血を調べる必要があります。その短刀を使ってできるかぎり鬼舞辻の血が濃い鬼から、特に十二鬼月の血を採取して欲しいのです」
「十二鬼月…あちゃ~数日前に下弦の参を斬ったばっかりだ」
「え?数日前に十二鬼月と斬ったんですか?」
「あぁ?そんなに強くはなかったが無論俺もだが」
無惨を追い詰めた人が強くないと言ったら他の人達はどうなるの?と珠世は考えたが、それを突っ込んでいたらキリが無いなと判断してスルーする事にした。今後十二鬼月と闘った後は血を採取するように頼んだ。
「先ほどお渡しした短刀は鬼の身体に突き刺すことで自動的に血を採ることができます。それをこの子を介して届けてください。」
「この子…?」
「―…茶々丸」
『ニャーー』
鳴き声と共に現れたのは一匹の小さな猫。
「「なぁ!」」
珠世と愈史郎は驚きの表情をしていた、現れた場所が陽壱の太ももの上だったから。陽壱自身は太ももの上に現れたからってそこまで驚きはしなかった…何故なら、この部屋に入って数分して太ももの上に重みを感じていたからだ。重みの正体が猫だったとは思ってもいなかった。
「俺は動物に好かれるから気にしないでくれ…珠世さんに聞きたいことがもう一つある」
「はい、何でしょうか?」
無惨の奴と対峙したあの時、奴が言っていた言葉を思い出し、推測した事を珠世さんに伝えた。無惨は「呼吸を使う剣士にはもう興味がない」もしかして無惨の奴は他の鬼を目を通して戦いを見る事が出来る、位置まで把握できるではないと事を伝えて、その事を聞いて珠世さんも考えてた。
「おそらく、陽壱さんの推測は当たっている可能性が高いと思われます」
「やはりそうか、対策はこれから考えておくか。俺は行くよ」
そう言って陽壱は猫を太ももの上から降ろした後、立ち上がり部屋を出ようとしていた。
「はい。では武運長久を祈ります」
「九条陽壱」
ふいに兪史郎に名を呼ばれた。彼に名を呼ばれるのは、初めてだ。後ろを振り向けば、彼はすでに俺に背を向けていた。
「死ぬなよ」
愈史郎の顔は見えないが陽壱はなんとなく彼の表情が分かった気がした。
「フッ、あの野郎を葬るまで死なねよ」
久々に自然と笑った気がした。陽壱は屋敷後にした。
文才が欲しいな。