エレちゃんとドラちゃん   作:ら・ま・ミュウ

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ビーチバレー

「……本当にここが冥界なのよね?」

 

波のざわめきと潮の香り。雄大な海と白い砂浜。真っ白なパラソルの下で日焼け止めクリームのチューブを持って首を傾げるエレシュキガルは自らの数倍ある浮き輪を抱えコロコロと笑いながら砂まみれになるドラちゃんを尻目に現実味もなくそう呟いた。

 

「どらどら~♪」

 

この間にも人は死に、そして魂は冥界へと堕ちている。されど、エレシュキガルやその代役になれるミニドラがこのような場所で遊び呆けていられるのはミニドラが四次元ポケットから呼び出した『コピーロボット』と『増えるミラー』の恩恵を受けているからに他ならない。

 

「何千年も働き詰めだったから、いきなり休みを貰っても実感が湧かないのだわ」

 

人工の太陽の光を見上げ瞳を細めるエレシュキガル。

 

どのみちこの暖かな大地で魂達が凍える事はないだろう。

エレシュキガルを模したコピーロボット達には悪いが、死者の魂は回収する間もなく消滅……安らぎを得て成仏していくのを彼女は感じていた。

(冷たい檻の中で消えるよりも、ずっと早い)

ドラちゃんに悪意がないのは分かっているが、貴方の力があれば私だって……少しだけ嫉妬する自分がいた。

 

「どらら?」

 

ふと顔を上げるとミニドラがビニールボールを掲げて此方を見ている。

 

「……ドラちゃん」

 

「どらら」

 

「私、遊んだ事がないの。だから教えてくれない?」

 

「どららっ!」

 

するとミニドラはポケットに両手を入れて正方形型のカメラ『着せ替えカメラ』を取り出した。ついでに紙とクレヨンも引っ張り出し、それらをエレシュキガルに押し付ける。

そして口に紅色に染めて腰に手を当てくねくねと踊り出した。

 

「もしかして貴方をモデルに絵を描いて欲しいの?」

 

「ど、どららら…!」

 

二十二世紀において子育てロボットのモデル品として製造されたミニドラには言語機能は搭載されていない。

「近いが、違う」のだというジェスチャーを必死におくるミニドラは手をワタワタとさせて残像が残る程のスピードで首を左右に振った。

 

「……違うのね?」

 

「どらっ!」

 

どうやら意図は伝わったらしい。ミニドラに搭載された人工知能は子供にロボットと人間の心の壁を取り払うべく人ぽい行動を無意識にとってしまう事があった。

汗を拭う仕草をするミニドラに「ドラちゃんは汗をかかない筈なのに……つまり暑いから帰ろうって意味ね!」

指を弾くエレシュキガル。

 

「どららっ!」

 

違う!何でそうなった!!?と頭を抱えるミニドラ。

 

 

 

 

「これに描いた服の絵を入れると本物になるのね、凄いわドラちゃん!!!」

 

紆余曲折へて、赤いワンピースと麦わら帽子を被るエレシュキガルを見上げる事となったミニドラは燃え尽きたプロボクサーのように真っ白になっていた。

 

「どらら……」

 

力なく立ち上がったミニドラは椅子にしていたビニールボールを――途端に素早い動作でエレシュキガルに投げる。

 

「わっ!」

 

条件反射で手を前に出したエレシュキガルの手の平にビニールボールは反発して上に打ち上がり、飛び上がったミニドラがそれを叩く。

 

「どららっ!」

 

「成る程……そういう事なら負ける訳にはいかないのだわ!」

 

「どらっ!」

「そいや!」「どららららぁ!」「うえぇいっ!」

「どらぁ!」「はぁ!」「ど、どらら!」「危な…えいっ!」

 

即興にしては随分と長く続くラリーの中で、ミニドラは思う。

多少はやるようだが所詮は素人、知識面で有利な自分が負ける訳がないと。

 

そしてエレシュキガルは、

(つまり、ボールを落とした方が敗けって事ね。いいわぁ、ドラちゃんには驚かられてばかりだけど、冥界の女主人としての威厳を見せつけてあげる!)

 

線引きや明確なルールすらないビーチバレー。リーチの長いエレシュキガルがやや優勢か、要領を掴んできた彼女はサーブを連続して繰り返し、ミニドラの顔に焦りが見え始める。

 

馬鹿な……ついさっきまでビーチバレーのビすら知らない相手に僕が圧されているというのか!!?

――従来の子育てロボットに比べそれほど高性能なAiが搭載されているわけではないので、実際にそう思考しているわけではないが、そう思わせるほど鬼気迫る顔をして危なげなく打ち返したミニドラは、自身をすっぽりと覆ってしまう影に致命的な失態を悟った。

 

「楽しかったけど、こんなやる気のないイシュタルみたいなスピードで打ち上げるなんて油断したわねドラちゃん!」

 

右腕を振りかぶるエレシュキガルだ。

 

「どら!?」

 

「これで終わりよ!」

 

「ど、どらぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ビーチボールは後ろへ飛んで一か八か手を伸ばして飛び込んだミニドラ――――砂煙が舞う。

 

 

 

「どららららら♪」

 

「あはははは♪」

 

遊びが終われば二人して声高々に笑い寝そべった砂の温かさに気持ち良さそうに息を吐く。

 

「あー、楽しかった」

 

「どらら♪」

 

「もう一回したいの?」

 

「どらら!」

 

勝つまでやるぞ!と鼻を膨らませるミニドラにエレシュキガルは柔らかい笑みを作り、赤い夕焼けを見る。

 

「上と同じように朝があって昼があって夜が来る。当たり前だけど、不思議な事よね」

 

「ど、どら♪」

 

何かを察したミニドラは彼女の横に腰かけて同じように夕焼けを眺める。

 

「……綺麗」

 

古に高度に発達した科学は魔術と見分けがつかないという。

二十二世紀の技術は果たして魔術と同等か魔法すら越えてしまったのか。

瞳を輝かせる彼女をミニドラはただ優しく見守った。

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