信号も速度制限もない道も良いものだと思ったが、これから戦うほむらを思うと心苦しい。
しかしなかなか遠い。バイク乗ってて良かったなぁ、としみじみ思う。
「ねぇ」
「なにー?」
エンジン音で会話がしづらい。コウタはやや大げさに答えた。
「もっとスピード出ないのかしら」
「オッケー、しっかり掴まってよ!」
こんな些細な事でもほむらの役に立てる。
その嬉しさを表すかのように、エンジンは唸りを上げた。
「もうすぐドアだ!どうすれば良い?」
「ぶち破りなさい」
普通のバイクだぞ、無茶言ってくれる......呆れつつも、シールドの向こうで思わずにやけた。
「ガラスに気をつけろよ!いっけえぇぇぇ!!」
見慣れた自動ドアを見慣れない方法で通過する。
ガラスの割れる音とコウタの咆哮が混ざり合い、結界の最深部に突入した。
タイヤを擦りながら停車し、景色を見渡してみる。
何から何まで店にそっくりだ。所々ペンキがぶちまけられたように色がついているが、毎日通う自分のお店そっくりだった。
そのとき、お店で言うところのカウンターに不気味な何かが見えた。
ほむらより大きく、コウタよりは小さく見える。
全身に映画俳優の写真が貼り付き、両腕はビデオテープにも見える。周囲をDVDが浮遊しながら、それを護っているように見えた。
さながら映像の魔女、とでも呼ぶべきか。
「あなたは隠れていなさい。すぐに片付けるわ」
「あ、あぁ......」
ほむらは威嚇射撃もなしに、魔女に向かって拳銃を放った。
放たれた弾丸は周囲のDVDに防がれ、魔女はほむらに気づいた。
「キイイィィィィッ!」
中年女性が起こすヒステリーのような叫び声を上げると、浮遊していたDVDがほむらに襲いかかった。
「ほむら!危ない!」
コウタの心配をよそに、ほむらは紙一重で全てかわしきる。
目標を外れたDVDが商品棚を真っ二つに裂いた。
その切れ味にコウタは苦笑いするしかなかったが、ほむらは冷静だった。
素早くマシンガンを取り出し、カウンターとばかりに叩き込む。
爆煙の中、魔女のヒステリックな悲鳴がこだました。
効いてる、次で倒せる!確信したほむらは手榴弾のピンを抜き、魔女に向かって投げつけた。
凄まじい爆音に悲鳴がかき消され、爆煙の向こうは静かになった。
「よっし!勝った!」
コウタが勝利を確信した瞬間、飛来したDVDがほむらの脚を掠めた。
「いっ......痛ぅっ!」
「ほむら!」
「来ないで!まだやれるわ......」
ほむらが次の手榴弾を取り出そうとした瞬間、魔女の腕から伸びたビデオテープがほむらを縛り上げた。
「うぐっ......げほっ」
ほむらは考えていた。おかしい、強すぎる。
今までのループならこいつは雑魚だった。何が違うと言うの?何が......
「ほむらあぁぁー!!」
コウタがビデオテープを引きちぎろうと駆け出してきた。
そうだ、イレギュラーはあの男。あの男の存在がこの時間軸にとってイレギュラーなのだとしたら......毒にも薬にもなり得る。
「くっそ!なんだこれ硬いぞ!」
コウタがビデオテープを掴んで四苦八苦していると、魔女は鬱陶しそうにほむらを放り投げた。
「ほむらっ!くそっ......間に合ええぇぇっ!」
コウタは走る。あと少し、あと少しが届かない。
「ほむらぁぁぁっ!!」
コウタは飛び込み、そして......
「はぁーっ、はぁーっ......間に合った......」
間一髪、ほむらを全身で受け止めた。
ほむらを抱きかかえたまま、商品棚の裏に隠れる。
魔女はまたカウンターで叫び声を上げているが、見つかるのは時間の問題だ。
「どうする、考えろ!これ以上ほむらを戦わせるなんてありえない。俺が行くしかない!でも俺には力が......」
「こんな傷、魔法で治せるわ......どいてなさい」
ほむらは盾から次の銃を取り出し、杖のようにして立ち上がった。
「盾!そうだ!あのとき受け取った何かを、ほむらは盾にしまった!何を受け取った?観ているはずだ、思い出せ......!」
あれはそう、
銀色の、
未知の金属でできた、
身につける、
「ベルトだ!」
コウタは完全に思い出した。赤い仮面の男が渡したのはベルト。それがこの戦いに勝ち、ループを終わらせる鍵となる!
「ちっ、見つかったわね」
またしても商品棚が切り裂かれた。魔女が近づいてくるのが見える。
「ほむら!前回のループの最後、赤い仮面の男からベルトを受け取ったはずだ!」
「どうして知って......そんなことまで観たというの?」
「それを俺に!早く!」
ほむらからベルトを受け取ると、自分の腰に当てた。
「あとは、来い......来い!」
コウタは右手を高く上げ、何かを呼ぶ。
虫の羽音のような音が響き、赤いカブトムシのようなものがコウタの手に入った。
「暁美ほむら......」
「あなた......一体......」
「このループに、全てを賭けろ......変身!」