VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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016.んんんんんんっ!?

 運営ルーム。

 

「三日目突入か。プレイヤー達の様子は?」

「特に目立った問題はないな。……【銀翼】がメイプルとサリーにやられた事以外は」

「あれはもう不幸な事故だろ……」

 

 通夜のような沈黙。

 自信を持って投入した悪意の権化のようなボスモンスターが倒されたのだ。ある意味、我が子をこてんぱんに叩きのめされたに等しいのだから、痛切に感じるのも仕方がない。

 さらにその【銀翼】が守っていた卵もメイプルとサリーが獲得してしまったため、運営チームの心労が増しているのだった。

 

「つっても、過ぎた事を何時までも嘆いてる暇は俺らにはないんだよなぁ」

「確かに。さあ仕事だ仕事」

 

 その一言で運営チームはそれぞれが担当するモニターに向き直る。

 

「今のところ、銀のメダル探しに専念してる組と、それを狙ったPK組が半々ですね。金のメダルを奪おうとして返り討ちに遭ってるのが何割か」

「流石に上位プレイヤーは格が違うな」

「ペインに至ってはモンスターより撃退したプレイヤーの数が多いしな」

「上位って言えばミィは?」

「えーと、まだ火山ダンジョンで足止め食ってるっぽいですね。あそこのモンスターとは相性的に最悪ですし、抜け出すにはまだ掛かるんじゃないですか?」

「それにあの火山にはあいつ(・・・)も配置してるしな。上手くいけば死に戻りさせられるかも」

「ふふふ、決して楽には探させないという俺らの心意気を知るのだ…………げっ!?」

「……どうしたぁ?」

 

 悪い笑みを浮かべていた一人が、直後に踏み潰された蛙のような声を上げた。

 それを聞いた残りの面々もとんでもなくイヤナヨカンを抱きながら、彼が目撃してしまったのか尋ねる――尋ねなければならない。

 場合によってはメイプル並みの問題が一つ増えてしまうのだから。

 

「火山にカワイがいる!!」

「「「「うっそだろぉぉぉぉっ!?」」」」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ミィ様、もうこれまで」

「こうなってしまっては、一度死んで初期地点にリスポーンするしか……」

「ウチらは覚悟出来てるッス!」

「…………」

 

 溶岩の流動する音が響く洞窟内。

 同行していたメンバー三人にそう提案され、ギルド『炎帝ノ国』の長であり、前回イベントではメイプルに続いて第四位となったミィは、進退窮まったこの状況でいよいよ決断を迫られていた。

 つまりは、死んで別地点で蘇るか、それとも諦めずに現状突破の方法を考えるか。

 

(…………どーしよぉぉっ!!)

 

 表情にこそ出さなかったが、ミィは心の内で大パニックだった。

 第一回イベントの上位十名のうち、ミィ自身も含めて四名が所属する『炎帝ノ国』――以前から入団希望者が多かったが、それらをなし崩し的に許可していたら、気が付いた時にはミィ本人にも把握出来ないほどのとんでもない大所帯に。

 そのためミィがログインすると常に誰かが秘書気取りで傍に控えるようになり、ゲームを始めた当初のように、素の自分のまま自由にプレイする事すら難しくなってしまっていた。

 

(私はただ普通に遊びたいだけなのにぃ……)

 

 運良く強力な炎魔法とスキルをゲットして、野良で組んだパーティーでちょっと活躍して。

 周りが持ち上げたりするものだからつい女帝のようなキャラを演じたら、そのイメージが勝手に一人歩きして後に引けなくなって。

 今回の探索型イベントでも久し振りに、本当に久し振りに羽を伸ばしてソロ活動を満喫しようと思っていたのに、やはりと言うべきか、同行を申し出たメンバーが大多数。

 ミィからすれば、キャラを演じ続けなければならないため苦行には変わりないけれども、それに追い打ちを掛けるように、探索で訪れたこの火山エリアが牙を剥いたのだ。

 

(旦那様ぁ、助けてよぉぅ)

 

 これが夫と二人きりの冒険だったなら簡単に弱音を吐けるのに。

 自分をリーダーと崇める彼女達がこの場にいる以上、『炎帝ノ国』の長としての偶像を壊すのも騙していたようで何だか申し訳なく感じてしまい、それがミィをさらに追い詰める。

 ああ、愛する旦那様。貴方は今何処にいるのでしょうか。

 

「ミィ様、何かこっちに来るッス!」

 

 悲劇のヒロインめいた心境になってしまったが。

 軽い現実逃避に浸る暇もなく――同行者に選ばれた三人娘の一人、体育会系の話し方が特徴的なベリーショートの娘が叫び、他の二人の表情も緊張の色で引き締まる。

 

「皆……私の後ろへ」

「ですがミィ様……」

「大事な仲間を守るのも私の務めだ」

 

 三人娘を背後に庇い、愛用の杖を握る。

 ミィ達四人がいるのは、洞窟内で偶然見つけた小部屋だ。

 と言っても宝箱やメダルがありそうな隠し部屋ではなく、モンスターをやり過ごすために岩壁に設けられたちょっと広いだけの、七、八人も入れば満員になってしまう程度の窪みでしかない。

 もしモンスターや敵対するプレイヤーに気付かれたら、逃げ場のないこの状況では――

 

「……来ました」

 

 長髪で読書が趣味らしい令嬢風の娘が言う。

 扉もない窪みの出入り口の縁に、誰かの指が掛かる。

 包帯に覆われたその指の持ち主が、同じく包帯でぐるぐる巻きの顔でゆっくりとミィ達が隠れる窪みの中を覗きこんで。

 

「…………うわ」

 

 何故か、すごく嫌そうな声を上げられてしまった。

 狭い通路の天井に届きそうな背丈、身に纏う黒い衣、タワシを思わせるアフロ――忘れたくても忘れられない、第一回イベントで辛酸を舐めさせられた因縁の相手。

 知る者は『カワイ』と呼んで恐れる爆殺師が、よりにもよってこの苦境で現れてしまった。

 手に手に武器を構えて警戒を露にするミィ達など意にも介さず、予想外の登場を果たした怪人は小部屋を覗き込んだまま首を傾げる。

 

「【反響】にずっと動かないプレイヤーの反応があるから気になって来てみれば、何だよ、炎帝のお嬢さんじゃないか。こんなトコで身を寄せ合ってどうしたんだ?」

 

 その言葉から敵意は感じられなかった。

 そもそも彼ほどの力あれば、わざわざ中を確認しなくても爆弾一つ投げ込めば済むはずなのに。

 三人娘に武器を下ろすよう手振りで指示し、覚悟を決めて会話を試みる。

 

「……我々だって好きでここにいる訳じゃない。恥ずかしながら、このエリアのモンスター相手に手こずってしまってな。逃げ回っていたらこの様だ」

「で、でもミィ様が弱いって事じゃないッスよ!? それは誤解しちゃダメッスからね!?」

「相性の問題」

 

 三人の中で一番物静かな不思議系の娘が出入り口から顔を出して、洞窟内部で数え切れないほど動き回っているとあるモンスターを怪人に指し示した。

 岩壁に貼り付いてずるりのたりと這う、溶岩色とでも言うべき体色のスライム。

 

「あれ」

「……ああ、ここに来る途中に何匹も見たぞ。狭いし戦うと面倒臭そうだったから【気配遮断】で気付かれないように無視したけどな」

「ニトロスライム。主に火山地帯に生息していて、強い衝撃や火属性ダメージを受けると大爆発を引き起こす危険なモンスターです」

「あれがあちこちに湧いているせいでウチらは動けないんッス!」

「ふーん? 爆発系のモンスターだったのか。……倒して素材を採取するべきだったかな」

 

 危険性が分かっているのかいないのか、三人娘の説明に怪人はボソリと物騒な事を言う。

 火属性の攻撃に反応して爆発するとなれば、ミィが得意とする【爆炎】も【炎帝】もスライムを誘爆させるだけのライター代わりにしかならない。

 一匹二匹ならそれでも問題はなかったのだろうが、この通路で確認出来るだけでも大小合わせて二十匹は下らない。しかも、個体によって爆発するタイミングがランダムのため、不発だと思って近付いた途端にいきなりドカンの可能性も高いのだ。

 輪を掛けて問題なのが、

 

「もう知ってると思うっスけど、この洞窟、ダメージ受ける溶岩床のトラップも多いッスよね?」

「そう言われりゃそうだな。俺もさっき踏んだ。まあ火山のダンジョンだし珍しくないだろ」

「そうなんスけど……あのスライム、溶岩トラップに自分から乗って爆発しちゃうんス。さしずめ生きた地雷原って感じッス!」

「我々が何故立ち往生しているのか、これで分かったな?」

「あー……なるほど? 何かしてもしなくても爆発するってか。そいつぁ厄介だ」

 

 ミィ達が、そして自分がどれだけ危うい場所にいるのかようやく理解したようで、怪人は包帯の上からポリポリと顔を掻く。

 

「けど、だったら火属性以外の魔法で倒せば良いだけの話だろ」

「うぐっ!?」

「それは……」

(言われたぁ、言われちゃったぁ……!)

 

 指摘されたら一番痛い事を言われてしまった。

 怪訝な顔をする――包帯で見えないが――怪人の視線に、ミィも三人娘もさっと目を逸らす。

 身内の恥を晒すようで非常に言い難いが、こうなってしまえば頼みの綱は彼以外になく、説明を許可する意味でミィは三人娘に頷いた。

 

「実は私達、ミィ様に憧れて『炎帝ノ国』に入りまして、キャラも一度作り直したんです……」

「だからそのッスね、スキルもミィ様と同じ火属性とかメインで取っちゃってるんス」

「似たり寄ったり」

「…………つまり、四人もいるのに全員属性が偏っててどうしようもないと」

 

 痛々しい沈黙が小部屋に満ちる。

 怪人は何も言わない。何も言えずどうにか言葉を探している、が正しいのだろう。

 たっぷり十数秒も使って彼が搾り出すように言ったのは、

 

「火遊びする時は水の入ったバケツを用意するもんだろ普通……」

 

 四人の少女が項垂れるには十分な正論だった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「【ウォーターボール】」

 

 怪人の手から撃ち放たれた水弾がニトロスライムを穿つ。

 外見や生息地からの予想通り水魔法には耐性がないのか、爆発する気配もなく光の粒に昇華して消えていく――弱点を突かれて簡単に倒されるのを見ていると、あれだけ苦労して逃げ回っていた自分達は何なのだろうとミィは頭を抱えたくなった。

 

「すごいッス! 噂には聞いてたっスけどカワイさん激強ッス!」

「一番弱い魔法使うだけで強いとか言われてもなあ」

 

 怪人はボソボソと何事か呟くと、おもむろに弓を引く。

 

「【スプレッドショット】」

 

 通路にひしめくニトロスライム目掛けて飛ぶ拡散矢。爆発ではなく【ウォーターボール】同様に水属性のダメージをスライム達に与え、消滅させていく。

 

「これくらいはしないと強いとは言えんだろ」

「私達があれだけ苦戦したモンスターを……」

「いや何スか今の!?」

「手品?」

 

 三人娘が唖然となるのも無理はない。

 爆破に火炎に水弾――何度も見たが、本当にどんなスキルを使えばこうなるのだろうか。

 多少気まずくはなったが、偶然にも彼が現れ、苦肉の策として提案した洞窟を出るまでの共闘を快諾してくれたのは、ミィ達にとってこの上ない僥倖だった。

 ミィが持つ金のメダルを狙って協力している振りかも知れない――その可能性もある。

 けれど、攻撃手段の大半を失って沈没を待つばかりだったミィ達にとっては、通りかかったのが海賊船だろうと幽霊船だろうと乗り換えなければならなかったのも事実。

 それに彼は一度対戦した男だ。

 炎に耐性を持つモンスターが相手でないのならミィも負けはしない……多分。

 

「ところで炎帝のお嬢さん、今ふと思ったんだが……」

「何だ?」

「そんなにギルメンが多いなら、メッセージを送るなりして火属性以外の武器とかアイテムとかを持って迎えに来てもらえば良かったんじゃないか?」

「…………」

 

 その手があった。

 

(ミザリーかマルクスに来てもらえば良かったんだよぉっ! うぁぁぁん私の馬鹿!!)

 

 物理攻撃メインのシンはともかく、光魔法や罠スキルを駆使するあの二人なら少なくともミィが相手にするよりは楽にニトロスライムを倒せただろう。

 別に助けを呼ぶのは恥ではない。誰にでも相性の向き不向きがあるのだから。

 だがそんな初歩的な打開策に至らなかったのは恥ずかしい。

 

「……主なメンバーには他の部隊を率いて探索を行ってもらっている。私の未熟さが招いた結果で彼らに負担を強いる訳にはいかない。自分の不始末は自分で片付けなければな」

 

 よーし完璧な言い訳、と内心ガッツポーズ。

 三人娘は尊敬の眼差しをミィに向け、怪人も感心したようで、

 

「そいつぁ偉いねぇ。服とか脱ぎ散らかす俺の嫁に聞かせてやりたいよ」

 

 ――ん?

 

「カワイさん、ご結婚されてるんですか?」

「してるよー。と言うか、このゲームも嫁に勧められて始めたんだし」

 

 ――んんんんんんっ!?




次回。
奥様、悶えます。
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