VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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EDGEシリーズ面白い。
やはり大きなオパーイは正義である。小さなオパーイも秩序である。

評価に色が付きました。皆様ありがとうございます。


017.炎帝、爆ぜる

(……よーしよし。うん、まずは落ち着こう。大丈夫、私はクールな女。炎使いだけど)

 

 ようやくダンジョン攻略への光明が見えたと思った矢先。

 一難去ってまた一難――と言うには過酷過ぎる試練がミィに訪れていた。

 必死に『炎帝ノ国』のミィとしての仮面を取り繕ってはいるが、表面張力で水が零れ落ちるのを堪えるグラスのように、わずかな刺激で表情が崩れてしまいそうだ。

 その最たる理由が――

 

「でも意外ッス! カワイさんって奥さんがいるようには見えないのに!」

「すみません、この子ってば思った事全部言っちゃうタイプで……」

「馬鹿正直」

「いや、気にすんな。嫁がいるようには見えないってのは俺が一番思ってるから」

 

 三人娘――同じ中学の同級生グループ――と和気藹々と会話しながら、旦那様(仮定)は通路に湧いて出るモンスター達を片手間に処理していく。

 怨敵同然のニトロスライム、炎のトサカが生えたトカゲ、尻尾が導火線になっているサソリ。

 その他にも灼熱の環境に適応したモンスターの群れを、水遊びのように【ウォーターボール】で消し飛ばし、ギャルゲーの選択肢並みに分岐した洞窟をずんずん進む。その歩みに迷いはない。

 

「……おい、このルートで間違いはないんだろうな?」

「【反響】でマッピングしてるからご心配なく。あ、そこ踏むなよ、炎吹き出すぞ」

「了解ッス!」

 

 先頭にヨメカワイイ、令嬢娘、体育娘、不思議娘の三人を挟んでミィが最後尾を務める隊列。

 実力者二人が前後から力で劣るメンバーをサポートする理に適った編成であり――彼との距離が開いた事で思考する余裕が生まれたのもミィにとっては嬉しい誤算だった。

 

(本当に、旦那様なのかなぁ……?)

 

 ダンジョンのギミックを的確に感知しながら先行する大きな背中。

 正直なところ、まだまだ疑念は残っている。

 確かにその背丈やちょっとした所作の端々には非常に見覚えがあるのだけれど、だからと言ってその理由だけで夫と等号で結び付けるのは早計だ。

 自分の正体を教えるにしても教えないにしても、まずは旦那様だと確信出来るだけの判断材料が揃ってから考える事にしようと決め、ミィはじっくりと怪人の後ろ姿を注視する。そのビームでも出そうな眼力に擬音を足すとしたら『ズゴゴゴゴ……!』か。

 

「……後ろのマスターさんがすっごい俺を睨んでるんだが、何か心当たりあるか?」

「さあ、どうしてでしょうか……」

「さっきまで普通だった」

「きっとミィ様も一番前を歩きたくなったんスよ!」

 

 熱い視線を送っていたら怪人と位置を交代する事になった。何故?

 最後尾でも索敵に支障はないと旦那様容疑のある怪人に言われてしまい、仕方なく隊列の先頭で背後の会話に聞き耳を立てていると、

 

「そう言えば、カワイさんの奥さんもログインしてるんですよね? どんな方なんですか?」

(……っ!)

 

 令嬢娘の質問に、ミィの耳が何倍にも広がった――ような気がした。

 旦那様かどうか早速判明するかも知れない。

 ミィは一言一句聞き逃すまいと、はやる気持ちを抑えて全神経を集中させ、

 

「そうだなぁ、俺の嫁は…………ピーマンとグリンピースが苦手で食べられない」

(ふぬっふ!?)

 

 鼻から【爆炎】を噴き出しそうになった。

 

「野菜炒めやサラダにピーマンが入ってると露骨に口がへの字になるし、うっかり青椒肉絲(チンジャオロース)なんぞ作った日には雨に濡れた捨て犬みたいな目で俺を見る」

(ストップストップ! 何言ってるの!?)

「グリンピースも、焼売の上に乗ってるのとか冷凍のピラフに入ってたりすると、俺がほじくって一つ残らず取り除いてからじゃないと頑として食べない。何が何でも食べない」

(あばー!)

 

 幼児園児のような弱点の暴露。

 穴がないなら掘り返してでも入りたい逃避衝動に駆られるが、そもそもこの場所はもう何処まで続くとも知れない洞穴の中である。羞恥に悶え、いよいよ限界となったら地べたを転げ回るためのスペースだけは必要以上に存在した。

 

(だってだって、嫌いなのは嫌いなんだもん!)

 

 落ち着け、落ち着け、あくまでクールにと自分に言い聞かせる。

 気を紛らわせるために楽しい記憶を思い出すのだ。

 そう例えば、向こうの岩壁でプルプルしてるニトロスライムのあの丸い形――それから連想して三日前に旦那様が作ってくれたハンバーグがとっても美味しかった事とか。

 

「ここだけの話、俺も嫁の好き嫌いをなくせないか考えて飯に色々と細工しててな。つい三日前もハンバーグを作った時に、ミキサーでドロドロにしたピーマンとグリンピースを混ぜ込んでみた」

「うそぉ!?」

 

 しまった、あまりの衝撃的事実に声が。

 怪人も三人娘も足を止め、通路に突然叫びを響かせたミィを見る。

 

「あ、あの、ミィ様? どうかされましたか?」

「あ…………う、そ……うむ、そうだな! 好き嫌いは、駄目だものな! それより、あっちにもまたニトロスライムがいるぞ!?」

「ああ本当だ、【ウォーターボール】」

 

 何の罪もない――敵性モンスターなのだが――粘体生物が犠牲になる。

 今思えばあの日の旦那様の顔は実験動物を観察するマッドサイエンティスト、いや、ヒマワリの種を頬張るハムスターを見る飼い主のそれだった。

 迂闊だった、気が付くべきだった。まさかまさか旦那様が、そんな神をも畏れぬ残酷な仕打ちを企てていただなんて。

 夫婦の愛は冷め切ってしまったのかと愕然とするミィだが、攻撃の手が緩む事はない。

 

「野菜もなんだが、薬も苦手でな。大人用の粉薬は苦いから嫌、錠剤は飲みにくいから嫌、座薬は恥ずかしいから嫌ってんで、近くの小児科に甘い味の薬をもらいに行ったり、スポーツドリンクに溶かして飲ませてやったりしないとダメなんだわ」

「座薬は私達も恥ずかしいとは思いますけど……」

「小学生ッスか。小学生ッスよね。そして何気にカワイさんも甘やかしてるッス!」

「過保護」

(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!) 

 

 中学生ギルメンからの呆れ混じりの無慈悲な一撃。

 いっそモンスターハウスにでも迷い込んでこの話題が有耶無耶になってくれないだろうか。

 いたたまれなくなり【フレアアクセル】で走り出したミィは悪くない。悪いのはグリンピースとピーマンと苦いお薬だもん。

 

「おい、あまり離れると危ないぞ!?」

 

 怪人が警告するも一足遅く。

 爆走するミィの進行方向先、二又の分かれ道の一方から、燃え盛る棍棒を携えた毛むくじゃらの人型モンスターが一匹現れた。

 

「トーチバーバリアン! パワーだけならミィ様よりも上です!」

「援護、する……!」

 

 火炎棍棒を振り上げるバーバリアンだが、恥辱に焦がされて周りが見えていないミィからすれば行く手を阻む単なる障害物。

 

(うわあああああああんっ!!)

 

 爆発する乙女心に敵はない。

 紅のオーラを流す【フレアアクセル】の加速状態のまま、両足の裏を蛮人の顔面に叩き込む。

 

「炎帝式ドロップキック!?」

「一撃ッス!?」

 

 断末魔の呻きを残して消えていく毛むくじゃら。

 運動してほんの少しだけ冷静さを取り戻したミィは、奇行に目を丸くするパーティーメンバーをゆっくりと振り返り、

 

「……この程度のモンスターなら、魔法を使うまでもない」

「え、じゃあどうして私達閉じ込められてたんですか!?」

 

 令嬢娘のツッコミに何も言えなかった。

 

「まあ、そっちでもモンスターを対処してくれるなら俺としても楽だが……」

 

 怪人にそうフォローされ、すごすごと隊列の先頭に戻るミィ。

 一党はバーバリアンが現れた道とは反対の道を進む。

 また恥ずかしい秘密がバラされるのかと戦々恐々だが、しかし、待ってほしい。

 よくよく考えてみれば、旦那様らしき怪人はあくまで、そうあくまで自分の愛する奥さんの話をしているだけであって、それが必ずしもミィの事を指しているとは限らないではないか。

 怪人が語るその奥さんは、きっとミィに似てとても美人でお淑やかで可愛らしくて背もスラッと高くて胸もばいんばいんで、家事も万能で旦那様を超愛して超愛されてるけど、でもミィではなく別人に違いないそうに違いない――

 

「実は、嫁はちょっとばかし人見知りが激しくて、俺や義理の父母――彼女の両親以外の人間とは必要最低限しか話さないし近寄ろうともしないんだ」

「へぇー」

「ちょっとシンパシー」

「なのに変な度胸と行動力だけはあってな。この前宅配便が届いた時なんか、俺が手を離せなくて代わりに受け取るよう頼んだら、まな板の盾とスリッパの剣で武装して配達員に変な顔されてた」

(私ぃぃ! それ絶対私ぃぃ! 旦那様の馬鹿ぁ!)

 

 このアフロ怪人が旦那様確定なのは非常に喜ばしくあるものの、その喜びに比例して下手くそな落下型パズルゲームよろしく恥が積み重なっていく。ゲームオーバーまであと少し。

 脳内ミィもずっとエビ反りしながらの七転八倒で大忙しだ。

 

「じゃあじゃあ、カワイさんと奥さんの出会いってどんなだったッスか!?」

「私も、後学のために是非!」

「興味津々」

「結構グイグイ来るね君達。……あまり面白いものでもないぞ?」

(聞いちゃうの? それ聞いちゃうの? そして言っちゃうの!?)

 

 止められるなら止めたいが、三人娘の熱意を押し留めるに足るほどの理由が思い付かない。

 あうあうあわあわと肩越しに見守る事しかミィには出来なかった。

 

「俺と嫁は親戚同士の、年の離れた幼馴染みたいなもんで」

「ふんふん」

「就職して一人暮らししてた俺のマンションにいきなり押し掛けて来て」

「おー、積極的ッス」

「その日に婚姻届に判子押して二人で役所に提出して、終わり」

「……え?」

 

 沈黙する三人娘。

 別に旦那様が気恥ずかしがってはぐらかしているとか、そういう訳ではなく、どうやってミィと夫婦になったのかについて誇張も脚色もしていない。

 

(私が聞いてるって知らなくても、嘘は吐きたくなかったのかな……)

 

 どうせならもう少し、ほんのちょっとだけ甘酸っぱいロマンス要素を山盛りに盛った作り話でも妻としては良かったのだけれど、この夫も夫で変なところで誠実さを発揮してくれるのだ。それがまた嬉しくもある。

 

「終わりって、いきなし家に来た親戚と結婚したんスか!?」

「嫁とはおむつを着けてた頃から世話を任された長い付き合いだし、嫁が結婚可能な年になったら夫婦になるって約束もしてたしな。結婚記念日が嫁の誕生日ってのも覚えやすくて助かるよ」

「ちょっと待ってください……奥さんって今おいくつなんですか?」

「お前さん達は中学生だよな。なら二つ三つ上かね」

「……お仕事は?」

「俺のか? 高校教師」

 

 再び言葉を失った三人娘は、頭を突き合わせて小声ながらも興奮した様子で内緒話を始めた。

 

「すごいッス。軽い気持ちで聞いたらアダルティーな世界に踏み込んでしまったッス」

「禁断の恋愛……」

「私達にはとても真似出来ません」

 

 あの、聞こえているのですが。

 合法だし禁断でもないし、ちゃんと十六歳の誕生日迎えてから突撃したし。

 ミィがなのか旦那様がなのかはともかく――先ほどまでの恥ずかしエピソードを軽く押し流して名誉挽回するくらいには若い彼女達の好奇心を満たせたらしい。どうせならそのまま黒歴史の方は忘れ去ってくれると非常に助かる。

 自分を慕うメンバーを闇討ちして記憶を抹消するなどミィもしたくはない。

 

「と、とにかく、カワイさんが奥さんをめっちゃラブしてるのは分かったッス」

「そりゃラブしてるさ。だから他の男に渡したくなくて俺の嫁になってもらって独占してんだ」

「カウンター! カウンター食らったっス!」

(あ……うぁ……ひぁぁぁぁ)

 

 あー、これはいけない、これはマズイ。

 流石は殲滅系爆弾魔。言葉一発の爆撃範囲が広い。

 日常の会話の流れで『大好き』とか『愛してる』とか、睦言めいたものを茶化して口にした事は数え切れないほどだが、こうも真摯な口調で断言する夫を見せられると、めっちゃラブされている奥様であるところのミィはもう口端が緩んでどうして良いか分からなくなる。

 と言うか中学生相手に何を口走っているのだこのダーリンは。

 

「ミィ様……本当に、大丈夫ですか? 急に走り出したり、今度は顔を隠して蹲ったり……」

「……問題ない、大丈夫だ。これはその……顔から火が出るトラップを踏んでしまっただけだ!」

「何スかそのトラップ!?」

「斬新」

「馬鹿な事言ってないで……ほれ、着いちまったぞ」

(誰のせいだと思ってるのよもう……)

 

 楽しい楽しい――約一名には公開処刑の――時間は終わりを迎えたようだ。 

 血管のように枝分かれする洞窟を踏破し、ミィの精神的ダメージを除けば奇跡的に無傷の五人は広い空間に辿り着いた。

 面積はサッカーコートおよそ二面分か。

 上を見上げると、どうやら外に繋がっているのか、はるか遠くに小さな光が見える。だが岩壁をよじ登って行ける高さでも、ヨメカワイイの【跳躍Ⅹ】で届く高さでもない。

 ならば下はどうかと、中央で大きく口を開ける縦穴を覗き込む。

 直径は、ざっと四十メートル強。広場の面積のほぼ半分を占めるその大穴は、それこそ地獄まで続いているのではと思えるほど深く底が全く見えない。

 

「他に出口らしきものも、転移魔法陣も見当たらないな」

「じゃあ行き止まりって事ですか?」

 

 令嬢娘のその問いに、

 

「いや、ここまで大規模な部屋だ。きっと何かしらの仕掛けかイベントが――」

 

 あるはずだ、とミィが続けようとしたその時だ。

 ヴォオォォォォォ(・・・・・・・・)オオオォォォ(・・・・・・)ォォオォッッ(・・・・・・)――と。

 絶対に良くない事が起こると確信させられる、地鳴りにも似た咆哮が聞こえたのは。




次回ボス戦。
早く元カノも登場させたいところです。
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