VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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短めに。


020.収穫と勧誘

 腹や胸に顔面と、予想外のダメージを受けてもかろうじてHPは残ったのは幸いだった。

 プレイして初めての死亡の原因が『女の子達の尻の下敷きになったから』では、このイベントで手合わせした女剣士のカスミや、何より戦って糧となったモンスター達に面目が立たない。

 

「ぐも……」

「す、スマン! 今すぐ退くから――ひゃん!?」

 

 顔面を圧迫する尻がビクリと跳ね退き、視界が戻って呼吸も楽になる。

 上体を起こすと、炎上ダメージも回復したらしい三人娘と紅顔のミィの姿があり、誰一人として欠ける事なく死線を潜り抜けた達成感に満たされた。

 終始を通して賑やかな体育娘が目を輝かせながら、握ったヨメカワイイの手をぶんぶん振る。

 

「カワイさん、あの、ウチ……何かこう、凄かったッス! 凄かったッス!!」

 

 読書感想文なら再提出決定だなぁ……と、戦闘による極度の緊張から解放されて心地良い疲労に襲われる頭で、ヨメカワイイは場違いな事をぼんやり考える。

 可能ならばもうしばらくは勝利の余韻に浸りたい。しかし、大きな目標を成し遂げた後こそ気を緩めてはならないのは数多存在する故事成句や諺が証明している――『帰るまでが遠足』の理屈は小学生に限った話ではない。

 

「さて、これからどうする?」

 

 紅潮した顔を誤魔化すように、ミィが今後の行動の意見を求めてくるのもそのためだ。

 溶岩も消え失せ、自然の脅威が鳴りを潜めた大空間。

 だが入るのに使った横穴の通路が落盤で塞がった状態なのは変わらず、やはり一行はこの火山のダンジョンに閉じ込められたまま。何時また面倒な仕掛けが作動しないとも限らない以上、悠長に寝転がっている暇があるなら直ちに行動を起こすのが正しい。

 

「横穴が通れなくなったのもギミックの一環なら、ここいらを探せば出口もあるよな」

「ボスの住処だったんだ、その可能性は大だろう」

「では私達三人で探してきます。こんな時くらいお役に立たなきゃ!」

「そうッス! 家宅捜索開始ッス!」

「レッツゴー」

「あ、こら! もう少し慎重に……」

 

 ミィが止める前に、三人娘は散開して思い思いの場所を探索し始める。

 あちらの窪みを覗き込み、こちらの火山岩をひっくり返し――ちょろちょろと忙しなく動き回る三人を見ていると、いよいよ遠足か修学旅行の引率じみてきて苦笑が零れてしまう。

 奔放なメンバー達にミィは嘆息すると、ヨメカワイイに向き直り頭を下げた。

 

「……色々と助かった。礼を言う」

「こちらこそ。あの魔力増強(インテリジェンス)ポーションがなかったら火力が足りなくてやられてたかもな」

「それを抜きにしてもだ。私一人ではあのボスに挑んでも仲間を守り切れなかった。思い上がった鼻っ柱をへし折ってくれる良い経験になったよ」

 

 演劇めいた尊大な言い回しと、ついでに突然叫んだり走り出したりの奇行も目立つお嬢さんかと思えば、仲間の身を案じ自省もするギルドマスターに相応しい人格だったようだ。そうでなければゲーム内で一、二を争う巨大ギルドを率いるなど不可能か。

 最近の子は殊勝なんだなぁ、と年寄り臭く考えていると、

 

「で……だな、実は折り入ってお前に、いや、貴方に提案があるのだが……」

 

 顔を上げた火炎使いはヨメカワイイから視線を逸らし、人差し指を突き合わせてごにょごにょと口ごもりながらそんな事を言った。その真紅の瞳が灯火のように揺らめく。

 

「もし……もしで構わないんだが、その、我が『炎帝ノ――」

「あったッスー!!」

 

 流石は女子ソフトボール部、遠くからでもはっきり聞こえる体育娘の嬉しそうな声――おかげで言葉を発しようとして盛大に出鼻を挫かれたミィが、給餌を待つ雛鳥よろしく小さな口唇を開いた状態で固まってしまっていた。

 誰も悪くはない。強いて言えばタイミングが悪い。

 令嬢娘と不思議娘もそれぞれ収穫があったらしく報告の声が上がる。

 

「ん゙んっ! ……話の続きは、この息苦しい場所から脱出した後にしようか。外に出れば時間はいくらでもあるんだからな」

 

 咳払いで誤魔化し、提案とやらを後回しにするミィだったが、正直その発言は死亡フラグとしか思えずべらぼうに縁起が悪いので止めてもらいたいところだ。確実にミィか自分かあるいは両方がダンジョン脱出を目前に命を落とすパターンである。

 ともあれ、まずは三人娘が何を見つけたのか確認しなければ。

 

「私は素材ですね。灼竜のドロップ品だと思います。それとメダルが五枚」

「メダル五枚……それだけの強敵だったという事か」

 

 鋭く尖った双角の一部に、赤く輝く竜鱗と表皮、極めつけに灼竜の遺志を感じる眼球。

 いずれも通常では手に入らない希少な素材だと一目で分かるものばかり――これらのアイテムをどう分配するかは後で話し合うとして、次の報告に移る。

 

「魔法陣。きっと脱出用」

 

 むふー、と得意げな不思議娘。

 どれだけレアアイテムがあっても、出口がなければ結局初期地点に逆戻りだ。そういう意味では彼女の発見が一番大きな成果に違いない。

 残るは体育娘だが――

 

「ふっふっふっ、ウチのは一味違うっスよ?」

 

 意気揚々と体育娘が案内した先にあったのは、ビニールプールほどの穴に溜まった溶岩。

 灼竜が消失した後も熱を失わない紅蓮の中に、半ばまで沈む形で安置された物体がある。丸みを帯びたとても見覚えのあるシルエットのそれは、

 

「……卵?」

「卵だな」

「卵ッス! 英語で言うとTAMAGO(タゥメィグォ)ッス!!」

 

 自分が担任だったならば、容赦なく英語の補習と小テストの地獄に叩き落とすであろう体育娘の英語力はこの際無視するとして――彼女の言う通り、茶色と緑のストライプ柄の固い殻に守られた立派な卵であった。

 とりあえずヨメカワイイが膝まで溶岩に浸かり、バスケットボールサイズの卵を回収する。

 

「うわ、カワイさん熱くないんスか?」

「ちっとも。さっき取得したスキルのおかげだろうな」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

灼竜喰らい(コアトルイーター)

 炎上、氷結を無効化する。

 取得条件

 灼竜をHPドレインで倒す事。

 

灼竜(シウコアトル)

 灼竜の力を意のままに扱う事ができる。

 MPを消費して溶岩魔法を行使できる。

 取得条件

 炎上無効を取得した上で灼竜をHPドレインによって倒す事。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 熱を統べる竜の力のおかげで、あれほど厄介に思えた溶岩も今は普通の泥と変わらない。

 メイプルの代名詞として畏怖される凶悪極まりない【毒竜(ヒドラ)】と同種の、さしずめ竜属性スキルと言ったところだが――とにかく今は卵を調べるのが先決か。

 別個体の灼竜でも孵化しようものなら、再び戦闘になりかねない。

 アイテムとして収納可能だったため、インベントリ内で情報を確認する。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

『モンスターの卵』

 温めると孵化する。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……温めると孵化するんだそうだ」

「温めると言うか、溶岩で煮込まれてたッスけどね」

「ならその卵はカワイが持っておくべきだな。もし敵性モンスターが孵ったとしても【灼竜(シウコアトル)】のスキルを持ったお前なら楽に対処できるだろう」

「不発弾でも押し付けられた気分だな……」

 

 せめて友好的なモンスターが誕生する事を願う。

 卵の検分も終わり、もうこの空間には何もないと判断して。

 五人は魔法陣の光に包まれて、火山ダンジョンの最奥から別のエリアへ移動――転移先は東西に一直線に伸びる道幅の広い林道だった。両脇に雑然と立ち並ぶ木々によって、星の河が瞬く夜空が帯状に切り抜かれている。

 

「うひゃー、もうすっかりとっぷり夜ッスね」

「久々に空を見た気がします……」

「空気が美味しい」

 

 ダンジョンの閉塞感から解放され、自然の癒しを堪能する三人娘。

 

「さて……じゃあ俺もお役御免だな。少しの間だったが楽しかったよ」

「ええー! 最終日まで一緒にいてくれるんじゃないんスか!?」

「元々俺はソロでやるつもりだったしな」

 

 そう言ってパーティー設定を解除しようとするヨメカワイイ。

 ミィ達と結んだ休戦協定は、あくまで脱出するまでに限られる。それが達成された今となっては律儀に守り続ける義理もないが、かと言って、イベントの最中だとしても、油断している彼女達を好き好んで討ち取るつもりもない。

 幸いにも、ダンジョンで発見したメダルは五枚。一人一枚で都合は良い。素材も山分けにすれば角も立たないだろう。

 

「……待て。まだ貴方には話がある」

 

 あっさり解散する流れかと思えば、神妙な面持ちのミィに呼び止められた。

 まさか、持っているメダルを全て置いていけ――などと要求するつもりもないだろうが、彼女の話がダンジョン内では体育娘に遮られて途中だった事を思い出す。

 さて、言い掛けていた『提案』とは一体何なのか。

 

「命を救われた身で虫のいい話なのは重々承知だが、その上でお願いしたい――」

 

 そこで一度区切り、ミィは小さく深呼吸して、

 

「――ぜひとも我が『炎帝ノ国』に入団してくれないだろうか!」




卵の中身はこうご期待という事で。
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