VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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筆が進んだので投稿。
訳あって四日目飛ばして五日目突入。
いよいよ第二回イベントも終盤です。


021.イベント五日目・嘆く者、企む者、襲う者

 運営ルームでの一幕。

 

「ぬがああああっ!! 【灼竜】もやられた!! てか喰われた!!」

 

 突然のその叫びに、モニターを注視してイベント管理に勤しんでいた他のメンバーもがっくりと肩を落とし、やっぱりか……とでも言いたげに大きくため息を吐いた。

 乱心気味の叫びを上げる男が受け持つモニターには、メイプルとサリーに討伐された【銀翼】と並んで理不尽の塊な設定を施した単眼双角の竜が、長身アフロの怪人に殴られ穿たれ、切り刻まれ食い千切られる光景が映っていた。

 我を忘れて暴れ狂う巨体と壁に押し潰され、空気すら焦がす鞭のような尾に打たれ、溶け流れるマグマを頭から被り、それでも拘束する鎖に掴まって馬鹿げたスケールのロデオを披露する怪人。

 

「おいおいマジか、馬乗りになってタコ殴りって……」

「メイプルみたいなイカれたVITじゃあないんだよな? いくら【炎上無効】があるからったって物理ダメージまで無効にはできないだろ!? どうやって耐え切ってんだ!?」

「その理由はきっとこれだな」

 

 一人が疲労混じりの声で端末を操作し、別視点からの映像をモニターに流す。空中に投影された四角い窓には【焦熱牢】に囚われたミィ達の姿があった。

 

「良かった、こっちはちゃんと捕まってくれてる!」

「ちゃんと捕まってくれてるって喜ぶのもどうかと思いますけどね」

「メイプル達やカワイを見た後じゃそう言いたくもなるって……」

「話を戻すが、どうやらミィ達を回復させる事でHPの最大値を上げまくってるみたいなんだわ」

「あー、それであの耐久力か……」

 

 仮にヨメカワイイが単独で挑んだのなら、HPが足りずに敗北していただろう。

 しかしミィ達と出会ってパーティーを組んだ事で回復要員――この場合は回復させる対象――を得てしまい、ボスすらも凌駕する異常なHPで耐久のゴリ押しが可能になってしまったのだ。

 メイプルとどちらがマシか、などと口にする者はこの場にいない。

 それは『エ○リアンとプ○デター、喧嘩売るならどっち?』と問うのと同義で、常人からすればどちらも怪物に変わりはなく比較しようがないのだから。

 

「だぁからあれほど【施しの報酬】にも弱体化パッチ入れろって言ったのに……!」

「第一回イベントの時はペインやメイプルとかにばっかり目が行ってたからなぁ」

「今から仕様変更しても【灼竜】のスキルは取られちまった後だし」

「そもそも第三回イベントとかギルドホームの実装とか他の仕事山積みだろが! この上もう一度スキルのテコ入れなんてやらされたら死ぬわ!」

「昨日の今日で弱体化パッチ再びとかクレームの嵐でしょうしねぇ」

 

 チートでも使用していると言うのなら問答無用でアカウント抹消なのだが、当のヨメカワイイは彼らが心血を注いで作り上げたゲームを極めて健全に堪能してくれているだけ。その点は関しては開発者冥利に尽きるので文句のつけようがない。

 頭を悩ませる運営チームを尻目に、怪人と灼竜の戦いは終わりを迎え――

 

「…………おい、ちょっと待て。誰だ火山ダンジョンに【幻獣の卵】置いた奴!?」

 

 その後にヨメカワイイが拾った卵を見て全員が目を剥いた。

 

「狐と亀はもうメイプルとサリーのところだし、鳥と狼は【海皇】の場所から動いてない」

「じゃあどうして俺らの知らない卵があるんだ!? つか中身は!?」

「あの火山は皆二徹目でヒャッハーしてた時に調整したエリアだから、もしかすると……」

「ボツにしたはずの卵のデータを間違えてぶち込んじゃった?」

「……おそらく」

 

 束の間の沈黙。

 運営ルームに一筋の寒風が吹き、一人が血相を変えながら口を開く。

 

「やべぇ、やべぇぞ! とにかく今回のイベント終わったら即緊急メンテだ!!」

「まあ落ち着け。テイムモンスターの実装自体は年間予定に組み込まれてるんだから、あの卵から何が孵化するか確認してからでも遅くないだろ?」

「今はとにかく第二回イベントを無事に終える事だけ考えろ!」

 

 それが鶴の一声となり、ヨメカワイイの今後の動向について静観が決まる――ただの現実逃避と言ってしまえばその通りである。

 下した判断が吉と出るか凶と出るかは、きっと神のみぞ知る事なのだろう。

 リーダー格の一人がパンパンと手を叩いて仲間に檄を飛ばす。

 

「さあ諸君、仕事に戻ってくれ! ユーザーの皆々様に楽しくプレイしていただいて、あわよくばじゃんじゃん課金してもらって我々の給料に還元させるのだ!」

「「「「おー!!」」」」

「あ、メイプルとサリーとカスミが地底ダンジョンをクリアしました」

「「「「ゔぁああああああああっ!!」」」」

 

 モンスターの跋扈するフィールドに負けず劣らず、運営側も人外魔境の様相を呈し始めていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 少しだけ時が経ち。

 当然ながら、運営チームの悲喜交々など知りもせず。

 悪い意味で注目の的のヨメカワイイはメダル五枚を手中で弄びながら探索に戻っていた。そこにミィや三人娘の姿はなく、単独である。

 結局、『炎帝ノ国』に入ってくれないか、というミィの唐突なスカウトは、思うところもあって丁重にお断りする事にした。

 どうせ所属するのなら嫁と同じギルドが望ましく、それにはまず、愛しい嫁を探し出さなければ話にならない。二人で『炎帝ノ国』に移るかどうかはその後だ。

 その旨を伝えると、ミィは気分を害した風もなく、むしろ何処か嬉しそうに、

 

『……ならば仕方ないな。一日も早く出会えるよう願っている』

 

 そう言ってあっさり引き下がった。

 彼女からすれば、貴重なスキルを持った戦力が一人増える程度の勧誘だったのだろう――組織を束ねる長として増強を図ろうとするのは当然か。

 そこから他のギルドメンバーと合流するというミィ達と別れる事になり、火山ダンジョンで得たメダルと素材を山分けしようとした。

 しかし――

 

「まさか全部くれるとは……」

 

 驚いた事にメダルも素材も、そして卵もヨメカワイイの総取りとなってしまった。

 流石に報酬の独り占めはヨメカワイイの気が済まず、人数分あるのだからせめてメダルだけでも均等にすべきと提案――けれど三人娘に『命の恩人だから』の一点張りで押し切られてこの様だ。

 純粋な好意で裏表がないのは三人娘の雰囲気から伝わってくるのだが、これでは謝礼が目当てで助けたような形になって釈然としない。

 卵とイベント終了後に消えてしまう恐れのあるメダルはともかく、灼竜の素材は保管して何時か彼女達のために使おうと決め、ヨメカワイイは歩みを進める。

 ちなみにこれは余談ではあるが、照れ臭そうにフレンド登録を申し出たミィの後ろで、

 

『ミィ様が自分からフレ登録とか初めてッスね』

『……これは推測なのだけど、きっとミィ様は……』

『ミィ様が何?』

『きっとミィ様はカワイさんに恋をしてしまったのよ!』

『な、なんだってー!?』

『なんだってー』

『ミィ様のあの反応、間違いないわ』

『いやでも助けられたって言ってもゲームの中ッスよ?』

『ネトゲで知り合った男女がリアルで結婚した話もあるくらいだし、不思議じゃないわ』

『奥さんいるって言ってた』

『妻がいる殿方への叶わぬ想いは日に日に募っていくばかり。彼の心が自分に向いてくれないならいっそ奪い取ってしまいたい……ああ、なんて危険な恋なの!』

『……前から聞こうと思ってたッスけど、いつもどんな本読んでるんスか?』

『颯爽と現れ、己の身を犠牲に乙女を助ける白馬の王子様……』

『ダメッスね、完全に自分の世界ッス』

『白馬の王子様じゃなくてアフロのおじ様』

『とにかく、私達はミィ様の恋を応援するのよ! ミィ様の幸せは私達の幸せ!』

『お、おーッス?』

『おー』

 

 ――と白熱する三人娘の密談は、幸か不幸かヨメカワイイにもミィにも聞こえていなかった。

 ややこしい事になりそうな未来はすぐそこである。

 火山から転移した林道を時折現れる雑魚モンスターを倒しながら北へ直進すると、次第に木々の向こう側から潮の香りと波の音が届くようになる。このまま道沿いに進むとどんな光景が広がるか考えるまでもなかった。

 

「また海か。今度はもうちょっと楽なボスだと助かるんだがなぁ」

 

 思い返せば、ヨメカワイイの冒険は強敵との戦闘の連続だった。

 巨大帆船に巣食うヤドカリ、美しい剣技を使うカスミ、倒せたのが奇跡に近い灼竜。

 カスミはたまたま出会ったプレイヤーなので数に入れないにしても、もう銀のメダルよりボスを探していると言った方が適切なのではなかろうか。

 犬も歩けば棒に当たり、ヨメカワイイが歩けばボスに当たる――全くもって笑えない。

 

「……そう言えばステータスポイントも振らないとな」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ヨメカワイイ

 

 Lv36

 

 HP 1130/1130〈+530〉

 MP 1020/1020〈+10〉

 

【STR 5〈-50〉】

【VIT 15】

【AGI 25〈+25〉】

【DEX 30〈+25〉】

【INT 25〈+10〉】

 

 装備

 

 頭 【不死病の束縛帯:鋭敏化】

 体 【人面獣心の皮衣:獣性解放】

 右手 【罪悪滔天:狩人の執念】

 左手 【罪悪滔天:狩人の執念】

 足 【人面獣心の皮衣:獣性解放】

 靴 【不死病の束縛帯:鋭敏化】

 

 装飾品 【奇術師の指輪】【絆の架け橋】【空欄】

 

 スキル

 

【スプレッドショット】【フレシェットスコール】【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウィンドカッター】【リフレッシュ】【ヒール】

【弓の心得Ⅵ】【火魔法Ⅰ】【風魔法Ⅰ】【水魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】【反響】【施しの報酬】

【毒耐性中】【麻痺耐性小】【HP強化小】【MP強化小】【装填】【生命転換(ライフコンバート)】【魔弓の極技】【釣り】【灼竜(シウコアトル)】【灼竜喰らい(コアトルイーター)

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 HPとMPに振り分け、しばらく見ていなかった自分のパラメーターを睨む。

 

「【灼竜(シウコアトル)】も手に入れたし【火魔法】は破棄するか? その前にガス欠にならないようMP用の装飾品も……うーむ……」

 

 ここで悩んでいてもしょうがないので、ステータス関連は保留する。

 イベントも今日で五日目。所持するメダルは八枚。

 折り返し地点も過ぎて、メダルが目標の枚数に達していないプレイヤー達は躍起になって探索と対人戦に励んでいる事だろう。

 実際、あちこちの木陰から、隙を窺う視線がちらほらと。

 

「……【反響】」

 

 九人。

 ボソリと呟き、球状に広がる超音波が待ち伏せする人数を正確に教えてくれる。

 十分に引き付け、範囲に入ったところで前後から挟んで一斉攻撃、ヨメカワイイが弓を射る暇を与えずに倒そうという魂胆なのだろうが、それが読めている以上馬鹿正直に進む理由はない。

 メダルをインベントリに戻し、代わりに使い慣れたアイテムを取り出す。

 

「【跳躍】」

 

 未舗装の林道に足跡と蜘蛛の巣状の亀裂を刻み、木々を優に超える高さで数十メートルの距離を一気に跳び越える。

 慌てたのは特大の獲物を今か今かと待ち構えていた襲撃者達だ。

 

「くそっ、バレてた!!」

「追え! 着地したところを狙うんだ!!」

「おい馬鹿止まれ! 足元に何か――」

「うわあああああっ!?」

 

 悲鳴を掻き消す連続の爆発音。

 欲に目が眩み『七星爆弾』で吹き飛ばされる哀れな者達。

 それを意にも介さず、陽光で煌めく蒼海が広がる崖沿いの道を【跳躍】でショートカットしつつ進み続けると、ついに緑が途切れて巨大な廃墟が姿を現した。

 荒れ果てた石レンガの建造物は儀式めいた何かを感じるもので、崖の突端まで伸びた道の先には祭壇のような場所まであった。

 ここまであからさまに『何かあります』と訴える場所だ、他のプレイヤーも足を踏み入れている可能性が非常に高い。

 元は外灯の役割を果たしていたらしい石柱の一本に音もなく着地し、慎重に周囲を見回す。

 すると、装備の整った男性プレイヤーが三人、こちらに背を向けたまま物陰に身を潜めて何かを狙っているのが見えた。その視線を追うと、少し離れたところに初心者装備のプレイヤーが。

 

「……やれやれ、初心者くらい見逃してやれよ」

 

 つい先日まで自分もその初心者だった事を棚に上げ、呆れたようにひとりごちる。

 今回のイベントではPKされてもアイテムはメダル以外落とさない。とすれば、スキップと言うか小躍りしているあの初心者の少女が狙われる理由は一つだけ。

 場に居合わせてしまったからには、見て見ぬ振りも流儀に反する。

 

「袖振り合うも多生の縁、厄運不運も運の内っと!」

 

 石柱から身を躍らせ、少女を取り囲んだ三名の不届き者に漆黒の影を落とす。

 

「【ヒートチョッパー】」

 

 血染みの包帯が巻かれたヨメカワイイの両手が一瞬で赤熱化。

 スキル【灼竜(シウコアトル)】によって使用可能となった近接攻撃の真っ赤な手刀が、二人の心臓を背後から防具ごと容易く貫き、仲間が倒れて驚愕する残りの一人の喉元に刺し込まれる。

 断末魔の叫びすら上げられずに光の粒と散った三人の末路を見届けて――首を狙って迫る二本のダガーを灼熱を帯びたままの両手で握り止めた。

 

「ありゃ?」

「うぇっ?」

 

 緊迫した状況の中、互いの顔を見て間抜けな声を出す。

 青を湛えた双剣の持ち主は誰あろう、マフラーだけはそのままに、何故か初期状態の出で立ちに戻したサリーだった。




すでに【絆の架け橋】を持っている理由は次回で。
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